《すばらしき竜生!》第17話 稽古

子供達の突然の頼み事に戸ってしまった二人は、明日の朝から稽古を開始するという約束で、その場は解散となった。

そして、気持ちの良い朝の村の広場には四人の年と一人の男が見えていた。 年達は木刀を両手に持ち、それぞれ違った構えを取り、一人の男を囲って集中している。 その男は真剣そうな年達とは逆に、眠そうに欠をして背びしている。首を左右に倒して――ゴギッゴギッという音を出している。 そこを隙とじたのか、一人の年が木刀を振るいながら飛び出す。

「うりぁあ!」

カツン!

「遅い」

ガンッ!

腕をばして完全によそ見していた男は、振り向きもせずに襲い掛かる木刀を人差し指でけ止め、素早く木刀にデコピンをして襲い掛かってきた年を吹き飛ばす。

「うわぁああ!」「早く立て、殺し合いだったら相手は待ってくれないぞ」「――はいっ!」

「はぁあああ!」「バレバレだよ」

ドゴッ!

次は男の背後から別の年が斬りかかるが、それも軽々とけ止められてしまい元の位置に投げ返されてしまう。

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「――うぐっ……」「いつまでも倒れてんじゃねぇ!」「――ッ! はい!」

「………スパルタねぇ。もうちょい優しく稽古出來ないのかしらロードってば」

気合のった聲とは全く違う、気の抜けた聲が5人にかけられる。

「うるせぇぞシエル、俺は教えるのが苦手なんだよ。だからに叩き込むしかないんだ」

ロードは、気怠げにシエルを見返して文句を言う。シエルは相変わらずの脳筋さにため息を吐く。

「じゃあ、せめて課題を作れば?」「課題? ……あー、ナイス意見だシエル。確かにあった方がやる気が出るな。それじゃあ………課題は何にするかな……」

顎に手を置いて考え込んでいるロードを見て、シエルは微笑ましく思う。 普段は嫌だと言ったり、態度で示しているロードだが、それでもしっかりと頼まれたら真剣に考えてあげるのだ。 それは、ロードのない優しさなのかもしれないと思い、それを見れたシエルは何故か嬉しくなってしまった。

「よし、決めた。おいガキ共、俺とシエルはあと五日間ここに滯在する。その間に俺が出した課題をクリアすると良いをやる」

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子供達から歓聲の聲が出る。

「俺の本気度をレベル一からレベル十に區切る。お前らはその中のレベル一の俺と一分間、剣の打ち合いを出來れば課題達だ」「でもそれなら簡単なんじゃないですか?」「だってレベル一だものねぇ」「ん、じゃあ、さっきから観戦している村長に見本になってもらうか」「………あはは、流石はロードさん。バレていましたか」

村長は子供達が心配だと、朝の稽古をこっそり覗いていた。それをバレバレだとでも言うように、あっさりと村長の隠れていた場所を見破る。

「今から村長と、俺のレベル一で打ち合いをするから參考までに見てろ。村長は今出せる本気で掛かって來い」「はぁ、本気でですか……それではよろしいですかな?」「あぁ、そっちのタイミングで來い」「それでは―――フッ!」

村長は息を軽く吐き、渡された木刀をロードに向けて投擲する。それを予想していたロードは木刀で弾くが、村長は既に次の木刀を手に持ち目の前まで迫っていた。

「………へぇ?」「――行きますぞ!」

カンカンカッ! カカカカカンッ!

村長の連撃が襲いかかり、ロードはけ流す。 子供達にはなんとか見える程度だが、これをけろと言うのはなんとも酷な話である。

「これをけ流されますか………本當にレベル一なのですかな?」「はっ、レベル一だとけ流すのが限界だよ」「そうですか。それでは……本気で行きますぞ!」

ガンガンガンガンガンガン! ―――ガッ! ガガガガガガガ!

先程の打ち合いより重い剣撃が流れ込んでくる。それを必死に最小限のきでけ流す。その作が何回も続くと思われるほど、力量は均衡していた。

「―――ラァ!」「――グッ! ――ッ! …………參りました」

二人が競り合いになった時、ロードの當たりで村長がバランスを崩す。よろめいた隙を逃がすロードでは無く、村長の首元に木刀の先をピタリと當てて勝敗は決した。

「凄えな爺さん。ここまで強いとは思わなかったぞ」「十ある段階のレベル一の狀態で言われても素直に喜べないですな」「いや、素直に喜んどけよ。爺さんの若い頃だったら勝負はどうなっているか分からねぇな」「それでは……喜んでおくとしましょうか。――あいたた、久しぶりにくと腰が痛いですのぉ」

最後には握手をして、村長は家に帰っていった。ロードが最後に村長の耳元で小さく何かを言い、村長はため息をついて頷いていた。

「………なるほど、力を抑えると戦いも楽しいな。これは思わぬ収穫だったな さて、今のがレベル一だが、あと五日間でこれと打ち合いが出來るようになってもらう」「いや無理ですよ!」「あんなのと打ち合えって言うんですか!?」

當然子供達からはブーイングだった。 それと同時に最低レベルでもあれだけ強い事にシエルは呆れていた。牢屋での喧嘩をしようとしていた時の自分を毆りたい気分だ。

確かに通常通りのシエルなら、木刀を投擲された時に、木刀を拳銃で弾いてもう片方の拳銃で魔弾を撃ってチェックメイトだが、ロードの様に力を抑えたなら勝てはしないだろう。

「まぁ待てお前ら、何も勝てとは言っていない。一分間だけ打ち合えって言ったんだ、どんな手を使ってでもな。さっきの村長みたいに開幕で木刀をぶん投げて他の木刀を使うのも良し、本當の戦いに卑怯は無いんだ。……だから、な? 簡単に思えてくるだろ?」

(((((思わねぇ!)))))

口には出さないが、不満を持っている事は誰にだって分かった。ロードは、それを笑って切り捨てる。 そして、更に弾発言を投下する。

「じゃ、俺は用事があるから故郷に帰るわ。明後日には戻るからしっかり村長に基礎は教えてもらえよ。アドバイスとしては基礎だけに囚われるなよってだけだな」「「「「「え? えぇええええ!!」」」」」

ロードは片手を振って、その場から離れる。最終的に子供達は、ポカンとしたまま固まってしまった。 握手の時、何かを言っていたのはこの事だった。

「ちょっと待てぃ!」

門を通ろうとしていたロードの肩を誰かが捕まえる。ロードの速度に著いてこれるのは、この村に一人しかいない。振り向くと案の定シエルが居た。

「なんだよ」「あんたの故郷って……あれよね」「あぁ、黒竜の集落だな。急いでも結構掛かるからお前は連れて行けねぇぞ」「別に著いて行きたいわけじゃないわよ! ………仲間として理由を聞いておきたいだけよ。話してくれても良いじゃない………」

裾をギュッと摑んで、ロードを責めるように軽くグーで毆る。シエルは目的を話してくれないロードに、しの苛立ちと疎外を持ってしまったのだ。 それをじ取ったロードは、戸いながら最初から言ってやれば良かったと後悔する。

「………あ~、すまん。そうだな仲間には言っといた方が良かったな」「………ロード」「でも、そんな込みった話じゃないんだ。俺達って金が無いだろ? だから集落の金になるを集めてくるとか、仲が良いダチと別れの挨拶をして來るだけだ。………待っててくれるか?」「うん、分かった。待ってるわね」「おう……というかお前まで來たら子供達の稽古どうするんだよ。お前もの子二人に魔法を教えるんだろ?」「う……忘れてただけだもん! ロードが帰ってくるまでに、あっと驚く様な強さに鍛えてやるんだから!」「……の子なんだから優しくな。じゃあ行ってくる」「えぇ、行ってらっしゃい」

そう言ってロードは大地を駆ける。 村人達には見えないだろうが、シエルには見えていた。凄まじい速度で黒い塊が空を駆けていったのを。

「あ、いた! シエラ先生ー、稽古お願いしまーす!」「魔法教えてくださーい!」

シエルがロードを見送っていると、背後から達の聲が聞こえてきた。シエルが魔法を教えると約束した二人だ。

「はーい、厳しく行くから覚悟してねー」

こうして、ロードがいない間は村長が年達に剣の稽古を、シエルが達に魔法の稽古をする事になった。

村長は元冒険者なので教え方が上手く、年達は瞬時に力を増していった。 シエルも魔法について細かく教えていき、達は知識と理解の基本は覚え、後は魔法を撃てるかの実戦のみだった。

◆◇◆

黒き竜は風となって大地を、木々の合間を、空を駆ける。 やがて目的地に著く頃には太は真上に來ていた。

そこに集落だった面影は僅かしか殘っていなかった。全てが焼け焦げており、ほとんどの家が崩れている。黒竜はもちろん居ない。 ここを黒竜の集落だと言って誰が信じるだろうか。それほど酷い有様であった。だが、住んでいたのは短かったが、ここは確かにロードの故郷だった。

『………ただいま』

もちろん、ロードの言葉に帰ってくる聲はひとつも無い。

『バルトが戻ってきて、何か殘していった可能も考えたんだが………それは無いらしいな。―――さて、皆には悪いがさせてもらうぜ』

先程までの悲壯を返せとばかりに、強風が吹く。それもそのはず、今のロードの目は盜賊の目そのものだった。

『どーれどれ? ………これも売れそうだな、これは……ダメだな焼けすぎだ。―――お? これは懐かしい。金になると良いんだが』

そして1時間、十分に探し回ったロードは、金になりそうなを"収納"して次の目的地に向かおうとしていた。

『ラゴウ、元気にしてっかな』

目的地とは、雷竜の集落だ。ここから急いでも1時間掛かる距離にある。正直言って行くのも面倒だが、しばらく會えないだろうから挨拶はしておいた方が良いとロードは思う。

『………さて、仲間も待ってることだし急ぎますか』

また空を駆け、ぴったり1時間後に雷竜の集落に辿り著いた。見た目は黒竜の集落とさほど変わってなく、文化が若干違うだけだ。 集落に來たは良いが、ラゴウの家が分からないので、ロードはし強引な手に出る。 集落の真上の空に"空歩"にて立ち、大聲を発する。

『すいませーん! 黒竜種のロードですがー! ラゴウは何処に居ますかー?』

なんとも分かりやすい作戦だった。 ロードの聲は、雷竜の集落全に響き渡り、ラゴウの耳にもったであろう。 だが、集落の真上は良い的だった。

『―――この、ボケェェエエエ!!』『ノォオオオオオ!?』

五秒後に、ラゴウの怒號と共に竜族最大火力のブレスが、ラゴウが出掛けている可能を思い出し心配しながらボサッとしていたロードに直撃し、ロードは久しぶりの悲鳴をあげた。

『―――てめっ、何しやがる! 本気で死ぬかと思ったぞオイ! まだ若干ピリピリしてるぞ!?』『うるっせぇ! 連絡も寄越さねぇで、どこをほっつき歩いていやがった! それで、ホイホイとここに來やがって心配してたのが馬鹿らしいぜ!』『んだとぉ!? せっかく安心させようと來てやったのに、その言い方は無いだろ! 心配してくれたのはありがとう!!』『どういたしまし――グァ!』『ハッハァ! ざまぁみ――アバッ!』

飛翔してきたラゴウを毆り飛ばす。お返しにと雷撃を頭上から落とされる。 いつの間にか二は取っ組み合いになっていた。だが、ラゴウが同年代最強のロードに勝てるはずも無く、振り下ろされた尾にて地面に叩き落とされる。

が荒い友達同士は會ったら喧嘩が常識なのだ。二は初めて出會ったその次の日から度々會って喧嘩をしている。結果は全てロードの勝利だが、ロードと正々堂々ここまで戦えるのは現時點でラゴウとシエルだけだ。

『うっし、今日も俺の勝ちだな。お前、見ないうちに力上げたな』『だぁあああ! 毎日特訓してたのにまだ勝てねぇのか、特訓のやる気が出てくるじゃねぇか! ………家に來い、歓迎するぜ。それと、詳しい話を聞かせてもらうからな』『………あぁ』

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