《悪役令嬢は麗しの貴公子》#閑話 side ヴィヴィアン
 「何があったんだい、アル?」
 「なんだ藪から棒に。お前らしくもない」
  「誤魔化さないでくれ。
 これまで散々ご令嬢達とは深く関わろうとしなかった君が、急にリディア嬢にだけ優しくなったんだ。何かあったと思うのが普通だろう?」
 「大したことはしていない。別に普通だろう」
 「……そんな噓が俺に通用するとでも?」
 「隨分と信用されてないんだな、俺は」
 形の良い眉を下げて苦笑するアルバートをジトリと睨む。
 本當はぐらでも摑んでさっさとアルバートの本音を全部吐かせてしまいたいが、それをできるような場所ではない為にぐっと堪える。
 俺達が今いるのは、王都にある最も古い歴史を持つ大神殿。
 つい先日、アルバートとリディア嬢本人の証言のもと、彼が本の聖であるか検証する為に裏にここへ來ている。
 とは言ってもリディア嬢は現在、聖検証の真っ只中であり、俺達は神殿にある別室で待機している訳だが。
Advertisement
 陛下からリディア嬢との一件を書類に纏めて提出するよう言われた時も、陛下が彼との婚約を匂わせる発言をした時も、アルバートはあっさりと従った。
 これまでのように反抗するでもなく、ただ微笑んで頷いたのだ。
 俺は不敬にも、そんなアルバートがどうしようもなく薄気味悪く思えた。
 
 「…本當にいいのかい?」
 
 「何がだ」
 「リディア嬢が聖だと証明されれば、彼と婚約することになるかもしれないんだろう? 
 君、あんなにロザリーに拘っていたじゃないか」
 「そうだな。…だから?」
 「だから、って…。君、ロザリーを好いていたんじゃなかったのかい?」
 初めから何もなかったように冷めた反応を示すアルバートに違和をじる。
 なくとも俺が知っているアルバートは、ロザリーを見つけた瞬間には瞳を輝かせてらかく微笑んでいた一人のする年だった。
 けれど今、目の前にいる彼は。
 「ふっ…く、ふはははッ!」
 何が面白かったのか、急に顔を片手で覆って嗤いだしたアルバートの狂気的とも言えるその笑みに背筋がゾクリとさせられる。
 彼は、俺の知っているアルバートは、こんな風に嗤う男だっただろうか。
 「何か可笑しなことを言ったかい?」
 「いいや。ただ、お前がそんな事を気にしていることに驚いただけだ」
 「そんな事、って…。君にとっては」
 「そんな事、だろう? お前達にとっては・・・・・・・・」
 「……」
 アルバートは俺の言葉を遮って小馬鹿にしたように目を細める。
 お前達にとって俺の気持ちなんてどうでもいいんだろう?、と見かしたように仄暗い瞳が語っていた。
 「そろそろ検証が終わる頃だろう。俺はリディアを迎えに行く」
 何も言い返せないでいる俺を鼻で嘲笑い、さっとソファから立ち上がったアルバートは一人で部屋を出ていってしまった。
 俺を突き放すような冷たい聲が、お前は來なくていい、と言われているようで途端にがかなくなる。
 (いつもならそれが當たり前みたいに『著いてこい』と言う癖に)
 「本當に、どうしてしまったんだいアルバート?」
 彼が出ていった扉を見つめて一人ごちる。
 ロザリーがいなくなっただけでこうも変わるとは思ってもみなかった。
 ……それも、悪い方向に。
 「クソっ」
 部屋に一人なのをいいことに、髪をガシガシと掻いてやり場のないモヤモヤしたを汚い言葉と共に吐き出す。
 いつもの、俺の知っているアルバートなら、こんな風になる前に俺を頼ってきてくれていただろう。
 いや、そもそもこうなる前から片鱗は見え隠れしていたし、俺自もそれに気づいていた筈だ。
 「ハハッ…また、やらかしたみたいだね」
 乾いた笑いが口かられる。
 アルバートがロザリーに友以上の想いを抱いている事に気づいた時のように、今回もまた、アルバートの心が壊れかけている事に気づいていて目を背けた。
 その結果がコレだ。
 全くもって自業自得。
 稽すぎて笑えもしない。
 確かにこんな男に頼れという方がどうかしている。
 した髪を整え直し、ついでに心も落ち著かせようと深呼吸をしていれば、アルバートが出ていった扉が開く音がする。
 靴音だけで誰か分かってしまい、嫌気が差したが顔には笑みをり付けて振り向いた。
 「忙しいからここへは來られないと言っていたのにどういう風の吹き回しですか、父上」
 「可い息子のことが心配でね、途中で切り上げてきたんだよ。まぁ案の定、また殿下をお一人にしてサボっていたようだけれど」
 
 「酷い言われようですね。
 今回は殿下が俺の同行をまれなかったというだけですよ」
 
 「ほぉ…つまり、主人に言われた『待て』を律儀に守っているだけだと主張するのかな?」
 聲音は穏やかな筈なのに、まるで咎めるようにダニエルは告げる。
 やれやれと肩を竦める父親の姿に、ヴィヴィアンはこれから説教が始まる事を確信して両手を背に組んだ。
 「従順であるだけの犬は必要とされないんだよ、ヴィヴィアン。
 君が、常に二手三手先を考えて行しない犬だから殿下に『待て』を強いられたんじゃないかな」
 「それは…」
 「 全く君は母親に似て現実逃避する癖があるし、せっかく賢いのにそれを上手に活用できていないなんて」
 嘆かわしい、と非難でないただの事実の指摘に最早なにも言葉が出てこない。
 を引き結び、父親からの駄目だしに耐えるヴィヴィアンを、ダニエルは楽しそうに眺めている。
 こんな父親の姿にも慣れたが、相変わらずが歪んでいると思わざるを得ない。
 「まぁいいさ。そろそろ時だ。殿下の価値も下がってきた頃だし、アレでは使いにならないだろうねぇ」
 淡々と、宰相としての顔と聲でダニエルはそう告げた。
 例え、相手が自國の王子だろうと不要なら切り捨てる。
 ブレないなこの人は、と私など一切含ませない判斷を下した宰相に頬が引き攣りそうになった。
 「しかし、ここで殿下と手を切るのは時期尚早かと」
 「俺は何も今すぐ殿下を切り捨てるとは言っていないじゃないか。早合點するのは良くないよ、ヴィヴィアン。
 それにね、俺は立場上、安易に陛下を裏切れない」
 その點ではどっかの公爵家は気楽でいいよね、とダニエルは呑気に微笑んだ。
 「では、どうされるおつもりで?」
 「それは態々わざわざここで話すことでもないよ」
 そこで話を打ち切るように今しがたってきた出口の取っ手に手を置いたダニエルは、自の息子に皮げな笑みを向けた。
 「それでは我々も祝いに行こうか。
 新しい聖様の誕生を」
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
  
【最強の整備士】役立たずと言われたスキルメンテで俺は全てを、「魔改造」する!みんなの真の力を開放したら、世界最強パーティになっていた【書籍化決定!】
2022/6/7 書籍化決定しました! 「フィーグ・ロー。フィーグ、お前の正式採用は無しだ。クビだよ」 この物語の主人公、フィーグはスキルを整備する「スキルメンテ」が外れスキルだと斷じた勇者によって、勇者パーティをクビになった。 「メンテ」とは、スキルを整備・改造する能力だ。酷使して暴走したスキルを修復したり、複數のスキルを掛け合わせ改造することができる。 勇者パーティが快進撃を続けていたのは、フィーグのおかげでもあった。 追放後、フィーグは故郷に戻る。そこでは、様々な者にメンテの能力を認められており、彼は引く手數多であった。 「メンテ」による改造は、やがて【魔改造】と呼ばれる強大な能力に次第に発展していく。 以前、冒険者パーティでひどい目に遭った女剣士リリアや聖女の能力を疑われ婚約破棄されたエリシスなど、自信を失った仲間のスキルを魔改造し、力と自信を取り戻させるフィーグ。 次第にフィーグのパーティは世界最強へ進化していき、栄光の道を歩むことになる。 一方、勇者に加擔していた王都のギルマスは、企みが発覚し、沒落していくのだった。また、勇者アクファも當然のごとくその地位を失っていく——。 ※カクヨム様その他でも掲載していますが、なろう様版が改稿最新版になります。
8 68デスゲーム
普通に學校生活を送り、同じ日々を繰り返していた桐宮裕介。 いつもの日常が始まると思っていた。実際、學校に來るまではいつもの日常だった。急に飛ばされた空間で行われるゲームは、いつも死と隣り合わせのゲームばかり。 他の學校からも集められた120人と共に生き殘ることはできるのか!?
8 182世界がゲーム仕様になりました
『突然ですが、世界をゲーム仕様にしました』 何の前觸れもなく世界中に突然知らされた。 何を言っているかさっぱり分からなかったが、どういうことかすぐに知る事になった。 普通に高校生活を送るはずだったのに、どうしてこんなことになるんだよ!? 學校では、そんな聲が嫌という程聞こえる。 外では、ゲームでモンスターや化け物と呼ばれる今まで存在しなかった仮想の生物が徘徊している。 やがてそれぞれのステータスが知らされ、特殊能力を持つ者、著しくステータスが低い者、逆に高い者。 ゲームらしく、勇者と呼ばれる者も存在するようになった。 そして、 ステータス=その人の価値。 そんな法則が成り立つような世界になる。 これは、そんな世界で何の特殊能力も持たない普通の高校生が大切な人と懸命に生きていく物語。 ※更新不定期です。
8 192日本円でダンジョン運営
総資産一兆円の御曹司、笹原宗治。しかし、それだけの金を持っていても豪遊はしなかった。山奧でひっそりと暮らす彼は、愛犬ジョセフィーヌと戯れるだけのなんの変哲もない日々に飽きていた。そんな彼の元に訪れた神の使いを名乗る男。彼との出會いにより、ジョセフィーヌと供に異世界でダンジョン運営をすることに。そんなダンジョンを運営するために必要だったのが、日本円。これは、笹原宗治がジョセフィーヌと供に総資産一兆円を駆使してダンジョンを運営していく物語。
8 72僕は精霊の王と契約し世界を自由に巡る
僕は生まれながらにして、不自由だった 生まれてからずうっと病院で生活していた 家族からも醫者からも見放されていた そんな僕にも楽しみが一つだけあった それは、精霊と遊ぶことだ 精霊は僕にしか見えなかったがそれでも精霊と遊んでいるときはとても楽しかった 僕は死んだ だが、異世界に僕は転生した! その世界で僕は精霊の王と契約し自由に生きていく
8 180俺だけ初期ジョブが魔王だったんだが。
203×年、春休み。 ついに完成したフルダイブ型のVRMMORPGを體験する為、高校二年になる仁科玲嗣(にしなれいじ)は大金をはたいて念願のダイブマシンを入手する。 Another Earth Storyという王道MMORPGゲームを始めるが、初期ジョブの種類の多さに悩み、ランダム選択に手を出してしまうが... 設定を終え、さぁ始まりの町に著い... え?魔王城?更に初期ジョブが魔王? ......魔王ってラスボスじゃね? これは偶然から始まる、普通の高校生がひょんなことから全プレイヤーから狙われる事になったドタバタゲームプレイダイアリーである!
8 121