《と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について》18話目 新しい日常風景
それから一か月ほどが経過した。最初の頃はぎこちなかったシャルの喋り方も今ではすっかり砕けたものとなり、敬語で喋るのは俺に何かを教えてもらう時ぐらいなものとなった。
「ししょー! ただいまー!」
「おう、おかえり!」
そして今日も今日とて食材という名の実験材料を森から調達してきたシャルが元気よく戻って來る。俺が作ったリュックサックはパンパンに膨れ上がっており、栄養価だけ見れば數か月は暮らせるはずの量がある。
『ドスン』という々と間違った音を立てながらシャルはリュックを地面に下すと俺の前に駆け寄り目を輝かせ、期待に満ちた顔で俺の顔を見る。
「うん、今日もお疲れさん」
そう言いながら俺はシャルの頭を優しくでる。初めてこれをやったのはシャルが食材集めを始めてから十日程経った時で、なんとなく頭をでてやったら翌日からこんな風に駆け寄ってくるようになってしまった。
「えへへ……」
うん、まあ、別に面倒なことじゃないし、でてやると嬉しそうに笑うから問題は無いんだけどね。ひとしきりでてやり、シャルが満足したようなので頭から手をどけてやると、シャルは先ほどのリュックを再度背負いこの一か月の間に新設された臺所へと向かう。
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「それじゃあ実験してくるね!」
「いってらー」
うむ、『実験』なのだ。俺にとっても彼にとっても、あ・れ・は料理とは呼びたくないものであるため、どちらからともなく『実験』と呼ぶようになった。
また、普段の料理では使わないようながごちゃごちゃと増えていき、シャルがなんだか申し訳なさそうにしていたので専用の臺所を作ってやった。
當然創造魔法を使って作ったわけだが、それを見たシャルは目玉が飛び出さんばかりに驚いていた。我が家は魔法で作ったことは説明済みなのでその驚き方は俺の想像以上であった。後でその理由を聞いたところ『材料を魔法で組み上げて作ったんだと思ってた』とのことだった。
そんな臺所も今ではすっかりと々なブツで溢れかえり、『実験室』という呼び方がぴったりな様相になってしまっている。
それらを一通り使いこなせるくらいには彼の料理の腕も向上しているため、俺が食材を用意すれば彼一人でも普段の料理は出來るだろう。それにも拘わらず普段の臺所で普段の料理を作る際、彼は俺と一緒に料理すると言って譲らない。
『何かわからないことがあった時に質問するため』と彼は言っていたが、向上心があるとそのまま捉えていいのか、それとも単に年相応に俺に構ってほしいだけなのか判斷に困るところである。まあ俺にしても調理を全て彼一人でされてしまうと暇つぶしのネタが無くなるのでどちらでも構わないのだが。
「頂きます」
「いただきます!」
そしていつも通り俺とシャルで晝食を用意して共に食事をとる。言っておくが食卓に実験結果は出されていない。彼の言い分を要約すると『こんな不味いものを恩人に食べさせるわけにはいかないです。せめて『食べられないこともない』程度までになるまでは食卓に出しません』ということらしい。
そんなわけで以前同様食卓には味しいしか出されていない。しかしシャルに実験を完全に任せているおかげか、食事の用意をする時に俺に引け目をじている様子や思いつめた様子は今では見られない。
シャルにあの実験を任せたのは彼の神を安定させるのが目的だったので、その目論見は功したと言っていいだろう。正直あんなクソ不味い食べが味しく食べられるかなど、割とどうでもよいので結果は気長に待つことにしている。
さて、この世界では『いただきます』と言う習慣は無い。當然シャルが『いただきます』を言ったのは俺が教えたからなのだが……。
「いただきます」
とある日の夕食にて、普段ならば言わない言葉を何となしに口にする。一人暮らしが長ければわかると思うけど、わざわざ一人で食事する時に『いただきます』なんて言わないからねえ。
その習慣が長く……、非常に長く続いていたのでそれまでこの言葉を言うことは無かったのだ。
「師匠、それ、何ですか?」
聞きなれない言葉を耳にしたシャルは不思議そうにしてその意味を俺に尋ねる。
「ん? ああ、これは俺の住んでた所での食前の挨拶だな」
「食前の挨拶? どういう意味なんですか?」
「食材になった植の命を貰うことや、作ってくれた人に謝して『頂く』ってじだな。まあ、うん、めんどくさいから言わなくていいよ」
慣れない習慣を押し付けるってのもあまり褒められたものじゃないからねえ。そもそも自分自が守ってない習慣なのにどうしてこっちの世界の人間に押し付けることが出來ようか。
そう思ってシャルには言わなくて良いと言ったのだが……。
「言います」
何かすごいキッパリと宣言される。
「え、いや、別に俺も今まで言ってなかったし、こっちの人にそういう習慣は無いんだから別にやらなくても……」
「言います」
「いや、だから別に……」
「言います」
あの、シャルさん、何でそんな頑ななんですか。
全然思ってもみなかったタイミングでシャルが強固な意志を見せたため俺が戸っているとシャルがその理由を俺に説明した。
「その言葉は謝の言葉なんですよね? この食材を作ってくれたのも、料理を作ってくれたのも師匠です。それ以外にも私は師匠に謝しています。だったら、その言葉を私が言うのは當たり前です」
「いや、別に師匠が弟子に々してやるのは當たり前なんだから……」
「それでもです! 私は師匠に謝してるんです! 私も『いただきます』を言います!」
「あっ、はい」
まあ、うん、別に強制する理由も無ければ無理にやらせない理由もないもんね。うん。
そんなじでシャルは毎回きちんと『いただきます』と言うようになり『目の前で、しかも小さい子がちゃんと『いただきます』と言ってるのに、教えた自分が言わないのはどうなのよ』と思った俺も一緒に言うようになったのだ。
なんか、順序が逆な気がするんですけど……。
【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜
★書籍化★コミカライズ★決定しました! ありがとうございます! 「セリス、お前との婚約を破棄したい。その冷たい目に耐えられないんだ」 『絶対記憶能力』を持つセリスは昔から表情が乏しいせいで、美しいアイスブルーの瞳は冷たく見られがちだった。 そんな伯爵令嬢セリス・シュトラールは、ある日婚約者のギルバートに婚約の破棄を告げられる。挙句、義妹のアーチェスを新たな婚約者として迎え入れるという。 その結果、體裁が悪いからとセリスは実家の伯爵家を追い出され、第四騎士団──通稱『騎士団の墓場』の寄宿舎で下働きをすることになった。 第四騎士団は他の騎士団で問題を起こしたものの集まりで、その中でも騎士団長ジェド・ジルベスターは『冷酷殘忍』だと有名らしいのだが。 「私は自分の目で見たものしか信じませんわ」 ──セリスは偏見を持たない女性だった。 だというのに、ギルバートの思惑により、セリスは悪い噂を流されてしまう。しかし騎士団長のジェドも『自分の目で見たものしか信じない質』らしく……? そんな二人が惹かれ合うのは必然で、ジェドが天然たらしと世話好きを発動して、セリスを貓可愛がりするのが日常化し──。 「照れてるのか? 可愛い奴」「!?」 「ほら、あーんしてやるから口開けな」「……っ!?」 団員ともすぐに打ち明け、楽しい日々を過ごすセリス。時折記憶力が良過ぎることを指摘されながらも、數少ない特技だとあっけらかんに言うが、それは類稀なる才能だった。 一方で婚約破棄をしたギルバートのアーチェスへの態度は、どんどん冷たくなっていき……? 無表情だが心優しいセリスを、天然たらしの世話好きの騎士団長──ジェドがとろとろと甘やかしていく溺愛の物語である。 ◇◇◇ 短編は日間総合ランキング1位 連載版は日間総合ランキング3位 ありがとうございます! 短編版は六話の途中辺りまでになりますが、それまでも加筆がありますので、良ければ冒頭からお読みください。 ※爵位に関して作品獨自のものがあります。ご都合主義もありますのでゆるい気持ちでご覧ください。 ザマァありますが、基本は甘々だったりほのぼのです。 ★レーベル様や発売日に関しては開示許可がで次第ご報告させていただきます。
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