《竜神の加護を持つ年》89.郁と聡
――アルフヘイムを飛び立ち數時間後。
見慣れたアイテールの街が見えてくる。正門の両脇にはコータが倒した竜のここまで來たら一緒だ。このまま城に降りよう。
そうクロに告げると騒ぎにならんかのぉ。と言われたが、俺がここの城主だ。問題は無いと思いたい。
剝製が2鎮座しておりそれ目當ての観客が訪れているのも見える。
城壁の中の園遊會でも開けそうな広さのスペースにクロが下りていくと、街の方では悲鳴や逃げ出そうとするものの姿も確認出來た。
そりゃ當然だ。
中型のサイズの竜はもはや伝説で語られる程度で実際に見た事があるものが居る方が珍しいのだから。
クロが著地すると帝國で帝國の兵達が見せたきと概ね同じで、腰を抜かすものが多數、弓を持ち構えるものがごく稀に、逃げ出すものが數居た。まだ逃げ出すものが數だったのが救いか?
腰を抜かして逃げられる期を失ったというのが正解だろうけども。
「ひえぇぇぇーりゅ、竜だぁぁぁー!」
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城が大騒ぎである。
そこでコータはクロの頭に乗り城へと靜まるようにぶ。
「靜まれぇ! 靜まれぇ! この竜は俺と共にある俺の家族である! 俺に危害を加えなければ害は無い!」
何度か繰り返し伝えた事で俺がここの城主のコータであると認識したものから周囲へ広まっていき、集まった兵、吏、騎士総勢數百人はクロを取り囲むようにして跪いた。
俺達一行がクロから降り、クロもピクシーサイズへ変化すると周囲からはどっと歓聲があがった。
「デメストリー出迎えご苦労! 長く留守にしてしまって済まなかったな」
「いえいえ、陛下よりコータ殿がたびたび旅に出ると伺っておりましたので。こちらは特に変わりはございません。しかし驚きましたな。クロ様のお姿は拝見いたしておりましたが、まさかあれ程とは……」
流石に肝が冷え壽命がんだ想いですと、アイテール辺境伯代のデメストリーは語った。
「今後、あの形態で帰還する事もあるかと思う。城及び街の皆にも伝え広めておいてくれ」
「これは、これは、旅の途中で立ち寄ったものはきっと腰を抜かすでしょうね」
街の皆に承知させれば問題はないでしょ! とコータはおどけて言った。むしろ城主があのような伝説クラスの竜と共にあると知れば街の皆も安心出來るだろうと思うコータであった。
「さて大仕事がこれから控えている、寢室に向うぞ!」
大仕事が寢室?
はて、とクロ以外にはこれから何が起きるのか、知らないのだから當然だ。
「私、まだ世継ぎを殘すのは早いと思いますの」
――とか。
「コータさん、人まで待つという話では無かったのですか?」
――だとか。
「コータさんの嫁になる気は無いだに!」
――といった反応。
「コータさんの近くで寢たら襲われるにゃ!」
――それは無いから。
「強い男は好みですが、コータさんはあまりに華奢です」
――はいはい、さいですか。
「妾はお前の人では無いんだぞ!」
とか、皆様々な言いようであった。
「何か勘違いしている様だけど、全然考えている事と違うから。これからするのは蘇生魔法だから!」
蘇生魔法と聞いて以前の兎獣人の親子を思い出した者もいたが、いったい誰を……というのが皆の話題に上っていた。
そうこうしている間に俺の寢室にる。
城主らしく大きなキングサイズのベッドよりも二周りは大きいベッドの橫に立ち、クロにお願いする。
「クロ、じゃ母さんからお願い」
周りで聞いていた皆の視線がクロに集まる。
コータのお母さん? と皆が揃って首をかしげていた。
「承知した!」
そして誰も寢ていなかった所に、地球の登山著を著用して目を閉じ、まるで眠っているように見える、茶の髪を肩までばした背の低いが橫たわり出現した。
コータにとっては半年振り位であろうか、最後に見た宮城郁の姿そのままだった。
「母さん……」
コータはベッドの脇に膝を付いて母の手を握った。
勿論冷たくなっていてかない。
周囲では突然ベッドの上に現れたに目が釘付けになっていて、コータの言葉を聞き、はっとした風で今度はコータを見つめ、またに視線を移した。
見たじでは顔は薄っすら白くなっていて赤みかかっていない事から、恐らく亡くなっているのだろうとは想像出來た。
「ほれ、コータ早くせい!」
クロに促されようやく正気を取り戻す。
「じゃいくよ!」
コータは郁のに手を置いてそのまま、蘇生魔法を行う。
また會える。
また話せる。
こんな話し方だった。
こんなきだった。
こんな風に自分を抱きしめてくれた。
々な想いと共に思い出させられる母との――記憶。
そして生きて、帰ってきて自分の所へ……。
そう願いながら魔素を流すと、周囲を眩しいが包み込む。そしてベッドの上で橫たわっていたのは呼吸をしているのがはっきりと確認出來るほどにが上下していた。
「功じゃな!」
クロが良かったのぉと言ってくれる。
俺も次第に暖かくなってくる母の手を両手で握り、ポロポロと大粒の涙を流していた。
悲しくて泣く訳じゃ無い。母さんにまた會えた事に安堵して泣いているのだ。
俺の様子をずっと後ろで見守っていた娘達も泣いている。ポチ、タマ、ホロウには申し訳ないけど、獣人娘3人も自分の家族を思ってか、泣いていた。
「コータ、魔素はまだあるか?」
クロに聞かれての中の気を探るが、まだいけそうな気はする。
安全をとって明日に持ち越すという手もあるが、早く父にも會いたい。
コータはクロに、父を出してくれる様にお願いした。
母親の隣に出されたのはこれまた地球の服、コータが最後に見た登山用の服を著て穏やかに眠っているように見える父、聡の姿だった。
先程の母と同様に顔は薄っすら白く、まだが通ってないのは分った。早速、母と同じように生前はこんな風に喋っていた、こんなきをしていた。こんな事をよく言っていたなと、父との思い出を思い出しながら父のに手を當てて魔素を流し込む。
すると郁同様、一瞬眩しくった後に聡のも上下し始めた。
コータも流石に魔素を使い果たし、疲れて両親の間で眠りに付いた。
娘達とクロ達は、そんな俺の様子を溫かい視線で見つめながら、そっと部屋の扉を閉めた。
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