《霊使いと冠位の10人》夕暮れの下校
地獄の補講が終わり、家に帰って課題の続きをやらねばならない康太は憂鬱な気分になりながら校門へと歩いていた。
「おーい康太!」
後ろから自分の名前を呼ばれたが聞こえないふりをしてそのまま歩き出した。
「ちょ、聞こえてるっしょ! 待てって!」
そう言いながら康太の前に回り込んできた男子は、康太と同じブレザーの制服を著ており、黒髪でいかにもスポーツで青春していますと言わんばかりの短め髪をしていた。
「おれ、かだい、やばい。おれ、かえる」
「なんでカタコト!?」
 聲をかけてきたのは同じ2年の坂口智則だ。
康太と智則は中學の時からの友人で、今も仲良くしている腐れ縁のような友人だ。
彼も魔法の力に恵まれなかった落ちこぼれ組の一人であり、康太クラスメイトでもある。
魔が使えない代わりとしてかどうかはわからないが、運神経は凄いのだ。
部活でテニスをしているらしいが、昨年は全國大會で優勝したとかしてないとか。
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「こんな時間まで一緒にいるなんて珍しいな、一緒に帰ろうぜ」
「言っとくけどマジで課題やばいから一直線で帰るっスよ!」
「あー単位やばいんだろ確か。わかったわかった」
智則からのいで二人で帰ることになり、薄暗くなりつつある道を歩き出す。
「そういやお前一昨日の夜に壁外の近くで魔獣が出たって話聞いたか」
その質問に対し康太の眉がピクッと反応したが
「いんや、知らないっスね」
と平然を裝って答えた。
そうか、と智則は一昨日に起きた出來事を話し出した。
「なんでも二つの頭がついた魔獣らしくてな、10メートルくらいのでかさのやつが10もいたらしい。まあ父さんから聞いただけだし、あんま詳しくは知らないけど」
トモノリの父親は魔法省に勤めている。
魔法省では魔に関する取り締まりや街に張られている魔法障壁の調整などの仕事を擔っている。
智則の父親には何度かあったことがあるが、なかなかに威圧というか風格がある人であった。
「けどもう倒したんだろ?」
「ああ、うちの學校にいる冠位の10人(グランドマスター)様が倒してくれたそうだぜ」
「神草 埜々(やや)かー 。俺見たことないんすよね」
魔法省も所屬している魔師。その中の頂點の10人のうちの3人はここ日本にいるそうだ。しかもその中の1人が康太と同じ高校に通っている。
しかも智則談ではあるがかなりかわいいらしい。
「可いくて強いとか完璧すぎでしょ埜々ちゃん!メアドがしいぃぃ!」
トモノリが悲痛のびをあげた。
知ってたとしても多分チキってメールも送れないだろうなと思ったが口にださなかった。
「俺も魔の力が開花してさえくれれば埜々ちゃんと同じクラスになれたのになー」
「屬持ってるだけマシっしょ。俺なんて魔法なんてからっきしっスよ。」
トモノリは土の屬を持ってはいるがそれが実踐で使えるレベルではないので、魔育科へはれなかったそうだ。
「まあ次の転科試験でダメだったら俺、エスペランサにるの諦めてスポーツ選手にでもなろーかなーって思ってるんだ」
康太の通っている高校では6月と12月に希者を募り転科試験を行っている。
魔法科から普通科へ移るのは書類の提出だけで済むのだが、普通科から育科にるのは難しい。前の試験では教員に魔で一撃を當てたら合格というルールだったらしいのだが、育科の教員は全て元魔法省に勤めていたプロであり、そんな人に素人が當たれるわけがないと誰もが思った。當然、その時の合格者は0人である。
正直言ってこんな無理難題を智則がクリア出來るとは殘念ながら思えなかった。
なのでこのしシリアスな雰囲気を壊そうと考えた。
「まあ落ちた時は智香になぐさめてもらえ」
「なっ」
二人の中學からの馴染でよく3人で集まっては遊んでいたの子の名前で、フルネームは大築智香。
同じ學校に通っているが康太と智則は普通科であるが、智香は魔法育科に屬している。
「何で智香が出てくんだよ!」
「いや、もういい加減告っちまえようっとおしい」
「あんなやつに芽生えねっつの!俺は埜々ちゃん一筋だ!」
大きく聲を荒げて康太に抗議した。
そんな話をしていると智則の家の前まで來ていた。
「はいはい。話はまた明日學校で聞くっスよ。課題終わらせないとマジで俺に明日が來ない」
「あ、こら待てっ!」
康太はトモノリから逃げるように走って自分の家を目指した。
途中で留年しちまえ!という聲が聞こえたが、と笑いながら帰っていった。
智則から逃げ切りようやく自分の家の目の前について呼吸を落ち著かせながら康太は家の中にっていった。
康太の母は4年前に事故で亡くなり父親は6年ほど前から行方不明・・・というか流浪の旅に出たらしくたまに連絡がくる。
毎月生活に困らない程度の金が通帳に振り込まれてくるのでおそらく生きているのであろうが育児放棄にもほどがあるのではないだろうか。
なので今は一人暮らし・・・というわけではなく1人と1暮らしをしている。
「ただいまーっと」
家の中にると臺所から味しそうな匂いがしてくる。
(今日の夜はカレーか?)
そう思いながら臺所の方へ足を運んでるとトレードマークといってもいいそのサイドテールが左右に揺らし、可らしいフリルのついたエプロンを著てハーフパンツの下からびる足はとても白く子のようなをしているがいた
彼がもう1の同居人リーシャであった。
どうやら康太が帰ってきたことにも気づいていないようでご機嫌のご様子で、鼻歌混じりに料理をしている最中だった。
「ふっふっふーん。ふふふふーん」
なんか聞いてるこっちが超恥ずかしい。
リーシャは歌は好きらしいのだが、所々音程が外れてしまい、本人もそれを気にしているので人前では絶対に歌わないのだ。
前に康太がリーシャが歌ってる最中にリーシャの部屋にったことがあるが、その時はリーシャのそばにあったボールペンやカッターナイフなどやたら殺傷能力が高いものが飛んできたのは懐かしい思い出だ。
「.....こりゃ聴いてるのばれたらまずいっスかね」
歌を歌うことに夢中なリーシャに気づかれないように、聞かないふりして部屋に戻ろうとした時に悲劇が起こった。
制服のズボンのポケットにしまってあった攜帯の音が鳴り出したのだ。
なぜこのタイミングでなるのか。
これが神様のいたずらだというのなら恨まずにはいられない。
恐る恐る振り返るとリーシャと目があった。
やがて攜帯の音楽が止まり、臺所の空気が凍った。
ここでセリフを間違えたら死んでしまう。
必死に頭をフル回転させ、この狀況で言うべきセリフを言ったのだ。
「なかなか獨創的な鼻歌だな」
リーシャの手に持っていたおたまが康太のおでこに飛んできたのは言うまでもなかった。
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