《お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~》第二十八話『今更やってくるあいつ』
目を覚ますと、木材の優しい香りが漂う素敵な空間だった。この展開は何度目だろう。
部屋を作し終わたザブリェットは、疲れと嬉しさから寢てしまったようだ。そして日は上り、朝のざしで目を覚ます。
でも、いきなり真新しい部屋にいたためか、狀況が把握できず、拉致されたのだと勘違い。
能力を使って逃げようとしたところで、自分が作ったお部屋であることに気が付いた。
「あ、疲れて寢ちゃったんだ。なんか忘れているような気がするけど……まぁいいや。もうひと眠りしよう」
そして、ザブリェットは再びベッドにダイブする。ふわっとしたベッドに新しい木材の香りが漂って、心地よい眠りをう。
ふわぁとあくびをしながら、寢っ転がり、枕を自分の元に引き寄せる。寢る準備萬端。
「もう、こんな素敵空間を用意してくれたヘルトには謝しないとね。今頃どうしている……あ」
ここでザブリェットは思い出した。作ったお部屋をヘルトにお披目しようとしていたことを。
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「大変、ヘルトを探して拉致らないと。この時間なら畑にいるかもしれない」
ザブリェットは急いで部屋を……飛び出さず、ちょっとだけ片付けて、見栄えをよくしてから部屋を出た。
******
さて、ヘルトを探しに外に飛び出したザブリェットはというと、迷子になっていた。
魔王が畑として活用している土地は83450平方キロメートルぐらい。日本で考えると、北海道と同じぐらいの広さだ。
そんな馬鹿広い畑からヘルト一人を探すなど、ほとんど不可能に近い。
こんな時こそ能力だ。ヘルトを思い浮かべて『瞬間移テレポート』を使えば一瞬でたどり著くだろう。
下手したら巖の中ではなくヘルトの中に転移してしまい、的に合する危険もあるのだが。
そんなことはお構いなしにザブリェットは能力を使った。
『瞬間移テレポート』を使うのはこれが最初ではない。だからだったのか、能力を発するタイミングでザブリェットは違和をじた。
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だけど早くヘルトにお部屋を披したい。その思いが強かったため、違和など気にしない。
だけどそれがいけなかった。
本當ならヘルトの近くにいけるはずなのに、たどり著いたのは、膝よりちょっとだけ高い緑の植が植えられた畑。どうやらヘルトが育てている小麥畑に『瞬間移テレポート』してしまったようだ。ザブリェットは近く誰かいないかキョロキョロし始める。だけどヘルトどころは、誰ひとりとして人がいない。
「なんで私はこんなところにいる? はっ! まさか天使の能力がダメだったのか!」
天使のダメさに地面に八つ當たりしそうになるザブリェットだが、なんとか踏みとどまる。ここは畑大好きヘルトの畑。それをしでも臺無しにしたら、きっとブチギレるだろう。そうなると誰もとめられない。きっと酷いお仕置きが待っていることだろう。
そう考えたザブリェットはゾッとして、周りを気にし始めた。
「うう、何もないよね。ヘルトが怒りそうなことをやったりしていないよね」
不安になってあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。畑を確認し始める。
そんなザブリェットに赤い閃が襲いかかる。
熱くて骨まで溶けそうな灼熱のは、小麥どころか地面を削り、畑を臺無しにしながらザブリェットの目の前を通り過ぎた。
余波でダメージがありそうな狀況だったが、天使に祝福されているザブリェットにダメージはない。
ただ呆然と、目の前で燃え上がる小麥畑を見ることしかできない。
「いいい、一誰が!」
我に帰ったザブリェットが閃が放たれたであろう方向に振り向くと、金髪で爽やかなイケメンがあちこちにキスマークを付けながら立っていた。
「やあ、お姫様。迎えに來たよ」
ザブリェットは背筋に冷たいものをじた。
このイケメンはザブリェットがい時に地龍から助け出し、數多の危機から國を救った英雄で、人間領では勇者と呼ばれている奴だった。
その名はザブルグ。ウンゲティウム王國が誇る最強の人間。
しかしその姿は勇者と呼べるようなものではなかった。鎧というか、服というか、そういうものをがされて、ほとんど同然の姿。
簡単に言うと、パンツ一丁というやつである。
だけど勇者だからか、剣を離さず抱えて、勇者の証っぽい頭の守れそうにない、きらびやかな寶玉が額の中央ぐらいにくる謎兜を裝備している。それだけにとどまらず、中には大量のキスマーク。はじっとりと汗ばんでいて、どっからどう見ても変態だ。
「ひぃ、近づかないで……」
「ちょっと待ってくれ、私はあなたを助けに來ただけなんだ」
「へ、変態。一號! 二號!」
「「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン」」
ザブリェットの呼びかけに応じて一號と二號が地面から生えてくる。『瞬間移テレポート』で移したはずなのにここに現れる、ある意味このふたりはすごいかもしれない。
「呼び出しておいてなんだけど、一何故ここにいる」
「僕の魔法! サキュバスは気にった相手を付き回す魔法が得意だったりするの」
「そして私が地面を掘ってきたのです! ハーピィなので!」
「そこは空を飛んでくるんじゃないの、一號?」
「え、私はハーピィなので、空を飛ぶよりも掘る方が早いですよ。當たり前じゃないですか!」
ハーピィの知られざる事実。空を飛ぶよりを掘る方がはやいって、その羽は一何のためにあるんだろうと勇者ザブルグですら疑問に思った。
「ところでどうしたんですか、僕とイチャイチャしたくなりましたか?」
「きっと広くて見晴らしの良いこの場所でお茶をするんですよね。いま用意します」
そう言って、てきぱきと作業を始めるふたり。掘りハーピィにびっくりして固まってしまったザブルグは、我に帰ると二人に対して剣を抜いた。
「魔國領だから直ぐに敵が出てくると知っていたが、ままま、まさかまたサキュバスが來るなんて……。さぁ、痛い目を見たくなかったらザブリェット姫を返してもらおう」
「え、誰ですかこの変態」
「き、気持ち悪い、僕のお母さんが口では言えないことをしている時と同じ匂いがする」
「ここで敗ですね」
「うん、一號。やったるよ」
「「ご主人様(お姉さま)のゆえに、この変態を敗をしてあげましょう」」
「っく、ハーピィならともかく、サキュバスはやりにくいが……。姫をさらっていくだけなら容易い。行くぞ!」
ザブルグが剣を構えて走り出した。ザブリェットに向かって。
鍛えられたムキムキの。パンツ一丁の勇者ザブルグが両腕を広げて、変質者の如く走り出す。
その姿を見たザブリェットのに鳥が立つ。激しく気持ち悪いと思ったザブリェットは一號を盾にした。
「うをぉ、汗ばんだが気持ち悪い。変態、変態、変態。だけどご主人様が強要する、ああああ、ご主人様のおみのままにぃぃぃぃ」
「あああ、や、やめろぉぉぉぉ、俺に抱きつくなぁぁぁ」
「ここか、ここがいいのか。ファァアアアアック」
抱きつきながら放った一號の強烈な蹴りが勇者を襲う。
問答無用に金的を狙ったので、ザブルグは地面をのたうち回ることになる。折角のイケメンが臺無しな、歪んだ表を見せながら、一號を睨みつけた。
「きさまぁぁあああああ」
金的をくらって怒り狂うイケメンは一號に向けて大きく剣を振りかぶった。
このまま直撃すれば、確実に死んでしまう。
この世界では壽命で死ぬ以外は生き返ることができる。だから死ぬ危険に対して無頓著なところがあった。
だからだろうか、本當の危険に気が付くのが遅すぎた。
勇者が持つ剣が怪しげな紫のを放ち始める。そのからじられる死を目の當たりにした一號は「ああ、こりゃダメだ」と呟いた。
結構お気楽である。
本人的にはザブリェットのためなら本當に死んでも構わないとすら思っている。だけど、ザブリェットがどうじているかは別の話。
々と酷いことをしていても、一號と二號を気にいている。だからこそ、変態的な行を取ってしまうこのふたりを遠ざけたり、消し去ったりしない。短い期間ではあったものの、ザブリェットの中では最も信頼できる、大切な親友とまで思っているほどに、だ。
だからザブリェットは……。
「危ない、一號!」
必死に走って、一號を突き飛ばす。転げまわって、起き上がると、一號の目の前に最悪の景が映った。
それは勇者ザブルグの剣がザブリェットに襲いかかろうしていたからだ。
勇者自、まずいとじ取ったのだが、車と一緒で急に勢いを殺すことは難しい。
止まらない剣がザブリェットに襲いかかろうとした、その時、漆黒のマントをなびかせて、あいつが現れる。
「……遅れてすまない」
禍々しい杖に魔力を纏い、剣をけ止めたのは魔國領の王、ヘルト。いつもは畑大好き自由人だが、この時は違った。完全に魔王モードで、さらに怒りに満ちたその表。のように赤く染まった瞳が勇者を睨みつける。
「勇者よ、貴様はれてはならぬものに手を出した。蘇りも葉わぬ死をくれてやる」
魔王ヘルトは勇者に向かって大きくんだ。
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