《捻くれ者の俺は異世界を生き抜く》19.迷宮探索
ランタンのガラスはバキバキに割れ、金屬部分はぐにゃりと経し曲がり、中に取り付けられている魔力石にはヒビがっていて、それがかろうじて腰のベルトに引っかかっている狀態だった。
ランタンのはそれは弱々しく、時折今にも消えりそうに點滅を繰り返していた。
先の発で壊れてしまったようだ。損傷したのはランタンだけでは無く、今著ている戦闘服も所々焼け焦げが空いてしまっていた。
せっかくマレに買って貰ったのに勿ないことをしてしまったが、まだ大丈夫。
実は暗闇でランタンが壊れてしまったら死活問題だと、マレが予備のランタンを買ってくれていた。おまけに戦闘服まで。
彼はかなり太っ腹だったが、一どれだけ貯金があるんだろう。ギルド員はそれ程儲かるのだろうか。
俺はボックスリングから予備のランタンと戦闘服を取り出し、使いにならなくなった方はその場に置いていくことにした。
こんなところでも貧乏が発して、何だかとても勿ないことをしている気がしてくる。
だがこれで再び視界が良くなった。
マップも無し、寶も無し、狀況は決していいと言えないが、これで他の連中にも追いつけたに違いない。そう考えていた。
革靴をコツコツ鳴らし、跡の中を進んでいく。
歩きながら、そういえばさっきの魔法はどのくらい魔力を消費したのだろうと思ってステータスを開いてみた。
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結果から言うと、消費した魔力量は158。あの威力で158なら、もっと魔力を込めればどうなっていたのだろうとゾッとしながら歩いていた。視線は自のステータスに釘付けだった。
多分それが悪かった。
ガコッと嫌な音が足元から聞こえて下を見る。沈み込んだ地面のブロックからバラバラと周囲の地面が崩れ落ちていき、
「うぁおおおおおお――!!」
悲鳴ごと吸い込まれるように地面に出來た闇に落下を始めた。
重力は正常に働き、真黒な奧へとは引き寄せられ、遂に暗闇の底をこの目で確認した所で死を覚悟した。
ダンッ。
足から著地した。人間のから発するには些か心配な音が響いたが、両足へのダメージは全く無い。
「し、死ぬかと……」
思った。
背中から冷や汗が滲み出てくるのをじながら、安堵の息を吐く。
多分五層分位の高さを落下してきたように思うのだが、それでも怪我一つないところを見ると俺のがいかに頑丈かが分かる。防8000越えはダテじゃなかった。
ランタンを手に持って周囲を照らてみると、そこが四方を壁に囲まれた六畳くらいの閉空間であることが分かった。
上を見上げてみるが暗すぎて何も見えない。多分だが崩れた床は元通り修復されているはずだから、今俺は天井まで異様に距離のある六畳間のかび臭い部屋に完全に閉じ込められたことになる。
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本當に出路は無いのかランタンの量を上げて、もう一度周囲をよく照らした。
しかしやはり扉がついている訳でも壁や床にが空いているわけでもない。何かあるとすれば丁度部屋の隅で壁にもたれ座っている人が一人いるくらいで――。
一瞬視界にってしまったそれを、脳が拒絶していた。
「――っ」
思わず手で口元を覆い被せ、何とか悲鳴を堪えた。
恐怖を押し殺し、恐る恐るを當てなおしよく見ると、それは生きた人間ではなく塵と共に朽ち果てた人のだった。
危うく口から心臓が飛び出す勢いだったが、死だと分かるとすぐに冷靜さを取り戻しそっと一息を吐く。
は完全に白骨化しており、古汚いローブのようなものをにまとっている。おそらくこいつもトラップに引っかかりこの場所に落ちて來たのだろう。
壁に寄りかかって死んでいるところを見ると、落下時に致命傷は免れたものの水も食料もないこの暗闇の中で孤獨に飢えと戦い、そして遂には息絶えたに違いない。
しかし疑問が殘る。
この迷宮は最近発見されたものだと聞いていたが、この死を見るにかなり昔にこの場所で死んだように見える。迷宮の口が発見された場所は森の中とはいえ、かなりわかりやすい位置にあった。何年何十年と前から迷宮がそこに出現していたのなら、今の今まで発見されなかったのはおかしい。もしかすると迷宮は様々な地域で幾度も現れるのかもしれない。未だ解明されていないことが多いらしいし、今俺が考えても意味は無いことだが。
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俺はの懐を漁ってみる。
金目のものでも持っていればと思ったが、懐には何もっていないし腰に差していたナイフも錆び付いていて使いにならないしボックスリングもにつけていない。
しかし白骨化した右手に何か握っているのに気づいた。
紙だ。
ボロボロで染みだらけの羊皮紙に、子供の毆り書きのような汚い文字でこう書かれてある。
――私はもうすぐ死ぬ。これを見ている君も同様だ。出口なんて無かった。絶を抱いて自害するか、最後まで希を捨てず死するか、それ以外の選択肢はここにはない。仮に出られたとしても、外にはアイツらがいる。生きて帰ることは不可能だ。己の不運を呪うがいい。
アシュラ、最後に君にちゃんと伝えたかった、していると――。
なんて使えないなんだとガッカリした。もうしになる事でも書けば良いものをこのバカめ。
普通ゲームなんかじゃこういった場所にいる骸は何かしら使えそうなアイテムを持っているものだが、現実はこんなものであった。
四方の壁をぺたぺたと手でり、隠し扉でも無いものかと調べてみた。が、やはりの最後の言葉通り出口なんて無かった。ここへ落ちた者を確実に殺す為のトラップなのだろう。
だが俺には微塵の焦りもなかった。
「壁壊すか」
なるべく避けたい最終手段ではあったが、出口がないのでは致し方あるまい。どんなに分厚い壁か知らないが、さっきの魔法で壊せない壁などある筈もない。
ただ四方あるのどの壁を壊せば良いのだろうと思い、まあ適當に壊してみるかと後ろの壁際ギリギリまで下がり、前方の壁に向けて右手を突き出した。
今度こそ上手くやる。
右手に魔力を集中させ、魔力を酸素とガスに変換し圧。
さっきはどう考えても酸素とガスを作りすぎた。今度は控えめに生する。
そして指向が甘かった。今度は発の衝撃が分散しないよう、前方の一點にのみエネルギーを収束させるイメージを持つ。
後は勇気を持って、
「行けっ!」
眼前がカッと発。
忽ち鼓が破壊される程の発音。
見えたのは青白い火炎が巨大なバーナーの如く前方にび、いとも容易く厚い壁を吹き飛ばす景。
熱を帯びた強烈な風が周囲の壁に反して吹き荒れるが、足腰を踏ん張らせて何とか凌いだ。
「…………」
嵐の後の靜けさの様な中、風圧でボサボサになった髪のまま、目をぱちくりさせて俺は目の前の狀況を見ている。部屋の隅でくたばっていたの頭蓋骨が、コロコロと転がってつま先に當たって止まった。
壁は木っ端微塵に消し飛び四メートル程のが開いていて、の縁はとろっと赤く溶解している。そのの向こうには期待通り通路が見えた。
線上に生が居たら即死は免れないだろう。
「はは、やったぞ……」
魔法が功して口元が緩んだ。
あんなしょぼい魔法しか使えなかった自分がこれをやったと思うと慨深い。そしてもしかすると、やはり自分はかなり強くなったのではと思えてくる。なくとも弱い奴に出來る蕓當ではないはずだ。しかし自惚れは良くないので、あくまで慎重で冷靜な思考は変えず進まなければならない。
が塞がる前に壁の向こうの通路に出た。ここからはまた迷路探索をしなければならないようだ。
道は左右の二手。
俺は直で右へと歩き始める。
まずは人を探したい。人さえ見つけられたら、後はマップと所持している寶を強奪するだけ。最早自分で寶を集めるなんて馬鹿馬鹿しく思えてきていた。
しかし本當に妙だ。ここにも人の気配が無さすぎる。もしかしてショートカットし過ぎたのだろうか。最初の地面破でかなり下まで落ちた後、トラップによってさらに五層分くらい追加で落下した。もし最前にいた冒険者達も追い抜いてしまったのだとしたら、これ以上下層に行き過ぎるのも不味いかもしれない。
それと、もうひとつ気になっていることがある。
ランタンで周囲を良く照らす。跡の古ぼけた壁や天井は上層と変わりないが、やけに空気が重苦しいと言うかピリピリしていると言うか。表現しにくいが兎に角、上層とは明らかに雰囲気が異なっていた。
――魔は下層に行くほど兇悪になる。
マレが言っていた言葉を思い出した。もしかして俺は、下へ來すぎたのだろうか。ここらは魔が強すぎて、既に冒険者たちが到達できる領域を超えているんじゃなかろうか。それが冒険者達の姿が見えない理由。
「…………っ」
思わず唾を飲み込んだ。
何だか急に怖くなってきて、直ちに腰の剣を引き抜く。
すると背後から重たい足音が近づいて來るのに気が付いた。
即座に振り返り、剣を構え暗闇を見據える。
「な、なんだ……」
ギョルルルと奇妙な鳴き聲が聞こえる。
ゆっくりとそいつは近づいて來る。
そして暗闇からそいつが顔を覗かせたことで、ようやくその奇怪な姿を拝むことが出來た。
丁度ダチョウくらいのサイズだった。全がトカゲのような青い鱗に覆われていて、し長めの首に鳥のような顔面と長い爪の生えた両腕には小さな翼、その重を支えるのは太い二本の足。くちばしの様に尖った口には、びっしりと鋸のこぎりみたいな歯が並んでいる。
鳥トカゲは隨分飢えた目つきで涎を垂らしながらこちらにゆっくりと近づいてくる。
奴は自分が圧倒的強者であると自覚していて、俺を蟲けら程度にしか思っていないそんな態度でゆっくりと歩いてくる。
こいつは相當強い魔に違いない、そう思った。
剣を握る手に力がった。
「なめやがって……」
心臓が音を立てて早くなる。
ここでかなきゃ死ぬだけだ。やるなら最速、一撃で決める。見たところ両腕の翼はただの飾りだろう。小さすぎて飛べないはず。そもそもこんな狹い跡で飛ばれてもどうってことは無い。それより厄介そうなのは爪と牙。見たところ二足で素早い攻撃をしてきそうな奴だ。細かい魔法はまだ當てる自信が無いし、かと言って強力なのは避けたい。
集中力が増し脳がフル回転している。悪くない覚だった。今は不思議と恐怖心は無い。
――行けるっ!
力強く大地を蹴りつけ正面から斬り掛かった。一瞬にして奴との距離がまり眼前にまで迫る。
しかしその場で再び地面を蹴り左方向へと急速転換。壁に著地する。
そのまま壁を蹴りつけ、側面から奴のガラ空きの首元目掛けて迷いなく剣を振り下ろす。
風が吹き荒れた。
俺が剣を振れば、鋭い風圧が周囲數メートルにまで及ぶ。ステータスが大きく長してからの話だ。こんな狹い場所で渾で振り抜いたりしたら、それは最早突風となった。
風に紛れて鮮が飛びう。
遅れて気味の悪い鳥頭がべちょりと地面に転がった。
確かに俺が鳥トカゲの頭を跳ね飛ばしたのだ。それを切ったが僅かに手に殘っている。
すぐ様全に熱が帯びた。レベルアップだ。
「あ、れ」
驚いたのか、安心したのか、拍子抜けしたのか、思わず変な聲がれ出た。
鳥トカゲは明らかに上層にいた奴らとは違った。それくらい分かる。絶対に強い敵だと思ったのだが、が外れたのだろうか。
しかしステータスを確認すると、
「じ、15!?」
現在のレベルだ。さっきまではレベル6だった。つまりこいつ一匹倒しただけでレベルが9も上がったということ。
魂の質はその生のレベルに依存する。レベルの高い生は魂の質も高い。生を殺しその生の魂が吸収されることでレベルが上がるこのシステム上、質の良い魂を吸収出來た方が當然レベルアップも早くなる。簡単に言うと、レベルの高い魔の方がレベルアップに必要な経験値が味い。
ということは、やはりこの鳥トカゲはこれまでの敵とは比べにならないほど強かったことになる。
俺のは當たっていた。
「でも瞬殺か……やっぱり俺って結構強い?」
今のところこの迷宮に何の驚異もじていない。トラップも大した事ないし、魔は弱い。油斷したくなくても油斷してしまう。
「とにかく進もう。ここで時間食ってる暇はない」
俺は先を急ごうと歩み始めた、その時。
「う、うあぁああああ――!!」
男の悲鳴がこの奧から響いてきた。
「あっちか!」
すぐ様駆け出した。
ようやく見つけた人の気配、絶対に見失う訳には行かない。
「ひぃぃ」
腑抜けた男の息遣いが、目前に見えた更に下層へと続く階段の奧から聞こえてくる。
迷わず飛び込んだ先で、
「おい!どうした!」
見つけたのはプレートアーマーをに付け
、ガタガタと全を震えさせ一點をただ見つめている男だった。
「おい、ここで何があった?」
「あ、あぁぁ…………」
男はまともに會話できない。
俺は一なにを見つめているのだと、男の視線の向こうへランタンを當て視線を合わせた。
「――うっ」
ゾッとして思わず口元を押さえる。
そこに広がるのは正に慘劇、と呼ぶにふさわしい地獄のような後継だった。床には沼でもあるのかと思うほど赤黒いが溜まっていて、周囲の壁にはまるでわざと傷口をり付けたと思えるほどがへばりついている。そして転がる死の山。ここだけで十人は死んでいる。
「一何なんだ……」
「あいつが、あいつがやったんだ……」
「あいつ?」
「ミ、ミノタウロスだよっ!!」
靜まり返る迷宮に、男の怯えた聲だけが反響した。
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【TOブックス様より第4巻発売中】【コミカライズ2巻9月発売】 【本編全260話――完結しました】【番外編連載】 ――これは乙女ゲームというシナリオを歪ませる物語です―― 孤児の少女アーリシアは、自分の身體を奪って“ヒロイン”に成り代わろうとする女に襲われ、その時に得た斷片的な知識から、この世界が『剣と魔法の世界』の『乙女ゲーム』の舞臺であることを知る。 得られた知識で真実を知った幼いアーリシアは、乙女ゲームを『くだらない』と切り捨て、“ヒロイン”の運命から逃れるために孤児院を逃げ出した。 自分の命を狙う悪役令嬢。現れる偽のヒロイン。アーリシアは生き抜くために得られた斷片的な知識を基に自己を鍛え上げ、盜賊ギルドや暗殺者ギルドからも恐れられる『最強の暗殺者』へと成長していく。 ※Q:チートはありますか? ※A:主人公にチートはありません。ある意味知識チートとも言えますが、一般的な戦闘能力を駆使して戦います。戦闘に手段は問いません。 ※Q:戀愛要素はありますか? ※A:多少の戀愛要素はございます。攻略対象と関わることもありますが、相手は彼らとは限りません。 ※Q:サバイバルでほのぼの要素はありますか? ※A:人跡未踏の地を開拓して生活向上のようなものではなく、生き殘りの意味でのサバイバルです。かなり殺伐としています。 ※注:主人公の倫理観はかなり薄めです。
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