《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》19・聖域
『聖域』――それは名前こそ知られているものの、実際に見たものはいない領域。楽園、桃源郷、理想郷など、様々な肩書きを持ち、確かな幻想と言われている。
まるでムー大陸のようなその場所は、神が住むとされているので、アルカトラでは絶対に踏み込んではいけないものとされるため、絶対にしてはいけないという意味で『聖域の土を踏む』や、神の住処にれるようなとても嬉しい時に『聖域の水を飲む』いうことわざがある。
『始まりの町』の図書館でも、『聖域』を題材とした小説はいくつかあり、大陸の向こう側や、雲の上の大空、深い深い海底など、場所は様々だ。一部の小説には別次元、つまりは異世界として登場することもある。
アルカトラでは天國というよりも『聖域』という方が主流だ。
「『聖域』は存在するのか?」
「あぁ在る。普通は行けないがな」
『聖域』の存在を肯定されたが、あまり驚きはしなかった。
目の前には神がいるのだ。その住み場所が存在していても不思議ではない。
そして、『聖域』の場所は二か所に限定された。
「空か別次元か」
目前で欠をする彼と出會った時、彼は空から落ちてきたのだ。なら、『聖域』は空中にあるか、または別次元の扉が偶々雲の上だったかになる。
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「その二択なら、両方と言った方が正しいな」
「両方?」
優希が何気なく呟いた『聖域』の場所は空と異次元。彼はどちらでもなく両方と答えた。
二つの選択肢から三つ目の選択肢を選ばれ、優希は顔をしかめる。その反応を見たメアリーは、か細い両腕で膝を抱え込み、
「『聖域』は雲の上に存在しているが、行くどころかたとえ空が飛べてもれることは出來ない」
膝で口元が隠れているメアリー。彼の言っていることが今一つ理解できない優希はそれでも自分なりに解釈して言葉にしてみる。
「幽霊みたいなもんか? その場にはいるけど、見えないしれないみたいなじ」
「まぁそんなところだ。『聖域』からこちらの世界に干渉できるが、こちらからは干渉できない。私はそんなところから來た」
「またあやふやだな。というか『聖域』から抜け出したってことはお前を追う奴も『聖域』の連中じゃねぇのか? なかなかの難敵だぞ」
『聖域』からの追跡者ということは、相手も神もしくは神ということになる。
「大丈夫だろう。私の存在を知っているものはないし、分かってても簡単には追ってこないだろう。神連中は直接この世界に干渉できないしな」
神はこの世界に干渉できない。彼は元神なので、かなり干渉しているが問題ないのだろう。どこか気楽そうにじる。
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「なるほどな。エンスベルがこの世界を救えって言った時は自分でやれよて思ったけど、そんなルールがあったんだな。で、お前は何をしでかしたんだ? 『聖域』で捕まるってことは相當悪いことしたんだろ?」
メアリーは膝を更に抱え込み、目元しか見えない。ゆっくりと瞼を下し、瞼の裏に過去の記憶を映し出しているのか、數秒黙ったままだ。優希も彼が言葉を紡ぎだすまで、ただ黙然と彼を見つめる。
そして、微かにだが彼の聲が聞こえた。それは弱々しく儚そうでどこか疲れをじる聲。
「寢る……」
青筋を立てながら拳を力強く握り、ぶつけどころのないを必死に抑え込んで、優希も輝石に布を被せて暗くし、もう眠ることにした。
********************
「ん……朝か」
荷臺から吹き込む風は冷たく涼しい。朝の涼風は細胞を刺激し、目が覚めるまで時間はかからなかった。
そして、しっかりと開かれた優希の目はいつも通りの荷臺の中を映し出す。売りなどの積み荷が場所を取ってせせこましい。――はずだった。
「あいつは……どこ行った?」
目前、普通ならまだ睡しているのだろう彼の姿がどこにもない。
優希は立ち上がり、荷臺から顔を出す。
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風竜種二匹は、鼻を鳴らしいて走りたくてうずうずしているのか、ちょっと落ち著きがない。
だが、そこに彼の姿はなく、優希は完全に荷臺から出て周辺を歩いてみる。竜車を止めていた場所は、木々に挾まれるようにある一本道の端。近くに川があり、顔でも洗っているのかと、川の方へ足を進めてみる。
疎らに生えた樹木を超えて河原に出る。優希が歩く度地面の石同士がぶつかる音がして、同時に川の流れる心地良い音も聞き取れる。自然という空間に心を落ち著かせながらも、優希の目はしっかりと彼を探していた。
「いないな……」
忽然と姿を消した彼。いたらいたで面倒な奴だが、いきなりいなくなると気になる。
そして、上流へ向かって歩いていくと、その姿は確かにあった。
大きな巖に座り、遠目に何かを見ている銀髪の。視線の先は変わらず川を挾んで樹木が並ぶ。
哀愁漂う恍惚とした表を浮かべる彼。そんな彼を見て、優希は昨日の事を思い出す。
優希が『聖域』での出來事を訊ねようとすると、決まって彼は話を逸らす。そして、その後の哀し気な表。彼に何があったのか、話すときが來るまでは話さないのだろうと結論付けて、
「珍しく早起きだな。腹でも減ったか?」
揶揄う様に微笑みながら近づく優希。その存在に気付いたのか、メアリーはいつも通りの表に戻り、
「私のイメージは食う寢るしかないのか? ま、珍しくすんなり起きれたのは事実だが」
「じゃあ合ってんじゃねぇか。そろそろ出る。早く戻れ」
そう一言だけ殘し優希は踵を返す。
メアリーは大巖から降りて、川の水でを潤してから、歩いていく優希後へと続いていった。
日の位置からして、時間は朝九時といったところか。
優希は手綱を握り竜を走らせる。風竜はよほどうずうずしていたのか、走り出しの勢いは激しく、優希とメアリーは慣に従ってが置いていかれそうになる。
周りは林で囲まれた一本道を進んでいく。優希の予想では一時間もしないうちに帝都へとつくだろう。
とりあえず帝都ですることは、眷屬の資格を取ること。そのための準備もしておきたい。
そして、帝都に近づいてきたのか人も見えだした。優希と同じように竜を率いて帝都へと向かう行商人たち。
前にいるだけでなく優希の後ろからも近づいてくる。
「ヘイ兄ちゃん、若いのに帝都で一稼ぎか? お互い頑張ろうぜ、んじゃ」
優希に喋る隙も與えず、話しかけるだけ話して追い起す中年男。
その人もそうだが、なぜか周りの人は先へ先へと行こうとしている。まるでレースでも行割れっているかのように。だが、その理由は割とすぐに判明した。
「……こりゃまた、時間が掛かりそうだな」
もう見えている帝都へのり口は數百メートル程先。そこから続く人、人、人。
観で來るものや、優希同様荷臺で來ているなの様々だ。
帝都にる前の手続きなどはないが、それでもなおかなりの行列が出來ている。遊園地で一時間待ちの行列など可らしくじる。
「結構かかりそうだな」
獨り言のつもりで呟いた言葉に、優希の前で待つ先ほどの中年男が反応した。
「あぁ早くても二時間はかかるぜ。結構急いでいたんだが、これだと廄舎を探すだけでも一苦労だな」
「他にり口はないのか?」
「あるにはあるが、どこも同じだ。出りする人で混んでる混んでる、もう嫌になるくらいにな。ほれあそこ見て見ろよ」
そう言って指さすのは優希達より遙か前方。
そこでは何やら二人の男が言い爭っている。今にも毆り合いが始まりそうだ。
「相當イラついてんだろうな。特に列なんか無いから抜かした抜かしていないであんな爭いが良く起こる。兄ちゃん初めてみたいだけどイラついて俺に毆りかからんでくれよ」
冗談めかしく言っているが、十分あり得る話だ。現に優希の後ろ、荷臺でくつろいでいるは駄々をこねだしていた。
「疲れたー腹が減ったーまだかまだなのか?」
「うっさい。黙って寢てろ」
「ほぅ言う様になったな。今ここでストレス発散させてもいいんだぞ」
「めんどくせぇ……」
もうすでにイラついているメアリーと、そのイラつきにイラつき始めている優希。
そんな二人が後ろでやり取りしているのを楽しんで聞いていた中年の男は、
「ははは、そんなんじゃ帝都にるまでは喧嘩になってんぞぉ。この待ち時間を如何にして彼を楽しませるかが彼氏としての魅力の見せ所だぞ兄ちゃん」
勝手にカップルだと思い込んでいる男に、優希は訂正しようとするが、それよりも先に、
「そうだぞ、私を退屈させないよう楽しませろ、ほれほれ」
荷臺には暇をつぶせるものなど積んでいない。優希自は待つことに対してそれほど嫌悪がないため、二時間くらい余裕で待てるが、後ろの短気な彼はそうでもないようだ。
「期待してるようだけどなんもしないからな。待つのが嫌なら先に行って先頭にいる男でもたぶらかして前列に加えてもらえ。得意だろそういうの」
見た目と言っていいメアリー。
彼が仕掛けすれば大抵の男はいちころだろう。現に目の前の中年おじさんはこっちへ來いよアピールをしている。
だが、そんなアピールも「フン」と一蹴して、不機嫌そうに荷臺へ戻る。
ご機嫌取りをするわけじゃないが、不機嫌の時の彼はしめんどくさい。帝都に著いたらとりあえず何かご馳走しようと畫策してみる。
そして、予想を上回り帝都に著くまで三時間はかかった。
さすがの優希もし疲れが見える。だが、そんなものは一瞬で吹き飛んだ。
「八大都市の最上。こんなに凄ぇんだな」
思わず驚嘆と関心の聲がれる。
建は大きく、溢れんばかりの人だかり。加えて驚くのは通システム。元の世界のように歩道と車道がある。ちなみに竜車は右側走行だ。
驚いているのは優希だけじゃない。さっきまで荷臺で膨れていたメアリーも荷臺に顔を出すどころか、ひとりでに外にでて帝都を満喫している。主に食べを。
いつの間にか銀行カードをすり盜られていることに気付き、優希は急いでメアリーの首っこを摑んで連れ戻す。そんなやり取りもふまえつつ、優希は荷臺と竜を廄舎に移す。
きを取りやすくなった優希は、とりあえず付會場へと向かおうとする。
が、足を止めて後ろで綿あめのようなを食べるメアリーを見る。
「お前は資格どうすんの?」
彼は綿を千切って口にれてから、
「眷屬にはあまり興味ないが、面白そうだから行く」
単純な好奇心。だが、おそらく彼の行理由などそれしかないのだろう。
意思確認をしたところで、付會場へと向かう。帝都がこれほどまでに賑わっているのは、この資格試験があるのも理由の一つだろう。
現に付會場はアイドルのライブ會場並みの人混み。場所は帝都にってから數十分歩いた特設會場。東京ドームほどの広さがある會場は、燈りがなくし薄暗い。
そして、迫か張か、空気はしぴりついている。付と言っても名前などを確認するわけではない。試験開始時に會場にいる人が験者となる。屈強な男から小さな子供、子細いなどいろんな人がいる。これが皆恩恵者もしくはそれに並ぶ実力者だというのだから、世界は広い。ざっと二千人ぐらいだろうか。その全員が數分後には敵になる。
だが、これだけの人がいても警戒すべきは視界に映るだけでも數人。
ショートでドレッシーなストレートの髪型をした高長な男。卑屈そうな目が周囲の人を近づけないでいる。そのし離れたところ、黒い特攻服のような服をに著け、右手に持った金屬製のバットを肩に乗せる。そして、優希はリアルモヒカンを初めて見た。
優希の隣には優希と同い年ぐらいの年。ロングでエレガンスなストレートで、軍服のような服を著ている。
そして優希の後ろ、退屈そうに欠をしているメアリーのさらに後ろで、優希同様周囲を観察している。カジュアルなロングヘアーは茶がかった金髪で、垂れた目の所にある泣き黒子が妖艶さを際立たせ、ネグリジェのような出度の高い服が周囲の男どもの視線を困らせる。彼を一言で言うならば単純にエロい。
そちらに目を奪われていると、その視界に見慣れた服を著たがいた。
白シャツの上に著た黒のブレザー。首元には赤いリボンをしており、膝上までのチェックのスカートがひらひらとく。
そうその服は紛う事なく、神格高校の子制服だった。その服を著ている彼は綺麗なブランドの髪をしており瞳は青い。白いに制服越しでもわかるたわわな。
「誰だアイツ」
これほどまでに報があっても、彼が誰なのか分からなかった。見た事がありそうだが、名前が出てこない。
引っかかるようなもどかしいを抱きながら、験開始時刻まで出てこない誰かの名前を絞り出していた。
俺、自分の能力判らないんですけど、どうしたら良いですか?
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