められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》41・そして再び歩き出す

本當に、心から満足するということは、そうないと思う。

それは、復讐を果たした優希でさえ、心が軽くなるのをじつつも、終わってみれば足りない気持ちでいっぱいだった。

「……」

の匂いは慣れ、目の前に広がる地獄絵図にもう興味すら消えてきている。

を殘して固まった六人の顔。本來現してはいけない部分もわにして、滴るい巖盤のかげで水たまりのように広がっている。

そして――

「バウッ!」

喰った。バリバリと、モシャモシャと、抵抗することのない六つの塊を、魔族たちは貪り喰う。

ここに來た時、一つも白骨死がないのは、誰も來たことがないせいと思っていたが、どうやらこいつらが処理していたらしい。

「……」

魔族の胃袋へと消えていく柑奈達の死

呆気ない、足りない、つまらない。

ただひたすらに、退屈そうに見ていた優希は、

「バゥァッ!?」

食事中の一の魔族は一瞬にして首が消える。

袖からびる銀剣が、魔族のを吸う。

味方が死んだというのに、魔除石を持っている優希をまだ敵と認識しない。

それをいいことに、

「ハハ……」

殺す。

「ハハハ……」

殺して、

「アハハハハハハハハハハ!」

殺しまくる。斬って、千切って、捥いで、潰して、殺して、殺して、殺して。

退屈な心を埋めるように、をそのに浴びる。

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増えていく死。だがそれでも決して魔族は優希を敵と認識せず、柑奈達を喰い、死と化した見方をも喰い、そして、夢中になっているところを優希に殺される。

歪んだ笑みを刻んで、ただ殺しを楽しむ姿は、容を省けば純粋な子供のようで。

「……はぁ」

溜息をついた頃には、優希以外にく者はいなかった。

それと同時に、帰り道を塞いでいた壁が崩れるようにひび割れる。

報通り、魔族を一人殘らず倒せば、塞がれた道から解放されるようだ。包帯男の傷もここでついたものと聞いている。

優希は崩れる壁を見ながら、銀龍ヴィートのオ白籠手シルヴェルをパタのように尖らせて、

「……」

自分の腕に突き刺す。足に、肩に、腹に、致命傷にならない箇所を指していく。自分のを濡らし、純白の髪も弾丸鼠を殺した時のように朱を取り込んでいく。

そして、一通り怪我をした後、壁にそのを預けて、壁が崩れていくのを待つ。

「みんッ――な……」

外にいた西願寺の言葉から、力が抜けていくのが分かった。

の瞳に映り込むのは、友の死、骨。鼻につく激臭と現実を紛らわす音のない世界が彼の表を一瞬で絶に染め上げて、全の力を奪い取り、

「い、いやぁぁああああああ!!」

ばせる。夢なら覚めてほしい、噓というなら言ってほしい。そんな願いを心の中で反芻させるが、現実は変わらない。

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らがくことはなく、喋ることもない。

はち切れる啼泣の聲を上げる西願寺の耳に、ポツリと聲が屆く。元気のない聲だが、今の彼にはこれ以上にないに思えて、

「――ッ!?」

聲の主を探す。目を開けるのも苦しい狀況で、彼は縋るように聲を求める。

の海を視界にれながら、聲を、僅かなを探し求めて、

「ジークさん!」

壁にもたれかかっている重癥の優希を見つけた途端、心配よりも先に安心の聲を上げて、崩れそうな膝をばして、よろけながらも彼の元へと駆け寄る。

ボロボロの服、で染まった、今にも消えてしまいそうな掠れた聲。そんな彼に彼は縋る。

「ジークさん! 大丈夫ですか、これは一……」

涙を流しす彼の瞳はとても揺れている。平靜をよそっているが、彼の悲鳴を聞いた優希には無理をしている様にしか思えない。

西願寺は揺で震える手を優希にかざし、魔導士の恵【治癒】を発する。勇気が自分で作った傷はみるみるうちに塞がり、敗れた服から見えるは、何事もなかったかのように綺麗になっていた。

「あ、ありがとう……ございます」

「無理しないでください。傷は塞がっても失したは戻ってませんから」

ゆっくりと立ち上がる優希を彼はその細く綺麗な手で支える。

は優希しか見ていない。目をそらすとそこは地獄だったから。今はまだアルカトラで培った強い神が彼を支えているが、彼が一人になった時、それは崩れ去るだろう。さっきとは比べにならないほどの悲鳴が、彼から発せられるだろう。

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「一何が……」

「あの後……突然出てきた魔族に襲われて……皆さん僕を庇って……」

優希は彼の肩を借りて移する。は普通にく。むしろ肩を貸してほしいのは西願寺の方かもしれない。けれど、今の優希は怪我人、適度に力を抜いて彼を託し、を震わして揺していることを訴える。

出ない涙を堪える素振りを見せつけて、痛みのないで負傷者を演じ切る。

噓を現した優希に、西願寺は手を差しべる。

を処理することも許されない。なぜならここは仮にも魔界、閉じ込められたという場所でそんな悠長なことをしていれば、唯一の生存者と共に再び閉じ込められる可能もある。

一度戻ってからくることも葉わない。今まで居場所を中継していた最上はこの世にいないから。

苦しいけど、哀しいけど、ここで彼らは置いていかなければならない。

その後二人はただ無言で足を進めた。

********************

「……」

「……なんだよ」

帝都の一室に戻った後、メアリーは紅茶を楽しみながら優希を無言で見つめる。

あの後、優希の脳に送られるメアリーの聲を頼りに小屋へと戻り、打ち合わせ通り包帯男の【移空】によってノマルドの安全ルートに戻った。

すべてを知らない西願寺は、ただでさえ友の死で現実逃避したいのに、襲い掛かる急展開の連続に神がおかしくなりそうだった。

「いや……てっきり全員殺してくると思っていたんだが?」

笑みを浮かべて紅茶を楽しむメアリーの言葉に、優希は西願寺が一人いる部屋を一瞥して、

「理由はいくつかある。一つはあいつの恩恵だ。俺の〖再起リブート〗は傷だろうが毒だろうが完全に治すが、十秒間権能が使えない弱點がある。回復要員はいた方がいい。それにあいつは料理や家事ができて事務処理もできる完璧人間、なにもしないお前と違って便利だ」

「何もしないとは失禮な奴だ。今回だって私がいなかったらお前は小屋に戻れないんだぞ?」

「そん時は殺す前に最上の恩恵奪って無理やり帰るさ」

優希はコートをいでベッドにを預ける。ノマルドでの生活で程よくついた筋。ジークになり替わった時は、もやし男と言われても言い返せないほどにか細く弱々しいつきだったが、今の優希は立派なをしていた。

「で、理由は今後の利用価値だけか? 他にもあるんじゃないのか?」

すべてを見かす黒い瞳。優希の記憶を覗いた彼は理由など聞く必要がないはずなのに、彼は優希の口から語られるのを持っていた。

そんな彼の意図をくみ取った上で、優希は數秒黙り込んで、眠りにるかのように瞳を閉じる。

「まぁ……あいつは一度助けようとしたことがあるからな」

「なら、彼は対象外か」

紅茶をすするメアリーに、優希は「いや」と前置きして、

「殘念だけどあいつもターゲットだ。今は価値があるから生かしているだけ。探すのも面倒だから傍に置いているだけだ。価値が無くなったら捨てるさ」

「ほぅ、皐月はお前を助けようとした。それを知ってもあいつは敵なのか?」

「なんだ嫌なのか? まぁお前は西願寺と何やら仲がいいみたいだからな」

「フッ、殘念だが私にとって人間は玩でしかない。皐月はただのお気にりなだけだ。お前が殺すと言うのなら好きにすればいいさ。ただ、お前の意図を知りたくてな。私は記憶は覗けてもが覗けるわけじゃない。お前が見た景を私が見たとしても同じ思いを共有できるかと言えば話は別だ」

「そういうことね……西願寺は確かに俺を助けようとしてくれたよ。だが、救ってくれたわけじゃない。彼の行の結果は結局俺のめが悪化しただけ。希を抱いた分深い絶に落とされただけだ」

閉じた瞼の裏に過去の記憶が映し出される。

それは忘れたい、けれど今の優希の行力を構するもので、決して手放すことのできない忌々しい記憶。

「で、皐月はそんなじだ? まだ泣いてるのか?」

「まあな。なんせ張狀態だった場所から解放されたんだ。ため込んでいたものを一気に吐き出したんだろ。友達があんな無殘な姿で別れを告げたんだ。立ち直るのに時間はかかるだろうな」

戻ってきた三人は今同じ宿で過ごしている。一通り優希の看病した後、皐月は自分の部屋に戻ってでの第一聲は、壁に枚と廊下を挾んだ優希にすら屆くほどに、悲しみに満ちた悲鳴だった。

泣いて、んで、吐き出して。負の揺を聲に出して泣きぶ。言も何もないいきなりに別れ。労わることもできない別れに彼ぶ。

気がおかしくなっても不思議じゃない景を目の當たりにした彼は、一日経った今でも彼らを思い、そして泣いていた。

「バジルに次の報を持ってこさせているところだ。時間はあるし、好きなだけ泣かせとけ。俺はもう寢る」

「……」

優希は眠る。彼の悲鳴を子守歌に眠りにる。彼が心にけた傷など優希には関係ないものだから。どうでもいいことでしかないから。

メアリーは寢息を立てる優希を一瞥した後、再び紅茶を楽しんだ。

優希の部屋を出て真向かいに皐月がぶ部屋がある。

疲れたのか、彼の聲は聞こえない。

「ようしは元気になったか?」

「ちょっとメアリー、ノックくらいしてよ」

ベッドの上で窓の外を見ていた西願寺は、メアリーの聲に反応する。

の聲は弱々しく枯れていて、涙の跡が殘り、難病を抱えた病人のように憔悴しきっていた。

メアリーは悪いなと軽く謝罪した後、部屋の椅子に腰かける。

「これからどうする気だ? 私たちと一緒に來るか? あいつは構わないと言ってるしな」

むしろ優希的には一緒に來てもらいたい。探し出すのも面倒だから。

メアリーが冗談のように提案すると、彼は數秒考えて下を向く。

は今揺れている。他に頼るのもがない、縋るものがない西願寺は、優希についていきたい思いは容易に抱いた。だが、彼が今まで行出來ていたのは、元の世界に帰るという目標があったからだ。

だが、もし仮に帰れたとして、みんなを置いて一人で帰っていいものなのかと、後ろめたいが出てきている。

つまり今の彼には行に値する理由がない。ここでひっそり暮らすのもありなのではないか、いっそのこと、自分もみんなのところに――

「その昔、神はこの世界に生命を生み出した」

突然の聲に彼の思考はピタリと止まる。

「その昔、神はこの世界に文明を與えた」

語る銀髪の。西願寺の眼は、見據える黒真珠の瞳を捉える。

「その昔、神はこの世界の願いを葉えた」

「メアリー……それ何の詩?」

ようやくの返答にメアリーは笑みを浮かべる。

なびく銀髪をいじりながら、

「これは聖書の一文だ。アルカトラには神と言われる存在は一人しかいない。なぜなら思想や憧れ、妄信によって生み出された偶像の存在ではなく、現実にその姿を見せ、その姿を見せつけた、現実の神が存在するからだ」

西願寺の脳裏にエンスベルの顔が浮かぶ。

彼の印象は勝手で無責任な印象しか抱いていないが、それでも彼はこの世界の神だという存在を見せつけていた。

「そして、聖書にはこんな一文がある。“神は魔を滅ぼす勇者の願いを葉えた”とな。この聖書にはすべて現実に起こったことしか書かれていない。妄想や妄信の存在じゃないから噓を書く必要がないからな」

「それって……」

「つまり、魔を滅ぼす、魔族を倒してこの世界を救えば、願いを葉えてくれるということだ。毎年眷屬の資格試験は二千人近くの験者がある。もちろんこの世界を救いたいという思いはあるが、その奧には願いを葉えたいという奴が殆どだ。まぁ當たり前だな。じゃなきゃなんでわざわざ危険な場所に足を踏みれる必要がある? 町に籠ってれば襲われる心配はないのに」

この世界に來た時の説明に、そんなことは誰も言っていなかった。もともと報を隠されていたわけだが、願いを葉えるなら、わざわざ神の想像をも超えるなどの遠回しに言わなくても、はっきり言えばいいを。

それ故、彼の言っていることが本當である証拠はない。だが、それでも、僅かな希にすがるしかない彼は、簡単にいた。

「みんなを生き返らせることも出來るの?」

「あぁ。生き返らせるのも元の世界に帰るのも可能だ。無から有を生み出す事の出來る神、エンスベル……様なら、死人をよみがえらせることも容易だ。不完全とはいえ我々人間にも可能だからな」

西願寺は『エンドらの殺戮兵事件』を思い出す。軽く記事で読んだ程度であまり詳しくは覚えていないが、それでも初代勇者はこの世界に再び命を持っていたという。

それが可能なら、神であるエンスベルなら――

「みんなとまた會える……」

願いが一つなら、みんなを生き返らせれば元の世界に帰れないかもしれない。けど、それでも構わない。みんなともう一度會えるなら。

「メアリー……私も一緒に行っていいかな。私のやらなきゃいけないことが出來たから。力を貸してくれないかな」

が見えて、が見えた彼の聲はし元気になっていて、

「もちろんだ。私達でよければ喜んで力を貸そう」

銀髪のは、一呼吸と笑顔を刻んで、二つ返事で答えた。

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