《悪役令嬢は麗しの貴公子》8. ルビーの笑顔
 のを反してキラキラと輝く一面の蒼と、そこに浮かぶいくつかの木造船。
 海なんて、本當に久々だなぁ…。
 活気に溢れた港の通路を歩きながら、目の前に見えるしい風景にふとそんな事を思った。
 「見てください、兄上! 見たことないが沢山ありますよ」
 ニコは船から運び出される多くの荷の山をキョロキョロと忙しなく首を振って見ている。
 「本當だ。...因みに、ニコの側にあるその花は藤の花、そっちの奧にあるのは『シーズン』という酒の種類の一つだよ」
 「へぇ...よく知ってますね兄上。じゃぁ、これは何ですか?」
 ニコが指した先には、硝子ケースの中にチョコンと収まっている小さな金のカラクリが1つ。
 「あぁ、それは...」
 「そいつは『オルゴール』っつう機械仕掛けの楽の1つさ」
 説明しようとして、突然後から聲がかかる。驚いて振り返ると、そこには屈託のない笑顔を向けてくる年がいた。
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 「...どちら様ですか」
 ニコは、私より一歩前に出ると靜かに警戒する様に年に問うた。
 「ハハッ、まぁそう警戒すんなよ。俺はクラン・ツィアーニ。アンタらは、ルビリアン公爵家の子だろ?」
 「…ツィアーニ侯爵のご子息とは、貴方のことですか」
 「そっ。で、そっちは? 俺はちゃんと名乗ったぜ」
 ニコの警戒心の強さも凄いが、まるで気にしていない様子のクランもそれはそれで凄いな…。
 なるべく會いたくなかった人に早速會ってしまった殘念と、目の前の狀況に気落ちしてしまう。
 「名乗るのが遅くなって申し訳ない。私はロザリー・ルビリアンと申します。こちらは弟のニコラスです。」
 「.........初めまして」
 私はニコの隣に立って挨拶をしたが、ニコはクランの事を睨んだまま。
 よろしく、と言わないあたり相當クランを警戒しているようだ。
 「ロザリーとニコラス、か。よし覚えた。これからよろしくな」
 「えぇ、こちらこそ」
 ニコの冷たい眼差しを気にもとめず、人懐っこい笑顔で手を差し出してきたので握り返すと上下に勢いよくブンブン振られた。
 驚いて危うく笑顔が引き攣りそうになったのをグッと堪えて話題を変える。
 「綺麗な赤ですね」
 「まぁな。ツィアーニ家の者だってすぐ分かっていいだろ」
 ツィアーニ侯爵家と言えば、代々燃えるような赤髪と赤い瞳の容姿で有名だが、クランもそれをしっかりけ継いでいる。
「ふふ、確かに。そのピアスともよく似合っていて素敵ですね」
 「だろ? 気にってんだ、これ」
 左耳だけに付けている大きなルビーのピアスは、クランの笑顔を引き立てるようにを反して輝いていた。
 2人で盛り上がっていると、いきなりニコが割り込んできて私からクランの手を引き離した。
 「...いつまで握手してる気ですか、さっさと離れてください」
 「お、嫉妬かぁ?」
 「...貴方には関係ありません」
 相変わらず眉間に皺をよせてクランに威嚇しているニコに対し、クランはケラケラと愉快そうに笑っている。
 普通、ここまでされたら無禮だと叱咤してもなんらおかしくはないんだが…。私は心で頭を抱えた。
 「ニコ、いい加減にしないか。流石に無禮が過ぎるよ」
 「............はい、兄上」
 全く納得していない顔のニコだったが、渋々威嚇するのを止めてくれたので「いい子」と頭をでてあげる。
 若干不貞腐れてはいたが、頭をでられるのが嬉しいのかそのまま大人しくでられていた。
 「なんか兄弟って言うより、主人と忠実な番犬ってじだな」
 私達のやり取りを見ていたクランは、関心したように頷いている。
 呑気な人ですね、という言葉を飲み込んで私は弟の非禮を詫びた。
 「クラン殿、弟が失禮しました」
 「いいよ、気にしてねーから。でも、殿とか敬語は止めてくれ。堅苦しいのは嫌いなんだ」
 「分かりm...分かった。では、私のこともローズと呼んでほしい」
 「ん、了解。ニコラスは...」
 クランは暗にニコと呼んでも?と言いたげにニコに視線を向けたが、ニコは嫌悪たっぷりに顔を歪ませた。
 「呼んだら海に突き落とします」
 
 「ぁ、やっぱ何でもないわ」
 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くニコとその様子に苦笑するクラン。
 仲がいいんだか悪いんだかよく分からない2人のやり取りを眺めながら、私はやれやれと肩を竦めたのだった。
 
 クラン・ツィアーニ。
 現在12歳でロザリーより1つ年上。父の跡を継ぐための勉強として外に関わっており、実際に船に乗って諸外國へ調査に行くこともある。
 ツィアーニ侯爵家特有の赤い髪と瞳を持つ年。同じルビーの大きなピアスを左耳のみ付けているのも特徴的。
 
※修正しました。
 
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