「こっからは正真正銘、俺の全力だ。」

翔が発したのはたった一言。しかしその呟きと共に、まるで世界が変質したかのようだった。そうさせているのは翔から迸る圧倒的な覇気。それはもはや理的な力すら伴っているかのような錯覚すら覚える。

『貴様、本當に人間か?』

先ほどまでの挑発的な態度はなりを潛め、代わりに微かな張を孕んだ聲でドラゴンは問う。

「正真正銘の人間だが?」

対して翔は僅かにも気負った様子はない。まるで世間話でもするかのような気楽さである。しかしその態度はドラゴンのプライドを傷つけたらしい。ドラゴンは怒気を隠そうともせずに吠えた。

『図に乗るなァ!』

そして大きく口を開き、炎を勢いよく吐き出す。その火力は凄まじく、炎にれた地面が焼け焦げている。

絶。

どう見てもそう形容する他ない狀況。しかし翔の顔に浮かんでいたのは、微かな笑み。

「ウラァッ!!!」

裂迫の気合いと共に翔は拳を放つ。誰もが翔のが炎に呑み込まれ、燃え盡きる姿を幻視するであろうこの景。

しかして翔の拳は━━━炎を、毆り飛ばした・・・・・・。

『何ィッ!?』

ドラゴンは驚愕の聲をもらす。あまり知られてはいないがブレスというのはドラゴンにとって奧義のようなものだ。現在業火を吐き出した口の中は焼け焦げており、とても二発目を撃てるような狀況ではない。火傷自はドラゴンの治癒能力があれば數時間で治るだろう。しかし、問題はそこではない。それだけのリスクを負って繰り出した攻撃が正面から弾き返された。つまり、ドラゴンの攻撃は翔にほぼ通用しない可能が高い。

「今度はこっちから行くぞ!」

そう宣言した翔は、10メートルほど離れた位置で拳を構え━━━

「ルァアッ!」

その場でに捻りを加えた全力の拳を打ち出した。

あんな所から放った拳が屆くはずはない。

『一何をしている...?』

ドラゴンも翔の意図をはかりかね、その場に直する。それもそのはず。生まれながらの最強種であるドラゴンに敗北した経験を持つ者などほとんどいない。相手が何者であろうとも正面から叩き潰してきた。それはこの黒龍とて例外ではない。

それなのに今は、全種族の中でも最弱クラスの種族値を持つと言われる人間に圧倒されている。その事実がドラゴンを揺させ、冷靜な思考力を奪っていた。その上相手の不可解な行。これらによってドラゴンは本能的に疑問を解決することを優先してしまう。そして━━━

『━━━━━!!??』

ドラゴンは聲にならない悲鳴をあげる。いや、正確にはもはや聲すら出すことができなかった。というべきだろう。ドラゴンが痛みをじた頃には、はすでに貫かれていた。さらに続けざまに心臓部に針で貫かれるような痛みがはしる。それは自の心臓がこの不可解な攻撃によって貫かれたことを意味しており、同時にこの瞬間ドラゴンの敗北と死が確定したことを示していた。

『(これが人間だと...?)』

意識が途切れゆくドラゴンが最期に見たのは━━━

「ふぅー。」

自分と戦っておきながら、息一つしていない翔の姿であった。

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「うし。じゃあドラゴンも倒したことだし、さっさとあの子を起こしてやるとするか。」

そう言いつつ翔は未だ眠ったままのが橫たわる獻上品の山に近づいていく。そして、獻上品の山を慎重に登り切り、を助け起こそうとして思わず息を呑んだ。

(これは、また...。)

完璧、としか言いようがない。楸に勝るとも劣らないレベルだろう。輝くような金髪はまるでそれ自がを放っているかのように煌めき、ある種の神々しさすらじた。

「う、うん...。」

が不意に聲をらしゆっくりと目が開かれていく。その虹彩はエメラルドのようなしい緑。彼の視線が俺の視線とぶつかる。そうして俺達は數秒間互いに見つめ合い━━━

「ご、ごめんなさい!」

先に目を逸らしたのは彼の方だった。まるで何かを恐れたかのように俺から飛びのき、地に頭をつける勢いで謝罪を始めた。

「す、すみません。もうしませんから、お願いです。いじめないで...!」

彼の聲からは恐怖がありありと伝わってきた。見たところまだ15,6歳程度の外見の。種族が違うため見た目で判斷するのは早計かもしれないが。しかし一何が彼をここまで怯えさせるのだろうか。

「怖がらせてしまったならごめんよ。君を害するつもりはないよ。し話をしたいなって思っただけなんだ。」

俺は出來る限り優しく微笑みながら話しかける。下手に今くと彼が怯えてしまうかもしれない。ここは彼が落ち著くまで待つ方がいいだろう。

「...え?」

彼は相変わらず頭を下げたままで窺うようにこちらを盜み見た。きも最小限でおそらくほとんどの人間は気づけないあろう。

「し、話をしようよ。」

そう言って再び微笑みかけた俺に彼はこくりと小さく頷いたのだった。

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俺達は一旦獻上品の山から降りて向かい合う形で座った。途中彼はドラゴンの亡骸を見て怯えた表を浮かべ、顔を青ざめさせたが、かない事に気付いて一瞬目を丸くしたあとにこちらをまた窺っていた。おそらく俺を探っているのだろうが、全部気づいてしまう俺としてはくすぐったいことこの上ない。

「じゃあ、自己紹介から始めようか。俺は

柊 翔。君の名前は?」

しい金髪を持つ彼はやはりし怯えながらも、き通ったしい聲で応えた。

「エリーゼ...と申します。翔様。」

これが、この世界での旅の最初のパートナーとの出會いだった。

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リントヴルム:全長15m 程度。隨分あっさりとやられましたが普通に強敵でした。ただメンタルや狀況判斷力に乏しかったため、數々の狡猾な敵を地球で相手にしてきた翔にとっては強敵とはなりえなかったようです。

主人公がリントヴルムを倒した方法について

次話にて公開。主人公が本気宣言をした時に空間が理的な圧力を伴うかのようになったことに関係しています。(これだけでわかる人とかいたりするのかな?)

エリーゼの怯えている理由

次話に公開。