《悪魔の証明 R2》第164話(最終話) 096 スピキオ・カルタゴス・バルカ

エントランスを抜け、外に出た。

そのまま駐車場へと向かう。

敷地へと足を踏みれた瞬間、し先にいたクレアスが駆け寄ってきた。その隣にはフリッツの妹――第六研のメンバー、ミリア・リットナーの姿もあった。

今朝クレアスは、年齢の偽裝をミリアに打ち明けると言っていた。

はそれを伝えられたはずだが、それにもかかわらずクレアスと行を未だ共にしている。

おそらく何らかの形でクレアスとの関係を納得したのだろう。

エリシアの死んだ時に、自分の時も止まった。

そう言っていたクレアスも、彼のおかげで変われるのかもしれない。

拠はないが、二人の様子を観察した私は何となくそう思った。

「あ、ツインテールのの子……」

私たちの元に到著するなり、ミリアが言う。

この言葉から察するに、ミリアもクロミサを認識しているようだ。

ということは、もしかすると第六研のメンバー全員、クロミサを見ることができるのかもしれない。

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レイ、ジョン・スミスもクロミサを視認することが可能であったことから、私はそう推察した。

「やっぱり見えてないの?」

ミリアがクレアスへ問いかける。

もちろん、クロミサが見えているはずもないクレアスの首は、すぐに橫へと振られる。

このやりとりを鑑みると、どうやらクレアスは年齢の件だけではなく、すべてをミリアに話したようだ。

おそらく兄フリッツの死も、その中には含まれているのだろう。

私のこの推察が正しいことを示すかのように、ミリアの目はうっすらと充していた。

これでまたひとつ問題は解決した。

私は軽く首を縦にした。

ちょうどそのタイミングで、ミリアが顔を橫に向ける。

「あ、先生」

と、聲を零した。

の視線の先には、レイ・トウジョウとミハイル・ラルフ・ラインハルト。さらにジョン・スミスを含めた殘りの第六研のメンバーがいた。

國立アキハバラセンターでは姿を確認できなかったが、あのアリス・ウエハラも同行しているようだ。

駐車場に置かれたワゴンの前に固まって、全員がこちらを注目していた。

その中のひとり、レイ・トウジョウへと目を移す。

スカイブリッジから帰還した後の記憶が、頭の中に蘇った。

エリシナの妹は彼だと、あの後すぐに判明した。

帝都大學ホームページのゼミ生一覧リストに、彼報が掲載されていたからだ。

當時、彼は國立帝都大學超常現象懐疑論研究所第六研究室のゼミを講していたこともあって、ネットで検索してみるとすぐに彼の名前が引っかかった。

それに載っていた寫真の中の彼の顔は、姉のエリシナと瓜二つだった。

時が経った今でも、それにあまり変わりはない。

の姿を見ると、いつもエリシナの顔が自然と私の脳裏に浮かぶ。

切れ長の目。長は同じくらい。エリシナの方が多付きがいいような気はするが、やはり姉妹だ――よく似ている。

ジョン・スミスに殘存思念の実在を教えられそれをれたのだろうか、レイはいつものように顎を上げて挑戦的な視線を私に送ってくる。

の瞳を視界にれながら、私はレイにもエリシナの死を教えるべきなのだろうかと若干悩んだ。

だが、すぐにでその考えを否定した。

ミリアの件と同じく、クレアスの気が済んだら彼本人がレイに伝えるはずだ。

スカイブリッジライナーの事件以降、クレアスはエリシナからの振込を裝いレイへの支援を継続していた。

エリシナの口座には大金がっていたのだが、送金した金はすべてクレアスのポケットマネーからだった。

いつか彼の死を伝えるときに、當時のままの狀態のカードを渡す。

それが、エリシナの死と向き合った後のクレアスの決意だった。

とはいえ、それは當初、彼が教授になるまでという話だったのだが――エリシナの死を告げるのに臆したクレアスは、今でもだらだらと彼の口座に金を続けていた。

その金には間接的にだが、クレアスの得たスピキオとしての給與、つまり、トゥルーマン教団の資金が流れ込んでいる。

トゥルーマン教団への潛を始めた當初、クレアスはこのことに悩んでいた。

それは、教団の大半を占める貧乏で無垢な信者のお布施――俗にいう、『愚か者の稅金』も含まれていたからだ。

クレアスのはさておき、私の心はまったく痛まなかった。

誤ったところに投資する者は、その金が意図しない使われ方をしても仕方がないと考えていたからだ。

クレアスは私の思想に納得がいかないようだったが、渋々ながら現実はれるようになった。

レイへの金とトゥルーマン教団への復讐を両立するにはそれしかないので、ある意味それもは當然の結果だった。

今も心にわだかまりを持っているのだろうが、やはりトゥルーマン教団に対する復讐心には彼も抗えなかったのだ。

だが、もう頃合いかもしれない。

クレアスは、そろそろレイにエリシナの死を打ち明けて彼にあのカードを渡さなければならない。

でなければ、レイもトゥルーマン教団青年活部のような連中と同じく、永遠に幻想を追ってしまうことになる。

もう、この世には存在しないエリシナという幻想を。

クレアスにもそれはわかっているはずだ。

私のそんな思いを知ってから知らずか、當のクレアスは車を回してくると言い殘して、ミリアと共に私が駐車したカマロがある方角へと去っていった。

そして、彼らとれ替わるかのようにシロウ・ハイバラとジゼル・ムラサメがこちらに駆け寄ってくる。

「まさか、あんなすごいトリックを使うなんて、想像もしていませんでしたよ」

へらへらと笑いながら、シロウが聲をかけてきた。

隣では、ジゼルが注意をするかのようにシロウの服の袖を引っ張っている。ぼやけた口もとに軽く笑みを浮かべて、彼の非禮を誤化そうとしているかのようだった。

ジゼル・ムラサメはさておき、シロウ・ハイバラ――私に騙されたのにも関わらず、よく笑っていられるな。

自分の不手際を取り繕うかのように握手を求めてくるシロウへ向け、私は軽蔑の視線を送った。

十二月も間近だというのに、やけに暖かな風が吹きつけてきた。

それが首元を通り過ぎた後、嘲笑気味に吐息をつく。

やれやれと思いながらも、手を前に差し出した。

そして、そんな最中、シ(・)ロ(・)ウ(・)・(・)ハ(・)イ(・)バ(・)ラ(・)は(・)私(・)の(・)腕(・)を(・)す(・)り(・)抜(・)け(・)自(・)ら(・)の(・)意(・)思(・)で(・)隣(・)に(・)い(・)る(・)ク(・)ロ(・)ミ(・)サ(・)の(・)手(・)を(・)握(・)っ(・)た(・)。

でれでれとした顔をして、やけに嬉しそうにしているシロウ・ハイバラの様子を私は呆然と見つめた。ジゼル・ムラサメに腕をつねられて、苦悶の表をするシロウ・ハイバラのその様をただ呆然と。

目の前では軽い騒ぎが起こっていたのだが、私にとってはそれどころではなかった。

思わず自分の手のを疑う。

確かに私はシロウ・ハイバラと握手をわしたはずだ。だが、実際にそうなることはなかった。

これは、クロミサが見えている見えていない以前の問題だ。

そこまで考えて、はっと顔を上げた。

ジョン・スミス……!

ワゴンの前で、ポカーフェースを浮かべているジョン・スミスへと目をやった。

私の視線に気がついたのか、彼のまんまるの目玉がし細くなる。

こいつ……こいつは、このふたりがクロミサと同種であることを知っていたのか。

仮面の奧で、私の眉がし上がった。

自分が全員を踴らせていたと思っていたが、実際は違った。

私もあいつに踴らされていたのだ。

思い通りにけば、すべて上手くいく――か。

以前ジョン・スミスが吐いた言葉を、脳裏で反芻した。

自分の掌に向け軽く息を吹きかける。

その後、軽く頭を振った。

人は概ね自分の目の前にあるものは見えないものだ。

以前、スピキオがショットガン男に向けて言った臺詞をふと思い出し、吐息をらす。

「ねえ、何がおかしいの?」

クロミサが、きょとんとした顔をして私に尋ねてきた。

「何もおかしくはないさ」

満面の笑みを頬に浮かべながら、仮面の中の私――僕はそう答えた。

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