「これなら……どうだっ！！」

右手に持っている雙剣を振り下ろす。

しかし、輝く銀の剣は虛しく空気を切るのみでの前の相手……初老の神父に屆くところか余った勢いを利用されて投げられてしまった。

「うわっ！？」

そこからはどうしようもなく、俺のは地面に叩きつけられた。

「まだまだ。重心の位置も、足の捌き方もましてや剣なんてできてないよ」

厳しい言葉が投げ掛けられる。

「剣云々より、まずは武道の基礎となるきを學び直すといいよ。カナタ君」

「はい！」

俺が❬大神父❭にボコボコにされた日の、その翌日。俺はまたも❬大神父❭に実力の差ををもってじていた。

修練場所はレナと手合わせをした❬大神父❭宅の庭である。

そして、俺が❬大神父❭に手も足もでないのを端からニヤニヤと見守る視線が二つ。

……レナとルナ、悪魔の姉妹である。

ルナはなんかこう……父親とじゃれている子供を見ているような優しい笑みなのだが……レナは完全に悪意がある。優しさの欠片もじられない。あれ、絶対俺がボコられてるのみて「ザマーミロ」とか思ってるよ。

「は、ハカリ君、頑張ってくださーい！！」

ルナは健気に応援してくれる。正に天使。……時折見せる小悪魔的な要素に目を瞑ればだが。

「あらぁ？あんなところに腐りかけのもやしが落ちてるー！あっ！もやしじゃなくてカナタだった！」

……ほんと、ムカつく。よほどに持っているのか昨日の手合わせの反撃をこれでもかとしてくる。

その後も何度も❬大神父❭に挑んだものの結局全てボコられて、姉妹に応援されたり、罵倒されたりのセットが繰り返されるだけだった。

と、ループにハマりかけた所。

「……ん。すまないカナタ君。私たちはこれから教會の方で用事があるんだ。私たちがいない間は自主練をお願いできるかな？」

「あ、はい」

用事……？禮拝か何かだろうか。

程無くして三人は正裝に著替え、教會に向かった。

その間、俺は❬大神父❭に言われた事を反復して練習する。今の手合わせで目に焼き付けた❬大神父❭のきと言われたポイントを意識しながらひたすら行う。

常に重心を意識して足をかす。移した時には多膝を曲げ、曲げた足の方へ重心を傾ける。を上げる時に膝をばし、重心を反対方向へと移させる。その際に生まれる反を斬撃の威力へと昇華させる。しの力を大きな力へと転換できるように意識を向ける。

無駄な力はれず、軽やかに最小限の力で最高の攻撃を生み出す。

のバネを最大活用できるようにし、無駄なきを無くす。これが當面の俺の課題だった。

とりあえず、皆が帰ってくるまで課題克服のための練習を続けていた。

……そして、誰にも言っていないの特訓・・・・・も。

「「「ただいまー」」」

日が暮れる夕方。三人は用事を終えたようで、帰って來た。

「あ、お帰りなさい」

「……ちゃんと修練はしてたみたいだね」

❬大神父❭さんが庭に転がっている訓練用人形……の、殘骸に視線を向けて言う。

「じゃあ、早速上達合を見せてもらおうか？」

❬大神父❭さんの手元に一本の槍が表れる。

「はい！」

俺の脇を一陣の風が吹く。

……違う。❬大神父❭さんだ。❬大神父❭さんに目にも留まらない速度で接近されたのだ。それこそ俺が風と錯覚するほどの速さで。

「ハッ！」

背後から突きが繰り出されるも、それを間一髪でかわす。

すぐさま自分の勢を立て直し、❬大神父❭さんと対峙する。

「へぇ。今のを避けれるようになったのか」

「まぁ、こんなに特訓してたら多はき良くなるってモンですよっ！」

返答を言い終わる前に❬大神父❭へと急接近。

そして、今日ずっと練習してきたきを使う。

無駄なきを全て捨て、最小限のきで最大限の威力の攻撃を生み出す。

……このきは❬大神父❭さん曰く、《波濤ハトウノ型カタ》と呼ばれるものらしい。

「フッ！！」

自分でも驚くくらいのレベルで、昨日の自分とは比較にならない程強くなっている。剣を振る速度は鋭く、次の攻撃を仕掛けるまでの間隔も速く。

「……ふむ」

「ラァッ！！」

次々と進化した斬撃を放はなって行く。相手に防以外の選択を與えない斬撃のラッシュ。

そして、ジリジリと❬大神父❭さんを後退させていく。

この中で一際強い威力の斬撃を繰り出す。

急な威力の変化で❬大神父❭さんの不意を突く。

❬大神父❭の重心が後ろへとずれる。……そこを逃さず足払いを放ち、❬大神父❭さんの勢を崩す。

……崩そうとした。だが、❬大神父❭さんは倒れなかった。

「まさか、重心をずらしたのは俺に足払いをさせるためのフェイク……？」

「正確にはそこだけじゃなくて、後退してた時からずっとね。……まだまだ甘いね」

それを幕引きの言葉とするように❬大神父❭さんは俺に告げ、昨日と同じように槍を打ち下ろした。

ガンッ！！

「同じ攻撃を食らうわけないだろッ！」

❬大神父❭さんの槍が叩いたのは俺の頭ではなく、その真下にあった石畳だった。

「この景は先に視てた・・・ッ！」

そう。俺はこの俺が敗北するという結果・・を❬因果逆転の魔眼❭で見ていた。自分が負ける瞬間が分かっているのなら、その瞬間を変え、同時に未來を変える事だってできる。

攻撃を終え、隙だらけの❬大神父❭さんに剣を橫凪ぎに振るう。

距離は先程よりもまり、攻撃の程距離。橫にも、まして前にも後ろにも避けることは不可能。

かといって、伏せるのにはタイミングが悪すぎる上に跳躍するにも高さ的にも時間的にも不可能。

もし仮に避けたとしても、勢が崩れることは目に見えている。そこを追撃すれば勝利は確実。

槍は振り下ろされ、防に回すこともできない。

「これで……終わりだッ！！！」

自分の勝利を確信したその瞬間。

なんと❬大神父❭はあろうことか自らの武である槍を手放しとてつもない威力の拳を神速で、俺のへと突きだした。

「ぅ……ぐッ……！？」

腹に味わったことのない衝撃が走る。

「だから、甘いって。攻撃に目が眩みすぎだよ」

「…………！」

何か言おうとするがうまく聲が出ない。俺が今できる事といえば口をパクパクと開けたり閉めたりする事くらいだ。

「アハハ！調子乗って攻撃したら反撃されてんの！それも2回も！カッコワルー！」

「お、惜しかったですよー！」

姉妹の聲が聞こえる。……もはや、どっちが何を言ったかはわざわざ言うまい。

「にしても、一日で《波濤ハトウノ型カタ》を覚えるなんてね。予定を変えて、明日は戦闘中の魔法、魔眼の使い方を教えようか」

「え、待っておじいちゃん？それって私たちも教える側に付くってコト？」

「え！？そうなの？おじいちゃん？」

「そうなるね」

あっさりと答える❬大神父❭さん。

「ゼッーータイ、イヤ！こんなもやしに私たちの魔法を伝えるなんて！」

うん、まあ嫌われてるしレナからはこういう反応を貰うよね。

「私は別に……。でも、実力の差を見せつけるのもなんか気が引けるというか……」

……それって、俺が雑魚ってことを遠回しに言ってない？レナの骨な罵倒よりダメージ食らうんですけど……聖ルナさん？しかも、優しいフォローを期待していただけに余計に抉られる……。

そうだね、聖ルナは小悪魔ルナだもんね！忘れてたよ！

なお、そんな心のびを口にしてツッコめるほど俺のは回復していない。何かを言おうとするたび鯉のように口をパクパクするだけだ。

……心にも、にもダメージを食らったままこの日の修練は終わった。

……この調子で最終日まで持つだろうか？神的にも的にも。

とりあえず、今日は《波濤ノ型》を覚えただけ一歩前進としよう……しないと心が持たない。

……明日も魔法の勉強頑張ろう！