と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》3話目 日課の訓練

した西洋剣の一つを人形に持たせてある程度間合いを取り戦闘を開始する。今の能力、技があれば一瞬で詰めれる距離ではあるが先手を譲るために敢えてそうはしない。

相手が攻撃を仕掛けてくるのを待っているが、人形はこちらの隙を窺っているのか迂闊に攻撃を仕掛けてはこない。じっと構えたまま微かなじろぎすらしていない。

しかし俺に隙が出來ることは基本的には無い。集中力が続く限りこのにらみ合いを続けることも可能ではあるが、數時間もこの膠著狀態を続けるのは面白くない。

故に骨なまでに隙を作る。人形から視線を外し、あらぬ方向へと向ける。意識を逸らしてはいないが、それでも大きな隙だ。

――ヒュッ

そしてすぐに鋭い風切り音が俺の耳に屆く。視線を人形に戻すと、人形は俺の脛辺りを目がけて薙ぎ払いを仕掛けていた。どうやら敢えて小細工を捨てて真正面から切りかかってきたようだ。

それを避けるために上に飛び上がるのもありだが……、俺はバックステップで避けることを選択し、右足を軸にしてやや後退する。

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だが軽く飛んだだけでは人形の間合いから完全に逃れることは出來ず、人形は更に踏み込んで攻撃を無理矢理俺の右足に當てようとしてくる。凡人ならば反応することすら出來ずに右足を切り飛ばされるところだが……。

――カンッ

甲高い金屬音を立てて、俺は人形の剣を左足で踏む。そのまま踏み抜けば攻撃を防げるが、剣を足場にして人形を飛びこえるように前転飛びを行う。上下が反転する視界の中、俺は人形の首へと切りかかるが難なく防がれる。そして俺は著地し、互いに振り返ることで狀況は振り出しへと戻った。

そのような攻防を幾度も繰り返し、傍から見れば千日手と見える狀況だが結末はあっけなく訪れた。

――ガキンッ!

俺の攻撃を防ごうとして人形の剣が激しく音を立てて折れる。そして俺の攻撃を防ぐことが出來ず、そのまま人形の首は切り飛ばされた。

ふう、と俺は一息つく。

互いの武は全く同じ能であるのになぜこのような結果になったのか。まず俺は攻撃を防ごうとせず、回避することに専念した。また、相手の武に負擔がかかるように導し、そしてその負擔を一か所に集中させることでへし折ってやったというわけだ。

もっとも、このような普通の剣ではなくてもっと良い剣を使用すればそのような面倒なことなどせずとも剣ごと切り捨てることは可能だ。魔法を併用すればよりも早くくことも可能であるし、より一層反応速度を上げることも可能だ。

とはいえそのようなことをしても技の向上には繋がらないため訓練ではそうしない。そもそもそのようなことをしても面・白・く・な・い・。

この世界に來た當初、死なないよう戦闘力を高めるために訓練していた時と違い、今では暇つぶしの一環として訓練を行っている。

出來る限り力押しではなく、出來る限り分の悪い條件で勝つ。どのような條件が面白いか考えることもまた暇つぶしの一つである。

「それじゃ、次は目隠しでもして戦うかな」

ん? もう辺りが暗くなってるな。訓練に熱中しすぎたか。あー、そろそろ夕食用意しなきゃ駄目だな。くそ、意識したら腹が鳴り始めた。そういや晝飯抜いてるんだな。

それじゃあ夕飯の準備をしようかと家の中に戻ると森の中に妙な気配があることに気付く。非常に弱弱しく、今にも消えてしまいそうな気配がある。これが化けのものであれば放置するところだが、どうやら化けではないようだ。

「ふむ、確かめてみるか」

そいつは今にも死にそうなので転移魔法を使用して即座に移することにした。転移魔法を発するが仰々しいエフェクトなどを放つことなく、一瞬で目の前の景が切り替わるためたたらを踏みそうになる。ううむ、何度使用してもこの覚には慣れないな。移は転移魔法のみで行いながら戦闘する、などの訓練を行ってみるべきか。

「おっとそれよりもあの気配は、と」

視線を下へと向けるとそこには薄汚れた人型の何かがあった。耳が尖っていてやや長い、ということはエルフか。お約束だがこの世界には普通の人間の他にエルフやドワーフ、獣人がいる。數の多さから人間や獣人が高い地位を占めており、ドワーフはその手先の用さから、エルフはその見目麗しさから奴隷として狙われている。

「おい、起きてるか」

うつぶせに倒れているエルフに向かって聲をかけてみるが反応は無い。とりあえずひっくり返すか。

とさり、とひっくり返して顔を見てみる。うむ、男かかわからん。長は低いから年齢は高くないだろうが、そのせいで余計に見分けがつかない。そう観察している間もエルフは全く反応を返さない。人助けは面倒なんだが……、仕方ない、千年目とかいう節目の日なんだ。死にそうな子供くらいは助けてやるか。俺はそこまで考えるとエルフに回復魔法をかけてやり、家へと連れ帰るのであった。

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