《すばらしき竜生!》第22話 目覚め

「―――ん………ここは?」

寢ぼけ眼で辺りを見回すと、そこはロードと共に泊まっている宿の部屋だった。 ベッドの橫には水桶とタオルが置いてあった。シエルは、宿主が気を利かせて看病でもしてくれたのだろうと思った。

「そっか………ボロボロになって気絶しちゃったのか……」

気絶する直前の記憶を思い出す。

(あのクソ野郎に殺されそうになって、ロードに助けられたんだっけ)

空すらも暗黒に染め上げ、全に禍々しいオーラを纏わせた恐怖の象徴。普通の人間なら失神してしまうほどの圧倒的な暴君の姿。 あれが"七天竜"の、ロード・ヴァン・アデルの本気だと思うと、仲間であるはずのシエルでさえ恐怖に震いしてしまう。本當にロードと喧嘩をしていた時の自分を毆りたい気持ちでいっぱいだった。

だが、シエルは覚えている。意識を手放す瞬間の溫もりを、恐怖の象徴の筈のロードからじられた優しさを。 あんなに大事そうに抱かれたのは、赤子の時に親が抱いてくれた時以來だった。

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(ロードは? ……外に出掛けてるのかしら)

ロードがいない事でしだけ寂しくなってしまう。 この頃、ロードのそばに居ることに安心を覚えるようになっていた。ロードが村をしの間だけ離れると言った時は、一緒に付いて行きたいと思ってしまい、つい引き止めてしまった。

村で見送ってからも常にロードの心配をしていた。そして帝國軍が來て、子供が殺されそうになり飛び出したはいいが、シエルは不安で仕方がなかった。 一人で守り抜けるかという不安と、兵士達を殺す事で村人達から畏怖の眼差しを向けられないかという心配があったが、ロードがいつも浮かべている不敵な笑みを思い出すと、何故か気持ちが軽くなった気がした。

それほどにシエルの中でロードの存在はいつの間にか大きくなっていた。

(何でなのかしら。あいつはただの戦闘狂だって言うのに、安心が出來るなんて)

シエルが本當の気持ちに気づく事はまだまだ先のようだが、村人達はシエルのが何なのかに薄々気づいていた。 二人で居る時の顔、言い合いをしながらも心から楽しそうな笑顔、そしてロードが居なかった時の切ない表、それを見ていれば誰でも察しがつく。

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(あー、なんか熱くなってきたわね。お風呂にでもってサッパリしよう……)

―――ガチャリ。

「おう、起きたのかシエル」「―――ぅヒャイ!」

ベッドから降りて、所に行こうとしていたら扉が開いてロードがってきた。 驚いたシエルは奇妙な悲鳴をあげてしまい、ロードから冷たい視線が刺さる。

「いきなり開けないでよ! ビックリしちゃうじゃない!」「いや、だって俺の部屋でもあ―――」「うっさい! 私はお風呂にって來るから、覗かないでね!」「………ぇえええ」

そう言ってシエルは所の扉を勢い良く閉める。中ではまだドッタンバッタンしていた。

「なんだ、元気じゃねぇか」

シエルの相変わらずの態度に、微かに笑いながら宿主に料理を貰いに行く。 先程の騒が聞こえていたのか、宿主のおばちゃんは既に調理にっていた。

「おばちゃーん、シエルが起きたから軽めの料理を作ってくれ」「はいよ、シエラちゃんは大丈夫だったかい?」「あぁ、いつも通り元気だった。さっき意味わからん事を言って風呂って行ったよ」「ふふっ、若いって良いねぇ」「――? 言ってる意味が分からねぇが……とりあえず料理頼むわ」「すぐに出來るから待っててねぇ」

椅子に座って數分後に、味しそうな匂いが漂ってきた。廚房をカウンターから覗き込むと、とりどりの野菜、団子(謎の)がっているスープ、カエルの手羽先、程良い焼け目のパンが盛られていた。 もっとも、確かに味しそうなのだが量がシエルだけで食べるには多かった。見たじ二人前以上はあった。

し多くないか?」「何言ってんだい。あんたが食べる量もってるに決まっているだろ? ………知ってるんだよ、あの一件からあんたが村人を避けて自分で食を狩りに行ってるって。 あの時のあんたは確かに怖かったさ、でも救ってくれて事に変わりはないんだ。それなのに謝を忘れて恐怖の目で見るなんて恥ずかしい真似はしないよ」「………村長と同じ事言ってら。それじゃあ、ありがたく頂戴するよ」

何度かに分けて料理を二人の部屋に運んでいく。宿主のおばちゃんが手伝うと言ってくれたのだが、他に朝食を食べに來ている村人もいたので、忙しいだろうと思い斷っておいた。

部屋にる度にシエルの鼻歌が風呂場から聞こえてきて、機嫌を直してくれたようで安心した。 時々、何がが壁にぶつかる鈍い音がしたが、どうせ濡れた床でコケたのだろうと思い、ロードはあえてスルーをした。

數分後に風呂場から出てきたシエルは、料理の味しそうな匂いを嗅いでお腹がなっていた。ちなみに、おでこに赤い跡が殘っていた。 それが聞こえてしまったロードは意味不明のビンタを食らった。

よほどお腹が空いていたのか、沢山あった料理の數々もあっという間に無くなってしまった。 片付けはシエルも手伝ってくれた。食堂まで二人で持って行ったら、おばちゃんにニヤニヤと見られて二人揃って不思議な顔をした。

「私って、どのくらい寢てた?」「あ? 一日としだな。そんだけ寢てたらも重いんじゃないか? 気怠さとかはあるか?」「―――プッ、アハハ!」「なんだよ。いきなり笑いやがって」「ちょっとロードが心配するとか、意外すぎて」「俺だって大切な仲間の心配はするっつうの」「―――ッ! いきなり恥ずかしい事言わないでよ!」「―――ブッ!?」

素早い平手打ちが飛んできてパァンという良い音を立てた。本日二回目の理不盡な攻撃をけたロードは頭上に「!?」を沢山浮かべていた。 そんな理不盡攻撃をしてる犯人は、顔を真っ赤にしながらブツブツ獨り言を呟いている。そして唐突に何かを思い出したようにショボンと靜かになった。相変わらず騒がしいシエル馬鹿だ。

「あの………ごめんなさい」

わずかに聞き取れる聲でシエルは一言そう言った。 同時にロードは脳の働きが一時停止した。

(あのシエルが謝っただとぉ!? 明日はの雨が降りますお気をつけくださいってかぁ!?)

「頭大丈夫か?」「なんでよ!」

シエルが機を叩き、軋む音がする。挙句にはテーブルに突っ伏したままかなくなる。頭からはプシューと煙が出ている。 他人から見れば面白い景に見えるだろうが、暴れている本人からしたらそんな狀況ではない。

「いや、あの………村人を守れなくてごめんなさいって……」

なんだそんな事かとため息をつく。

「私が真剣に悩んでいるっていうのに、ため息とかいい度じゃない」

シエルが青筋を浮かべて睨む。 だが、次の瞬間に呆けた馬鹿面になっていた。

「俺は村人よりお前が大切だ」「――なっ!?」「というかお前、を飲んでいなかっただろ。馬鹿なの? 死ぬの?」「だ、だって―――」「恐れられるのが嫌だったのか? だったら全員の前で理を半分無くして、殺戮とも言える事をした俺はどうなるんだよ」

更にロードは罵倒を続ける。

「帝國軍三千人を一人で相手出來ると思ったのか? 俺の仲間だから頑張ろうと思った? ――アホか。確かに俺なら三千人程度軽く殺せる。なぜなら俺は竜種だからだ、それも最強の"七天竜"だ、だから常に全力を出せる。それが最強って言われる種族の恩恵なんだ。

だけどお前は竜種じゃなくて吸鬼なんだよ。を飲まなきゃ本気も出せない、ただのし強い可憐ななんだよ。

しかも、死んでも守るだぁ? 自惚れるんじゃねぇよ、その言葉は本當に力を持っている責任のある選ばれた者が言える言葉だ。それを言えるのは俺でもお前でもない、勇者とかがいう言葉だ。…………勇者いるのか知らねぇけど………。

だから出來もしねぇ事をやろうとするんじゃねぇ。お前はお前の戦い方があるんだ。……というか途中から俺の戦い方を真似しはじめたな? 確かに良いきだったが、まだ淺い。後で俺が教えてやる。……だから………」

ロードは一瞬だけ息を吸い、更に言葉を続ける。

「だから……無茶して死に急がないでくれ、俺は俺の目の屆かないところで大切な仲間を失いたくない。

ただでさえ俺は勝手にでしゃばって大切な後輩を、舎弟を、仲間を置いてきた。………俺はあいつらに別れすら言えなかった。最後に見たあいつらの顔はいつまでも覚えているよ。………本當に最悪のリーダーだと思うよ俺は。

だから、隨分勝手な事だが、俺は何も言われずに手が屆かない所に行かれるのは嫌なんだ。 最低だろ? 俺がされたくないのに、俺はそれをやってるんだから。自分でも自覚はしているんだ、本當に反吐が出る。……だけど頼むから………。

………頼むから無茶をしないでくれ。これ以上、大切な仲間を失わせないでくれ」

いつの間にかロードの罵倒は懇願に変わって、ロードは無意識にシエルの手を握っていた。 シエルは目を瞑って真剣に話を聞いていた。

「………すまない。俺としたことが取りした」「いえ、ごめんなさい。あなたがそんなに私なんかを大事に思ってくれてたなんて」「當たり前だろ、この世界での唯一の仲間相棒なんだから。………し口調が厳しかったかもな。本當にすまない。 あ、そうだった。シエルにこれを渡したかったんだ」

そう言って虛空から取り出したのは、黒く輝く寶石が嵌め込まれている髪留めだ。誰が見ても相當な価値があるだとわかる。

「……綺麗。私がこれを貰っていいの?」「そうだ。………仲間の印として持っててくれたらありがたい」「――ありがとう、ロード。一生大切にするね」

男が見たら簡単に落ちそうな笑顔でシエルは微笑む。早速、髪留めを付けると、綺麗な白髪に黒のアクセントが出來て、とても見栄えが良くなった。 笑顔も相まってとても綺麗に見える。(見えるだけで中は変わってない)

「どう?」「あぁ、似合ってるぞ」「ところで、この髪留めは何なの?」「名前は黒竜の簪かんざし。魔力を込めると多分黒竜の力の一部を使えるぞ。ちなみに【神話級ゴッズ】だぞ」

サラッと弾発言をすると、シエルは固まってかなくなった。ししたら、ギギギという音を出しながら首を傾けてきた。 軽くホラーっぽいきだったので、ロードも咄嗟に目を逸らしてしまった。

「イマ……ナンテ?」「だから黒竜の簪だって―――」「そっちじゃないわよ! 【神話級ゴッズ】って!?」「あ? 知らねーのか? しゃあねぇな、俺が教えて―――」「――んな事くらい知っとるわぁ!」「………ぇえ? じゃあなに?」

何を言っても怒られるので、もうわからなくなってきたので半分適當に返す。ロードの目は遙か遠くを向いていた。

「これをどこで手にれたか聞いてんの!」「だから言ってるじゃねぇか黒竜の簪って」「え? 黒…竜? ………あ」

ようやく名前の意味に気がついたようで理解したような顔になる。本當に理解が遅いシエルである。やっぱりシエル殘念は殘念だった。

「で、でも大丈夫なの? 私なんかが貰って」「ただの家寶だけど大丈夫だよ、俺が言うんだからな。というか俺が付けているやつ全部それと同じ"七天竜"の奴だぞ。風竜と白竜以外なら1つやろうか?」「凄い魔力が込められてると思ったら、それも【神話級】かい!! それともういらんわ!」

どうやら天使のような笑顔は偽だったらしい。いつものうるさいシエルに戻ってしまっていた。

「………ありがと、ロード」

急にまたしおらしくなったので、面白くなったロードはしからかってしまう。

「あ? なんだって? 聞き取れなーい、もうちょっと大きな聲でエビバディセイ!」「う、うぅ………ありがとう!!!」

結果、鼓が破れるかと思った。

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