「え、なにそれ、勇者どんだけクズなの。うわぁ、斷罪したい。ちょーしたい」

「ふふふ、だ～めっ！　君にはやってもらいたい事があるんだよ」

シンは、口元に手をやり、怪しげな笑みを浮かべた。なんだか怖い。聞きたくない！

「破して滅んだはずのニートリッヒ。その跡地一帯が消えない霧に覆われてしまったんだ。なんだろうね、不思議だね！」

「えっと……それで？」

「その跡地を見てきてもらいたいんだよ。噂がすっごく楽しそうで！　後で想とお土産をお願いね」

「ちょっと待て、何、噂って。え、え、なんか怖いんですけど」

「いいかい、よ～く聞くんだよ。

その霧の中には！　妖飛びう夢の國！

楽しそうな歌聲と、怒濤のアトラクション。ドキドキワクワクの夢の國では、妖さんたちが歌い、魔法で花を咲かせ、バルスッ！　とぶ。するとなんということだろうか、アトラクションたちが崩壊寸前のところまで……。三階のフードコーナに置いてある、カレーがオススメ！」

「なんかもう、々とぐちゃぐちゃだよ。意味わかんないよ！」

え、遊園地でもあるの。でもバルスって。もしかしてあれ？　天空の城でもあるの。それはちょっと気になる。

天空の城にできた夢の國。最終的には滅んじゃうぜってきな？　うわぁ、ヤバ、三ヶ月ぐらいで閉園になりそうなテーマパークだな。

「ちなみに、おすすめの乗りはジェットコースーターもどき。永遠に走り続けるんだとか」

「そりゃ、うまく計算して作れば、壊れるまで走り続けられるだろうけど。それ、誰も止めてくれないやつだよね。降りれなくなっちゃうやつだよねぇ！」

「ま、半分冗談だけどね」

「えええぇええぇぇええええっ！　冗談なのぉぉぉぉぉぉ」

大聲をあげて仰け反ってみた。かなりのオーバーリアクションにシンは引きつった笑みを浮かべる。やだ、恥ずかしい。

「んで、本當のところはなんなの？」

「えっと、霧の中にった人は誰ひとりとして出てきてないね。だから夢の國があって、出たくなくなっているって噂が流れているの。　あとは……ゾンビが出てくるってことぐらいかな？」

「え、ゾンビ？」

ホラー作品大っきらい。お化けは理でどうにかできません。怪奇現象怖い。

私、神のステータスかなり低いから。余りにも酷すぎて表示すらしてもらえませんから！　そんな私にゾンビが出てくる場所に行けと？　こいつ鬼だ、いや、神だ……。

「そのゾンビ……拳でどうにかできる？」

「あれ、なんで涙目になっているの？　ゾンビは魔なんだから當たり前だよ。

それよりも問題なのは……」

勿つけて間を作るシン。私はゴクリとを鳴らして、その問題とやらを語ってくれるのを待った。

キーンコーンカーンコーンと、どこからともなく鐘の音が鳴り響いた。まるで學校のチャイムみたい。

うっすらとジャラジャラした、タンバリンを振った時の音が聞こえたような気がするけど……、でも何故、チャイムが鳴った？

「あ、僕はそろそろ帰らなきゃ。またね、小雪」

「え、あ、ちょっと待って！　問題とやらを聞かせてよ！」

私のびは屆かず、シンの姿が一瞬にして消えてしまった。

世界も気がついたら時がき出したかのように、夜の靜けさを取り戻している。

まあ、シンがいなくなったのは一瞬のような出來事だったわけで、私がシンに向かってんだのは、いなくなった後だから、

「いい加減にしやがれぇ、うるせぇんだよ、殺すぞワレェッ！」

「ひゃああああああ、ご、ごめんなさ～い」

そりゃ當然怒鳴られるわな。だって今は深夜の三時ぐらいなわけだし。

ちくせう、シンのやろぉぉぉ。今度あったらぶっ殺してやるっ！　ぐすん……。

瞳に涙が溜まっていくのをじながら、私はベッドに潛って寢ることにした。

◇　◆　◇　◆

ちゅんちゅんと鳥の鳴き聲が聞こえたような気がした。もしそれで目を覚ますことができたら、なんと素晴らしいんだろう。

だけど現実では、そんなことは起こらなかった。だって、この世界は理不盡で溢れかえっているのだから。

「はぁはぁ……くぅうう、いいねぇ、すごくいいよぉ」

「ひゃあああああああああああ、変態がいるぅ！」

今日の目覚めは、なんて最悪なんだ！

目が覚めたら、はぁはぁと息を荒げたおっさんが私に覆いかぶさるようにして、近づいて來るなんて。そんな景を起きた瞬間に見せられたんだ。ついぶっ飛ばしてもいいよね。間違って殺しちゃっても、私は悪いことしていないよね。うわぁ、キモイ。変態だぁ、本マジモンの変態がここにいるよぉ。

……って、宿のおっちゃんだ。こいつ、マジで頭のネジがぶっ飛んだやつだった！

「ーーっ！　いてぇ、な、何が…………あ」

「あ、って何。あ、って！　あんた客に対して何してんのよ！」

「んだ、っくっそ。今回はすげぇ好みのが死にに來たと思ったのに……なんで生きてやがる！」

「なんで私が怒られるの！」

「生きたなんてな、クソだ、クソ！　ったく、ついてねぇや、生きたっちまった。手が汚けがれたらどうしてくれるんだよ、ッチ。死んでから出直して來やがれ、っぺ」

ねぇ、なんでだろう。なんで目を覚ましたら、宿のおっちゃんに襲われそうになって、その上罵倒までされなきゃいけないんだろう。

おっかしいな～。何かがおかしいな～。私、生きていたらいけないんだ……。

そうだ、死のう。あ、死ねなかった。

「あ、こいつ勇者じゃん。しかも、鬼畜ゴキブリ野郎の……ッチ、こっちから願い下げだ。死んでもゴキブリとなんてヤらないぞっ！」

「おおお、前みたいなやつ！　こっちから願い下げだ！　バーカバーカっ！」

うう、なんだろう。このフラれたような気分というか、であることを全否定されたようなこの気分は。実に最悪だ。うう、アンリエッタがしいな。あの子だけだよ。私に優しくしてくれるのは。今頃、悪臭王に追い掛け回されてるんだろうな。

臭いはともかくとして、あいつは親バカで娘大好きだからな。あの臭い王様に、アンリエッタが悪臭死しないことを願うよ。

「……っち、生ゴミ、てめぇに客だ」

「ねぇ、あんた、この宿を畳んだ方がいいんじゃないかしら。その態度、絶対に客にする態度じゃないよねぇ！」

さもゴキブリに軽蔑の眼差しを向けているときのような、悪意しかじられないその目が、私の心を削ってく。

なんか、人として見られていない寂しさをじちゃうよ……って、え？　客？

私、この世界に友達なんてひとりもいないのに……敵ならたくさんいるけど。

あっれぇ？　自分で言っていて涙が……。

「あ、あの～失禮します」

「あとはよろしくお願いしますね、お客様！」

「おい、なんだそれ……」

部屋にってきた小柄な……年？　それとも？　聲的にはだと思う。そう思いたい。

まあ。どっちでもいいけど、私を訪ねたお客さんって人が部屋の中にってきた。

全をマントで覆い、フードをかぶって、必死に自分を隠しているじがする。

そんな？　に対して宿のおっちゃんは、紳士と呼べるような素晴らしい対応。

この差は一なんだろう。

方や、人なんてとっくに過ぎた６兆歳以上のババァで、ついでに、生ゴミ勇者。

方や、マジモンのっぽいお客様。

そりゃ、っぽいお客様には素晴らしい対応をするわな。

私は生ゴミだし、ゴキブリだし、そこら辺に捨てられて腐っていくような存在だし？

そんな人間とも思えないダメクズに、紳士的な対応をする義理はないな。

ははは、悲しいな～るーるーるー。

「あ、あの、小雪様。突然お邪魔してすいません……」

「え、あ、別に大丈夫だけど……って、え？　小雪様？」

なんで様付けっと、首を傾げてしまったけど、フードの中を確認して、私は目の前にいる人が誰なのか、ようやく理解した。

フードを取って現れたのは、銀髪の綺麗な髪。翠のエメラルドのような瞳と、年相応のい顔つきが、心を高ぶらせてくれる、將來有な超絶。

「ア、アンリエッタ？　なんでここに！」

「へへ、小雪様を追いかけて、來ちゃいました！」

私に會いに來た人は、なんと、エムリア王國の第二王、アンリエッタ・フォン・エムリア、その人だった。

って、王様を簡単に外に出すなんて……この國は大丈夫か？

いつか滅ぶんじゃねぇ！