《現実で無敵を誇った男は異世界でも無雙する》翔の能力について
「ええと、エリーゼ、落ち著いたかい?」
現在エリーゼは顔を真っ赤にしながら俯いている。どうやら俺に抱き著いてすぐに我に返ったらしく、一秒もしないうちに離れてしまった。
「ご、ごめんなさい。つい嬉しくなってしまって...。」
相変わらず顔を真っ赤にしながらエリーゼは謝ってくる。
「じゃあ、君は俺を信用してくれたってことでいいかい?」
俺が旅にったことを喜んでくれているなら俺を信用してくれたのだと思ってもいいのだろう。しかし、あれだけの警戒心を持っていた子が今の會話だけで?という疑問が湧き、つい確認するかのようなことを言ってしまった。
「はい。と言っても、私、最初からあまり翔様のことを疑っていたわけではないんですよ?」
(ん?どういうことだ?)
俺の疑問符が大量に浮かんでいるであろう顔をちらっと見たエリーゼはクスッと笑う。
「私、生まれつき不思議な目を持っているみたいなんです。一目見ただけで、その人の質がわかったり、相手が噓をついているのか分かったりするんです。」
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それはとんでもない能力だ。エリーゼに対しては駆け引きなんて意味をなさない。一見すると地味な能力のようだが、実際にあるかないかでは大きく違う。俺は相手の表を読み取ることができるようになるまでにかなりの時間がかかった。それにその結果得た目すら完璧ではない。しかしエリーゼは、生まれつきですでに俺が訓練の極致で得た目のさらに一歩進んだ目を持っていることになる。
「的にどんな能力か聞いても...?」
翔はし遠慮するように尋ねる。報とはすなわち武だ。持っているだけで翔ほどの実力者なら相手を揺さぶり、騙し、導できる。當然、斷られるものだろうと思っていたが...
「ええ、もちろん構いません。」
エリーゼから返ってきたのは思いがけない肯定だった。
「ただし、一つ條件をつけさせていただいてよろしいですか?」
やはり、エリーゼも報の大切さがわかっているらしい。ただで教える気はない、ということか。しかし、俺が住んでいた世界に無い能力は、今後俺を脅かすかもしれない。そう考えると、多のリスクは呑み込んででも聞くべきだろう。
「わかった。條件ってなんだ?」
しかし、俺はだいたいこの時點でエリーゼが聞きたいことを察していた。報と等価に換できるもの。それは━━━
「翔様のお力についても教えていただきたいのです。」
報だ。
「わかった。」
俺は短く答えた。相手の報を知りたがるのだからそれ相応の対価、すなわち報はもとより話すつもりだったし、隠し事をするつもりもなかったが、別にそれをいう必要はないだろう。
「じゃあ、俺から話すよ。」
そういうと、エリーゼは真剣な顔になる。
「俺の能力は、簡単に言うと分子間の結合の強さをいじる能力だ。」
エリーゼは頭に?を浮かべている。
(しまった。こっちには分子とかの概念はまだないのかもしれない。)
文明レベルで言えば、扉などを見る限り、俺のいた世界より圧倒的に低そうだ。これはもっと詳しく説明してやる必要があるだろう。
「えーっと。まず、この世界のあらゆるものは、『原子』と呼ばれる、ものすごく小さい粒からできているんだ。」
エリーゼは理解しようと頑張っているようだ。
「で、ですが翔様、ならなぜ、こうやって扉があるんですか?どう見てもらかな平面ですけど...。」
「扉や壁、床、さらには俺達も、本當は俺達に見えないほど小さな粒から出來ているんだ。それが出來る限り隙間がないように近づいたら、俺達はその隙間を知覚することはできない。だから、俺達にとってはくっついているかのように見えているんだ。」
し難しいか?と思って、エリーゼを見やると、
「なるほど...。」
と言っていた。これだけで理解できるとは。
エリーゼはもしかしたらかなり頭のいい部類の人間ではないのだろうか。
「そして分子っていうのは、そのめちゃくちゃ小さい粒が特定の組み合わせで集まって、決まった質を持つようになったものなんだ。」
エリーゼはしばらく黙考していたが、やがて口を開き、
「どうして、決まった質を持つようになるのでしょうか。」
と尋ねてきた。
「うーん。そうだな。あんまりいい説明が思いつかないけど...。概念的に理解するなら、さ、例えばA+Bの答えがCだとすると、エリーゼは僕が『A+Bは?』って聞いたら、なんて答える?」
「Cじゃないんですか?」
正解だ。
「なんでそう思ったの?」
「だって、さっき翔様がA+BはCだと...。」
「そう、A+BがCになるって『俺が』決めた。そして、エリーゼはそういうものなんだって納得した。A+BはCってなる理由はなにも知らずにね。」
じゃあ
「もし原子Aと原子Bを足したら分子Cになるって、もう勝手に神様がきめちゃったんだとしたら?」
「原子Aと原子Bがくっついたら、分子Cが常にできます...。」
説明というよりこじつけになってしまった。もしかしたらエリーゼにとっては釈然ととしないかもしれないが、この世界が作られたときの『基礎』として、神がそうやって決めてしまい、俺達人間はその決まり事の上で生きているのだから、それを変えることはできない。それを変えることは『基礎』を変える=世界を変質させる、という意味になる。そんなことができるのは、神か世界そのものくらいだろう。
「そんなわけで分子は組み合わさる原子の種類によって決まった質のものができる。そして実は俺達の周り、この空気だって空気の分子が集まったものなんだ。」
「ですが、何もないように私には見えます...。」
「そうだね。でも実際は空気の分子はある。ただ俺たち人間にはあまりにも小さすぎてそれがあることが分からないんだ。それに空気の分子、というより気の分子はものすごいスピードでき回っているから。それに対してこの扉みたいな固は原子が隙間なく集まって小さく振しているだけだから、こうして見ることができる。」
「なるほど...。」
エリーゼは神妙な顔をして考え込んでいる。當然だろう。まだ科學と呼べるものがないであろうこの世界では、俺が今した話は全く新しい概念だ。それは俺達現実世界の人間が、唐突に魔法の概念を教えられることと同じくらい難しいだろう。それを呑みこむのに時間がかかるのはなんら不思議なことではない。
「つまり、翔様の能力は、空気をとてもく、例えば、伝説のアダマンタイトのようなさに変えたりできる。ということですか?」
ふむ、この世界にはアダマンタイトがあるのか。後で調べよう。
「うん。だいたいその認識であってるかな。」
厳にはし違うが。
「ですが翔様、そのような事が出來るのなら、相手を攻撃した瞬間に分解すればよろしいのでは...?」
やはりエリーゼは賢い。もっとも効率の良い戦い方を今の一瞬で思いつくとは。
「當然、俺もそれは考えたことがある。でも、それはできなかったんだ。」
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ちょっと長くなりすぎたので一旦切ります。
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