《拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。》拝啓、友よ。また會おう。

〈混沌王〉の右目が魔力のを燈す。

「……ッ、《模倣の魔眼》!」

〈教皇〉がその魔眼の名前を口にする。そこには、明らかな畏怖が込められていた。

「君なら分かるはずだ、私がこの魔眼を使う意味を」

〈混沌王〉がこの魔眼を使用する時、それは彼が、自分より優れた相手の技を取り込む・・・・時。

もしくは……『最強』たる彼が本気で戦う時だけである。

《模倣の魔眼》。それは自分が食らった攻撃を一度だけ、そのまま再現できる魔眼。

かつて〈神槍〉と呼ばれた槍の達人の神業だろうが、〈魔神〉の神代の魔法だろうが、自分に向けて放たれた攻撃ならばその悉くことごとを模倣できる。

相手の扱える最強の技を、そのまま相手へと返すことが可能。

秤彼方の《因果逆転の魔眼》とは形が違えど強力な『反撃』の力を保持する魔眼の一種である。

ただ、真に恐れるべきは魔眼の能力ではなく〈混沌王〉と魔眼の相にある。

すなわち……

〈混沌王〉は一度でも模倣したのなら、その技を習得できる。

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本人が元來持つ戦闘の『才覚』、聖魔族の持つ優れた『』、唯一無二の『二重魔眼』、魔眼によって鍛えられた『頭脳』。

これら全てを持っていても怠慢せずに、より高みを目指す『強』さ。

これらが〈混沌王〉を『最強』たらしめる要素。

本気を出した〈混沌王〉に勝利した者は……一人として存在しない。

「久しぶりの本気だ。がっかりさせるなよ、〈教皇〉」

言葉からじとれる『最強』の風格。二転三転としてきた今までの軽い態度とは違う。

「秤彼方は一番最初に、この雰囲気に當てられたのか。よくもまあ気を失っただけで済んだものだ」

既にどこか諦めた様子の〈教皇〉が珍しく軽口を叩く。

「まあ、期待に応えられるよう努めようか」

先程までとは全く異なる二人の態度。威圧的な〈混沌王〉に、軽口を叩く〈教皇〉。

その様子はまるで互いが互いを模倣しているようで……。

次の瞬間。〈混沌王〉の背後に突如、巨大な魔法陣が一つ、現れた。

《模倣の魔眼》に詠唱は要らない。魔眼はただ、主が見た攻撃をもう一度だけ、再現するのみ。

 つまりそこには、詠唱もとい、魔眼の主の技量もまた要らず。

何百年もの間、猛者との戦いに臨み続けた〈混沌王〉。

彼は、稀代の魔法使いと呼ばれた〈大賢者〉。各種族の王たる〈聖霊王〉に〈魔王〉、〈墮天王〉と〈天使長〉。それから……〈法皇〉。

それに、この世界の『外』の存在である〈魔神〉とも対峙した事もあった。

全員が、この世の理を改変できる程の大魔法使いである。

だが。

 絶対なる『最強』は、それら全てを打ち倒し、同時に彼らの魔法を食らい続けてきた。

《模倣の魔眼》は食らった攻撃を一度だけ・・・・再現する能力。

故に。

彼は、彼らの大魔法を模倣できる『一回』を、ずっと保持している。

もはや。

行使者に技量……すなわち小細工も手加減も要らない。

持てる力を余すことなく使い、純粋な『力』で押し潰す。

それが、それこそが、彼の持つ唯一無二の、本気を出した時の流儀。

〈混沌王〉の背後の魔法陣が回り始める。そのきに合わせるように、また一つ、また一つと、魔法陣が増えては回り始める。

今まで見てきた大魔法の、一回きりの『再現』を全て合わせて、新たな魔法を作り出す。

後にも先にも『一回』しか発できない大魔法。

やがて、魔法陣が幾重にも重なって出來たそれ・・は、完してもなお回り続ける。

時計の歯車のように、ぐるぐると、ぐるぐると、回り続ける。

歯車は回る、回る、回る、廻る、廻る、廻る。

時計が終焉の音を響かせるまで。

そして、ついに。終焉を告げる音が、〈混沌王〉の口から紡がれた。

「終焉魔法《神殺しの槍ロンギヌス・レイ》」  

に終焉をもたらす『力』が、解き放たれた。

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