《捻くれ者の俺は異世界を生き抜く》4.戦闘訓練

巨大な城の中には大きな中庭が複數あり、そのの幾つかは兵士達の訓練場として使用されている。

俺達は今、とある訓練場に集合していた。

その日初めて城外に出たが、いやはや驚かされた。

あまりの巨大さに、訓練場から見上げただけではその全貌を拝むことは出來なかった。これこそフェルマニア王國が誇る巨城、フェルマニア城。高臺の頂上に聳え立ち、その周囲を巨大な街に囲まれ守られている。

造りの殆どが石で構された蕓的なそれは、どこぞの夢の國の城なんて目じゃないほど、とてつもない重量と存在を見るものの目に焼き付けるのだ。

この世界の建築技がどれほどのものか知らないが、この規模の城を人力だけで作るには途方もない労力と時間を要するだろう。

しかし今の俺には、この城を前にしても見學を後に回したくなるほど興味をそそられるものが存在する。

「今日は集まってもらって悪い。早速だが、本日より勇者パーティーの訓練を開始する。よろしく頼む」

ベルザムが改まって宣言する。

勇者パーティーとは、勇者である一神を筆頭に構された、魔王、並びに魔王軍に対抗するための主力部隊のこと。構員は一神、星野、村、桐山、俺、そしてここに聖のアリス王が加わる。俺の存在意義が殆ど無い気がするのだが、現狀ではパーティーにカウントされているようだ。まあこの調子ならそのうち除外されそうだが、それならそれでラッキーというものだ。

「ではまずは、屬魔法について説明しよう」

いよいよきたかと、興味津々で耳を傾ける。

魔法――とは魔力に自のイメージを込めて外に放出することによって形をなし、現象として現れる。例えば手に魔力を集めて炎が燃えるイメージを持てば、魔力が炎に変換される。それをさらに前方に飛ばすイメージを持てば炎は前方に飛んでいくと言ったじだ。

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こういった魔法にはそれぞれ屬があり、熱・水・風・土・雷・・闇の七屬が存在する。二屬以上の魔法を組み合わせたものを複合魔法といい、熱魔法と水魔法を組み合わせた氷魔法(世間一般でそう呼ばれている)なんかがこれにあたるようだ。

ちなみに魔法の威力や規模は練りこんだ魔力の量やイメージに依存するが、例外的に屬のある者がその屬魔法を扱う場合、ない魔力で強い現象を引き起こせるらしい。逆に言えば、俺のように適がないからと言って魔法自が使えないわけではないらしい。

「とまあ、こんなじだ。実際に試してみた方が早い。とりあえず魔力を練ってみろ。そしてそれにイメージを與えるんだ」

魔力をネル?

簡単に言ってくれる。俺達は魔法なんてものとは無縁の世界で生きてきたのだ。そんな雑な説明でぱっとできる訳が無い。

「出來ました!」

「わたしも!」

「これが魔法......」

「けっ、くだらねぇ」

――いや出來んのかいっ!

俺を除く全員が、掌の上に火や水、の玉を浮かべてはしゃいでいる。これが適のある者と無いものの差なのだろうか。

彼らとのセンスの差に俺が愕然としていると、

「雨宮さん、どうですか?」

傍らからアリス王がひょっこりと、覗き込むように尋ねてきた。

「ああえと、なんか魔力を練るってのがよく分からなくて......」

「初めはそんなものですよ。私もそうでした。一神さんたちには適があるせいか、初めから屬魔法のスキルを習得していましたしから」

そう言えば、一神達のステータスを見た時、〈AS〉の欄に魔法スキルが既に存在していた。だったら出來て當然なのかもしれない。

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し、お手を失禮します」

そう言うと、アリスは俺の手をそっと握った。するとすぐ、手に溫かい何かが流れ込んでくる覚を覚えた。もしかして、これが魔力の流れなのだろうか。

「どうですか?」

はまた、覗き込むようににこやかな笑顔を向ける。

「えと、綺麗な手ですね。小さくてらかい、の子の手だ......」

「..................。えぇっ!?ち、ちち違いますよ!!魔力ですっ!魔力の流れをじられたか聞いたんですっ!!」

は今日日稀に見るくらい真っ赤な顔で、自分の手を大事そうに引っ込める。

「ああ、あの溫かいじが?てっきり王さんの溫もりかと思いましたよ」

「なっ、ななな何言ってるんですか......!」

ゆでダコみたいだ。印象悪くならないように、ほんの冗談のつもりだったんだが、流石に調子に乗りすぎたか。

しかし今は、そんなことはどうだっていい。

「――できた!!」

十數分掛けて、掌に小さな火をともすことが出來た。もっと手間取ると思ったが、一神達の出していた炎を真似てイメージすると、案外簡単に習得出來てしまった。適は無いが、才能はあるのかもしれない。

「凄いです!こんなに早く習得なさるなんて!」

平常心を取り戻したアリスが、パチパチと拍手で褒めてくれた。それにしてもこの、やたらと褒めてくれる。

しかし俺を稱えてくれたのはアリスだけでは無かった。

「やったな雨宮!」

聲を掛けてきたのは一神だった。

こいつ話しかけてくるのかと、し意外だった。こういうカースト最上位の奴は大抵、俺みたいなのを見下して必要時以外は自分から話しかけてこないものだ。たまに子や教師への點數稼ぎに使われることはあるが、こいつもその口だろうか。

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普段なら適當にあしらって終わりなのだが、仮にも勇者だ。もしも味方に付けられれば、これ以上ない俺の盾になる。

布石は打って置くべきかもしれない。

「ありがとう、汰!」

瞬時に笑顔を作った。それだけじゃない、ファーストネームのおまけ付きだ。

「え、あぁ......、あぁ!一緒に頑張ろうぜ!」

驚いた様子だ。俺が一神の名前を知らないとでも思っていたのだろう。と言うか、クラスどころか學校でコイツを知らない奴ほど珍しいものだ。

「何〜?二人って仲良かったんだ〜?」

會話に參加してきたのは一神の馴染、星野だった。俺達の仲が気になるらしい。

「仲がいい......のかな?でも、俺は汰と仲良くなりたいと思ってるよ」

「と、當然だろ!僕達は仲間なんだからな!」

一神は嬉しそうにしている。

何だ案外ちょろい奴なのかと思ったが、その考えは早計だとも思う。こういう善人ぶった奴は絶対的に信用ならない。早いに見極めなければ。

「そっかー。じゃあ、私とも友達になる?なんつって......えへへ」

星野はし照れくさそうに冗談めかす。そちらから來てくれるのなら有難い。可能ならこいつも味方に引きれてやる。

「ほ、ほんと......!?凄く嬉しいよ......ありがとう星野さん!」

星野と一神の仲がはっきりしない以上、いきなり名前呼びはリスクが高い。余計ないざこざを起こさないよう、今は人畜無害な良い奴を演じるしかない。

「う、うん、もちろん!て言うか、雨宮くんて想像してたイメージと違うね。もっと暗い人なのかと思ってた」

普段の俺を見ていたら、そういう想になっても仕方ない。極力人とのコミュニケーションを避けて、たまに作り笑いだ。暗な人間と思っていた奴も多かったことだろう。

「ああ、そろそろ次に進んでいいか?」

咳払いをするベルザムに話の腰を折られた。まあいい。急いでもいいことは無いし、じっくりゆっくり落としていけばいい。

「よし、これで全員無事に魔法は使えたな。それでは、ステータスを開いてみろ」

ベルザムに言われるまま、ステータスを表示する。

【雨宮優】Lv.1

別:男

種族:人間族

力:13/13

魔力:8/13

筋力:13

:13

敏捷:13

覚:13

〈AS〉

・屬魔法(熱)

〈PS〉

・超回復

・言語理解

〈稱號〉

・異世界人

いくつか変化がある。

「これがアクティブスキルだ。見てもらえばわかるが、魔法やスキルを使うとこのように魔力が消費される。魔力がゼロになれば、アクティブスキルは一切使えなくなるから注意が必要だぞ。逆に魔力を消費することなく永続的に発されているスキル、それがパッシブスキルというわけだ。神様の加護なんて言われたりもする」

なるほど。つまり〈超回復〉と〈言語理解〉のスキルは魔力を消費しないわけだ。魔力のない俺にとっては有難い話だ。

しかしまだ不明な點がある。魔法を使ったことで魔力が減るのはわかるし、熱魔法を習得できたわけだからスキルに屬魔法が表示されるのもわかる。じゃあこのステータスの上昇はなんだ。確か昨日見た時は全ステータスが12だったはず。しかし今は13と表示されている。

俺はすぐ隣にいるアリスをチラリと橫目で見る。

「ねえ、アリス王

「アリス王はやめてください。アリスで構いませんよ、どうされましたか?」

「じゃあアリス。魔法を使うとステータス數値が上昇したりするものなの?」

「ステータス數値ですか?それはありません。魔力量が減はしますが、ステータス數値が上昇することはありません」

となると、魔法を使用したことが原因ではない。

「ステータス數値が上昇する條件は?」

「通常はレベルが上がった場合か、強化系のスキルを使用している場合に限られます。あとはそうですね、を鍛えることでしは力値や筋力値を上げられるそうですが、鍛えるにしても限界がありますし、あまりオススメではありませんね」

どれも違う。ということは他に原因があるはず。

俺がステータスを確認したのは昨日、部屋にってすぐのこと。それから今に至るまでの間に、それらしい行を取っただろうか。筋トレをした訳でも無いし、何か。

もしかして、あの自傷行為だろうか。それ以外に思いつかない。

「どうかされたんですか?」

「いや、何でもないよ。ありがとう」

これはまだ黙っておこう。

「よし、次は戦闘での基本となる、初歩スキルについて説明する。先程の魔法を使う時と同様に魔力を練って、その魔力で全を覆うように広げてみろ」

魔力で全を覆う?

何だそれは。そんな覚的な説明だけでできるわけが無いだろう。

「できました!」

「私も!」

「これが強化......」

「けっ、くだらねぇ」

――いやだから何で出來んだよ!

「一神さん達は既に強化のスキルを習得されていましたから」

アリスはめるように笑いかける。

仕方が無いのでまたアリスに教えてもらうことにする。

「ねえアリス、コツとか教えて貰ってもいいかな?」

「ええと、強化系は私もあまり得意では無いので、良ければベルザムに聞いてみては」

とは言うものの、ベルザムの説明は覚的過ぎて正直さっぱりなのだ。多分一神たちと同じ天才なのだろう。それに、ベルザムみたいな堅をおとすには、々時間がかかりそうだ。

「頼むよ、俺は君がいいんだ。ダメ......かな?」

「いえ、ダメではないですけど......」

「ありがと!」

こう言えば斷れないだろう。

「それでは、魔力を流しますね」

そう言うとアリスは俺の背中に手を當てる。

背中にじんわりとした熱が広がっていく。しかし不快はなく、むしろ――

「すごく落ち著く」

「え?」

聲に出ていたらしい。

狙ってた訳では無いが、丁度いい。

「いやぁ、アリスに魔力を流して貰うの、すごく落ち著くなって」

笑顔でこう言われて、気を悪くする奴なんていないはず。また顔を赤くして慌てるアリスの姿が目に浮かんだ。

しかし、

「そうですか......?それなら、良かったです!」

は照れたように、しかし心から溢れ出したように、鮮やかに笑った。

驚いた。脳を揺さぶられたかのような覚を覚え、咄嗟に目を逸らしてしまう。

久しく見ていなかったが、俺はあの笑顔を知っていた。その綺麗な笑顔が、昔見た誰かと重なって見える。

「雨宮さん?どうされましたか?」

「いや、なんでも......」

褒めてやればよかった。別になんだってよかったのに。笑顔が素敵だとか適當な言葉を並べればよかったのに。

しかし、何も言葉が出なかった。

――――――。

「――できた!」

先程より時間を要したが、何とか〈強化〉の覚を摑むことができたようだ。全に魔力を広げると、不思議とさっきより力が湧いてくる覚がある。

「凄いです!私でも習得するのに數日かかったのに!」

またもアリスが褒めちぎる。どう考えたって一神たちの方が凄いのに。まったくお世辭の上手い奴だ。

「よし、それでは本日最後のスキル説明、といきたいところだが、まずはこれをけ取ってくれ。我々からの囁かなプレゼントだ」

ベルザムがそう言うと、部下の兵士たちがせっせと箱型の大きな臺車を複數臺運んできた。

中を覗き込むと、そこには鈍くる武の數々がっている。

「これは......剣ですか?」

見慣れない武の數々に、一神がし呆気に取られた様子で尋ねる。

「ああ、剣以外にも々あるぞ。斧や槍、弓矢、鈍系ならハンマーやモーニングスターなんかもある。自分に合った武を選んでくれ」

自分に合った武と言われても正直分からない。しかし王道を行くなら剣だろう。他の武に比べて、素人知識ではあるが扱い方も何となく理解は出來ている。

一つ、剣を選んでみることにする。

剣とひとくちに言っても、幾つも種類がある。短剣、片手剣、両手剣、刃が灣曲している曲刀、突き刺すことを主な目的とした細剣なんかもあるようだ。

まず候補から外したいのが両手剣だ。両手剣の中で小さいものでさえ、150センチくらいありそうだ。こんな扱えるやつは怪か何かに違いない。しかし曲刀や細剣なんかは癖が強そうというか、扱いが難しそうだ。ならば殘ったのは短剣か片手剣の二択になるが、短剣はリーチが短く、何となく弱そうな気がする。もちろん使う人間によっては強いのだろうが。

「これにするか」

手に取ったのは片手用の直剣。長さは一メートルちょっと。ずっしりとした重みが手に伝わる。三、四キロくらいだろうか。しかしこれをブンブン振り回して戦っている自分の姿がいまいち想像できない。

そんなことを考えていると隣で、

「悪いが、一神には今後 片手剣を使用して訓練をけてもらいたい。先代勇者様の使ったとされる伝説の聖剣は片手直剣だったそうだ。もちろん、この剣とは比べにならない代だろうが、早いうちから片手剣の扱いに馴染んでおいたほうが良いだろう」

「はい、わかりました」

なるほど。一神も片手剣にしたようだ。

「......」

その隣、桐山大河はイカつい篭手を手に取りじっと見つめている。ガントレットと言うやつか。本來は腕を守るための防だが、あの篭手は明らかに人を撲殺するためのものだ。分厚い金屬の塊、その先端から棘が突き出ている。あんなので毆られたら一撃で死んでしまう自信がある。

桐山は篭手か。男は拳で語るつもりだろう。不良年ヤンキーにはうってつけかもしれない。

「お二人は魔法が主な攻撃手法になると思いますので、こちらから選ぶのが良いかと」

アリスが星野と村に薦めたのは杖だった。杖と言っても、長いものから指揮棒のような短いタイプのものもあり、先端には大きな寶石のようなものが埋め込まれている。

「綺麗…...」

星野が目を輝かせている。

「これは魔力石と呼ばれるものです」

魔力石とは、魔力耐久度が高く、魔力を蓄積させることも出來る石のことらしい。主に武や魔道なんかに使用されるようだ。

ちなみに魔力耐久度とは、質がどれだけ魔力に耐えられるか、という能のことらしい。例えば、先程俺達は自の手に魔力を集めて魔法を使ったが、もし手の魔力耐久度を超える魔力を練った場合、魔力に耐えきれずに自の腕が崩壊を始める。普段 魔力はゲートと呼ばれる心の奧底に溜まっているため安全なのだが、いざ大量の魔力をかす場合には注意が必要となる。

しかしそうなると、人は強力な魔法を簡単には扱えないことになる。が、それを解決するのが魔力耐久度の高い、魔力石というわけだ。魔力石になら遠慮なく大量の魔力をぶち込んで、強力な魔法を発させられる。もちろん魔力石にも魔力耐久度はあり、それを超過すれば魔力に耐えきれず石は砕け散るだろう。

もっとも、魔力量のない俺には無縁の話のようだが。

「私これにする!」

「じゃあ、わたしはこれで......」

星野が短いステッキ、村が大きなロッドを選んだ。どちらも金屬製で、先端に大きな魔力石が埋め込まれている。より魔法使いらしくなったようだ。

「これで全員武は選び終えたな。それでは本日最後のスキル、屬強化について教えよう」

強化。強化の要領で武などに魔力を送り込み、それに屬魔法の要領でイメージを加えて形を與えることで強化を施すスキルである。ちなみにマンガやアニメでや腕なんかに炎を纏ったりするシーンがあるが、そんなことをしたら黒焦げになるからやめろと言われた。

この屬強化は意外と簡単で、先の二つのスキルが使える者ならば誰でも出來るらしい。

まずは強化の要領で、剣の刀部分に魔力を集中させる。ここで屬魔法と同様に魔力を炎に変換させる。

にゆらりと炎が燈った。

がしかし、俺が聲を上げそうになった時には、

「あれ?」

剣に燈した炎は、マッチ棒の火が消えるように萎んでいき、すぐに途絶えた。

「おそらく魔力切れだろう。一度ステータスを確認してみてくれ」

ベルザムに言われステータスを開くと、確かに魔力値が0になっていた。

「魔力は時間が経つにつれ回復していくから心配いらないが、戦闘時には魔力が枯渇しないよう十分に気をつける必要がある」

そんな事言われても、俺の魔力量では魔法の二発三発で魔力切れを起こす。これでは戦闘なんて言ってられない。

「では、本日のスキル説明は以上とする。最初から詰め込みすぎてもいけないしな。あとは各自、反復練習あるのみだ。無理しない程度に頑張ってくれ」

ベルザムがそう言い殘したところで、初日の戦闘訓練は幕を閉じた。

――いや、反復練習出來ないんだけど。

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