《悪役令嬢は麗しの貴公子》7. お仕事見學

 

 暖かな日差しと心地良い風が吹く、まさにお晝寢日和な本日。私とニコは、お父様の仕事の付き添いでツィアーニ侯爵家へ來ていた。

「やぁ久しいね、ツィアーニ侯爵殿。貿易の方はどうだい?」

 「お久しぶりです、ルビリアン公爵殿。まずまずと言った所でしょうなぁ」

 「そうかい、変わりなくて安心したよ。今日は、私の付き添いで息子達が來ていてね」

 お父様に背中をポンと押され、私とニコは1歩前に出て挨拶をした。

 「お初にお目にかかります、ロザリー・ルビリアンと申します。お會い出來て栄です」

 「同じく、ニコラス・ルビリアンです。本日は、どうぞよろしくお願いします」

 ニコは私に出會った時の様に表を崩さず素っ気ない。ニコ、禮儀作法は完璧なのにそんな無表で聲も冷たいと臺無しだよ…。

 私はニコの行しヒヤリとしたが、侯爵は気にした様子はみせなかった。

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 「これはこれは、ご子息方でしたか。私は、外を務めているアーサー・ツィアーニです。私にも息子がいるので、お會いした時は仲良くしてあげてください」

 「はい、是非」

 事前にお父様からツィアーニ侯爵の人柄については伺っていたが、紳士で和な方だというのが第一印象。

 彼の息子については、お父様も會った事がないと言っていたが、私は既に知っている。正確には、學園學後の彼・・・・・・・の事を。

 クラン・ツィアーニ。外の1人息子で、學園では私やヒロインより1つ年上の先輩というポジションにいる攻略対象者である。

 挨拶もそこそこに、私達はお父様達の後に控えて協議の様子を見學することになった。お父様、侯爵共に溫和な格の為、協議中も割と和やかな空気が流れている。

 だが、今の私が心から思っていることと言えば早く家に帰りたいという事だけだった。

 遡ること、1週間前ーーーー

 「父上、勉強の為に仕事の手伝いをするのはいいのですが、何故協議に付き添う必要が?」

 私はいつぞやの目が笑っていない笑顔でお父様に詰め寄っていた。

 「いや、まぁ、その...これも1つの経験だs...」

 「私のデビューは來年の建國記念日だと仰ったのは父上では?」

 話が違うじゃないかと言わんばかりに口の端を上げてみせる。

 「そう、なんだが…。デビュー前の予行練習にいいかと思ってな?」

 お父様、それを世間一般では余計なお世話と言うのですよ。しかも、よりによって相手が攻略対象者の父親、ツィアーニ侯爵だなんて。クランに會う確率大でしょうが。

 なるべく関わらないように生きていきたいのに、どうしてこうなるのか。最悪、何かしらの理由をつけて行かなければいいのだろうが、どうせ學園で會うことになるのだ。

 不本意だが、ここで渋っても意味が無いと判斷した私は了承することにした。

 「...分かりました、これも勉強ですから」

 そっぽを向いてそう言う私に、お父様は困ったように目を下げたのだった。

 ーーーそして、現在に至る。

 まぁ協議と言っても、互いの現狀報告會と言う方が正しい。我が國は他國との貿易も行うことが多く、資の輸出や得られた利益によって財務が左右される。

 その為、定期的にこういった報告會が行われるのだという。

 と言うか、後に控えているだけなら私達が來る必要なかったんじゃないか?とすら思えてくる。隣をチラリと見ると、ニコは無表のまま壁の花になっているが瞼がし重そうだ。

 「ニコ、眠い?」

 私は、お父様達の會話の邪魔にならないように小聲でニコに尋ねた。

 「だ、大丈夫です」

 ニコは眉を八の字にして微笑んだ。いや、しウトウトしてるし絶対眠いでしょ。

 ...まぁ、こんな天気のいい日にお父様の後でただつっ立って協議の見學となれば眠くもなるか。

 お父様達が協議し始めて、そろそろ1時間経つ。流石に私も腳が痛くなってきたし、ニコを連れて一度退出しようか悩んでいると、侯爵と目が合った。

 「すまないね、長くなってしまって。大の話は済んだから、君達は別室でゆっくりしてくるといいよ」

 私は判斷に困ってお父様を見ると、お父様は私とニコに微笑んで頷いた。

「行っておいで、二人とも。でも、折角だから港の方を見に行ってきたらいい」

 「港、...ですか?」

 私とニコは揃って首を傾げた。すると、お父様達はクスリと笑って教えてくれた。

 「ここへ來た時、の香りがしただろう?ツィアーニ侯爵家の敷地は、そのまま王都ここにある港の一部に通じていてね。それもあって、輸の管理もスムーズに進められているんだ」

 程。確かに、外するにはうってつけの敷地ですね。私達が納得していると、侯爵が片手を上げて使用人を呼んできた。

 「案させるので、どうぞご覧になってきてください。きっと、私の息子もいるでしょうから」

 げっ...、噓でしょ。思わず頬を引き攣らせたが、お父様達には気づかれていないようで安堵した。だが、お父様が侯爵に同調して頷いた為、私は逃げ場を失った。そして、渋々ニコと一緒にドアを開けて待機していた使用人の元へ向かったのだった。

 

 気乗りしないまま、部屋を出て歩いているとニコが目を輝かせて尋ねてきた。

 「僕、港に行くの初めてです。兄上は行ったことありますか?」

 「私も初めてだよ。楽しみだね」

 心にもないことを言う私にニコは「はいっ!」と口の端を上げて笑った。それを見た私も自然と頬が緩む。

 ......うちの弟が可い。今ではすっかり仲良しになったニコとの関係。

 一先ず、ニコラスルートのフラグ回避は功しているみたいだ。だが、さっき侯爵が言っていた彼の息子のクランはどうだろう。

 しかも、これから向かう港にいるだなんて。今日の協議のじだと會わなくて済むと思ってたのに、シナリオ通り進んでどうするの。これじゃぁ、男裝までした意味がぁ...!

 私が頭の中で思い切り天を仰いで嘆いていると、ニコが心配そうに私の顔を覗いてきた。

 「兄上、どこか合でも悪いのですか?」

 「っ! いや、問題ないよ」

 何でもない風を裝って微笑むと、ニコはそれ以上追求はせず、また前を向いて歩き出した。

 取りすと直ぐに顔に出る癖なんとかしないとなぁ…。

 

 それから港に著くまでの間、私はニコの隣でそんなどうでもいい事を考えていたのだった。

 

(おまけ)

 「ところでニコ、協議中ずっと眠そうだったけど大丈夫?」

 「ぇ、はい。きっと、昨日遅くまで勉強してたからそのせいかも」

 「そう? あまりを詰め過ぎないようにね」

 「は、ははは…」

 

 本當は『兄上と一緒に父上の仕事の手伝いが出來ることが嬉しくて眠れなかった』なんて言えないニコラスだった。

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