《竜神の加護を持つ年》62.コータの決意

深夜の森に、炎の赤が良く映える。

ここに來る前に立ち寄った、兎の獣人の親子を殘してきた方角から、真っ赤な炎が立ち上っているのが、遠く離れたここからでも、良く見えた。

空にはもくもくと煙があがり、炎が煙を照らし空が燃えている様な錯覚すら覚えるほどだ。

俺は、他の娘達をその場に置いて、クロと共に炎が立ち昇る場所まで急いで駆けつけた。

駆けつけた場所は、やはり俺達が立ち寄ったあの村で――村は軍隊に囲まれ村の獣人の姿は見えない。

なんだこれ?

なんだよこれ!

今朝、出立する時は村人総出で見送ってくれたのに、今は村を取り囲んでいる兵隊の姿だけしか見られない。

俺は、クロに降ろしてもらい取り囲んでいる兵の數人を蹴り飛ばし、り口を確保して村の中へとる。

中には、夥しいの匂いと獣人の死が転がっており、その中にはあの親子も居た。

おそらく、子供を庇おうとしたのだろう。お母さん兎が子供に覆い被さる様にして死んでおり、子供も、恐らくその後で刺されたのだろう。既に息絶えていた。

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俺の、の奧から熱い何かが込上げてくる。

俺は、ただその場に立ち盡くし眺めていただけだった。

街で見かけた時には、子兎を何かから守る様にしっかりと手を繋いでいた。次に見た時は狩りの獲にされ弓をられ、俺が始めて蘇生魔法を功させ、やっと生き返った命だった。その様子を、子兎も本當に喜んでいた。母親の生存が嬉しくないはずがなかった。俺も、自分の事の様に嬉しかった。クロに乗せたら、大喜びもしてくれた。街では、みんなに暖かく迎えられ、これから幸せになる筈だった。

なのに。何故……。

俺がただ立ち盡くしていると、

當然、兵士達が侵した俺を、許す訳も無く剣を振り上げ襲い掛かってきた。

俺は、いまだ呆然と立ち盡くしたままだ。

そこに兵士の剣が振り下ろされ首を斬りつける。と、思われたが何も防してないにも関わらず、剣は弾かれた。

『キィィィーン!』剣がもたらす、甲高い音に気を取り戻し振り返ると、後ろから斬りつけた兵士が、今度は信じられないでも見たように呆然としていた。

「うぉぉぉー」

突っ立ったままの、兵士の腹に蹴りを食らわせ意識を失わせる。次から次にやってくる兵士にも、手刀で首を叩き気絶させ、また鳩尾を毆りつけ意識を刈り取っていく。

「ば、ばけものだぁぁぁ!」

中には、逃げ出す兵士もいたが逃がさない。直ぐに追いかけ、後方からわき腹めがけてのミドルキックを放つ。

次から次へと、剣や槍を構えた兵が襲い掛かってきたが、パワーレベリングとクロの加護のある俺には、子供のお遊びにもならなかった。

いったい、どの位時間が経っただろうか、しばらくすると――クロが仲間を連れて戻ってきた。

何故か、熊の王も一緒だったが。

「こ……これはいったい!」

「あの親子も、死んでいるだに!」

「村長さんも、既に亡くなっている様ですね」

 「タマちゃんとヘメラ様は、あちらに置いてきましたわ」

「私の事を知っていた、あの狼の獣人もあっちに倒れていました」

俺は、熊の王に事説明をする。とは言っても語れる事はない。

俺が到著した時には、既に遅かったのだから。

「どうやらこの兵達が、村人を皆殺しにして火を點けた様ですね」

俺は、心にぽっかりとが開いた様に、の篭らない聲で、ただ淡々と説明した。

「おのれ、ブリッシュの悪魔共め!」

村の炎が、外に燃え広がら無いように、周りの木を切り倒し、その倒した木の切り株に兵達を縄で縛り繋ぎ止め、死んだ村人達を、一箇所に集めて燃やして弔った。

今朝まで笑顔だったんだよ?

皆、暖かくて、いい人ばかりだったのに……。

こんな、こんな事が許されていいのか?

力があれば偉いのか?

こんな簡単に命を奪っていいのか?

俺は自問自答する。これまで親の死を見た。海の上で、海洋國家エジンバラの兵達が溺れて死んでいく兵も見た。親の死は事故で、殺人じゃない。海で溺れた、海洋國家エジンバラの兵達はある意味自業自得だった。

でもこれは?

人間も、獣人も、同じ言語を話し意思疎通が出來る。共存できる存在だ。現に、俺も、ポチもホロウもタマちゃんも一緒に生活している。勿論とても楽しいし――いい事があれば嬉しい。

だが、これは?

まるで、魔獣を討伐するが如く、人間が獣人を殺戮する。これがこの世界の普通なのか?

いや、違うな。

アルステッド國では、獣人だって人間だって変わらず同じように生活している。

このブリッシュ王國が特別異常なんだ……。

何が、人類至上主義だよ。そんなに人間が偉いのか?

何が、歴史ある國だ!

こんな殺戮を繰り返し、多くの命を亡き者にする國が偉そうに!

コータの心は怒りに充ちていた。

せっかく救った命だった。自分が失った親子を見せられ心がざわついたのもある。

ここの獣人達は、皆、俺達を心から歓迎してくれた。

優しい人達だった。

そんな、優しい獣人が何でこんな目に合わねばならない?

どう考えても間違っている。

どうしたら、こんな悲慘な出來事が、この世から無くなる?

どうしたら、奴隷も差別もなくなる?

俺は、中學中退扱いだけど――なくても親の教育のおで、他者の命を大切にしないといけない事だけはしっかりと學んできた。傷ついたクロを保護した、母の俺は息子だ。母さんはいつも言っていた、弱い生きには優しくしなさい。と――ここで引き下がったら、母さんに合わせる顔がない。

「俺決めた!」

この世界から、こんな殘酷な殺を一掃する!

「コータさん……」

皆、ただ無言で俺の顔を見つめていた。

これが創造神の狙いなのかのぉ。これが起きる事を、アヤツは知っていたから西へいけと言った訳か。

まんまと創造神の狙い通りになった訳じゃが、悪くない。

コータの母君と、コータは良く似ておる。

ここは我も力を貸すかのぉ。くっくっく。

し距離を置いた場所では、クロがコータを見つめていた。

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