《悪役令嬢は麗しの貴公子》12. 対面(後編)

 「…ニコラス、と言ったか。お前は當主の座をむか?」

 シンと靜まり返る部屋の中、祖父は真剣な目でニコに問う。真偽を見定めるように。

 「みません。僕のみはただ一つ」

 力強く答えたニコの瞳には、強い意思が宿っていた。その瞳は、祖父から私へと移される。

 「兄上を、僕を救ってくれた大切な恩人を支えることです」

 穏やかな笑顔でハッキリそう告げると、再び祖父の方を向いた。

 「なので、それ以外のことには興味がありません。ご安心を」

 嗚呼、私の義弟はいつからこんなに強くなったのだろうか。

 いつから、こんなに頼もしくなったのだろうか。

 義弟の長を噛み締め、緩みそうになる口元を引き締めて私も祖父へ顔を向ける。

 「だそうです。私個人としては、ニコが當主になっても上手くやってくれると思いますが、本人の意思を尊重したい。何より、彼の忠誠心は筋より得がたいものだと自負しております」

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 私も次いで迎撃するが、祖父はニコから目をそらすことなく見つめている。

 「忠誠心などあって當たり前でしょう! 公爵家が養ってあげているんだから、それくらい當然だわ!」

 祖母の言葉に私は眉を顰めた。

 『當たり前』な訳がないでしょうが。忠誠心というのは、お金を払えば買えるような安いものじゃない。

 先程から表面的な部分しか見ようとしない祖母の発言に苛立ちが募る。お母様の一件もあるから余計に。

 「……そうか」

 更に口を開こうとする祖母とそれに応戦勢をした私の間に、祖父の気の抜けた小さな呟き聲が聞こえた。

 そのままソファーから立ち上がった祖父は扉の方へとスタスタ歩き、部屋から出ていってしまった。祖母も困した顔で祖父の後を追うように出ていった。

 私達も互いに顔を見合わせ、訳が分からないがとりあえず祖父達の後を追うことにした。

 部屋を出れば祖父達は既に玄関にいて、メイド達がオロオロしているところだった。

 え、もしかして帰るの? どんな急展開だよ。

 「ロザリー」

 玄関まで急いでいけば祖父から唐突に名前を呼ばれた。反的に『はいっ!』と返事を返す。

 「お前が當主になった時、弟を捨てなかったことを後悔するだろう」

 「しません。絶対に」

 

 即答した私に祖父は目を細めた。

 「…今・は、それで良しとしよう」

 引っかかる言い方をしたかと思えば、踵を返して『帰る』と一言言って本當に帰ってしまった。

 祖母はそんな祖父においていかれないようにギャーギャー文句を言いつつ小走りで追いかけて行った。途中、キッとこちらを振り返って睨みつけたがそれだけだった。

 

 ……何しに來たんだ、あの人たち。泊まるんじゃなかったのか。

 「何しに來たんでしょう、彼らは」

 ニコとは意見がよく合うな。流石私の弟。

 全くだ、とため息混じりに呟いてニコに同意する。

 「まぁ何はともあれ、今日の目的は達出來たし良かった良かった」

 を鳴らして満足気に笑ったお父様は、軽い足取りで居間へと一人で行ってしまった。

 目的って何。なんでそんな満足気なの。

 

 

 「おや、セリンから聞いていなかったかい? 今日は顔合わせとローズが跡取りってことを言うことが目的だったんだよ」

 

 『まさかニコラスを跡取りに推薦するとは思わなかったけどねぇ』とお父様は楽しそうに笑っている。

 居間ではソファーに座った私達にメイド達がお茶を用意してくれていた。

 いや聞いたけど。聞いたけどさ、あれで良かったの? 知らないよ? 私達。

 「僕も驚きました。まさか兄上が僕のことそ…そんなに、その…高く評価してくれてたなんて」

 恥ずかしそうに顔を赤らめながら言うニコが可くて、一気に顔がだらしなくなる。

 「當たり前だろう。ニコが努力していることは私や父上、屋敷の皆がちゃんと分かってる」

 

 頭をでてやると嬉しそうに微笑んでくれた。……可い。

 「とりあえず、これで當分は先代たちも大人しくしてくれるんじゃないかな」

 「どういうことですか? 父上」

 安心した表でお茶を飲んでいるお父様に問うと、遠い目をして答えてくれた。

 「ニコラスの報をどこで得たか知らないけど、ローズのことはずっと隠し続けてたからね。クレアが亡くなって、嫡男こどもがいないなら再婚しろって煩くて」

 

 あぁ…あの祖父母なら言いそうだな。安易に想像出來て思わず苦笑してしまう。

 

 「申し訳ありません、父上。私がもうし上手く立ち回れれば良かったのですが…」

 半分けんか腰で対応してしまったが、あとになって考えると隨分やらかしてしまったものである。

 「いや、むしろ謝らなければならないのは私の方だ。私達のいざこざにお前達を巻き込んでしまったのだから」

 『すまない』と言ったお父様は、私が男の子になると決意したあの時と同じ顔をしていた。

 私はなんて聲をかければいいか分からず思案していると、隣から毒を吐く聲が聞こえた。

 「確かに養子むすことしてはこれ以上ないほどいい迷ですね」

 「ニコラス…、お前は本當に父に優しくないな」

 「はて。これ以上ないくらい優しくしているつもりですが」

 爽やかスマイルで言いきったニコにお父様は絶句していた。

 

 ニコは我が家で唯一お父様にだけは何故か対応が冷たい。いや、むしろを持って隠さない分マシと言うべきか。

 …本當はお父様のこと、當主としても財務長としても、そして何より父親としてもすごく尊敬しているって言ってたくせに。

 お父様がいない時に、ニコがキラキラした目でそう語っていた姿を思い出して笑ってしまった。

 「くっ…ローズ、お前まで笑うことないだろう」

 笑った私を見て、勘違いしたお父様はさらに落ち込んでしまった。ニコはそんなお父様を呆れた目で見ながらお茶を飲んでいる。

 「父上、せっかく時間が余ったのですから久々に家族3人でたくさん話しましょう。父上のことをもっと教えてください」

 さすがにお父様がかわいそうだと笑いを噛み殺してフォローすると、お父様はすぐに立ち直ってくれた。

 「ローズ…、我が子ながらなんていい子なんだ。ニコラスも見習いなさい」

 「ハァ…これじゃどっちが大人なんだか」

 心底呆れた表で呟いたニコだったけど、やはりお父様と久々に話せるのは嬉しいのかその後は積極的に會話に參加していた。

 

 祖父母が來ると聞いた時はどうなることかと不安だったけど、正式に跡継ぎとなれて安心した。

 

 だからだろうか。この後出會う彼ら・・とのイベントを、この時の私はすっかり忘れていたのである。

 書いてみて思ったのですが、この2話分空気の溫度差凄いですね(苦笑

 そして祖父の格全然違うなぁと思いました。人の格って難しい……。

※クレアはお母様の名前です

 本日もありがとうございました(´˘`*)

次回もお楽しみに。

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