《すばらしき竜生!》第49話 暴力の弾丸

それからのことを一言で表すと――地獄だった。

ありえないと何度もびながら魔法を連発するピクルス。それを見てつまらなそうに軽くいなすシエル。

「……ねぇまだやるの?」

「うるさい! 何もできないやつが口出しするなっ!」

「いや、うん。確かに私は何も出來ないんだけどね。あんた、どう見ても魔力切れ來てるじゃん」

肩で息をして顔は白を通り越して青。普通の魔力切れよりも危ない狀態だ。普通ならドクターストップがってもおかしくない。

(はぁ……飽きたなぁ……)

ロードの試合を見た時の高揚がない。

(こういう時、ロードはどうしてたっけ……)

なんかこう……話し合いをしていた気がする。 わざと相手が怒るようなことを言って、判斷力を低下させる方法なのだが、お馬鹿なシエルでは逆に言い負かされてしまいそうだった。

でもまあ、一応やってみようと口を開く。

「もうどうやってもあんたに勝ち目ないと思うんだけど?」

「――うるさい!」

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會話終了。

……かと思いきや、ピクルスは言葉を続ける。

「お前なんて防しかできないんだろう! 最初にわざと僕を怒らせるようにして、自分の有利な戦いに持っていった。そうなんだろう!?」

「そんな訳あるかい……」

まさかそんな風に思われていたと予想してなかったシエルは、試合中なのに力してしまう。

「どうせ攻撃なんて出來ないくせに強がるなよ!」

――待てよ? これはもしかしなくてもチャンスなんじゃね?

シエルの直がそう言っていた。 普段は馬鹿な彼だが、戦いに限定してしまえば相手の導、絡め手、そして驚異的な直はロードさえも凌駕する。

「つまり何? 私の攻撃は通らないだろうから怖くないと言いたいの?」

「そうだ! どうせお前では僕のローブに傷一つ與えることなんて出來ないんだ!」

ピクルスが著ているローブは、初級魔法なら無効化し、中級魔法なら威力を半減する効果が付與されている。 だからこそシエルは怖くない。そう判斷してしまった。

「じゃあ私が攻撃してもいいってことよね?」

「ああ! 出來るものならやってみるがいい!」

『ワァアアアア!』

観客席から歓聲が聞こえてくる。

ちなみに會話の音聲は聲を屆ける魔法で、観客にしっかりと聞こえている。 歓聲が聞こえるということは、観客の了承も得たということ。

『さてさて、盛り上がってきました! ピクルス選手の予想は當たっているのでしょうか? ガランドルさんはどう思いますか?』

『………………』

実況がガランドルに問いかけるが、彼は何も言うことなく怖い目つきで試合を見ていた。

『が、ガランドルさん?』

『……は…………めろ』

『え……?』

『早く救護班を集めろ! 相手が死んでも知らんぞ!』

『――ヒッ、は、はいっ!』

一瞬、ガランドルの気迫に気絶しそうになるが、流石そこは上級生。すぐさま指示を出し始める。

一方、満創痍のピクルスは実況なんて聞いておらず、ただ呑気に立っているシエルを睨んでいた。

――僕が負けるはずない。だって僕は學園のエリートで、貴族の息子なんだ!

一種の自己暗示のように、その言葉を繰り返す。

そして、持っている杖をシエルに向けて攻撃魔法を唱えようとする。 対するシエルはスッと片方の拳銃を前に出す。その姿は試し撃ちをするような気が抜けたものであり、ピクルスの苛立ちを加速させる。

(その余裕もここまでだ!)

「食らえ! ――ライトニング・ピアス!」

放電をしながらシエルめがけて一直線に細槍が飛ぶ。

――パンッ。

拳銃から一発の弾丸が発される。 それはピクルスから放たれた『ライトニング・ピアス』とぶつかり、対消滅した。

――パンッ。

息もつかぬまま二発目を撃つ。 それはピクルスの手の中、杖の先端に埋め込まれている魔石を砕く。

達人でさえも魅了する撃。それをシエルは當然のようにこなしていく。

(次はどこ狙おうかしら。腕? 足? それとも…………)

『おいシエル』

思考を巡らせているシエルの脳に直接『聲』が響く。

『……何よロード。今楽しいところなんだけど?』

『いや、邪魔しようとは思っていないさ。ただやり過ぎないように注意しとこうと思ってな』

『やり過ぎないようにって……どれくらい?』

『まあ…………殺すな』

ロードもピクルスの護衛を半殺しならぬ、ほぼ殺しにしてしまった過去がある。だから強くは言えなかった。

『了解!』

シエルは下げていたもう片方の拳銃を構える。

――パンッ!

聞こえたのは一発分。 だが、それはピクルスの全を容赦なく揺らす。 シエルは弾丸の威力を最小限に減らして、ダメージ事態はそれほど大きくはない。

だが、唐突すぎてピクルスは激しく混している。

「――ガッ! い、今のは…………」

『フルバースト』。 一瞬で拳銃に込められた全ての弾丸を撃ち出す一種の拡散弾のようなもの。 しかし、全ての弾丸がピクルスの確に狙っており、外した弾は一発もない。

――パンッ!

もう片方の拳銃で『フルバースト』を放つ。 これで二丁とも弾丸を撃ち盡くしたはず……なのだが。

――パンッ!

三度目の『フルバースト』が放たれて、ピクルスは壁まで後退させられる。

なぜシエルは連発して撃てるのか。 それは『クイックリロード』のおかげだ。

やっていることは簡単。弾がなくなったら、魔力を弾に変えて補填する。本當にそれだけなのだが、それでもしは隙が出來る。

それを補うのが二丁拳銃という戦い方。 片方で『フルバースト』を放ちながら、もう片方は『クイックリロード』で補充。それを繰り返すことで、常に攻撃を與える。

違うことを同時にこなすというのは集中力と、それに見合う技量が必要だ。シエルはその両方を極めており、こんな蕓當は朝飯前程度にしか思っていなかった。

「――ガッ――グッ――アッ――アガッ」

本當の地獄はここにあったと錯覚するほど、酷い景だった。

無限に続くシエルの撃に、ピクルスのは壁にり付けにされたようになっている。

先程の歓聲はどこに行ったのか、恐ろしすぎて悲鳴すらも上がってこない。

ガランドルと実況の呼び掛けによって派遣された救護班も、足がすくんでけなくなっており、誰もが終わるのをただただ祈っていた。

「――――ストップ」

周囲なんか気にせずを続けていたシエルの頭に、ポンッと手が置かれる。 ハッとして振り返った視線の先にいたのは――ロードだった。

「……ぅ…………あ、ぁ……」

果てしないから開放されたピクルスは前のめりに倒れた。それを我にかえった救護班が運んでいく。

「あーあ、だからあれほどやり過ぎるなって言ったのに……この馬鹿ちん」

「――あだっ」

デコピンがシエルの額にバチコーンと當たる。し強めにやったのも反省しろという意味が込められているからだ。

「ぶぅ……」

しかし、シエルは納得していないみたいで、頬を膨らませて無言の抗議をする。 そうする意味を知っているロードはため息を一つ。

「お前の気持ちはわかる。だから俺もあいつの護衛を再起不能にさせた。だが、お前の相手をしていたのは、貴族の息子だってのを忘れたらダメだ」

この場には変裝をしている國王もいるし、その側近も勢揃いしている。 そいつらの前で貴族の息子をボッコボコのフルボッコにするのはやりすぎだ、と言いたかった。

「……だって、悔しかったんだもん」

シエルはロードにもたれ掛かるように倒れる。本來なら突き飛ばす彼だが、今日はけ止めて挙げた。

「私達がナメられたせいで、あの子達が危険な目にあうなんて……悔しくて、それでやっと好き勝手攻撃できると思ったら頭が回らなくなって…………ごめんなさい」

「ふっ……やっぱりお前は馬鹿だよ」

そうして、Bブロックはシエルが優勝となり、二位のピクルスは全打撲による重癥によって辭退。

結果、準々決勝で敗退した二名の選手が試合を行い、勝ったほうが闘技會の參加資格を手にれた。

そして次の試合はロードの番だった。

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