《異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?》42話 憎しみ

ダンジョンにて───

 祐、ミスラ、シュナは順調に進み、階層はあっという間に99階層まで來ていた。

90階層までの道は、結構な暗さだった。だが、92階層の湖の天井のクリスタルよって、99階層までの道は、視界を確保出來るくらいには明るく、気配だけに頼ることも無くなり、安心して進むことが出來た。

 しかし、安心してこれたのはそれだけではなくて、もう一つの理由は、シュナがずっと無雙している事だった。

 戦闘大好き人間(?)のシュナは、敵が現れると一直線に駆け出し、剛腕で吹き飛ばす。その繰り返しだ。

 たまに、特殊な能力を持った魔が現れるが、そういう敵はしっかり連攜を取ってくれるため、危なげなく突破できた。

 正直、今のとこ3人の中で、単純な力であれば、シュナが斷トツである。

 そして今も、99階層というラスボスの直前だというのに、シュナの無雙は止まらない。

「トゥ! テェイ!」

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「おーおー、やってるな〜。やっぱ魔王級となると90階層級も雑魚か」

 そんな祐の発言に、ミスラはしだけ違和を覚えながらも、言葉を返す。

「そうですね。このまま技も上げていくと、いよいよ私たちを置いていきそうなほどの強さです」

 魔の群れと戦う時、シュナは、初めは力任せで、大したダメージにならなかったからいいが、敵の攻撃にも結構當たっていた。

 それが段々と技を上げ、攻撃の仕方も、毆るだけではなく、敵の武を盜んでそれを使ったり、敵の攻撃を利用して相打ちにさせたりと、本當にすごい長速度なのである。敵の攻撃もほとんど當たらなくなってきた。今では目を瞑って戦うという、どこの達人だよ。と言いたくなるような事をしている。

 「確かにな〜。それにしても、全く意識を向けてない後ろの敵も分かるもんなんだな〜」

「....呑気ですね。たしか、殺意みたいなものをじ取っているって言ってましたよ? 魔はそういうものをじ取る能力に長けているのかも知れませんね」

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「へぇ〜....」

 やはりさっきからし、祐に違和じるミスラ。

 そんな事を話していると、シュナの方もだいたい終わったようだ。數十はいた魔が、もうたったの3匹になっている。

 ここに來てようやく魔がシュナに恐れをじたのか、3匹のうち、1匹がこちらに向かってきた。

 だがその1匹も、シュナの手によって砕される。そして殘った2匹の方に向かうと思われたシュナの行は、予想を裏切り、真っ直ぐこちらへ向かってきた。

「? どうしたんでしょう」

「........」

 そしてシュナは拳を放った。  祐に向かって────

バシィィィンッ!!

 その拳を祐は、何事もないと言うように手でけ止めた。

「....え?」

 ミスラには何が起こったのか分からなかった。

 シュナが祐を攻撃した事に関しては、ギリギリ分かる。目を瞑って戦っていればもしかしたら間違えることだってあるだろう。用なシュナだとすれば考えずらいが。

 そしてそれよりも分からないことが、祐がその拳を軽々とけ止めたことだ。先程言った通り、シュナは力であれば私や祐を遙かに上回るのだ。

 何かしらのスキル。という可能もあったけど、93階層でユウのステータスカードを確認した時、それらしいものはなかった。

 疑問は殘る、だが、そんな事よりも、もっと分からないことがある。それは──

「...へぇ、本當にじ取れるのか」

「......ダレ?」

 1番わからないこと、それは今も険悪な雰囲気を醸し出す2人なのだ。シュナは目を開けているが、今も戦闘制を解かない。

「おいおい、まさか忘れちまったのか? って....殺意をじ取ってるんじゃバレバレか」

 このじ....まさか.......!!

「お?やっと気づいたかよ? 神様」

「....貴方は........祐の前世の...」

 最初の違和、それは名前だ。祐はシュナのことを魔王級と言ったのだ。1度もシュナのことを魔王と例えることのなかったあの祐が。

「ん? なんだ、あいつから俺の名前聞いてないのか? 口振り的に知ってると思ったんだが」

「あいつ....とは誰の事ですか?」

 なんとなく分かっていたが、一応聞くミスラ。

「お前ら神が、勝手に王と例えている奴のことだよ」

「神王....のことですか....? あのお方は、あんなですが、例えている存在なんかではありませんよ」

 神とは、そうあるべくして生まれてくるのだ。神王は王という役割がある。仮ではない。

「........へぇ、まぁいいや。 どうでもいいし、俺の事は...そうだな..........適當に呼んでくれや」

「前世の名前は教えてくれないのですか?」

 軽く押せば話してくれるかもしれない。そんな淡い期待をに試しに聞いてみると、

「名乗る気は無いな。馴れ合う気もない、今回來た理由は別にあるからな」

 先程の軽いじの雰囲気から一転、祐から放つオーラはとても圧のかかるものとなった。

「理由....?」

 すると、未だにけ止めたままのシュナの拳を摑み、ありえない程の力でシュナを後ろに投げ飛ばした。

「んムッ...!」

 咄嗟にをとってダメージを軽減させるシュナ。制を立て直そうと顔を上げる、 と、目の前には迫ってくる祐の蹴りがあった。

 その蹴りをモロに食らったシュナは、勢いよく飛んでいき壁にぶつかる。

 「な...なにを.......!?」

 ミスラは、シュナに駆け寄ろうとするが、見えない壁に阻まれ、その行は葉わなかった。

「何って......魔王狩りだよ。見ればわかるだろ? そんくらい」

「魔王..って........その子は──」

 「魔王じゃないって? 何言ってんだ、こいつはどう見ても魔王だろ。それ以外の何者でもない。『魔王は絶対の悪。倒さなければならないもの』そう言ったのはお前ら神々だろ?」

 言い返せなかった。何故なら私は、シュナに會うまで本當にそうだと思っていたからだ。慈悲深い魔王なんてどこ世界でも見たことも無い。

「けどまぁ、あんたもあんたで、天界の時とは見違えるように変わったのな。あそこにいる時は、世界のバランスのことしか考えない、どこにでもいるくだらない神のようなじだったんだけどな」

 天界。その言葉だけでそれがいつの事かはっきりと思い出す。そう、あれは祐を転移させる前に連れて行った場所だ。

 以前、私がこのダンジョンで祐と再會した時、祐が不可解な事を言っていた。

 祐は、この世界にどういう理由で転移させられたかわからないと言ったのだ。

 その時は説明し忘れてた。みたいなじで流していたが、実は、私はしっかり説明していたのだ。それを全く覚えてないのは何故だろうか。と疑問に思っていたが、ようやく謎が解けた。

「あの時、祐とれ替わっていたのですか....?」

「あぁ、途中からだけどな」

 まだよくわかってない部分もある祐ですが、確かにあの時は、らしくない行をしてました。

「勝手な事を言ってるのは分かってます。ですが、今回だけ、見逃してくれませんか?」

 私の提案に前世の祐はきを止め、シュナから意識を外したようだ。

「........ふーん....」

 今の言葉に、どんな意味が篭っていたのかが分からないミスラは、もう一押しかと思い込み、踏み出す。

「貴方が何故魔王を憎んでいるのかは分かりませんが....きっとその子は、あなたが思っている様な魔王ではありません。魔王にだって全員が殘な訳では──」

畳み込むように話すミスラ。自分の言葉がなからず効いていると思った為か、勢いもあるその言葉は、前世の祐によって遮られた。

「憎んでねぇよ」

「えぇ、そうでしょう。その憎しみはどの世界でも........え? に、憎んでない?」

 てっきり、前世で魔王に大切な人を殺さてた。とかそういうのをイメージしていたミスラは、魔王のことを憎んでいないと聞き、困する。

「あぁ、魔王に優しい奴がいることだって知ってる。そんなやつ、いくらでも見てきた」

 いくらでも....? それは複數の魔王を見てきたとでも言っているような....まさか転生したのは1度ではない....?

「勝手に妄想するのは良いがな、話がそれだけってんならもう終わらせるぞ」

「ッ!? ま、待ってください!話はまだ──」

 だが、聲は屆かなかった。ミスラの前にある見えない壁が、音も遮斷したようだ。

「さて、じゃあやろうか。殺し合いを」

ミスラと話しているうちに、シュナも制を整えたようだ。だが、力の差をじて迂闊にけない。と言ったじか。

「....意外と落ち著いてるんだな。今から殺されるってのに」

 そう問いかけると、話してきた事で、今すぐ突っ込んでは來ないことが分かったシュナは、ゆっくりと口を開いた。

「強い方ガ 勝つ それだけ」

 言葉だけ聞けば、本當に武人である。

「そうか....」

 言葉を返す前世の祐の顔には、嘲りも、狂気もなく、ただただ申し訳なさそうな顔が寫っていた。

「気にしなくテ いい 私は危ない存在 だから 仕方ない 短かったけど 楽しかった」

「なんだ、もっと子供っぽいかとおもったら、俺なんかより、よっぽど大人だったか...」

「ム..子供 じゃない 」

子供扱いが嫌だったのか、頬を膨らませて不貞腐れたように怒る。

 そこから生まれる沈黙、お互い、目はとっくに本気モードだ。

 そして、合図のない決闘が始まった。

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