《お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~》第十五話『王國のき』
ザブリェットが拐された次の日。ウンゲテューム王國では大きな騒ぎとなっていた。
國王がしてやまない娘のひとりが突然いなくなったのだ。
「まだか、まだ見つからないのか!」
國王でありザブリェットの父であるヴォルガー・フォン・ウンゲテュームは聲を荒げて怒鳴り散らしていた。
その聲に従い、兵士たちが慌ただしくき出す。
ヴォルガーも心焦っていた。大切にしている娘がまたいなくなったのだ。もう二度と家出なんてしないように、危険な目に合わないように祝福を與えたというのに。
疲れきってしまったヴォルガーはゆっくりと玉座に座る。
「はぁ、何故じゃ。なぜまたいなくなる……」
深くため息をついて項垂れる國王。もしその姿を國民が見たら不安がってしまうだろう。
ザブリェットの父親であるヴォルガーは、別にザブリェットを嫌っているわけではない。むしろ娘の中で一番気にっているのはザブリェットなのだ。ただ、ほかの者達から見れば、無理やり監して仕事を與え続け姿が嫌っているようにしか見えない。大臣以外のほかの貴族たちはそう思っている。
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でも、本當は娘をしていた。だったらなぜ厳しくするのか。それはヴォルガーがいち早くザブリェットの才能を見抜いたことが原因である。
期から子供とは思えない言が見られた娘にとてつもない才能があるとじたヴォルガーは、いつしか國をザブリェットに任せたいと思うようになった。そのための教育の一環として仕事を與えて見たのだ。するとどうだろうか。思ったとおりに素早く仕事をこなし、みるみる國がかになっていくではないか。
やはり、間違いじゃなかったと心したヴォルガーは多大な期待をザブリェットに向けるようになる。だが、親として、國王として、國を任せられるように育てるには厳しくしなければならない。だからこそ、ザブリェットには優しさを見せず、自分の背中を見てしいという一心でやってきた。
その時に起こった家出事件。
ヴォルガーはとてつもない取りし方をした。そして、大臣に相談したのだ。
もしかしたら教育の仕方が間違っていたのかと。その時、大臣はこう言った。
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「國王様、貴方は間違っておりません。ザブリェット姫が逃げたのは、子供特有のものでしょう。ですから、逃げられないように祝福を與えるといいでしょう。そうすれば、きっとわかってくれますよ」
その言葉を信じた國王は、帰ってきザブリェットに祝福をかける。いつかわかってくれると、この國のために盡くしてくれるようになると信じて。
だけどまたいなくなった。心に大きなが開いた気分になる。
逃げられないようにしたのに、一どうしてと。
「大臣、どうして……どうしてザブリェットはいなくなってしまったのだ」
「まだわかりません。ですが、祝福がある以上、普通に逃げられるわけがありません。きっと何者かの謀があるのでしょう」
「……ザブリェットは、わしが嫌いになって家出したわけではないのだな。期待をかけすぎて、厳しくしてしまったせいで逃げたわけでは……ないのだな」
「それは當たり前にございます。あのさで公務にれるなど普通ありません。國王様が期待している事は伝わっています。子が親を嫌うなどあるはずがありませんじゃないですか」
そう、にこやかに宣言する大臣。実は心慌てていた。
國王の教育方針は間違っている。そのことをわかった上で、國王に間違っていないと言い続けるには理由があった。
それはかに素晴らしい人生を送ること。
そのために人脈を広げ、國に盡くすような振る舞いをし、大臣という座に付いた。だけどまだ足りない。もっとかに、もっと自由に、素晴らしい人生を送りたい。
そのためには國自をかにしなければならない。そこで目に付いたのがザブリェットだった。
大臣もザブリェットの才能に惹かれた一人だ。
でも、まだいザブリェット。一どうやって利用すればいいか考えていたときに、國王や周りが才能に気がついたことを知る。
國王の、ザブリェットに國を任せたい……その想いを利用したのだ。
だが、家出したのは誤算だった。いがそこまでの行力を持っているなど、思いもしない。仮にも一國のお姫様だ。それでもザブリェットは家出した。二度とそうさせないための祝福だった。なのにまた……。
これで本當に逃げられてしまったら、そうなると計畫が全てダメになる。
想いは違えど、國王も大臣も慌てていること違いはない。
一刻も早く、いなくなった原因を突き止めないと……。二人して暗い顔をしながら話していると、ひとりの若い兵士がやってくる。
「しつれいします、ご報告に參りました」
「わかった、話せ」
ヴォルガーがそう言うと、張した表をしながらザブリェットに関する調査報告をし始めた。
「國家魔導師による部屋の調査を行ったところ、魔導師の方でも解析不能な強力な魔法の痕跡を見つけました。また、一通の手紙を部屋から発見。容は『姫は我らがいただいた。我ら魔國の大地を踏みにじった代償だと思え』とのことです」
その言葉に、ヴォルガーと大臣が唖然とする。ザブリェットがいなくなった原因は魔國領のものが拐したからだ。
しかも誰にもばれずに行うなど只者ではない。それこそ魔王と呼ばれるような強力なものでないと不可能だ。
そして、現在は人間領と魔國領は対立している。人間以外を認めない人間領と人外が多く生息する魔國領では馬が合わない。
だからお互い干渉せずにいた。だけど狀況が変わる。日々魔に怯える國民。その魔たちは意思を持たないが大抵魔國領から流れて來ている。野生ののようなものであるが、それで苦しんでいるものがいるのは事実。
國のためにと思い、魔國領の襲撃を命じたのだが、まさかこのような形で襲って來るとは思わなかった。
「……人外どもめ。わしの可いザブリェットを拐するなど……許せん……」
「國王様、わたしも同じ想いです。これはゆるされる事態ではありません。我々に魔を嗾けて、その上ザブリェット姫を人質に取るなど、許せるものではありません」
「そうだな、よし、そこの兵士よ」
「はっ」
「教會に行き、勇者を呼んで參れ。わが娘、ザブリェットが魔王に拐されたとなれば、人間領の守り手である勇者もいてくれるはずだ」
「了解しました。直ぐに連れてまいります」
そして、兵士は駆け出した。それを見送る國王と大臣は、ザブリェットの安否を祈りつつ、勇者が來るのを待つのであった。
***
兵士が勇者を呼びに行って三時間ぐらいがたっただろうか。
兵士は勇者ザブルグを連れてきた。かつてザブリェット姫家出騒の時、聖剣で地龍からザブリェットを守った年。キラリとした輝かしいオーラを放ちながら、ゆっくりと國王に近づき、頭を下げる。
「教會より勇者の稱號を頂いております、ザブルグと申します。急事態ということでこの場に馳せ參じました。國王様、魔王が姫様を拐したとは本當なのでしょうか」
爽やかな表の裏に何かが潛んでいそうな雰囲気が漂う。絶対的自信、そこからでる自分ならなんでも許されてしまうというじがヴォルガーの不安を駆り立てる。だが、魔國領、しかも魔王に対抗できるものなど勇者と呼ばれる者以外にいない。
本當に任せていいのかという不安を振りほどき、ヴォルガーは勇者ザブルグを見つめてこう言った。
「ああ、わしの可い娘、ザブリェットが魔王に拐されてしまった。お主にはザブリェットを助けてやってほしい」
ヴォルガーの言葉にザブルグがニヤリと笑う。こんなところでチャンスが來たのだと心の中で悪徳笑っていた。
ザブルグは勇者になる前からちやほやとされていた。そのかっこいい外見からは自然と寄り付き、力強さから周りの人にしたわれる。それに加えて教會から勇者と呼ばれる存在であると言われたことで、全てが思い通りにく世界になった。だけどただ一つ、思い通りにならないものがある。それがザブリェットだった。初めて出會った時、いきなり嫌悪丸出しな接し方をされたのは初めてだった。自分によってこないがいるのかと心驚いていたほど。
それからザブリェットが気になって仕方がなかった。ヴォルガーに監されて、なかなか會うことができない。初めて、手の屆かない存在に出會った気がした。
半ば諦めかけていた時、魔王に拐された事件が起こったのだ。
きっと救い出せる。そう信じてヴォルガーの言葉に頷いた。
「この勇者ザブルグが悪しき魔王から必ず救ってみせましょう。ただ……」
「ただ、どうしたのかね」
「一つお願いがございます。僕とザブリェット姫の出會いの場を設けていただけないでしょうか」
ヴォルガーの額に青筋が浮かぶ。ブチギレる寸前。娘をしてやまない父親に言ってはいけない言葉を言ってしまったのだ。それが分かっても尚、ザブルグは止まらない。
「僕はずっと気になっていたんです。ザブリェット姫は素晴らしい才能があり、素敵な方なんだろうと、ずっと思っておりました。でも、僕には手が屆かないどころか會うことすらできない高嶺の花。しかし僕にもチャンスがやってきました。憧れのザブリェット姫にお會いして、知り合いになるチャンスなんです。お願いします」
「う、うむ……」
さて、どうしたものかとヴォルガーは頭を悩ませた。でも、娘を救う手段としてはこれしかない。それに、結婚を申し込まれたわけではないのだと言い聞かせ、勇者の言ったことを了承する。
「よかろう、無事に連れ帰った暁には、ザブリェットとの茶會の用意をしよう」
「あ、ありがとうございます。では、私は魔國領に行ってまいります」
こうして、勇者ザブルグは魔國領に向かう。
去っていく後ろ姿を見つめながら、ヴォルガーは「たのむ」と小さくつぶやくのだった。
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