魔法生から特に連絡がくることもないまま一時間ほどが経過した。晝時にはまだ時間があるため、まだシャルが帰ってこなくても不思議ではないのだが心配である。

気を紛らわすために訓練を行っていたがどうにも集中することが出來ない。いつもなら晝食すら忘れて訓練に沒頭するというのに、いつまで経っても頭の隅でシャルのことがちらついている。

変なにって怪我をしていないだろうか……。化けに襲われてはいないだろうか……。即興で作ったあの魔法生はちゃんと働いているだろうか……。道に迷っていやしないだろうか……。

自分一人の問題ならばシャルに森の探索などやらせずに魔法生を用いるのが手っ取り早い。危険を減らすために周囲の化けをあらかじめ排除しておくのもいいだろう。だが今回は『極力シャル一人で事をし遂げる』のが重要なのだ。

シャルは自分自のことを『リョウ様の邪魔者』だと思い込んでいる。現狀では彼が何か仕事をするにも一々俺の手を借りなくてはならず、加えて新しく教えてもらうばかりで恩を返すどころか恩が増える一方だとじてしまってそのように考えているのではないだろうか。

それならば今回の探索はなるべく俺に頼らずに行い、この作業は彼一人で出來る仕事にしなければ意味がない。今後俺に頼らずに済むように専屬の護衛を作ったのもそのためだ。

しかし、なんというか、過剰な戦闘力を持たせているのはわかっているんだ。この間キラーエイプの群れを間引いた時にも俺は純粋な剣しか用いていない。その剣をあの魔法生が扱えるということは、あのような群れが襲ってきても彼に一切の危機は訪れないということを意味している。

頭ではわかっているんだ。しかし、もし萬が一のことを考えると……。はあ、まだたった數日しか面倒を見ていないというのに隨分とが移ってしまったようだ。過保護にもほどがあるというものだろう。

仕方ない、訓練は一旦中止して別のことをして暇をつぶそう。それじゃあ晝食の仕込みでも……、ってそれはシャルの仕事だから取っちゃいかんだろ。あれ？　訓練も料理もしないとなると一どうやって暇を潰せば……、そういえばここ最近はシャルを話し相手にして暇を潰すことも多かったような……。

思えば彼に何かを教えるというのは中々に良い暇つぶしになっていたし、共に食事をすることでいつもよりも飯が味かったように思える。ん？　そういう意味では彼がここにいるというだけで既に十分に役に立っているのではないか……？

だからといってそれを彼に伝えても『君がいるだけで僕は十分幸せなんだ』なんていうプロポーズをしているようにしか聞こえない。八歳児にそんなことを言う1022歳とかどんな変態だよ。

現在の自分の狀況に疑問をじてから更にしばらく経ってシャルが森から戻ってきた。多くの食べらしきものを持って帰ってきているので、探索は十分な結果であったと窺える。

「師匠、ただ今戻りました」

「おう、シャル、お帰り」

分かってはいたが彼に怪我らしいものは無く、戦闘を行った形跡もない。いや、うん、分かってはいたんだよ？　それでもやはり安堵せずにはいられず、それを彼に悟らせないようポーカーフェイスするのでいっぱいである。

そして帰って來たシャルから収集したをけ取って毒があるものが無いか確かめる。予想はしていたが毒があるものは一つもなく、どれも食べても問題が無いばかりだった。

エルフという種族は長年他の種族から隠れて森に住んでいるせいか、森の中でどうけばよいのか、何が食べられるのかといったことが覚的にわかるようなのだ。その事を他の種族は『森に親しんでいる』とか『森にされている』とか呼んでいる。

まあ彼らが森にされているかどうかなど、森の中でも普通にエルフが化けに襲われている時點でお察しなのだが……。

閑話休題。

念のために確認はしたのでその結果をシャルに伝えると、彼はやや安堵したように見えた。まあ彼にしても毒があるか無いかは『なんとなく』でしかわからないので當然だろう。人に食わせようと思って取ってきたものは毒ばかりでした、とか『どんな嫌がらせだよ』と思われかねない。

「それでは頑張りますね！」

休憩を取ろうともせずに、彼は帰ってくるとすぐに臺所へ向かおうとした。

「あ、シャル、これ使え」

そんな彼を呼び止めて、作らねば作らねばと思いながらいつも作り忘れていたシャル用のエプロンを彼に渡す。毎度彼が丈の合わないエプロンをに著けるのを見てから思い出すので『今作って渡すのもなあ』となってしまい今まで渡せなかったのだ。

「ありがとうございます」

たかがエプロンをけ取るだけなのにシャルは真剣な表で俺に禮をする。いや、それ単なるエプロンだからね？　丈が彼に合うように魔法で仕掛けをしといたけどそれだけだからね？　それ以外は単なるエプロンなのよ？

さて、臺所に到著した彼はそれらの食材を使って調理する前に味見をすることにしたようだ。彼が採ってきたのは茸や果実、それに山菜等なのでやろうと思えば生で食えないこともない。

そのため彼もそれらを口に運んだのだが……。

「…………」

うんともすんとも言わない、圧倒的無言である。茸、果実、山菜、この森に存在するは例外はあるがどれもこれも栄養価が高い。余談だが化けたちすらその例外ではないので互いに食い合う彼らはいつでも元気なのだ。

ただそれと同時に恐ろしく不味い。極端に酸っぱかったり苦かったりえぐみが酷かったり食が最悪だったりととても食えたものではない。

逆に程よい甘さだったり旨味があるようなのは栄養価が低い上に毒があるものばかりだ。毒があっても食べてもらえるように味くなったのか、栄養価が無くても食べてもらえるように味くなったのか、それとも食べてもらわないために毒を獲得したのか、因果関係はわからないがとにかくそんなじだ。

ともかく今回彼が採ってきたのは毒が無いばかりだったのでその分味の方はお察しなのである。シャルは味見をしている間、しかめっ面をしたまま終始無言であった。