《悪役令嬢は麗しの貴公子》3. 決斷

 

 夕方。空は茜に染まり、遠くにひっそりと月が顔を出し始めた頃、マーサが私を呼びに來てくれた。

 「坊っちゃま、旦那様がお帰りになられました。」

 「分かった、すぐ行こう。」

 どうやらちゃんとお父様に伝えてくれたらしく、要通り早く帰ってきてくれたようだ。私は座っていた椅子から立ち上がり、マーサと共に玄関ホールへ迎えにいった。

 

 ……

 玄関ホールまで行くと、お父様と執事長のセリンが何か話していた。お父様は、私の姿を視界にれた瞬間驚いた顔をして固まってしまった。そして、私の全を観察するように上から下まで一通り見ると、まさか、と言いたげな表で私に問うた。

 「......ローズ? その格好は…」

 「お久しぶりですね、父上。驚かせてしまってごめんなさい」 

 

 微笑みながらお父様の側まで行くと、お父様は膝を折って私と目線が合うようにしてくれた。そして、短くなった私の髪を大きな手で何度も優しく梳いてくれる。

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 お母様が亡くなる原因が私(ロザリー)だったから、きっと私のことを責めてくるんじゃないかと不安に思っていたが、杞憂だったらしい。

 その事が嬉しくて、私は髪を梳いてくれているお父様の手に頭をり寄せた。すると、お父様は戸いつつも目を細めて今度は私の頭をでてくれた。

 それがまた嬉しくてもうしこのままでていてほしいと思ったが、お父様はおもむろに私の頭から手を下ろすと真剣な顔で話しかけてきた。

 「ローズ、どうしてこんな事を…」

 

 「...父上は、し會わない間に痩せましたね」

 誤魔化した訳では無いけど、上手い言葉が見つからなくてそれだけ言って微笑むだけになってしまった。そんな私の様子をどうけ取ったのか、

 「私の為か…」

 そう一言呟いて、顔を歪ませて俯いてしまった。

 「いいえ、父上。私がこうしたのは、母上の為です。」

 それを聞いたお父様は、顔を上げて私を見つめた。

 「クレアの為...?」

 「はい。母上が亡くなる直前、私は母上に『お父様をお願い』と言われました。私は母上のことを守れなかったので、せめて母上の最後のお願いだけでも守りたいと思ったんです。」

 私と同じ銀の瞳を真っ直ぐ見つめる。お父様も目を逸らさず、しっかり私の目を見つめ返してくれた。

 しの間、そうして互いを見つめ合っていたが、やがて観念したようにお父様がため息をついた。

 「お前のその頑固なところは、私に似てしまったようだな。」

 お父様はそう言って一度肩を竦めて苦笑したが、すぐに父親ではなくルビリアン公爵家當主の顔になった。

 「本當にいいんだな、ロザリー。」

 「はい。髪を切り捨てた時から覚悟は出來ております。」

 「お前がこれから歩もうとしている道は、酷く険しい。途中で逃げ出すことは決して許されない。それでも進むというのなら、私からはもう何も言うまい。しっかり勵みなさい。」

 「承知致しました。」

 私はその場で膝を折り、以前お父様がお母様にしていたのと同じように紳士の禮をした。私の返事を聞いたお父様は、普段の父親の顔に戻ると笑顔で私の手をとって歩き出した。

 「さて、思ったより隨分話し込んでしまったね。夕食が冷めてしまっているかもしれない、早く食事をして今日はもう寢よう。」

 「はい、父上。」

 基本的に、公爵家で出される食事は使用人達によって完璧に管理されてるため、冷めてしまっているなんてことはないのだが。それを承知の上で、お父様はそんなジョークを言う。

 私は、お父様と繋いでいる手を握り返して微笑んだ。

 夕食というには時間が経ち過ぎてしまったが、前世の記憶を取り戻してから食べる料理の中では、今日のが一番味しかった。

 

 一部、修正しました(5月23日)

 書きたい容が多すぎて中々進行しませんが、引き続き読んでいただければ嬉しいです。

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