《異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?》53話 俺が求めるもの II

「......ゅ...祐........?」

「おぅ、大丈夫か。ミスラ」

 一瞬、目の前にいる相手の言ってることが分からなかった。左腕は丸々無くなり、はだらだら。

「おい」

 所々、決して淺くない切り傷もある。

「.....おいってば」

 いつ死んでもおかしくない狀況。いやむしろなんで死んでないのか分からな───

「おいこらミスラ!!」

 「ひゃい!?」

 変な聲が出てしまい、赤くなりながらも祐から視線を離さない。

「....けるか?」

「え、えぇ....そりゃもちろん」

 唖然としながらも、回答はしっかりする。

「分かった。なら、シュナを擔いでもっと距離を取ってくれ」

 祐からのその言葉で、ようやく正気に戻ったミスラは、そんなバカで無茶で無謀な男に、怒號の返しをしようとしたが、その言葉は、目の前の男に遮られた。

「ミスラの言いたいことは、よ〜く分かる。でも多分それには間違いがある」

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「....間違い?」

 今も白龍の鉤爪をけ止めながら、祐は話す。

「俺は、お前を信頼してる」

「..ッ!?」

 今まさに説教しようとした事を、先に言われてしまい、言葉が出ない。

「まぁ、それでも無茶だって言いたいんだろ?でもさ......そこは、俺を信じてくれねぇか?」

 そんな顔で、この狀況で、そんなことを言われたら....言われたら.........

「....ダメです。許せるわけがありません」

「.........」

 そうです。許せるわけがない。たとえ、恨まれても、私が死ねば祐達が助かるのならば、迷いなくそうする自信がある。

「けど。それは無理です。私が死んだところで、狀況は変わらない。3人共倒れになるだけ。そして一番後悔するのは、仮のでここに居る───私」

「だから、仕方なく。ほんとーーーーっに!仕方なく、貴方に賭けます」

「.....あぁ、任せろ」

 私が出す答えを知っていたかのように、優しい微笑みを浮かべてみせる祐。

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「....た、ただし!」

「お、おぅ?」

「死んだら、後でぶっ殺しますから覚悟しておいて下さい」

 恥ずかし紛れに、割と変なことを言ってしまった自覚はあるのか、顔が火を吹いたように煙をあげるミスラ。そんな様子を見て───

「だーいじょうぶだ、任せろ。絶対に死なねぇから」

「......た、頼みましたよ」

 それだけ言うと、ミスラは逃げるように去っていく。前に───

「〝回生〟」

 ある魔法を唱えると、祐の傷口の出は止まり、幾分かが軽くなった。

「...おっ、ありがとなミスラ」

 すると、ふんっと顔を背けて今度こそシュナの元へ行ってしまった。

「さてと、それにしても、よく待ってたな?お前にとっちゃ、手負いの俺らなんて余裕ってか?」

 白龍に余裕のは見られない。そもそも、祐が現れてからというもの、白龍はミスラに1度も目を向けず、ずっと祐を警戒するように見つめていた。

「なんだ?今まで散々無視してたくせによ。まぁいいけど」

 言葉はやはり通じない。だが、白龍からは威嚇するような雰囲気が出ていた。

「覚悟しろよ?今の俺は、誰にだって負けそうにねぇからな」

***

 急いでシュナの元に向かい、軽く容態を確認した後。擔いで、巻き添いを食らわないように端の方へ移した。

「.....ミス........ラ?」

「はい、意識だけは取り戻しましたか。大丈夫ですか?」

「...うン......でも、白龍ハ?」

 し説明しずらいと思いながらも、ここは素直に答えることにした。

「今、祐が戦っています」

 やはりと言うべきか、シュナは驚いた顔をした。

「でも、大丈夫です。信じろって.....言われましたから」

「そっカ....じゃあ安心」

(この子は本當にもう..祐を心の底から信じてるのですね)

 し、羨ましいと思いながらも、ミスラは遠くから祐を見守る。祐は何をする気なのだろう。この狀況を打開する鍵があるとしたのならばそれは....〝進化〟......しかないですよね.....

(まさか、使ってしまったのでしょうか.....あの呪われた力を)

***

 剣にし力を込める。それだけで白龍は何かに警戒し、翼を広げ、後ろに飛んで距離を取った。

「安心しろよ、俺には今魔力も無ければ、力もない、もしあるとすればそれは....」

 白龍は予備作なしで鉤爪からの斬撃を飛ばす。

「..うぉっ!と危ねぇな。溜めずに打つとかありかよ。まぁそっちがその気なら........ハァッ!」

 片手で黒曜剣を握りしめ、縦に一直線に振るう。すると、の斬撃は二つに割れ、霧散する。

 これには、白龍も驚いたようだ。なんせ、今まで大した有効打を與えたこなかった獲が、溜めの行はなかったとはいえ、剣を振るっただけで自らの自信満々の攻撃を無力化してみせたのだ。

 しかも相手は片腕を無くし、明らかに弱っているように見える狀態で。

 そんな景を見せられれば、プライドの高い龍はもちろん怒り狂う。

『ガァァァ!』

 冷靜さを失ったか、危険を顧みず突っ込んでくる。

 それに対して、わざわざ正面からやる必要はないとじた俺は、し余裕を持って回避しようとする。だが白龍はそれを許さず、尾で吹き飛ばそうとしてくる。

 それでも慌てず、冷靜になり次の瞬間。

 ズバッ!

 人がぶっ飛んだような音ではない。どちらかと言えば、斬る音。

「取り敢えず、尾」

 尾の攻撃を回避出來ないと察した祐は、迷わず剣を握りしめ、振るうと、まるで元から斬れていたかのように、簡単に尾を斬り落としてしまった。

 白龍は悲鳴をあげる間もなく翼を広げ、飛び、祐に向き合う。

 そして一瞬目がった。今までとは違う。を溜めるでもなく、ただ瞑想するかのように滯空する。

 祐は空に飛ばれてはどうしようもなく、見屆けることしか出來ない。

 數秒後、白龍は角からスパークを迸らせ、広い部屋の壁に、數え切れないほどの魔法陣が隅々まで出現した。

「魔法....か」

 恐らく、これが白龍の奧の手だろう。こんな數の魔法。大人數ならもしかしたら防げるかもしれないが、たった1人で防ぐのは不可能だろう。客観的・・・に見れば。

──不思議だな。こんな絶の最中さなかだと言うのに、心が凄く落ち著いている。そういえば、前にもこんなことがあったな。あれは確か.....ダンジョンに初めてった時、しょっぱなからオークが現れた時だったかな。

極めて靜かな心、だけどは熱く、やる気に満ち溢れてて、何でも出來そうになる覚。

 數百の魔法陣から、月白の輝きを醸し出しながら、一つ一つが強く弾け強さじさせる雷の玉。その半數がき出した。一直線に祐の方向へ。

 冷靜に判斷しなくても分かる。これは1人で捌くのはやっぱり無理だ。だがそれで終わってたまるかと、自らのにムチを打つ。

 一瞬でどうくかを思考し、走る。まずはシュナが殘して行った巖石の柱の元まで行き、を隠す。すると一直線に向かってきていた雷玉は、標的を見失い、やや範囲を広げながら止まることなく突っ込んできた。

 一斉に壁や柱に衝突すると共に、拡散し発した。

 一つ一つはそこまで大きくはなさそうだが、數で押されるとあっという間に逃げ道がなくなってしまうだろう。

 止まることなく続く発により、結界のなくなった壁は破壊されでこぼこと変形する。

 (....いけるか?)

 數瞬のシュミレーションの後、覚悟を決めると崩壊寸前の柱から出て、歪な形になっている壁へ突き進む。

 もちろん雷玉の嵐は依然止まってない。

 そんな中を、まるで後ろに目があるように紙一重で避けていく祐。

 やがて壁際に辿り著くと、すぐさま跳躍し、でこぼことした壁を上り始めた。

 雷玉に注意しながら、どこに來るかを予測し跳躍を繰り返す。上の方の壁は未だ雷玉の影響がなく、ツルツルとしていて、とてもではないが、足場があるという狀況ではなかった。

 だが、祐が移したことにより、標準を徐々に徐々に上へとばして行った雷玉によって、まるで祐の足場を作るように壁を破壊していってるようにも見える。だがそれは、一重に祐の1ミリのミスもない予測と跳躍によるものだった。

 せれば大勇、失敗すれば蠻勇。白か黒かの大勝負。

 白龍はだんだん自分に近づいてくる標的に気づいたのか、雷玉の數を増やす。

(これ以上は流石にキツイな)

 白龍との上下の距離はおよそ20メートル程度。普通の跳躍では到底屆く距離ではない。

 この高さでは、もう下に引き返すことも出來ず、けれどもそのままでいれば、圧倒的量によって押し切られてしまう。もう本當にダメかと思われたこの狀況でも、祐の目は全くを失ってはいなかった。

(出來て4回ってところか)

「〝剛力〟」

 ほんのしでも耐えれるように、ない魔力で両足に剛力を発させる。そして、跳躍。

 その距離は、『剛力』によって多びてはいるが、白龍までは屆くとは思えない。そして、そのまま自由落下するかに思われた次の瞬間────

 ズドンッ!

 何かと思えば、祐が思い切った行に出た。

 雷玉を足で踏み、小発を起こし、それをわざとけてさらに上へ跳躍する。

 

 いくら『剛力』を発しているからと言って、発を直でければ相當のダメージを食らってしまう。

 その証拠に、足からはが流れ、余波でミスラに直してもらった傷口が開いてしまった。

 だが、それでも祐は止まろうとはしない。

 そして二回目。

次は反対の足で踏み、跳躍。1回目同様、足からは飛沫が飛び、中にも新しい傷ができる。

 三回目。

 今のでもう片足は完全にかなくなっている。

そして四回目で、白龍より上へ行くことが出來た。だがもうこの時點で意識は朦朧とし、いつ死んでかなくなるかわからない狀況。

 なのに、それでも祐の目はしっかりと白龍を捉え、剣を握り絶対に斬る。という意思が伝わってくる。

 白龍は迎え撃とうとしたが、自分の尾を軽々と斬った景を思い出し、冷靜に回避する事を選んだようだ。

 この高さから落ちれば即死確定。ならばわざわざ當たりに行くことも無い。

 翼をかし、移するが魔法の維持に相當の集中力を使っているのか、上手くけない。

 そうして祐から、ギリギリ開けることが出來た距離は大人一人分。地上ならともかく、上空であればこの距離を詰める手段は祐にはない。

「....悪いな、俺の勝ちだ」

 祐は黒曜剣を居合の構えのように、腰に下げる。

 數十秒にもじる落下の時間。やがて白龍との高度が同じになった所で、祐は最後に言葉を紡いだ。

「滅竜式、一の太刀──────〝竜牙一閃りゅうがいっせん〟」

 

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