《悪役令嬢は麗しの貴公子》2. 貴公子の誕生
 「マーサ、私の髪をバッサリ切ってちょうだい?」
 満面の笑顔でとんでもないことを言い出した私に対し、マーサはギョッとした表をした。
 それもそのはず。なんせ、この世界では貴族の令嬢は長い髪を日々手れしてしく見せることが嗜みの一つと考えられている。
 髪を短く、しかもバッサリ切るなんてこと普通なら有り得ないのである。
 「失禮ながらお嬢様、見たところお嬢様の髪はまだ手れをしなくとも十分しゅうございますよ?」
 「マーサ、私が言っているのは男の子のように首元まで短く切ってしいということよ。」
 「お嬢様! なんて事を仰るんですか!にとって、それ以前ご令嬢にとって髪がどれだけ大切なものであるか、お嬢様なら十分お分かりのはずでしょう?」
 マーサは珍しく聲を荒げて悲しそうに言った。そして、私の両手をマーサの手が優しく包み込んで説得するように続けて話す。
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 「ですからお嬢様、もうそんな事二度と仰らないでくださいませ。」
 ね?と言うようにマーサは微笑んでみせた。私はマーサのこの微笑みに弱い。マーサは私が小さい時から私専屬の侍をしていて、私より3歳年上だったこともあり、姉のような存在だと思っている。
 昔から、私がワガママを言うとよく今みたいに微笑んでみせるのだ。まるで、駄々をこねる子どもを諌める時のようなこの顔をみると、私は何も言えなくなってしまう。
 今回も思わず頷きそうになってしまったが、今回だけはどうしても譲れないのだ。
 「マーサ。お母様が亡くなって我が家に次期當主となり得る跡継ぎがいない今、こうする他に方法は無いわ。あんなに優しくていつも仕事が終わったら直帰してくるお父様が、仕事人間になってしまったんでしょう?」
 
 「しかし、お嬢様がそこまでしなくとも…」
 「いいえ、しなくてはいけないのよ。もし私が何かしていたら、お母様を救えてたかもしれない。私はもう、何もしないことで大切な誰かを失いたくないのよ。だから、お願いマーサ。私の髪を切ってちょうだい。」
 「お嬢様...」
 私はマーサの瞳を真っ直ぐにみてそう告げた。目の前にいる彼は、悲しそうに瞳を揺らしながら私を見つめていたが、やがて決意したように。
 「かしこまりました、坊っちゃま。それでは、飛びっきりの貴公子様にして差し上げますから、楽しみにしていてくださいませ。」
 いつものように微笑んで、鏡臺へ向かい準備をしてくれた。私が鏡臺に向かって座ると、マーサは私の言った通り髪をバッサリと切った。
 
 その瞬間、私は頭が軽くなったのをじた。
 マーサはその後、櫛とハサミを駆使して先を綺麗に整えてくれている。
 私はマーサが髪を切ってくれている最中、これからどうするか考えていた。
 取り敢えず、これまで習ってきたダンスや禮儀作法は一からやり直しだし。これからは剣・馬のレッスン、それからより男の子らしく見えるように毎日筋トレもしようかな。あとそれから、口調も男の子らしく直さないと。お父様をお手本にしたらできるようになるかしら?
 そんなことを考えていれば、いつの間にか髪は切り終えられていて。
 「終わりましたよ、坊っちゃま。」
 マーサが自信有り気にそう言うのを聞きながら、私は鏡に映る中的な容姿の男の子を見つめた。
 それはまさに、(ドレスを著ていたが)絵本に出てくる王子様のようで。思わずそっと短くなった髪に手を添えてみる。切ったばかりのせいか、先はしチクチクしてくすぐったい。
 何度かそんなことをしていると、後ろで控えていたマーサが不安そうな聲で伺ってきた。
 「やはり、後悔していらっしゃいますか?」
 「いや、おかげでサッパリしたよ。ありがとう、マーサ。ついでに服も著替えたいから、別邸にある書庫から父上が昔著ていたものを持ってきてくれないか?」
 私は後ろを振り返って微笑み、出來るだけ男の子っぽい口調と仕草で話してみせた。今も不安そうな顔でいるマーサに、大丈夫だということを伝えたくて。
 マーサは一禮して部屋を後にすると、すぐに服を抱えて戻ってきた。
 私はそれらの服に袖を通して、再び鏡を覗いてみる。そこにはもう、悪役令嬢ロザリー・ルビリアンの姿はない。いるのは、どこからどう見ても公爵令息の私だけ。
 
 うん、思った通り悪くない。服のサイズもピッタリだし、髪や瞳のともよく似合っている。
 「よくお似合いですよ、坊っちゃま。」
 マーサが褒めてくれたから嬉しくてニコニコしてしまった。けれど、大事なのはここから。
 「マーサ、父上に大切な話があるから今日はなるべく早く帰ってきてもらうよう伝えてくれ」
 「かしこまりました」
 一禮して、先程いだドレスを持ったマーサは私の部屋を後にした。我が家の使用人は優秀な者ばかりだから、すぐにでもお父様に伝えてくれるだろう。
 お父様は、今の私の姿を見てどう思うだろう?私はしの不安と期待をに、お父様が帰ってくるのを待った。
中々キャラが登場しない(;´・ω・)
次回はようやくお父様を登場させられます。
お待たせして申し訳ないです!
文章の一部を修正しました。
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