《私、いらない子ですか。だったら死んでもいいですか。》第二十三話~彷徨う死者7~
……この際、アンリのことは気にしないでおこう。
ストーキング魔法についても同様だ。
そう、今は気にしない!
勇者軍の馬車はまっすぐこちらに向かって來る。このままだといろいろ危ない。そう思った瞬間、馬車が何かに引っかかり、バランスを崩した。
「アンリ! 助けに行くよ」
「え、勇者軍ですよ! 小雪お姉ちゃんに酷いこと言ったーー」
「いいから行く! ひどいことを言ったかどうかは、今は気にしないで」
「わ、分かりました……」
アンリは納得していない様子。下手したら、私が助けようとしている、勇者軍関係者に手を出す可能まであるんだよね。
私に対する執著がひどいし、何より、病的なまでにが重たい子だったりしますから……。
悲しいかな、自分で言っていて悲しいかな。
それは置いておいて、勇者軍であろうかなかろうか、襲われているのなら助けたい。
困っている人に手を差しべるのが私の信條。
だったら助けに行かないとね。
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案の定、バランスを崩しながら走した馬車は転倒してしまう。
ものすごい嫌な音を立てながら、馬は潰れ、者は放り出され、馬車はバラバラになった。
脆いな……。もしかして、何者かに襲撃されていた?
そんなことを考えながら近づくと、金髪で若いだろう格の……の死が橫たわっていた。
多分、馬車の中にいた人なんだと思うけど……顔がぐちゃぐちゃで判別できない。
ただ、今の転倒で負った傷じゃないということはなんとなくわかる。
「小雪お姉ちゃん! なんかすごいのが來ます! これ捨てて逃げましょうっ!」
「え、なにが來るって、うわぁ! なんだあれ!」
アンリが指さした方を見ると、本當に凄い奴らがこっち來てる。
てかあれ、よく見るとゾンビなんだけど……私が知っているゾンビとなんか違う!
私の知っているゾンビは喋ったりダンスをしたりなんてしないよ。
うん、あいつらは例外だ。
私の知っているゾンビって言えば、バイオなゲームでお馴染みの、両手を前に出しながら『ァァァァアアァアァァアア』と奇聲を上げて追いかけて來るじなんだよ。
斷じて、斷じて……。
あんなアスリート走りをするわけがないっ!
いやもうね、マジでびっくり。そして早い!
46ものゾンビたちが、橫並びになって、すごく綺麗なアスリート走りをしている。
けど、以外に距離があるな。
転倒して壊れた馬車は、必死に逃げて距離をとったんだろう。
その努力がなんとなく理解できる……気がする。
者さん、ナイスガッツ!
そういえば、者はどこに行ったんだろう。
ちらっと探すと、近くで倒れていた。ケツを突き出して。
そりゃ、あれだけ派手に転べばそうなるか……。
っと、そんなことを考えている場合じゃなかった。
アスリートみたいなフォームで走する46のゾンビたちをどうにかしなければいけなかった。
でもなんだろう、何もしなくてもどうにかなる気がする。
だって、あいつらは私に突っ込んで來ることしかしなさそうだし、というかそれ以外に攻撃手段がない?
ゾンビといえば、噛み付いてウィルスが染して増えるっていうのがデフォだけど、それ以外の攻撃って……。
だめだ、思いつかねぇ。
「アンリ! 行きます!」
「ちょっと待ちなさい、アンリ! 何突撃しに行こうとしてるのよ」
私は、アンリの首っこを摑んだ。まるで首を持たれた子貓のようにプラプラしているアンリが、なんだか可く見ててくる。
これ、黙っていれば可いのになー。
「ゾンビは私がやるから。アンリはじっとしていて。大丈夫、任せて!」
ふふふ、ゾンビ相手に不足なし。とっておきの拷問を見せてあげようじゃないの。
地球でも何故か好きだったんだよね、拷問。
いや、自分が使いたいとかそういう意味じゃなくて、純粋に、その時代の人間の殘を容易に思い浮かべられる。
歴史をじるとでも言えばいいのか。
しかも、人間の裏の歴史を、ね。
あのゾンビたちに使用するのは、やっぱりあれだよね。頭蓋骨砕。
ヨーロッパ各國、とりわけドイツ當たりで見かけられた拷問で、鉄製のヘルメットを被せて、顎の下の鉄板と連結したようなだね。
ゆるりと締め付けていくと、頭が上下に押しつぶされていき、歯が抜け落ち、眼球が飛び出て、最後には顎を砕く。
ヘルメットを叩くと全に痛みが走るとか何とか。ひゃー、怖い!
やっぱり魔狩りの一環で作られたのかな。
だって、この拷問の怖いところは、なかなか死ねないところだからね。
ゆっくりゆっくり締めていけば、歯が抜け落ちるのも、眼球が飛び出るのも、顎が砕かれるのもゆっくりになるわけだから、あー怖い。
おっとっと、そんなこと考えている場合じゃなかった。ゾンビたちが向かってきているんだ。さっさと……
ズザァーーーーーー
「えええぇぇぇぇぇ、そこで転ぶの!」
ゾンビ、まさかの転倒。いやいや、マジで予想外。いやね、ここら辺で魔族と勇者の戦いがあった訳だから、道が整っていないっていうのはわかるよ。
でも、同じタイミングで46のゾンビが転ぶってどうよ。
おかしいだろう。もしかして、足元に何かいた? 絶対に何かいたでしょ!
「小雪お姉ちゃん、倒しました!」
「倒しましたって、まさか! アンリが何かやったの!」
「はい、ストーキング魔法です!」
そう言って、私の足もとの地面がボコっと盛り上がった。
……これのどこがストーキング魔法?
「この魔法は、相手を転ばせて、聲をかけるきっかけをつくる魔法なんです。これと、盜聴系などの魔法を組み合わせることで、知らない人に盜聴魔法などを設置することができます」
「用途がひどすぎじゃない! 怖っ! ストーキング魔法怖っ!」
「へへへ、照れますよ」
「別に褒めてないからねっ!」
でも、アンリがゾンビをころばしてくれたおかげで、ある程度の時間が稼げた。
アスリートみたいに超速で走ってくるゾンビはある意味ホラーだし、私がブツブツと考え事してたせいで、拷問生しても、何かは抜けられていただろうしね。
ありがたや、ありがたや。
「さて、気を取り直してゾンビを倒しますか!」
「あ、あの……小雪お姉ちゃん」
「ん、どうしたの、アンリ」
「その……ゾンビのことなんですけど」
「うん、ゾンビが來るから早くして」
「もう全部倒してますよ?」
「え、転ばしたんでしょ。だったらまだ生きてるじゃない。早く対処しないとみんなが大変なことになっちゃう」
「いえ、きっちり倒してますよ。バッチリ死んでいます」
「いやいや、流石に転んだだけでゾンビが消滅って……」
流石にないよね。
そう思いながら、ゾンビがいる方をちらりと見ると……。
「マジでゾンビが死んでる」
さらさら~っと何かが舞い上がっていた。
ゾンビ、灰になってますやん。
え、噓、あれだけでゾンビが消滅!
弱すぎじゃねぇ。弱すぎだよね。
そうなると……あの雑魚から逃げていた勇者軍関係者はどれだけ弱いのかって話になるよね。
倒れて破損した馬車の中にいたのは、顔がぐちゃぐちゃになっている騎士だけだし、者はケツを高くしながら気を失っているし、これにて一見落著? なのかな。
「じゃあ行きましょうか、小雪お姉ちゃん」
「え、この狀況で! このままにして先に進もうとしてる?」
「はい! だって勇者軍の関係者ですし、私はこの人たちが大っ嫌いです」
「いやいやね、このまま放っておいたら、魔がやってきて皆殺しでしょうに。生きてるの、あの者しかいないけど」
「でも、勇者軍は小雪お姉ちゃんの悪口ばっかり言うんですよ。最悪です、死んで當然です。偶然助かった命なのです。このあとも偶然が続くよう祈りながら気絶していればいいんですよ。あの者した生きていませんが」
二人でそう言い合って、ちらりとケツを高くして気絶している者に視線を向ける。
あ、ぴくりと震えた。と思ったら、ガバッとを起こして、あたりをキョロキョロとし始めた。
どうやら何か探しているようだ。
それにしても……かなりのイケメンだね。顔が整っていて、ちょっと爽やかじがいい。今は土まみれだけど。
あたりを見回す者は私たちの方を見ると、まぬけづらでぽけーっと眺め、び聲をあげながら、こちらに近づいて來た。
お、おう、確かにあのゾンビは怖かったよね。私たちがいて安心したってところかな?
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