《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》38・の歌
「……」
食事も終え、優希達男子は外のテントで、メアリー達子は小屋で睡眠をとる。
ノマルドに遭難してから時間が経つため、今が何時かわからなくなっているが、時計はしっかり働いているようで、全員すぐに眠りについていた。
だが、二人は違う。橫になり瞳を閉じているが意識はハッキリとしている優希と、顔を赤くして眼球が乾いているのではないかと思うくらい瞼を開いている釘町朝日。
彼が告白されてからまだ時間は経っていない。
彼の脳では數時間前の恵実とのやり取りが何度も再生されているのだろう。
だが、隣でこれほど興されては寢られるものも寢られない。
優希は彼が寢ている提でを起こす。
「――ッ!?」
突然優希が起き上がった為か、朝日はを跳ね上がらせて、過剰でわざとらしいいびきをたてる。
そんな彼を橫目に、優希はテントから出る。
葉の重なりどころか樹が一切ない周囲に月が降り注ぎ、燈がなくてもかなり明るい。
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「さて、そろそろか……」
僅かな欠片もなく最大限の輝きを放つ満月を見上げながら、溜息じりに呟いた。
優希が彼らと活できる時間は限られている。
彼らと共にいる間は〖簡易能力解除スリープ〗することができない。今のまま十日間過ぎると〖強制能力解除シャットダウン〗に陥ってしまう。そうなれば優希の正がバレてしまい、優希のむ結果とは異なることになる。
「~♪~♬」
突然聲が優希の鼓をくすぐった。
らかで空気に溶け込むその聲は、旋律となって優希の脳を揺らしてく。
その音は小屋からではない。森林の奧、濁り切った川の方向。
聲の主はすぐに分かり興味も薄いが、しの間はテントに戻っても寢付けそうになく、特にすることもないので、
「行ってみるか……」
肩をんで気怠そうにった大地を歩いていく。
その聲に近づくとともに、川の音も音となって心を落ち著かせる。
けれどなぜか優希の心には響かない。好きだった歌も、今はただの音でしかなくなっていた。
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木のからを覗く。
ポニーテールだった彼はゴムをとって、肩あたりまでびた髪が風に流れる。
瞳を閉じて、両手をお腹へとやる。満月に向かって誰かに屆けるように、息を吸って、
「~♬……」
歌い、終わる。
眼を開き、瞳に月の輝きが反する。儚げに、寂しげに満月を覗き込む。
今度は屈んで川を覗く。濁った川は緩やかに流れていく。どこから流れてきたのか、小枝や葉も彼の前を通り過ぎていく。
「はぁ……」
深々と溜息を吐いた。
今は一人にしておこうと、優希は踵を返そうとしたのだが、
「……」
「誰っ?」
ついうっかり、音を立ててしまった。
當然自然の音以外に何もないこの空間で、優希の立てた音はあまりにも不自然で、昆蟲魔族が多いノマルドで、大きな音が立つことはあまりない。
不自然な音に過剰に反応するのは珍しくなく、谷燈は片膝ついて構える。
「僕ですよ。すいません驚かせてしまって」
冗談っぽくホールドアップしながら姿を現した優希に燈は張を解いて、
「なんだジークさんか……あたしの方もゴメンね。いるならいるって聲かけてくれたらいいのに。わざわざ隠れなくても」
「すいません。つい聞き惚れてしまって。お上手ですね、歌」
噓をつくことにこれほど抵抗が無くなったのはいつからだろうか。
上辺の言葉だが、燈は深く考えることはなく、にっこりと笑う。
「ありがと」
********************
「あたしが歌を練習してるのは、ある人の隣に立ちたいからなんだ~」
「へぇ……それって最上さんですか?」
にやけながら彼に言うと、彼の顔は一気に赤くなる。
彼の挙が激しくなり、視線をあちこちにやりながら否定の言葉を噛みながら発していたが、いつかは素直になったようで、
「健には緒にしてね。あたしたちの世界にはね、結構簡単に自分の存在をアピールできるんだ~」
元の世界の住人である優希は、それがネット環境であることはすぐに分かった。だが、知っている素振りを見せるわけにはいかないので、特に深くかかわらないように、無言で彼の言葉に耳を傾ける。
「健のギターを初めて聞いたのは三年前、ちょっと何もかも上手くいかなくて落ち込んでた時期なんだけど、たまたま健のギターを聞く機會があってね、その時はあまり上手じゃなかった、むしろ下手くぞだったけど……とても楽しそうに弾いてた」
「彼のギターがあなたを変えたんですね」
燈は當時の記憶を脳裏によみがえらせてクスっと笑う。
「それから二年後、健に初めて會ったの。その時は顔も知らなくて初めて會ったも同然だったけど、健のギターを聞いた途端すぐに分かった。健があたしのヒーローだったんだってね」
「好きなんですね」
「そう……かもね」
優希が言った途端、彼の元気は見る限り無くなっていて、優希は失言したことに気付く。
そしてようやく彼達の本當の相関図を理解した。一緒にいた時には気付かなかったことが、今になってようやく気付く。
「西願寺さんと谷さんって馴染でしたっけ」
「うん……だから、健と皐月が上手くいってくれればそれでいいはずなんだけどね」
西願寺の方は兎も角、普段の彼に対する健の反応から西願寺に好意を持っていることは、優希でも理解できた。そして、親友に好意を持っている男に、谷燈は好意を寄せている。
共に學生生活を送っていた頃からそんな関係だったのだろうか。
彼は半ば諦めている。西願寺皐月という存在を昔から知っているからこそ、彼の魅力をずっと近くで見ていたからこそ、敵わないと思い込んでいる。
だが、彼の頬を伝う一滴の涙が、まだ諦めきれていないことを表していた。
「なら、告白してみればどうですか?」
彼達の語などに興味はない。だからこそ、優希のかける言葉は無責任で、簡単に発言する。
けれど、そんな優希の言葉でも燈の心にはなからず影響する。
「けど、こんな時に」
「こんな時だからこそですよ。生きるのに理由はいりませんが、生き抜くには理由がいるものですよ。別に好きですなんて言わなくていいんですから。たった一言、一緒に歌いたい、隣にいたいってそう言えば」
「一緒に……歌う?」
「え、てっきりその為に歌の練習をしてるものかと」
「まぁそうなんだけどね……そう、ね。最上の視界にしでもあたしのる余地があるなら」
彼はに手を當て拳を握り決斷の意志を込めた視線を空にぶつけた。
優希は頑張ってくださいと一言言った後、テントの方に戻って、最上を彼のところに連れていく。
まだ朝日が起きていたようで、二人がテントから出て行ったのが気になったのか、こっそり後をつけていた。
そのことに気付いたのは優希のみ。
燈の元に最上を連れて行くと、優希は二人きりにしようとその場を去る。振りだけして、木に隠れていた朝日のところに移して様子を窺う。
「なんだ、こんな時間に」
「え……ぁ、うん」
なんだかとても気まずい空気が漂う。
けれど、燈の覚悟は気まずい程度では揺らぐことはなく、
「あたしね。健が弾くギターが好きなんだ!」
瞳を閉じて、吐き出すように唐突にそう言った。
燈の心臓が今までじたことのない速度で鼓する。頭の中が真っ白になり、考えがまとまらなくなっていた。
燈の告白に最上はキョトンとしたまま數秒棒立ちしていると、思い出したように、
「あぁ昨夜のこと? でもなんで知ってんの? 燈の前では弾いたことないけど。まぁちょくちょく學校でバンドメンバーと一緒に練習してるからその時かな」
「いいや。もっと前から……トモシビって名前知らない?」
最上は燈の言葉を聞いて、高校に進學する前のことを思い出す。
中學の頃、ギターを弾き始めてそれほど経っていないが、誰かに聴いてもらいたくて、下手糞な弾き語りをネットに上げていた頃を。
聴いてもらう人はなく、數ない視聴者からは批判が多かったが、それでも昔から畫を出すたびに心の籠った想をくれていた一人のユーザー。
「トモシビさんだったの!?」
彼も彼の想は原力だったようで、そのユーザーネームは今でも忘れていなかった。
最上が驚きつつ確認の為に聞くと、燈は恥ずかしそうにしながら無言で頷く。
「あの頃ね、あたしはいろいろ上手くいかなくて、親と喧嘩ばっかりしてたんだけどね、初めて健のギター聞いた時、あたしは変われたんだ。失敗を恐れることが無くなった」
「あんなへたっぴな弾き方で? 俺的にはし黒歴史なんだけど」
最上は頭をかいて自嘲気に笑う。
「でもとても楽しそうだった。酷いことを言われても、聴く人がなくても、健は楽しそうに弾いてた。健のギターは勇気をくれたの」
「それを言ったら俺もトモシビ……燈がずっと聴いてくれたから今日までギターを続けていられた」
最上の聲にも熱が困っていた。お世辭でも何でも本當に、燈がじたことを書いた想が最上のアーティスト人生を繋いだ。
その言葉は今の燈には嬉しすぎるものだった。自分も最上の心の支えになっていたのだと彼の口から言ってくれたのだから。
今なら言える。相変わらず鼓は早い。けど、呼吸はとても落ち著いていた。白紙だった頭の中は次々と本心を言葉に変えてしまう。
「あたしね、健の隣にいたい。一緒にバンドをしたい!」
強く堂々と彼は思いをぶつける。その気迫に最上は驚きながらも一言一句聞き逃さないように真剣に彼の言葉をけ止めていた。
「元の世界に戻れたら……あたしも一緒に……」
徐々に聲が小さくなる。だんだん不安が募ってくる。いきなりこんなことを言われて、勝手に話を進めてしまって、迷だったんじゃないか、そんな考えが彼の思考を支配する。
最上は言葉を詰まらせた燈の瞳を真っ直ぐに見つめて、
「いいぜ。一緒にやろう、燈」
にっこりと、歓迎してくれた最上は純粋に笑う。
燈は安心したのか、しふらつき最上が支える。
顔を見合わせて、二人とも満足そうに笑った。
二人の笑聲が月下の森林に響いた。
「なんかすごい現場を見た気がする」
朝日が若干顔をにやけつつそう言った。
優希はそんな彼をジト目で見ると、
「なんだよ」
「べ、別に何でもないですよ」
數時間前に同じような狀況験してただろと、心の中で突っ込みつつ、
「にしても上手くいって良かったですね」
「俺的にはもう一押しだと思うんだけど」
「いいんですよあれで。そこから先はこれからです」
優希は朝日と共に先にテントへ戻る。
バレないようにこっそりと。
その帰り道に朝日が唐突に尋ねてきた。
「ジークはのキューピットになったわけだな。結構他人のに興味あったりする?」
「いえ、ただ僕は谷さんに本心を告白してほしかったんですよね」
生き抜く希を作ってくれた方が、死ぬときの絶も大きいから――
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