《捻くれ者の俺は異世界を生き抜く》3.専屬使用人

重い扉がゆっくりと開かれ、扉の中心からが溢れる。

扉を開けた正面奧、豪華な椅子に腰掛けこちらを見據える男が一人。それを見守るように背後に2人の兵士が置かれ、部屋の両サイドに武を持った兵士たちがずっしりと立ち構えている。

部屋の広さは先程よりは狹くじるが、やはり広いことに変わりはない。あちこちには目が凝りそうなほど華な裝飾が施されていて凄く落ち著かない。

視線を床に移すと赤い絨毯が真っ直ぐに敷かれてある。ここを歩けと言うことか。

俺達はベルザムに連れられるまま、部屋の中央にまで足を進めた。

「勇者様一行、連れてまいりました」

靜かな部屋に突然ベルザムの聲が響き、肩でビクリと反応してしまった。

「うむ、下がって良い」

見た目通り、男の聲は低い。

「ようこそおいで下さいました。私の名はバハマド・セルデ・フェルマニア。この國の現國王でございます。此度は我々の都合でこの世界にお呼びしてしまったこと、誠に申し訳ありません」

國王バハマドは丁寧な口調でそう言った。

その見てくれは逞しいに髭を生やしたただのオヤジだが、そのからじられる高貴さや貫祿から只者でないことは分かる気がする。

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しかし隨分と下手に出てきた。余程俺たちの協力を得たいらしい。

「お會いできて栄です、王様。僕は一神汰と言います。異世界から來た勇者です」

「ほぉ、あなたが勇者イチガミですか。部下より話は聞き及んでいました。それで、魔王討伐の件は……」

「安心してください!僕達が必ず、魔王を倒して見せます!」

一神は國王相手にもじることなく大見得を切る。本気で出來ると思っているのだろうか。

「おぉ、ありがとうございます!それを聞いて安心しましたぞ。本日は宴……と行きたいところですが、何分時間が時間ですし、皆様もお疲れでしょう。皆様には各部屋をご用意しております。食事は使用人に言いつければすぐに運ばせますゆえ、どうぞ本日はお休みください」

國王はそう言うと、俺たちを各部屋へ案するよう部下に指示を出した。

使用人の一人に案され、俺はとある個室にった。

部屋は人一人が生活するには広めのワンルーム。先程とは打って変わってベージュを基調とした、全的に落ち著いた合いの部屋だ。しかし品があり良い作りなのは間違いない。さらにシャワーとトイレと洗面臺の三點ユニットバスルームのおまけ付き。ちょっとしたホテルの一室みたいだ。

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対照的に部屋はあっさりしている。奧に三人でも楽に寢られそうな巨大ベッドがバンと置かれ、部屋の中心に食事用のテーブルが、壁際に木製の機と椅子、その隣に大きな鏡臺がある。あとは綺麗な花が飾られている程度だ。クローゼットは無し。代わりに銀のリングを手渡された。

なんでもこの指はボックスリング(またはアイテムボックス)と呼ばれており、一定量の生以外の質を亜空間に保管できる代らしい。簡単に言うと容量制限のある四次元ポケットみたいなものだ。

正直この世界の技々侮っていた。地球と比べると科學技はまだまだだが、それに代わる魔法を駆使した技は大したものだ。このリングもそうだが、この世界には地球の技だけでは到底追いつけない側面も多いようだ。

「しかしまあ、こんなことってあるんだな」

ふかふかのベッドにうつ伏せに倒れ込み、枕に向けて獨り言を吐いた。

突然異世界へ召喚され、見る聞くもの全てに驚かされ続け、正直キャパオーバーだ。

ぶっちゃけると元の世界に未練はない。

友達もいなければ家族もいない。唯一の親だったばあちゃんも、つい最近ポックリ逝ってしまった。

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當然俺なんかの面倒を見てくれる好きなんていなくて、高校中退も視野にれ始めていた矢先の異世界召喚だ。もしかしたらラッキーだったのかもしれない。

なんて考えたが、やっぱりそんなことは無かった。この世界にきて、また新たな問題が目の前に立ちはだかっていた。

ベッド上で仰向けに寢返り、ついさっき覚えた技能を使う。

――ステータスオープン。

【雨宮優】Lv.1

別:男

種族:人間族

力:12/12

魔力:12/12

筋力:12

:12

敏捷:12

覚:12

〈AS〉

〈PS〉

・超回復

・言語理解

〈稱號〉

・異世界人

「はぁ......、やっぱ弱いよなぁ」

ため息混じりに呟いた。

なんで俺だけ。まず思ったことだ。王達の話が本當なら、俺もこの世界を救う勇者の仲間の一人のはずだ。それがなんてったってこんなに弱いのだ。

多分だが、こーゆう世界では力こそ全てみたいなところがあるはずだ。だから魔王は世界を支配できるし、勇者はその野を打ち砕ける。

そんな世界でなんの力も持たない奴はただ躙されるのみだ。まして俺は異世界人。この世界のことに関しては右も左も分からない。一人になったが最後、野垂れ死ぬのがオチだ。

一瞬嫌なことを想像してゾッとした。

「こりゃ早いとこの振り方考えた方がいいな。なるだけ強くて権力のあるやつを味方に......でなきゃこの世界で生きて行けねぇ」

適応能力は高い方だと自負している。そうやって生きてきた。

いつも誰かの顔を伺って、自分に都合のいいようにいてきた。今回もその力を大いに役立てていこう。

「チッ、今後はご機嫌取りかよ。めんどくせぇ」

生きるためには仕方の無いことだが、大嫌いな人間共にヘコヘコしている未來の自分を想像して、しイラつく。

「はあ、魔法使いたかったな〜」

心殘りはそれだ。

魔法――それは現代に生きる者なら一度は夢見るものだ。手から炎を出し、風をに纏い、大地をうねらせ、雷を落とす。そんなファンタジーの世界が今ここにあるというのに、何も出來ない。このもどかしい気持ちは、何の力も持たないままこの世界に來てしまった俺にしかわからないだろう。

唯一ある力と言えば、

〈言語理解〉

この世界の言語を理解、習得出來る。

〈超回復〉

常に自を最も健康な狀態にまで回復させる。

この二つのみ。それも言語理解は召喚された者全員が持っていたし。

確かに凄いとは思う。知らない言語を理解出來るとか、常時回復だとか。普通じゃありえない、れっきとした頂上能力と言える。しかしだ、一神たちのあんな化けステータスを見せられた後では霞んでしまう。なんなら子に筋力や力で劣っていたし。

ふと、機の上に置かれてある羽ペンに目がいった。というより、兇になりそうなを探していたら羽ペンに視線がたどり著いたという方が正しい。

「試してみるか......」

興味本位と言うか、しでも魔法っぽいモノを見てみたかったと言うか、自分は一般人よりは優れている、特別なのだとそう思いたかった。

「だ、大丈夫だ......。ちょっと刺すだけ、どうせすぐに治る......」

ちょっとだけの恐怖を好奇心が呑み込んだ。

右手で羽ペンを握り、左の前腕に先端を向ける。

そして意を決して――

「――っ!痛ってぇ!」

しかし、見た。

ペンが引き抜かれ、赤いそれが見えた瞬間、傷口は一瞬にして跡形も殘さず消えてなくなった。跡のひとつも殘っていない。

「おお!すげぇ!も、もう一回......」

今度はさらに深く、突き刺す。

「――ぎっ」

予想より痛みが強くて顔を顰める。

だが明らかにさっきより深い傷が、目にも止まらぬ速さで修復されてしまった。

「すげぇ、すげぇ!」

そこからは何だか嬉しくなってきて、もう一回、もう一回と腕に羽ペンを突き刺していった。痛みも一瞬なため、歯止めというものが効かなかったのかもしれない。

およそ二十數回目、羽ペンを持つ手を振り上げたその時だった。

「あ、あのぉ......」

不意に飛び込んできたの聲にをびくつかせる。

視線を移すと、そこにはメイド服を著たが立っていた。綺麗な空の髪が腰あたりまでびていて、同様に瞳も綺麗な青だ。しかしその目は酷く脅えている。完全に変質者を見るそれだ。

「あ、えぇと、これは違くて......」

「ヒィっ!?」

俺が喋るだけでこの反応だ。如何に俺に対して恐怖を抱いているかが分かる。

まずい、と思った。腕を刺すのに夢中で気が付かなかった。完全にキチガイだと思われてる。笑顔で腕をさしまくってたらそりゃそうか。

「あ、これはスキルを確認してただけで......」

「ス、スキルですか......?」

説明して誤解を解こうと思ったが、やめた。なんで俺がこんな奴に一々気を使わなきゃならないんだ。

「あの、なんか用......?」

「あ!え、えと、お食事の用意といくつかの連絡事項をお伝えしに參りました!」

「あ、そう。ご苦労さま」

「は、はい!」

すると彼はワゴンを使って料理を室に運び込んで來た。

部屋中に食をそそる、いい香りが漂う。そう言えば丁度腹が減っていたところだった。

テーブルに並べられた食事を見て唾を飲み込んだ。かなり待遇が良さそうだってので期待していたが、期待通り味そうなメニューだ。

「き、季節の野菜と魚介を使ったベース......スープと、オ、オーヴェン?牛の煮込み、え、えっと......、とととっても味しいお料理です!」

雑な料理の紹介にズッコケそうになった。と言うか最後、完全に料理名忘れていただろう。こっちとしては正直味ければ何でもいいのだが。

さっそく料理に手をつけた。

まずはスープ。あっさりした味わいだが、野菜や魚介の旨みがしっかりと出ていていい味だ。を食べたら驚いたが、完全に牛だ。それも超絶品。先程メイドが牛をどうこう言っていたが、本當にこの世界にも牛が存在しているのかも知れない。

そんなことを考えながら食事をしていたが、ついに気になって尋ねる。

「あの、いつまでいるの?ずっと見られてると食べずらいんだけど」

「へぁ、す、すみません......!まだお伝えしていないことがいくつかありまして......」

メイドは俺が食事している中、ずっと後ろに張り付いていた。これじゃあ落ち著いて食事も出來やしない。

「なに?伝えることって......?」

「は、はい!え、ええっと............あ、あれ?」

お次は中のあちこちをって何かを探し始めた。多分メモ書きかなんかを探しているのだろう。

しかし何だ、この使えないメイドは。張しているのか知らないが、さっきからもじもじオドオド、見ていてイライラする奴だ。こんな調子じゃ、そのうち熱湯でもひっかけられそうだ。

仕方がない。

「落ち著いて。張しているのかもしれないけど、ゆっくりでいいから」

聲をらかくし、優しい笑顔を作る。

「............は、はい」

「君、名前は?」

「――あ、ソ、ソフィア......です!雨宮様の専屬使用人を擔當させて頂いています!」

俺がこの顔をすれば、大抵のやつは驚いた後にホッとした顔をする。最初の印象とのギャップだろうか。俺自の為とはいえ、一々こんな笑顔を作らなきゃいけないなんて、本當に面倒だ。

「優でいいよソフィア。それで、探しは見つかった?」

「え、ははい!」

とろくせぇ奴だなさっさと出てけよ、と心の中で舌打ちする。

「え、えと......明日の日程についてです。皆様にはすぐにでも力をつけて頂きたいので、明日の晝より訓練をけて頂きます」

「え?」

俺のステータスを確認しなかったのだろうか。俺は一般人とほぼ変わりないというのに、初日から訓練に參加させられるだなんて。正直気が重いのだが。

「訓練の容は魔法や初歩スキルについてです」

「魔法って、適のない俺は使えないんじゃ」

「え?魔法は適が無くても使えますよ?」

「......え?」

さらりと衝撃の事実が告げられた。

「ええ!?使えんの!?」

驚きのあまり、ソフィアの手を取り詰め寄って、

「それホント!?」

「あ、あわわ......は、はいぃ」

「あぁ、ごめん」

顔を真っ赤に染めるソフィアに気づき、手を離す。

「そ、それで?本當に魔法って使えるの?」

「は、はい。この世界で魔法が使えない人はそうそういません。どんなに才能の無い方でも、魔力さえあれば一つくらいは何かしらの屬魔法が扱えるはずです。屬とは、あくまでその屬を上手く扱えるかどうかなので......」

「なるほどな。つまり練習次第で俺にも魔法が......」

何だか嬉しくなってきて、再びソフィアの手を取った。

「ありがとうソフィア!君のおかげで微かに希が見えたよ!」

「ふぇえ!?い、いいえ、そんな!私は何も......」

ソフィアの顔がまたしても赤く染まる。わかりやすい奴だ。

しかし魔法か。どんなじなのだろう。一神達に比べたら當然しょぼいかも知れないが、それでも魔法が使えるというだけでワクワクするものだ。生きていればたまにはいいこともあるらしい。

そうして俺がはしゃいでいると、

「あ、あの......!こちらこそ、ありがとうございます!」

「え?なんで君がお禮......?」

「そ、その......私って、すごくドン臭くて。こんな使えない私に優しく接してくれた方、初めてで......う、嬉しくて」

ああなるほどと、しこのを理解した。恐らく彼はドジでノロマで、この城の中でも使えないメイドだったんだろう。それでいつも怒られてばかり、周りからも良く思われて無かったに違いない。そういう奴はきっと優しさとかそういうものに慣れてない、飢えてるんだ。

なるほどな。

心の中でニヤリと笑った。

「そんなことない、ソフィアは使えなくなんかないよ。だってこんなに優しいじゃないか。君みたいないい子が俺の専屬メイドで本當に良かったよ」

完璧な笑顔でそう言った。

「............あ、ああああありがとうございますぅ!!」

ソフィアは泣きそうな顔で禮を言う。思った通り、チョロいやつだ。

今は一人でも多く味方を作っておきたい。こんなポンコツメイドでも、居ないよりはましだ。

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