「ごちそうさま」

「ご馳走様でした」

晝食を食べ終わり食後の挨拶をする。これもまた気を抜いた俺が『ごちそうさまでした』と口にしたのを耳ざとく聞きつけたシャルが俺にどんな意味なのか質問したのだ。

その時俺は『食後の挨拶だけど意味はよくわかんない』と誤魔化そうとしたが、勘の良いシャルはこれも謝の言葉だと気付いたようでそれ以降『ご馳走様でした』も言うようになった。

いや、別に『いただきます』も『ごちそうさま』も言うのは構わないんだけどさあ、ずっと言ってなかったのに改めて言うのって何か気恥ずかしいじゃん。

晝食を終えた俺たちは一緒に庭に出る。

俺と共に庭に出たシャルの手には彼の背の丈ほどの長さの杖が握られていた。材料は相も変わらず不明だが、作った俺のイメージのせいか木でできた安の杖にも見える。杖の持ち手側の先端には赤い寶石のようなが埋め込まれており、そのせいか杖そのものよりも石の方が人の気を引くだろう。

この杖は俺がシャルの魔法訓練のために作した杖である。とはいえこの世界の魔法使いは別に杖を使ったりせず、己の一つで魔法の発が出來る。

というよりもそもそもこの世界には魔法関連のものを道にするという発想が無いようなのだ。魔法が使える人間が希で、しかも使い方を誤れば即死する危険を孕んでいる。そのためおいそれと実験を行うことも出來ないのでその方面の技は一向に進む様子を見せない。

俺がこの世界に來て中々に衝撃的だったのは『に特定の紋様を刻み、そこに魔力を送ることで定められた魔法を自的に発する仕組み』が、即ちいわゆる『魔法陣』という技が存在しないということだ。

この世界では魔法の発は一般的に詠唱を行うことで可能となる。実際のところは必要な量の魔力とある程度のイメージがあれば詠唱なんて必要ないのだが、あやふやなイメージでは必要となる魔力が増えてしまい発四散する可能が高まってしまうので、詠唱によりイメージの補強を行っているのだ。

そのせいで『魔法とは限られた人間にしか使うことは許されず、発には厳しい訓練と正しい詠唱が必要であり萬人に使えることなど出來るはずがない』と認識されてしまっているのだ。

結局何が言いたいのかというと、魔法の発を補助する技はこの世界に存在しないし研究もされていないということだ。

このことに俺は軽くない失を覚えたが『無いなら作ればいいじゃん』という姿勢により創造魔法と知識魔法を用いて様々な道を作っては倉庫に放り込んでいた。

そして今回久しぶりに作ったのが今シャルが手にしている杖である。効果は非常に単純で使用する魔法の威力の強化だ。だが侮ることなかれ、その効果は非常に大きい。

赤い石が持ち主のイメージを読み取ってそれを補強し、杖の部分が送り込まれた魔力を増幅する。イメージが強固になって必要な魔力が減することと、魔力そのものが増幅されることの相乗効果でない魔力で大きな結果が出せるようになるのだ。

シャルが『自分は役に立たない』と思い込んで焦ってしまった理由の一つは『せっかく使えた魔法の威力がしょぼかった』ことにあるのではないかと俺は考えた。

そこで『どうせ使う魔力の量が一緒なら派手な魔法を使えた方が楽しいよね』と考えた俺はこの杖をシャルに渡したのだ。

本來ならばライター程度の火しか出せない魔力量でも、この杖を使えばキラーウルフを丸焼きに出來る程の火が出せる。威力を増せる魔法は火に限らないので森に火がついても水魔法で消火出來るので安心だ。

まあ仮に燃やしたところでその翌日には『何かしましたかな？』と言わんばかりに元通りになるこの森には不要な心遣いだが。

「それじゃあ行ってきます！」

「おう、頑張れよー」

そう俺に挨拶をして元気よくシャルは森へと駆け出す。一応念のために護衛やら裝備やらを多めに渡しているので、心配な俺でも安心して彼を待つことが出來るようになった。それらを彼に渡した際やや呆れたような顔をしていたのは気のせいだと思いたい。

彼が森へと向かったのは魔法の訓練を行うためだ。単純に魔法を発するだけでは飽きるだろうと考えた俺は訓練のメニューを変更し、俺が魔法生を森に放ち、彼がそれを探し出して魔法を使って丸焼きにするというものにしたのだ。

魔法生の行パターンは実際の化けに似せており、特にキラーウルフを參考にしている。無論実際に彼に危害を加えないようにはしてあるが、実戦さながらに彼に襲い掛かるようになっている。

その姿もキラーウルフを大いに參考にしているため、キラーウルフが絶滅して久しいこの森において、世にも珍しい『丸焼けになるキラーウルフ』の姿が毎日見られるのだ。

今では彼も魔法使い、何故なら彼もまた特別な存在だからです。

え？　私怨がってないかって？　はは、そんな、まさか。