《すばらしき竜生!》第11話 懐かしいあれ
オークの拠點に風が吹く。だが、それは心地良い風では無く、命を刈り取る黒い風だった。
「侵者ダ――ギッ!」「オノレ、人間如キ―――ガ!」「死―――グベ!」
黒い風の正は、言うまでもなくロードだ。 そして、何もする事が無いシエラはただただロードの躙劇を見ているだけだ。 オークが何かを言い切る前にロードが加速して、首を摑み取る。オークの首から下が、一拍遅れてが噴き出し、鉄の臭いが辺りに蔓延するという景が先程から繰り返される。
ロードは返りを浴びまくって、全が赤く濡れている。オークの拠點は若干暗いのでロードの姿は視認しづらいが、紅い瞳がランランと輝いてっているので「あ、あそこに居るのね」とシエラは理解出來ていた。
「ガァアアアア!!」
ぼー、としていたシエラにオークが影から飛び出してくる。すぐに気づけなかったシエラは急いで後ろに避けようとするが、オークの塊に躓いて制を崩す。 シエラは慌てて制を立て直そうとする。だが、オークは既に棒を振りかぶっている狀態だった。
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「――キャ!」
間にあわないと悟ったシエラは、腕を差させて瞬時に襲い掛かるであろう衝撃に目を瞑ってを構える。
「…………?」
しかし、そんな衝撃はいくら待っても來ない。 不思議に思い、目を開けて確認をするとオークは目の前に居なくなっていた。 いや、正確に言うとオークだった者は、細切れの片になり変わっていた。 間一髪、ロードが"飛爪"にてシエラに襲い掛かろうとしているオークを切り裂いたのだ。
「ボサッとするなシエラ!」
瞬時にロードの怒號が聞こえてくる。
「――分かったわよ!」
シエラは気持ちを切り替えて二丁拳銃を取り出す。先程のように、オークが影に潛んでいないか注意しながら進んだ。
二人が進んでいると、やがて広い空間に辿り著いた。 その奧には一のオークが鎮座しており、今までのオークとは比べにならない存在を放っている。
「………あれが親玉?」「いや、違う。まだ先は続いているから、守護者みたいな位置づけだろう。多分、あいつを倒さなきゃ奧に進めないだろう、行くぞ」
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二人が広間の真ん中に到著したら、ずっとかずに座っていたオークが立ち上がる。 オークは臺座の後ろに置いてある武を取り出す。武は太い丸太に鉄が沢山刺さっている、釘バットと言える武だった。 元不良のロードは、この世界で釘バットを見れる事にしだけしていた。
(うっわ、懐かしいな。オークが持つと兇悪だな)
「人間、よくゾここマで辿り著いタ! だガ、俺ガ居る限りガル様の所へは行かせナイ! コれかラ貴様等に試練ヲ與えよう、俺ヲ倒してみヨ!」
オークは釘バットを振り回して、周囲に豪風をなびかせるが、ロードはそよ風に當っているかの様に、涼しそうな笑顔だ。
「シエラ、俺は今機嫌が良い。あいつと遊ぶから下がってろ」「私の出番は無いんですね、そうですか」「安心しろ、まだ一だけリーダー格以外にいるから、そいつやるよ」
ロードが集中して探知した結果、この窟は三層になっているようで、目の前の釘バットオークが一層のボス、二層にもう一、最後にボスという構造だった。
「ほう、そこマで見破ラれてタか。しハ出來るようだナ。ダが、俺ヲ相手に人間一人で挑ムなど愚ノ骨頂! あの世デ悔やムが良イ!」
オークは、釘バットを上段に構えながら走ってきた。ロードからしたら隙だらけで、どうぞ切って下さいと言っている様な制だが、普通目線から見たら普段は遅いオークが、高速で走り出した様に見えるので相手は驚愕で反撃など出來ないだろう。
オークが走り出すのと同時に、シエラはバックステップで後ろに下がる。シエラはロードの敗北など一切考えていなく、勝利を確信している。
等々、オークがロードの至近距離まで到達した。オークはロードの頭を毆る為に、真橫から釘バットを振りかぶり思い切りぶん毆る。 それでもロードは目を瞑ったままこうとしない。
(何ダ? 何故かナい、俺ガ速すぎて見エていなイのか? だガ、一対一を申シ込んでキたのは人間ダ、自分ノ力量を見誤ったカ!)
そこでオークは見えてしまった、ロードが口元を薄く三日月の形にして微笑んでいるのを。 だが今更止められる訳が無いオークは、そのまま釘バットでロードの頭ごと吹き飛ばす…………はずだった。
――――ガッ!
オークが思い切り、振りかぶって放たれた橫薙ぎの攻撃は、ロードの頭すら吹き飛ばせずに止まっていた。 ロードは依然として止まったままだ。
「………しだけ痛いな」「馬鹿ナ!? アりえぬ!」
オークは驚愕に後退しそうになったが、釘バットを両手に持ち、何度もロードを自慢の武にて毆る。 釘バットがロードに當たる度に、風が吹き荒れるがそれでもロードはピクリともかない。
この現実は、オークにとってありえない事だった。 オーク達は、新しく自分達の君臨した王から力を與えてもらった。一層を守護しているオークは驚異的な筋力をにつけ、全ての敵を全力で放った初撃で葬ってきた。 今回も例外無く本気で毆った。敵も真っ赤な欠片を飛ばして死ぬはずだ、そう思っていた。
「ありえン! こんナ事ハありえンゾ、グァアアアアア!」
今までの常識を覆されたオークは、ただ一心不に武を振り回した。一秒でも早く、目の前の年が塊になる事を願って。
「………ダメだな。最初の一撃は良かった、心が通っている一撃だったか………次からは意志がじられなくなったな。これじゃあ赤ん坊が木の棒を振り回してるだけと同じだ」「ヌゥオオオオオオオオオ!!」
オークはロードの言葉全てを否定するように、釘バットを上から全力で叩きつけた。
「―――だからダメだって言っただろ?」
ロードの言葉が聞こえるのと同時に、ロードの姿が一瞬ブれる。
そして、後ろの方で轟音が鳴り、オークは視線を後ろに向ける。そこには縦に綺麗に切斷された壁があった。 オークが視線を戻し武を見ると、綺麗な切れ目で真っ二つになっている釘バットがある。 前には真っ二つになった武。後ろには縦に切斷された壁。そこまで分かればオークも自分がどうなるのか想像がつく。
「………ヂグジョウ」
オークが悔しそうに呟いて、真ん中から綺麗な赤い線が浮かび上がる。 そして、盛大な飛沫をあげて釘バット同様、真っ二つに分かれて倒れる。
「力量を見誤っていたのは、お前の方だったみたいだな」
數秒後に広間が揺れたと思いきや、オークが最初に座っていた臺座が後ろにき、下に続く階段が現れた。
「行くぞ」「――え? う、うん!」
後に殘ったのは表を悔しさに染め、真っ二つになったオークの死だけだ。
◆◇◆
ロード達が二層に侵すると同時に、オークの拠點の最奧には揺が広がっていた。
「ありえん! あのブルがすすべも無く殺されるなどと、しかも一撃だと!?」
オークの王とその腹心達は一層での戦いをモニタリングしていた。 王は、あのオーク―――ブルがいつも通り一撃で相手を塊に変えると思っていた。腹心達も、そうなるだろうと考えていた。 ならば、次はどの様な赤い花を咲かせて年は死ぬのだろう。殘されたはどの様な扱いをしてやろう。と、この場にいる全員が考えていた。
だが、結果は最悪だった。 謎の年は一切かずに攻撃全てをけ止め、王でも一瞬いたと分かる速度で、逆に一撃でブルを殺した。
「………王よ。どういたしますか?」
腹心の一人が場を代表して王に質問する。
「次の二層にて全ての主力を集めよ、こちらは総力戦だ! 決して二層を突破させてはならん! 何がなんでも死守するのだ!」
「「「「「意!!」」」」」
腹心達が一斉に場にき出す。
未だにモニターには、疾風の如く駆け抜ける年とが映っていた。
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