と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》8話目 お出かけ

ししたら連れて行くところあるから、それまで休んでてね」

「はい! わかりました! それじゃあ皿洗いをしておきますね!」

朝食を終えて満足げな顔をしているシャルに外出の予定を告げると皿洗いを申し出てきた。いつもなら魔法一発で終わらせる作業ではあるが、シャルは既に流し臺へと行ってしまったため止めるタイミングを逸してしまう。

「まあいっか」

流し臺は十分な機能を付けてあるため洗いをすること自は特に問題ない。そう考えた俺はいつも通り庭へと向かい訓練を行う。しばらくの間訓練を行っていたが、シャルが申し訳なさそうに聲をかけてきたため一時中斷する。

「あの、リョウ様……」

「ん? どうした?」

「洗いをするための桶はどこにあるのでしょうか? それと井戸があたりに見當たらないのですが……」

ああー、そこからか。

「ああ、説明しなきゃだめだな。ちょっとついてきて」

そう言って俺はシャルを連れて流し臺へと向かう。恐らくシャルは流し臺やその近くで既に桶と井戸を探したのか、『何故ここに?』と不思議そうな顔をしている。

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この世界の街には水道など存在していないため、どこでも井戸が現役である。街でさえそうなのだから無論こんな森の中に水道など存在するわけがないのだが、水道が使えないなどという不便なことを俺は認めない。

そこで細かい所はよくわからない原理でなんとでもしてくれる創造魔法の出番である。果たしてどこから水を引っ張っているのか? 流した水はどこへ行くのか? どうやって水を浄化しているのか? そういった問題は全て無視して水道の使用を可能にしてくれているため、蛇口を捻れば水がドバドバ出てくる。

「こんな風にここを左に回せば水が出てくるんだ」

水道の概念をシャルに説明してもわからないだろうから実演で説明する。

「…………」

シャルは口をあんぐりと開けて固まっていた。まあ、そうなるな。水道の概念すら知らない人間がいきなりこんなものを見せられれば固まりもするだろう。蛇口から水を流したり止めたりしているとようやくシャルが正気に戻ったのか口を開く。

「これは、魔法ですか?」

「……そう、だな」

魔法ではなく、魔法で作ったものなので反的に『違う』と言いそうになったが、大全部創造魔法のおかげなので間違ってはいない。それに長々と説明をするよりも『魔法』の一言で終わらせる方が楽だ。

改めて水道の使い方を教え、シャルに皿洗いをさせることにした。また何かわからないことがあるといけないので俺も傍で待機しておく。しかしシャルの様子がおかしい。ただ皿洗いをしているというだけなのに妙に嬉しそうだ。

「なあ、何でそんなに嬉しそうなんだ?」

どうにも気になったので俺はつい聞いてしまった。

「はい! 水魔法が使えて嬉しいんです! 誰でも簡単に魔法を使えるなんて凄いです!」

ごめん、それほんとは魔法じゃないのよ……。

「じゃあ、皿洗いも終わったことだし出かけようか」

「はい!」

よくよく考えなくてもシャルは昨日まで奴隷であったため持ちなど無い。著ていたものはボロボロだったので創造魔法で用意した洋服を今は著せているが、それ以外には何もないので出かける準備もクソもない。

家を出てシャルと共に森の中を歩く。魔の森が魔だらけというのはシャルも知っているのだろうが、それを不安がっている様子には見えない。わざわざこの森に逃げて來たりしたことも考えると案外肝が據わってるのね。

特に話すこともないため黙々と歩いていく。この辺に実っている果実なんかは味しそうな見た目をしてはいるのに滅茶苦茶不味いんだよなあ。栄養はあるみたいだが、出來る限り口にれるようなことはしたくない。まあ創造魔法がある限り無縁ではあるが。

「あの、リョウ様、今どこへ向かっているのでしょうか?」

「ん? ああ、もうすぐわかるよ」

「はあ……」

不安に思っている、というよりも単に疑問に思ってかシャルが質問をしてきたが敢えて流す。いくら肝が據わっているとはいえ今どこへ向かっているのか言えば流石に怖がってしまうかもしれない。

そう、もうすぐなんだ。俺はそ・い・つ・の気配を既に把握している。恐らくあっちも俺のことに気づいてはいるのだろうが逃げても無駄、もしくは逃げた方がより酷い目に遭うとわかっているため逃げる様子はない。その代わり滅茶苦茶ビビってはいるようだ。

それから五分程歩いて大きな窟の前に到著する。本來はそんなに早く行ける場所ではないが魔法で空間を歪めて歩いてきたのだ。

「ここが目的地ですか?」

「そうだ。ここにいる奴に用がある」

普段あいつはこんな狹い所に住んではいない。俺の目的がもしかしたら自分ではないのではないか、という萬が一の可能に賭けてこんな所に隠れたのだろう。だが慈悲は無い。俺は貴様に用があるのだ。容赦無くずんずんと窟の奧へと向かう。

奴に近づくにつれて奴の息遣いが聞こえてくる。それを不審に思ったのかシャルがきょろきょろとあたりを見るが、それでも俺は敢えて説明しない。そしてとうとう観念したのか奴が姿を現した。

「ひっ!」

そいつの姿を見た瞬間シャルが悲鳴を上げる。それでも取りさないのはやはり肝が據わっていると言えよう。

「よう、今日はお前に用があってここに來たんだドラ助」

「グルルル……」

せっかく挨拶してやったというのに何でそんな唸り聲出してんだよ。もっと嬉しそうにしろよ。

「ド、ドラゴン……」

そして俺とドラゴンの親し気な様子を見てシャルは小さくそう呟いた。

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