《すばらしき竜生!》第12話 吸姫
「………面倒だな」「なに? どうしたの?」
走っている間も常に探知して、敵の位置を把握していたロードは二層のボス部屋らしき場所に、次々と先程の釘バットオークと同じくらいの大きな反応が集まるのを察知していた。 中には釘バットオークより、遙かに大きい反応もある。
一旦止まり、シエラに説明をしておく。ロードは釘バットオークと戦う前に次の相手を譲るという約束をしてしまったが、敵の反応は合計十になっている。 ロードなら余裕で対処できるのだが、シエラの力量を把握しきれていないので危険だと思ったのだ。
「さっきの奴と同じくらいか、それよりもデカい反応が沢山集まってきている。二層の守護者はお前だけに任せようかと思っていたが、流石に分が悪すぎる。 しの間の協力関係とはいえ、今の相棒を無駄に死なせるわけにはいかない。ここは手分けして敵を―――」「………へぇ、ちょうど良いじゃないの。やっとあんたに私も力があるって証明出來るのね」
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説明をしているとシエラは段々と怪しい微笑みになってきて、最終的にはロードと同じ悪魔の微笑みになっていた。 舌なめずりしているのがし怖かった。
「………おい? 俺の説明聞いてた?」「強い敵が沢山いるんでしょ? なにより………このまま何もしなかったら私のプライドが許さないのよ!」
確かにオークの拠點に來てから、何かをしているのはロードだけだ。 シエラだって、そろそろ暴れたいと思っていた頃だ。
「危なくなったら助けにる。約束だ。」「分かったわ、それとお願いがあるんだけど…………」
◆◇◆
「……………來たナ」
オークの王の腹心達が、侵者が來るまで目を閉じて靜かに闘気を高めていると、索敵能力に一番長けているオークが靜かに発言した。 腹心達はその言葉に、目を開けゆっくりと構える。そして、侵者二人が姿を見せる。
「よぉ、勢揃いでお出迎えご苦労さん。どうしたんだ、いきなりここに集合しちゃって………あ! もしかして一層の奴を無様に殺されて、ビビリの豚の王は焦ったか? それで? 豚王ピッグキング(笑)は最奧で震えて待っててくれてるのか?」
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開門一番、ロードのわかりやすい挑発に腹心達は怒りでロードに対して威圧を掛ける。総勢十の威圧がロードだけに降り注ぐが相変わらず涼しい顔で笑っている。
「命知らずノ侵者よ、我らの王ヲ侮辱した罪は大きいゾ! 死ぬが良イ!」
若干マッチョのオークが我慢できずに武を振りかぶって突撃してくる。ロードとの距離が二mになった時、ロードが瞬時にく。ロードの橫薙ぎの蹴りで筋オークは頭から壁にめり込む。頭から突き刺さってピクピクと小さく痙攣しているので生きてはいるだろうが、どこから見ても再起不能だった。
「あ、やべっ! ………すまんシエラ、獲一潰しちゃったわ」「こんなに居るんだから、一だけならつまみ食いしても良いわよ」
そこで腹心達は、ようやくに意識を集中し始める。 もう一人の侵者のから得たいのしれない威圧をオーク達は察したのだ。
「………約束通り、貰うわよ」「ん、ほらよ」
シエラはロードの側まで歩み寄り、ロードはシエラに向けて首をさらけ出す。 シエラは舌なめずりしながら小さく「いただきます」と言うと、ロードの首に噛みつく。ロードは小さくきながら耐える。
オーク達は、目の前で達が何をしているのか理解し始める。そして、オーク達は慌ててそれを止めようとする。止めなければ、自分達の負けは確定してしまう存在なのだと理解したのだ。
だが、止めるのが遅すぎた。壁が迫ってくる程の勢いで襲い掛かるオーク達は、シエラから発せられた紅い衝撃波に吹き飛ばされる。
「フフフフ、いいわぁ………ドラゴンのって最高に味しいわね。今まで以上の力を出せそう♪」
シエラは怪しく微笑みながら、上機嫌でステップを踏む。さらさらの長い髪がステップと共に踴り、全員の目を釘付けにする。
そこで天井から聲が降って來る。 聲の主は、この場をモニターで監視していたオークの王だった。
『我が腹心達に告げる。全ての力を使い敵を殲滅せよ!』
「「「「「意!!」」」」」
「フフッ、アハハハハハ!!」
オーク達が各々の武を構える。皆同様に決死の覚悟を顔に浮かべている。
シエラは舞踴る。瞳をより一層紅く輝かせて二丁拳銃と共に。
(………あいつ……キャラ変わってるぞ)
この場で唯一普通を保っているのはロードだけだった。
◆◇◆
「ウォオオオオオオ! ブルノ仇ダァアアアア!」
最初に仕掛けたのは斧を持ったオークだ。 素早く駆け寄り、未だに踴っているシエラに豪の一撃を叩き込む。
だが、攻撃が當たる寸前でシエラは"影化"でオークの影にり、攻撃を躱す。敵を見失ったオークはあたりを見回すが、當然見つからない。
「フフフッ」
寒気がする笑い聲と共に、オークの背後からシエラがゆっくりと出てくる。
「馬鹿! 後ろダ!」
味方の聲に従い、オークが振り向くが時すでに遅し。シエラは拳銃のトリガーに指を掛けていた。
―――パァン!
乾いた音が鳴り響き、オークの頭部が弾け飛ぶ。ブシャァとが噴出するが、それは地面を濡らすことなく空中で纏まり、シエラの二丁拳銃に吸い込まれる。
「ほら、貴方達の仲間ので――――」「貴様ァアアア!」「よくモ!」「あら?」
シエラがお喋りをしてる間に、新たなオークの一が高速で足を切斷する。油斷をしたのかシエラは宙をクルクルと回りながら飛ぶ。それでも余裕の笑みを崩さないシエラ。 すかさずもう一のオークが大槌にて橫薙ぎにスイングするが、シエラは當たる直前で"蝙蝠化"をして回避する。
結果として空に無數の蝙蝠が飛び上がり、天井が真っ黒に染め上げられる。
『終わらぬ夜』
"終わらぬ夜"はシエラが敵と定めた者の視力を永遠に奪うという恐ろしい技だ。 本來は一人にしか効果が無いのだが、ロードの――ドラゴンのを飲んだことで魔力量が大幅に上昇しており、オーク全員の視界を奪う事に功していた。
(相手からしたら視界が急に暗くなり、それは永遠に戻らない……故に"終わらぬ夜"。 格下にしか効かないとはいえ………恐ろしい技だな)
「グァア!」「なん―――!」「―――やめっ――ァアアア!」
視界を奪われたオーク達は、恐怖に囚われて武を振り回す。 だが、蝙蝠になり小回りが効くようになったシエラに當たる訳がなく、首に張り付かれ吸される。元々、緑だったオークのは青白くなり更には急激に萎んでミイラの様になって死んでいく。
「まだまだ終わらせないわよ」
更にシエラは人型に戻り、二丁拳銃を取り出して"天軀"にて空を駆ける。 シエラの足は驚異的な再生能力で治っていた。
「――グッ、ガッ! グェ!」
殘像が出來るほどの速度で空を駆けるシエラは、威力を抑えた魔弾で殘りのオークを左右上下から素早く撃ち抜く。 オークが右に傾けば"天軀"で素早く右に回り込んで撃ち、相手がその場で崩れようとしたら"影化"して下から撃ち抜き、決して倒れる事を許さない。 既に生き殘りのオーク達はボロボロになっており、すぐにでも死にそうだった。ロードですら可哀想と思う程だ。
先程から躙劇をモニターで監視しているオークの王はさぞかし恐怖で震えていることだろうと思い、ロードは"探知"で王の場所を探ってみる。だが、王は何やら素早くいている様だった。 どうやら腹心達が一方的に殺られるのを見て、一刻でも早く逃げようとしているらしい。
(そりゃ、こんな景を見ていると逃げるだろうな………だけどな)
「絶対に逃さねぇよ。おいシエラ、俺は王を追いかけるから適當に終わらせとけよ!」「………はーい」
ロードには子供たちの救出よりも王を殺す方が優先されており、この場はシエラに任せて王を追うことにする。
◆◇◆
「ハッ! ハッ! ―――クソッ!」
(ありえん! 何なんだあの化は!)
王は恐怖に囚われていた。 変異種ユニークとして生まれてきたオークの王――ガルは、歴代の王よりも凄まじい力を持っていた。そのガルが王になるのは必然と言える事だった。
オークという種族は、その醜さから他の種族から忌み嫌われており、囚われては奴隷として死ぬまで働かされるという、苦渋の生活を強いられてきた。 オークはが大きいので狙われやすくきも遅い。隠れて生活するなど不可能に近かった。
全てのオークが諦めていたその時にガルが王として君臨したのだ。ガルが王になった事でオーク達は大幅に勢力を増した。 人間以外の種族は、王が変われば力も変わる。それはオークも例外ではなかったのだ。
力を増したオーク達は、復興のために近くの村を襲撃した。子供を拐し、村人を脅して奴隷化を図ったのだ。 更にその時、歯向かってきた若い村人を簡単に倒せた事にオーク達はとても興していた。
そして、オーク達の一時的な繁栄に地獄が訪れる。
門番が殺された時點で拠點の最奧にアラームが鳴り響き、王と腹心はモニターで監視を開始していた。 その時、ガルは村人が冒険者を雇ったのだろうと思い、村に金がほとんど無い事は知っていたので、そこまで脅威に思っていなかった。 だが、実際はどうだろうか。侵者の男の方は凄まじい速度で次々と部下を殺し、遂には1層の守護を任せていたブルまでも一撃で殺してしまった。
焦ったガルは2層に腹心の全戦力を投下した。もちろん確実に力と量で殺すためだ。 男に出られたら戦いはどうなるか分からなかったが、出てきたのはだった。の方は侵してから目立った戦闘をしていないので脅威では無いと思っていた………いや、信じたかった。
しかし、現実は甘くなかった。ガルの本能が危険だとじたのは、が男に噛み付いた時だ。ガルはが吸鬼だとすぐに理解し、懇願とも言える命令を出した。 それでも結果は一方的だった。蝙蝠になったが腹心達に噛み付いて吸した辺りからガルは恐怖で逃亡していた。
「なんで……どうしてこんな事に! 何がダメだったというのだ!」
それは嘆きであり、神に対する問い掛けであった。
「う〜ん、弱かったのが悪いんじゃないか?」
誰も答えないであろうその問い掛けに応答したのは神ではなく―――最強最悪の竜だった。
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