《捻くれ者の俺は異世界を生き抜く》13.王都フェルマニス

「……さん……いさん」

ぼんやりの聲が聞こえている。

ここはどこだろう。

ゆっくりと目を開けてみた。

「……お兄さん」

「…………ソフィア」

「ソフィア?だあれそれ?」

「あ、いや、何でもない」

自分が口走った言葉に驚いた。まだ俺はあいつらとの記憶を捨てきれていないのだろうか。これからは一人で生き抜くと決めたのだ。甘い考えは捨てねばならない。

「お兄さんぐっすり眠ってたけど、よっぽど疲れてたんだね」

ミーナはくすっと笑う。

の名はミーナ、者の男ブランの一人娘だそうだ。

しかし俺のは疲れないはずなのだが、ここ數日は眠ることさえ出來ずひたすら灼熱のマグマに焼かれ続けた。的にと言うよりは神的に疲れが溜まっていたのかもしれない。それにしてもほぼ他人の目の前で迂闊にも眠ってしまうなんて、今後は気をつけなければ。

「それより、俺を起こしたってことは著いたのか」

「うん、今から都審査があるから馬車から降りなきゃ」

俺は言われるままに馬車から降りた。降りたところで目を見開いた。

目の前には外部から隔離するように王都を取り囲む巨大な壁が立ちはだかっていた。壁は左右のずっと先まで続いていて、王都全を包み込んでいる。これが噂に聞いていた魔を寄せつけないと言う壁だ。正確な材質は分からないが、見たところ鼠のコンクリートのように見える。この世界にもコンクリートを作る技が存在するのだろうか。それか魔法で作るのだろうか。何にせよ、相変わらずこの世界の建築技には驚かされるばかりだ。

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目の前には金屬製の大きな門があって、そこに一列となって都審査をけるべく多くの人や馬車が並んでいた。

審査をしているのは四人の門兵だ。著ている鎧から騎士団所屬ではないことが分かるが、もしかしたらという不安が拭いされない。

俺は盜賊から奪った小汚いフードを深く被って俯いた。そろそろ俺達の審査の番だ。特に怪しまれるは持っていないし、すんなり都出來ることを祈るしかない。

「よーし止まれ」

門兵の一人が門前で俺達の馬車を停止させる。

遂に來た。心臓の音が凄いことになっているが、今は平常心でやり過ごす他ない。

「よし、名前と分証を提示してくれ。それと馬車の中も確認させてもらう。分証がない場合は都料として500メリル払ってもらう必要があるが……」

いきなり肝を冷やす容が飛んできた。どうやら分証何てものが異世界にもあるらしい。パスポートのようなものだろうか。

隣でブランが當然のような顔で分証を提示している。

しかし當然そんなの持っているはずも無いので500メリルとやらを払うしかないが。そもそもメリルとは一なんだろうか。話の流れからしてこの國の通貨単位なのは間違いないだろうが、何をどれだけ渡せばいいのか分からない。王城でけていた授業はこの世界の常識何かもあったが、お金に関することはまだ何も教わっていなかった。城にいれば買いなんてするはずも無いし、その辺は後回しにされていたのかもしれない。

盜賊から奪った麻袋にっている貨は金、銀、銅、赤の四種類。袋の中を見せて「これで足りますか」なんて聞くのはどう考えても怪しまれる。

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俺が必死に悩んでいると、

「ん?おいお前、フードをとって顔をよく見せてみろ」

その言葉に思わず心臓が跳ねる。もしもこの兵たちが俺の顔を知っていたら、俺が生きていたことが第一王達にバレてしまう。このまま逃げ出してやろうかとも一瞬考えたが、それで他兵たちを呼ばれる方がよっぽど騒ぎになる。

俺は意を決してフードを取った。

「――お前っ、」

――バレたか……。

「何だ、案外男前じゃないか。わざわざ顔を隠しているから余程悪人面なのかと思ったぞ、ははっ」

心の中で安堵の息を吐いた。この野郎紛らわしい反応をしやがって。

「ああそれより、分証はあるか?」

「いえ、ありません」

「そうか、なら500メリル必要だ」

だからメリルとは一何なのだ。このままでは本當に怪しまれてしまう。

俺があれこれ悩んでいると、

「すまんな門兵さん、こいつのは俺が払う」

ブランが橫からそう言った。

「すまん……」

「気にすんなこんくらい」

ブランは腰に手を當ててニカッと笑う。500メリルはこんくらいと呼べる程度の金額なのだろうか。

するとブランは懐から銀の貨を五枚取り出し門兵に渡した。銀貨五枚で500メリル、ということは銀の貨一枚で100メリルということだろう。今後はこれを基準に考えていこう。

「よし、通っていいぞ」

都を許可され、俺達は門をくぐった。

門を潛った先にあった景に、思わず足を止めた。

「兄ちゃん、ここに來るのは初めてなんだろ?どうだい、ここが王都フェルマニスだ」

「………………、」

そこから見た景に思わず口が開いた。上から見たのでは分からなかった、王都の部が明らかとなった。

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口に立っただけでも、その都市の異常さがわかる。高臺に聳え立つ城を中心に、円狀に広がる街。ここから見ると、あれ程巨大だった城がかなり小さく見える。この都市の規模は計り知れない。街の通路は舗裝されていて、その道の中心を馬車が一方通行で颯爽と駆けてゆく。舗裝された通路は石で出來ているように見えるが、そこら中に立ち並ぶ建築の多くは、都市を覆う壁と同じコンクリートのような材質や赤レンガで造られているものが多い。

目を惹いたのは、あちこちを流れる水路だ。き通った水が川のように流れ、本當に街全を循環しているようだ。

さらに街ゆく人々は皆明るく笑顔で歩いている。なりもしっかりと整っていて、高い生活水準が伺えた。

街中カラフルな髪のの人間が歩いているが、その中には貓や犬のような耳や尾を取り付けた者達や、背丈の低い筋質な大人と、様々な人種が歩き回っている。これが噂に聞く五人種の人間達だろう。

城からではよく見ることが出來なかったが、この都市は異常である。何をどうすれば、これほど栄えるのか。不景気の時代に生まれた俺の目には、この世界があまりにも眩しく映って仕方ない。

この文明レベルはもはや中世ヨーロッパの域ではないだろう。誰が異世界を中世ヨーロッパのようだと言い出したのか。確かに見たじの雰囲気はそうだが、これは紛れもなく別だろう。中世ヨーロッパの街を知らない俺でも斷言出來る。魔法があるだけでこうも変わるもなのだろうか。

「な、すげーだろ? 俺も若い頃、村からこの街に上ってきた時はそりゃあ驚いたぜ」

自分のことでもないのにブランは大威張りだ。彼からすると俺はどこぞの田舎者のお上りさんに見えているのだろう。

「ほらこっちだ、俺の宿まで案してやる」

再び馬車に乗り、車道を五分ほど走ったところにそれはあった。

赤い屋に白っぽいコンクリートのような材質で造られた宿屋は、この街の中でもかなり大きめの建のようだ。パッと見た目も綺麗で新築があって、窓が沢山著いているので部屋の數もかなりあるようだ。口の扉には看板札が吊るしてあって、オシャレな文字で『宿酒場ブラン』と書かれてある。

失禮な話だが、俺が想像していたのはもっとぼろっちい木造の小さな宿屋だった。辺鄙な立地にあって客りもなくて、隠れ家として使えそうな寂れた宿屋をイメージしていた。正直に立派過ぎて驚いている。

「どうだ驚いたか、俺の自慢の店よ」

またもブランは大威張りだったが、今度ばかりは威張りたくなる気持ちも分かる。

ブランは店裏に馬車を回し終えるとさあれと店の中へ俺を連れ込んだ。

店の扉を開くと奧からケルト音楽が聞こえてきた。こういう音楽を聴いていると、今にも冒険が始まりそうな気分になる。

口をし進んだところに付があって、そこにが一人立っていた。

「ナーサさんお疲れ様〜」

「ミーナちゃん、ブランさんお帰りなさい」

ミーナが元気に挨拶すると、彼は笑顔で出迎えた。この店で働く店員だろう。ブランは定員の目の前まで俺を引っ張ると、

「おうナーサお疲れさん。急で悪いんだが、この兄ちゃんにしばらくの間一部屋貸してやってくれ。お代は無しでいい」

「え、」

驚いた。てっきり部屋に泊めてくれるのは今日明日くらいまでだと思っていた。

「しばらく、というと」

「いつでもいいってこった。好きな時に泊めてやってくれ」

「わかりました」

俺を他所に話が進んでいくので戸った。

「ま、まてブラン、ほんとに良いのか?」

「當たり前だろ、兄ちゃんは命の恩人なんだからな」

こんな優良件にタダでいつでも寢泊まりできるなんて金のない俺には願ってもない話だが、あんまりにも話が味すぎるんで何かあるんじゃないかと考えてしまう。

しかしだ、現狀怪しい點は見當たらないし、せっかくタダで部屋をくれるというのだから今更別の宿屋なんて探すのも勿ない気がする。

し悩んだ末に、俺はブランに部屋を貸してもらうことを選んだ。

「ありがとうブラン」

「いいってことよ」

ブランはニカッと笑うが、この笑顔の裏に何も無いとは言いきれない。気は抜かずいこうと思う。

その後は付を抜けて、奧の食堂へ案された。

この宿屋は一階が食堂となっていて、二階から八階までが宿スペースとなっている。食堂は広く、宿に泊まっている人は勿論酒を飲みに來ただけのやつにも席が提供される。

扉を開けた先の食堂は大いに賑わっていた。現在時刻は午後十八時半だが既に客りは多く、みな酒や食事を楽しんでいた。奧では男達がアコーディオンや笛を奏でていて、隣で踴り子の格好をしたがリズムに合わせて踴っている。それを既に出來上がった人達が歓聲を送りはやし立てていた。さっき外から聞こえたきたケルト音楽は彼らが奏でていたらしい。

ブランに案されてカウンターテーブルに座ると、近くで飲んでいた男達がブランに絡み始めた。

「よおブラン、今日も飲もうぜ!」

「今日は負けねぇぞ……ひっく」

「あー悪いな、今日は大事なお客が來てんだ。また今度な」

ブランに斷られると、男達はちぇっと殘念そうに元の席に戻って行った。中々客にも好かれているみたいだ。

「マテリナー、今帰ったぞ」

ブランがカウンター奧の廚房に張りのある聲を飛ばすと、廚房にいた茶髪の綺麗ながお帰りなさいと返事して出てきた。

「今日は俺とミーナの恩人を連れてきたぞ」

「あら、旦那と娘がお世話になりました」

は気品のある笑顔で頭を下げた。

まさかとは思うが、この人がブランの嫁だろうか。確かにミーナに似ている気がする。

ブランは強面で筋質な型をしていて、まさか宿屋の経営主だなんて思わない見た目だ。よくこんな人を捕まえられたものだと思う。

「俺の嫁さん、マテリナってんだ。人だろー?」

「あ、ああ」

どことなく腹の立つ顔でブランが話しかけてきた。人妻なんかに興味はないが、この顔で自慢されると何だかムカつくものだ。

「とゆうわけだから、この兄ちゃんにたらふく味い飯を食わせてやってくれ」

「では腕によりをかけて作りますね。えーっと、」

「あ、えと、ユウです」

慌てて本名を名乗ってしまった。そう言えばまだブラン達にも名乗っていなかった。今更名前を変えるのも変だし、とりあえずここではユウという名前で通すしかなさそうだ。

「ではユウさん、お料理お持ちしますので々お待ち下さい」

そう言ってマテリナは廚房へと戻って言った。その背中を見つめながら、こいつらだったら俺の食べる料理に毒を盛ることだって出來るんだよなと考えながら、この狀況でそれはありえないと思い直す。しかし可能はゼロじゃない。完全に気を許しては絶対にいけないのだ。

「どうした?」

俺があれこれ考えている顔を変に思ったのか、ブランが惚けた面で聞いてきた。

悟られてはいけない。ここは今後しばらく俺の活拠點となる場所だ。どれだけこいつらに上手く取りれるかは重要になってくる。うまみが無くなるまで利用し盡くしてやるのだ。

俺にあてがわれたのは八畳程の丁度いい広さの部屋だった。中にはベッドとテーブルとクローゼット、おまけにシャワーが著いている。トイレは無いが各階の端に共用のトイレがあるので特に問題は無い。城での待遇に比べたらそりゃ見劣りはするが、この部屋だって元いた世界の自室より広いし何の文句もない。多分この店は街の中でもそこそこの高級宿屋に分類されるのではないだろうか。しばらくは十分快適な生活が送れそうで良かった。

俺は數日浴びられなかった久々のシャワーを満喫したあとベッドに寢転がった。

ブランに聞いたところ、やはり俺がマグマに落とされたあの日から三日が過ぎていた。それだけの間灼熱にを焼かれ今もこうして生きていることが何だか不思議で、凄く気持ちの悪い覚だ。と同時にあの時の地獄の苦しみをし思い出して気分が悪くなった。

「はぁ……」

もう二度とあんな思いはごめんだと思うが、あの地獄があったからこそ得られたものがあった。

【雨宮優】Lv.1

別:男

種族:人間族

力:8657/8657

魔力:8657/8657

筋力:8657

:8657

敏捷:8657

覚:8657

〈AS〉

・屬魔法(熱・風・雷)

強化

・屬強化

〈PS〉

・屬(熱)

・超回復

・言語理解

〈稱號〉

・異世界人

ステータスを確認してみて、改めてドン引きする。

「レベルとかもう関係ないな……」

一神がレベル1でステータス數値が100とかだったはず。この畫面を見るに、ゲームのバクやチートなんかを連想してしまう。

盜賊と戦闘した時點で自分のの異変には気がついていたが、まさかこんなデタラメな數値になっているなんて思いもしなかった。

こうなった原因は大予想がついている。

〈超回復〉だ。

俺がこの世界に來てまだ間もない頃、俺は自の腕を羽ペンで何度か刺した記憶がある。そして次にステータスを確認すると、ステータス數値が僅かに上昇していた。

また訓練の際に桐山の放った雷魔法に直撃し電したことがある。その時もステータスを確認すると同じく數値が僅かに上昇していた。

ステータス數値の変條件は二つあり、一つ目は魔等の生を殺害しレベルが上昇すること。ニつ目は強化などのステータス上昇系のスキルを使用することだ。しかしそのいずれも違うとなれば、他の可能が存在するということ。

そこで俺の立てた仮説はこうだ。

――ダメージをける、又は回復する度に俺のステータス數値は上昇する。

絶対とは斷言できないが、これ意外に考えがつかなかった。

そこで試しに、ステータスを開いたままの狀態で腕をナイフで切ってみたことがある。痛いのが嫌だったために傷は薄く淺くを心掛けて行った。すると腕を十數回にわたり切りつけ傷が修復された瞬間、ステータスが僅かに上昇したのを確認した。これにより俺の仮説は確信へと変わった。

まとめると、

――がダメージをけて回復した際、回復量が一定以上に達するとステータス數値が上昇する。

である。

尚この世界の人間にこの特はなく、同じ異世界人である一神達にも見られなかった。つまり俺自の特ということになる。俺はそのようなスキルは持っていないはずだが、考えられるとすれば〈超回復〉であろう。傷が治った直後にステータスが上昇したのだから、なくとも回復行がこの現象の鍵ということ。そして俺の持つスキルの中で回復スキルは〈超回復〉のみである。

スキルの隠された特か、もしくはスキルの二次的な効果かは分からないが、このスキルが原因と見てまず間違いないはずだ。

しかし隨分と強くなったものだ。このステータスがこの世界でどれ程の強さかは分からないが、野盜五人くらいなら軽くあしらえる程度には強いらしい。

「これなら俺は一人でもやれる。一人でも、必ずこの世界を生き抜いてやる……」

この力があれば、右も左も分からない俺でもこの世界を生き抜くことが出來るかもしれない。もう誰かに守って貰う必要もない。大嫌いな人間どもにび諂う必要も無いのだ。

取り敢えず今後について考えようと思う。俺はブラン達に聞いた話を思い出してみる。

まず必要になってくるのが分証である。この國では分証を発行することが出來、それは々な用途で用いられる。就職する時、この都市に住居を持つ時、そしてこの都市を出りする時など様々である。その際に分証が無いと就職出來なかったり、住居を持てなかったり、あるいは門兵に金を取られたりするわけだ。

「まずは分証を発行してもらわないとな……そんでその後は」

就職。現代日本では最もシビアな問題として扱われるが、この世界ではどうなのだろう。取り敢えずタダで住める家を手にれたのだから、今この街から離れるのはどう考えても損だ。なんとか俺が生きていることがバレないように、この街で暫くは生活したい。そしてある程度金が貯まったら別の地域に引っ越すのもありだ。

「よし、何だかやれる気がしてきた」

ベッドの上で掌に右拳をパシンと打ち付けた。これから始まる新生活に、しだけを踴らせる自分がいた。

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