《自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十數年酷使したはいつのまにか最強になっていたようです〜》第20話:偉大な人間はこう言った。男には魅せる背中と覚悟の腹が必要だと。……俺の言葉だけどな。

「待て魔王。俺が相手だ」

俺はに鞭を打って構えた。

能力向上をかけ、この後に訪れる激しい戦いを想像する。

敵は強大だ。俺なんかは吹けばかき消えてしまう可能すらある。

だがここで引いたら男が廃る。……俺は負けられない戦いに闘爭心を燃やした。

「ほう?貴様まだけたか」

魔王が振り返り俺の方へ目線を向ける。

禍々しいオーラが部屋を包み込み、いるだけでも神がイカれちまいそうだ。

「あぁ。俺はしぶといんでね」

「ふん。世界を滅ぼす者の従者よ。我が拳で永遠の眠りにつかせてやろう」

ザブラは……俺の荷の方へ向かってるな。

あの様子ならしばらくすりゃ回復するだろう。

リムは……危ないな。巻き込まないようにしないとな。

「これは俺とお前の戦い、1対1の戦いだな」

「……庇うか。まぁいい。先程の一撃でコアは破壊したはずだからな」

魔王がリムに一瞥をくれた後、また俺の方へ目線を戻した。

この。首筋を流れる汗。ひりつく空気。

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ますます負けられないな。

「何を笑っている。……無駄話も飽きたな。死ね」

どうやら俺は笑顔になっていたらしい。

だがそんな事を考える暇なく魔王が突っ込んできた。

「予知眼ビジョンアイ!」

世界がスローのように見える。

まっすぐ突っ込んできた魔王が掌底を俺に叩き込もうとしているが、それは避けられる。

だが2手目に尾で俺の側面が攻撃されそうだ。

予知通り俺は掌底を避けた。

そして次にくる尾もしゃがんで避けると、空いた脇腹に拳を叩き込む。

「おらぁ!」

「うぐっ!」

脇腹にめり込むように拳を半回転させる。

しかし……いし重い!

毆ったこっちが砕けそうだ。

數メートルは吹っ飛ばせたが、向こうもすぐに制を立て直した。

當たり前だが致命傷ではないらしい。

あまり予知眼ビジョンアイの連発は苦しいんだがな。

「これならどうだ。魔氷柱まひょうちゅう!」

魔王が地面に手をついた瞬間俺の足元に魔法陣が出來た。

これは地面から突き出し、刺し殺すタイプだ。

すぐに地面を蹴って橫へ回避する。

しかし下から突き上げられる氷柱は俺を追ってきた。

「くそっ」

回転と同時に地面を蹴り魔王まで距離を詰める。

このまま遠距離で攻撃され続けたらが持たない。

ジリジリ削られるぐらいなら突っ込んで行くしかないな。

「うおおおおお!」

聲を出して突っ込んだのはわざとだ。

予知眼ビジョンアイを発させ魔王の行を見る。

予想通りカウンターだ。

その顔はまるでわかっていたかのような顔。

だがな、俺には見えている。

俺はフェイントをかけ、魔王とぶつかる直前で右に曲がる。

そして側面からのラッシュ。

右、左、右、左……。

両手をフル回転させ、一撃一撃に気持ちを込めて毆った。

「ぐおぉ……小賢しい!!」

「ぐはっ!」

いつもなら塊になって終わるところだが相手は魔王だ。

俺の右腕を尾で弾くと、空いたに蹴りをれられた。

重い。わかっていたが、なんて重いんだ。

「魔雷

間髪れずに魔法が飛んでくる。

ダメだ。制を治してる間に直撃する。

俺は左腕に魔力を纏わせ、魔法を弾こうと試みた。

バチンッ

「うおぁ!」

いてぇ。

ヒリヒリしやがる。

腕からし煙が出て、皮が焼けた匂いがした。

く……が、もうダメか。俺の手元にある最後のポーション。

これを使ったら、もう殘りを取りに行く暇はないだろう。

「諦めろ。人間が私に勝つ道理はない」

「……ご忠告どうも。だがな、諦めきれない格なんでね」

まだだ。まだ心は折れてない。

敵は強大な魔王。

ザブラ達が俺のカバンからまた回復すれば4人で戦える。

時間を稼いで全員が回復するのを待てば……。

リムはその場からいていない。

し苦しそうな表が気になる。

あの油斷した瞬間の一撃は重かったのだろう。

……そんな顔をするな。一撃、あの一撃さえ決められれば俺たちが逃げる時間は稼げるはずだ。

魔王に隙はないが、ザブラ達もいる。

かない左腕に最後のポーションを振りかけて、俺はもう一度構えなおした。

「待ってくれるなんて優しいじゃないか」

「戦士として恥がない死に方をさせてやるのが魔王の務めだ」

「そりゃどーも。それじゃ続きをしようか」

「ザブラ!ザブラ起きて!」

フレイがザブラを揺するとようやく目を覚ました。

ケイドの荷ってるポーションを飲ませると、意識がはっきりしてくる。

ザブラの視界には心配そうなイコルとフレイがいた。

「ぐっ……。何が起きたんだ……」

ザブラ達は勝ちを確信した。

だから大技を繰り出し、この戦いに終止符を打とうとしたのだ。

しかしそれを魔王の部下に遮られ、さらには反撃をけた。

意識が飛ぶほどの重い一撃。

ポーションである程度回復はしたが、まだし休まないとけそうにない。

「魔王……魔王はどうなった?」

「そ、それがさ……」

フレイが歯がゆそうに振り向いた。

ザブラも上半を起こし周りを見ると、そこには魔王が戦っている。

しかも相手はケイドだ。

自分たちが一撃でやられた魔王相手に善戦している。

いや、し部が悪そうにも見えた。

「なんで……なんでおっさんが……」

それは3人にとっても信じられない景だ。

今までのケイドなら、オーク2に囲まれればすぐに逃げ出すほど弱かったはず。

ケイドより強くなったザブラ達にとっては、ただのうるさい雑魚としか思っていなかった。

ただの荷持ち。口がうるさく、実力も弱い。歳だけは上のおっさん。

そうバカにしていた相手が、自分たちより下だと思っていたケイドが、魔王と一人で戦っている。

到底認められない、認めたくない景だ。

「おっさんが……うちらを助けようとしたのかな」

「気持ち悪い……けどそうだと思います」

フレイとイコルもケイドの戦いに目を見張っていた。

あんなに散々バカにした相手。

近くにいたらうざったく、本當に嫌いだった相手。

その相手が自分たちを守ろうと戦っている。

自分だけではない。

近くで力なく両手を付いているの子にも被害が出ないように戦っているのだ。

「ふざけるなよ……なんだよ……なんだそれ……」

「ザ……ブラ?」

ザブラが魔王とケイドの戦いを見ながらボソボソと呟いている。

その目は現実を直視していないような目だ。

「ありえない。おっさんが?俺より強いのか?絶対にありえない……」

「ザブラ?」

その異様な雰囲気にイコルとフレイが気付いた。

ザブラは現実を見ていない。それどころかケイドに恨み言すら言っている。

今まで起きたこと全てケイドのせいにしていた。

ケイドは自分より弱く使えないお荷

だが今はどうだ?

お荷が自分たちを守るように戦っている。

自分たちはケイドより弱く、守られている狀態。

認められない。認めたくない。

「ありえない。おっさんが全て悪いんだ。今までも、これからも全て……」

「ねぇ?ザブラ?ザブラ!」

「戦狂薬だ。……戦狂薬をよこせ!」

「えっ?もうダメだよ!副作用もあるーー」

「うるせぇ!よこせ!!俺が最強なんだ!!」

フレイの腰についたマジックバックをひったくると、ザブラが戦狂薬を取り出し飲み干した。

戦闘時における能力を向上させるが、副作用として神が安定しなくなる。

1日に2本以上飲むと神崩壊が始まり、文字通り死ぬまで狂ったように戦い続ける薬だ。

「あぁ……認められない。殺せばいいんだ。おかしい。間違ってる……」

「ザブラ……」

薬を飲み干したザブラが剣を取り出し、ケイドと魔王の方へ歩き始めた。

イコルもフレイも止められない。

いや止めることが出來ないほどの殺気をザブラは放っていた。

「お?起きたか。それじゃ久々に共闘と行こうぜ」

ザブラに気付いたケイドが口を開いた。

ケイドが目線をザブラから外し、魔王を見據える。

魔王もケイドとザブラを見た後、面白そうに聲を出した。

「1人増えたところで関係ない。……っとこれだから人間は醜いんだ」

「はぁ?何を言ってーー」

ザブラが剣を振り下ろした先は、ケイドの無防備な背中だった。

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