《すばらしき竜生!》第51話 反省?なにそれ味しいの?

その部屋は重く苦しい雰囲気が漂っていた。

中央に設置してある円形のテーブルには、それぞれ椅子が設置されており、二席を除いた椅子には、様々な者が座っている。その數、十名。

ここはアルバート學院の會議室。 教員同士で學院での取り決めや、時には魔法の研究果の発表等もしている。

本來は賑わっているその場所だが、今回だけは違かった。

誰も口を開こうとしない。 靜かに目を閉じて、その時が來るのをじっと待っている。

「…………來たか」

そのの一人、部屋の奧に陣取る初老――學院長がようやく口を開く。

その場の全員がその意味を理解して、扉を注意深く見つめる。

――コンッコンッ。

「……どうぞ」

ゴクリッと誰かがツバを飲んだ。

「失禮しま………………したぁ」

が頭だけをヒョコリと覗かせて、すぐに閉まる。

予想外のことに誰も反応できない。 やがて、部屋の外から會話が聞こえてきた。

『おい、なぜ閉める』

『いやいや、あの空気はダメだって!』

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『空気ぃ? お前に空気なんて読める訳ねぇだろ。馬鹿か?』

『――うっせぇ! 文句言うならあんたが先にってよ』

『……ったく、仕方ねぇな』

バァン! と先程よりも暴に開けられる。

「………………」

「…………………………」

長い沈黙。その場の全員の視線が青年に注がれる。

「…………失禮した」

また閉じられた。

『いやいやいやいや、あれはダメだろ』

『だから言ったじゃない!』

『おい、本當に會議室でいいんだよな? お前が聞き間違えたとかってオチじゃないんだよな?』

『はぁ!? 私だって――』

「そろそろってくれんかのぉ!?」

たまらず學院長がぶと、外で繰り広げられている口喧嘩のようなものはピタリと止む。

――コンッコンッ。

なぜかもう一度、扉がノックされた。

やり直しをしたいのだろうと思った學院長は、ため息をつきながら「どうぞ」と言った。

「失禮しまーす」

るぞー」

改めてってきたのは、二人の男だ。 黒くきやすい服にを包み、周囲を無差別に威圧する目付きをした年――ロード。 アホをピョコピョコと揺らしながら、空気を読まずに呑気な欠をしている――シエラ。

「二人共よく來てくれた。……さて、なぜ君達がここに呼ばれたのか、わかるかな?」

問われた二人は、當然のように頷く。

「「お説教だろ(でしょ)」」

「シエルの」「ロードの」

「…………あ?」「…………ん?」

二人は同時に口を開き、同時に変なことを聞いたように、バッと首をかしてお互いを見る。

「お前馬鹿なの? 明らかにキュウリ野郎をフルボッコにしたお前のお説教だろ」

「は? 意味分かんないんだけど。どう考えても會場を破壊したロードのお説教でしょ。全く……わかってないわねぇ」

「わかってねぇのはテメェだ。俺があの時止めてなければ、お前人殺しになってたんだぞ? 謝って言葉を知らねぇのか?」

「あんただって、私が結界張ってなけりゃ大慘事になってたのよ? そっちこそ謝ってものを理解してないんじゃないの?」

言い合いをしていた二人は、額をぶつけて「あ?」「んだコラ?」「やんのかテメェ」「やったろうじゃないの」等と睨み合いに発展している。

「――殘念だがお説教は二人なんだがねぇ!?」

「「え、なんで?」」

全く悪気がない二人に、今度は室にいる全員がため息をついてしまう。

「ロード殿、我もあれはやり過ぎだと……」

「あ? なんだ王様もいたのか。さっさと帰ればいいのに、暇なのか?」

「貴様っ! エルド様になんて態度を――」

「よい、我が普通に話すように頼んだのだ」

ロードのフラットな話口調に憤怒する職員の一人は、エルド自に止められて渋々と座り直す。

「え? 王様? 今、王様って……え?」

シエルは予想通り思考が止まっているが、こうなってしまったら復帰が遅いので放置安定だ。

「それで? やりすぎってどっちが? 俺か、シエルか?」

「…………學院長が言った通りどちらもです。一瞬だけ本気を見せてくれると言っていましたが……まさかあれ程とは思いませんでした」

「ああ、そういえば本気出すって言ってたな。…………完全に忘れてた」

「…………は?」

最後に小さく呟いた言葉に、エルドは意味がわからないと言いたげだった。王様がそんな顔していいのかとツッコみたいくらいの間抜けな顔だ。

「あれが本気ではないと?」

「本気出したら何人殺してただろうなぁ………なぁシエル?」

「――――ハッ! な、なに!?」

「いや、本気は出してなかったよな。っていう話だよ」

「あ、ああ、本気なんて出したら何人殺していたかわかったもんじゃないわよね」

ほぼロードと同じことを言っている。 しかも、冗談、なんかではなく本心で言っているのがじられた。

「闘技會では決して本気を…………いや、無理な話ですな」

もし、ロードとシエルがぶつかってしまったら、必ず本気で戦うことになるだろう。

「安心してください王様。もしも私達がぶつかることになったら、私が本気で観客に結界を張りますから」

「おっ、シエルの結界なら安心して戦えるな!」

「ふっふっふ、任せたまえロード君」

「……いや、キャラ忘れんなよ」

(あれが本気じゃない…………だとしたら闘技會でもあのような被害が出るやもしれない。これはシエル殿に頼るだけではなく、我々も気を引き締めて取り掛からないとだな。……ふっ、黒竜とその相棒は格が違いすぎますな)

いまだに仲良く茶番を繰り広げる二人。 頼もしいのかどうなのかわからないが、ロードが楽しそうにしているからいいか、とエルドは心微笑む。

結局、二人は闘技會までの一週間は謹慎処分となり、闘技會ではできる限り本気を出さないことを約束して、その場は解散となった。

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