｢勝負ありじゃのう｣

埃一つついてないエレノスがニヤニヤしながら近づいてくる。反撃しようにもどういう訳かに力がらない。

｢....はぁはぁはぁ...かふっ...あぁ、そうだな...さすが自稱神様だよ、勝てる見込みどころか攻撃すら當てれない。その強さだけは尊敬するよ。｣

何年ぶりだろうか、１１の対人戦で手も足も出なかったのは。これが世界の違いと言うやつなのだろう....

それでも...

｢なぁ、エレノス...ひとつ聞いていいか？｣

｢良かろう、言うてみい。｣

｢お前にとってのあいつは、イラはなんなんだ？｣

｢手紙に書いたでは無いか、価値なんてないわい｣

｢3度目はない、正直に答えろ。お前にとってのイラは、お前自が生み出したイラはなんの価値もないわけが無い。でなきゃを與えて、まで與えて、外の世界に送ってくるのはおかしいんだよ。手紙の煽りも下手くそすぎだ。｣

｢ふむ、そうじゃな...まぁお前さんに隠すことでもあるまい。一言で言えばあの子はわしの家族...孫みたいなものじゃ...｣

｢なら、どうしてあんな手紙を書いた？俺をここに來させるだけなら他にもやり方があっただろうに｣

あの手紙には家族の居ない俺に當て付けのように家族を傷つけるような言葉が書いてあった。すなわち、ここへ來て文句の一つでも言いに來いとでもいうように。

｢そうだな、あの子には確かに悪い事をした...あの子は523ある神界図書の中でも特殊な子でな、書自の素材に問題があったのだろうか…｣

エレノスはポツリポツリと、靜かに話し始めた。

｢書自の素材？｣

｢あぁ、元を辿ればイラも、他の子らも神界図書、つまり本じゃよ。當然本に使う材質にはそれぞれ差が出てくる。それがあの子の場合極端に出てしまってな…｣

｢例えば？｣

｢神的に、的にすごく脆い、そしてなりよりも、壽命が他の子らよりも圧倒的に短い。だから....｣

｢だから？｣

｢償いという訳では無いが、あの子には自分の目で世界を見てきてしいと思ったんじゃよ。そして殘りの壽命はお主とさほど変わらん。人から聞いただけの文字羅列よりも自分で見て學ぶことであの子に何かいい刺激になればいいと思ってな…｣

要するにいつもの“おせっかい”だったのだ。自分のせいで、イラに不憫な思いをさせてしまった。ならばその分その人生を幸せにしたい。そうあってしいと願う親の気持ちから今回の件に至ったのだろう。

俺はこの時、エレノスのイラへの優しさに、家族への思いやりの深さに、“家族

らしさ”をじた。

親の心子知らずとは、よく言ったもので、きちんと話を聞いてみないと分からないことだらけだったのである。

しかし、それでも疑問は殘る。

｢なるほどな...大の容はわかった、だがそれでも解せない、何故俺なんだ？｣

俺以外にも、いや、むしろどこの世界にだってエレノスのように面倒みがいい人ならいるはずだ。それを異世界の人間でしかない俺に任せるなんて、本當に分からない。

｢ふむ...ネタバレで良ければ話すが？｣

｢あぁ、構わない。｣

｢近々お主は國を追われる。原因はお主の魔力の無さだ。わしが原因ではあるが、魔力こそが力と考えるあの世界で魔力無しは流石にのう...｣

マジかよ、國外追放されるのか…

｢それで？｣

｢だったらわしとお主の仲じゃし任せてもいいかなと...追放されるついでに、々なものをその目で見てくるといい。もちろんイラも一緒にな？まぁそれなりにパートナー、もといを大事にするやつじゃないと大事な孫は預けられんでのう…｣

｢だったらって...話飛んでる気がするんだが…つまり全部あんたの手のひらの上って事か...？｣

｢まぁ、そうなるわな…｣

｢ふーん...って言ってるけど、イラはなんか言うことある？｣

俺は上半を起こして胡座をかいて座り込むと同時に、自分の中に居るイラに呼びかける。すると、俺の中から赤い霧が出てきて集まり、イラが構築される。ちなみに俺の傷はいつの間にか癒えていた。恐らくこの空間自に治癒魔法の類がかけられているのだろう。

｢んなっ！お主まさか...｣

｢今のあんたの話し相手は俺じゃなくてあんたのお孫さんだろ？逃げんなよ？おじいちゃん｣

さっきのニヤケ顔への仕返しと言わんばかりに俺も一杯のからかいを込めて言う。

｢んぬぅ...あー、イラよ…その、なんだ...｣

｢...なんでしょうか？｣

｢今更かもしれんが、さっき蒼空に話したことが全てじゃ。だから、今までの不憫な思いをさせた事といい、今回の件についても、本當に申し訳なかった。この通りじゃ...辛い思いをさせてすまんかった…｣

そう言ってエレノスは膝と手を地面につけ、頭を下げた。神様がそんなことをしてもいいのかと思ったが、それ以上に家族としてのケジメをつけようとするエレノスの姿には目を見張るものがあった。そして、

｢大丈夫です、エレノス様に、お爺様に嫌われてなくて....こんなにも...されて...私はすごく...すごく嬉しく思います。私の事を案じてくださるお爺様も...會って間もない私のために怒ってくれた蒼空様にも...謝でいっぱいです。｣

イラも俺の中で話を聞いていたのだろう。その目にさっきまでの“悲しい”という表は無くなっており、嬉しさを噛み締めた表で優しく笑っていた。

｢イラよ...わしはおぬしが...｣

｢お爺様...私はお爺様が...｣

｢｢大好きじゃ(です)｣｣

ベタすぎる展開になんとも言えなくなったが、これも1つの家族の在り方なのだろうと、きにしないことにした。

そうして2人はしばらくの間抱き合っていた。イラの目からはとめどなく涙が出ていた。想って貰えるが居るということを実出來たことが、よっぽど嬉しかったのだろう。

｢あー、そろそろいいか？｣

流石に雰囲気をぶち壊したくなかったので控えていたが、中々離れそうにないので話を振る…別に家族の絆の深さにいたたまれなくなったとか、そういう訳では無い...ほんとにそんのことは無いのだ...

｢む？おぉ、すまんのう、すっかり忘れておったわい、して、どうした？｣

｢.......あー、そろそろ帰っていいか？正直もうクタクタだ、とっとと帰って眠りたい｣

｢あぁ、そうじゃな…時間を取らせてすまんかったの...あ、そうじゃ！ちと待っとれ｣

｢？なんだ？｣

｢お主、今日の戦いで手持ちの武全部お釈迦になったじゃろ？｣

｢ん？あー...誰かさんのせいでなー｣

｢.......そ、そこでじゃ、お主に新しい武をあげようと思ってな、どうする？｣

｢あぁ、そいつは嬉しい、ぜひとも頼むよ。｣

｢良かろう、ほれ｣

｢なんだこれは？腕？｣

｢ただの腕ではないぞ、それの名は【神】“絶魔の心ぜつまのしんりん”｣

｢神？｣

｢あぁ、神がどういうものかは知っておるな？｣

｢質の存在そのものに能力が付與された武の事だろ？｣

｢その通り、有名なのは“聖剣”や“ゲイボルグ”なんかがそれにあたる。そしてそれぞれの武が何かしらの固有能力を持つ。｣

｢これの固有能力は？｣

｢反魔法アンチマジックと形狀変化モードチェンジの2つ。反魔法は文字通り自分に向けられた魔法、呪法、その類のものを全て無効化、もしくは反する事が出來る。扱いが難しいがお主なら問題ないであろう。そしてもう1つの能力、形狀変化。これは簡単に言ってしまえばどんな武にでもなれる腕だ。使い方は無限大、己のイメージに沿って形狀が変化する。｣

｢チートも甚だしいな、｣

｢気にするでない、今回の禮と詫び、そして報酬の前払いとすれば安いもんよ…まぁ、それなりに扱いづらいだろうけどな｣

この場合の報酬とはイラの事だろう、過保護なじいさんだ...

｢そうか、なら、ありがたく貰いけるよ。さんきゅな。んじゃ、そろそろ帰るか…イラ、帰るぞ〜｣

｢はい！今行きます！お爺様！行ってきます！｣

｢うむ、気をつけての〜｣

｢んじゃ爺さんまたな、次戦う時は絶対負けないからな…｣

｢ほっほっほっ、それは無理じゃないかのう｣

｢言ってろ....｣

そして、いざ帰ろうとした時に、空気を読まない自稱神エレノスが1人

｢おぉ、そうじゃ、1つ言い忘れておった｣

｢....まだ何かあるのか？｣

｢そんなに嫌な顔せんでもええじゃろうに、｣

｢いや、ここまで來て疑うなって方がなぁ...｣

｢まぁそれはともかく、1つ言いたいことがあるだけじゃ。｣

｢なんだ？｣

｢家族と仲間は同じ類の言葉ではあるが、同じ意味では無い。イラが、もしくはあの忌み子と呼ばれる子か、はたまたこれから出會う他の誰かが、お主にとって最高の仲間となり、家族と呼べる存在になれることを願っておるぞ。｣

その言葉を最後に、俺の意識はまた白いに包まれ薄れていくのであった。

エレノスの言っていた“仲間”と“家族”、2つの言葉の意味を考えながら…