められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》45・皇帝グレゴワール

「ねぇ海斗、僕、どう見ても王族に謁見できる服裝じゃないんだけど……」

「問題ない。それを言ったら俺も変わらん。高校制服は元の世界では正裝だが、アルカトラではただの服だ」

確かにそうだけどと言いたげな薫。今の薫は汚れてはいないものの、傍から見ればただの冒険者。背中に剣を攜えた狀態の彼では、事を知らない者から見れば襲撃者だ。

そして、海斗もまた神格高校の制服。武と呼べるものはないが、それでもアルカトラでの正裝とは程遠い。

「そんなに気にすることじゃないよ。陛下も姫様も事は知っているし、とても寛大な方々だ。多のことは笑っていてくれるよ」

前を歩くウィリアムの説明だと、皇帝陛下は優しそうに思えてくる。だが、薫が知っている皇帝グレゴワールは恐ろしい存在として認知している。

七代目の皇帝、グレゴワール・シルヴェール。武力知力ともに優れ、皇帝の稱號を持つ前は、騎士団の団長として活躍。騎士団時代も戦爭中の歴代団長に負けず劣らずの武力、戦闘に至らないように裏工作を施し無駄なを流さないようにしたり、張り詰めた空気が流れ國民が近づき難かった騎士団をその寛大さと人間的魅力により部から変え、恐い存在だった騎士団を憧れの存在へと変えた人

皇帝になった後も、変わらずの統率力により、帝國は一気に発展。帝國以外の都市とも友好関係を築き、再び戦爭が起こらないようにしている。だが、彼の政治には平等という文字は存在しない。もちろん完全に平等な政治などは不可能だ。しかし、グレゴワールの場合はとても偏りが酷かった。一部の養分を他にすべて吸収されているじだ。

雲上街と帝都の四區、そして他の大都市だけ見れば彼の政治は人々に幸福を與えていたかのように思える。

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しかし他、アルカトラの半分以上はとても貧しかった。希はない。未來も変わらない。逆らえば反逆罪として殺される。シルヴェール帝國が大陸統一を果たしてから約四百年。グレゴワールが皇帝になって約五十年。この短期間で急激に発展したアルカトラに、経済は著いてこられず、結果、激しく貧しい場所が出てしまった。

グレゴワールは、それを犠牲と割り切り見捨てている。意義を唱える僚は、証拠のない罪で処刑か投獄、帝國にとって有益なものは、罪を犯そうと抹消される。そうして築かれた帝國では、グレゴワールを信仰する者と、恨み復讐心を覚える者の二種類が存在するようになった。典型的な獨裁國家だ。

薫が知っているのは噂による報のみ。グレゴワールが本當はどんな人なのか、薫は気になって仕方がない。ウィリアムが帝國の裏を知っていないとも思えないが、彼の第一印象はとても良心的だ。

そんな彼を見ていると、グレゴワールの噂もうわさでしかないように思える。

「著いたよ。心の準備は大丈夫かい?」

金獅子は首だけで振り返り、翡翠の瞳で肩に力がる薫を見據える。

薫の姿を見れば心の準備が出來ていない事は明らかだ。だが、ウィリアムは楽し気に笑った後、薫の返事が返る前に謁見の間へ続く扉の取っ手に手をかけて、

「こういうのは勢いが大事だからね」

張している薫を待たずに扉を開けた。謁見の間はバスケットコート二倍くらいの広さがあり、左右に四本ずつ建っている図太い柱、大理石の床を縦に割るように敷かれている赤い絨毯。天井から垂らされる八大都市の都旗。

絨毯と並行して左右に七人ずつ分かれて直立不する僚達。そして部屋の一番奧、數段の短い階段によって、し高い位置にある一つの王座。金の裝飾が施されているそれは、數々の王を座らせてきただけの雰囲気がある。

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だがそれ以上に、周囲の空気を塗り替える存在が王座に座りそこにいた。

「勇者殿が……勇者候補の……」

渋く重い聲が部屋に響く。皴の刻まれた顔、素の抜けた白い髪と髭、黒の上著と腳に朱のマントをに纏うその姿は、一目で王であることを認識した。

薫の前で凜々しく立っていた金獅子は片膝をついて口上を述べた。

何をどうしていいか分からない薫は、取り合えずウィリアムと同じように片膝をつく。同時に海斗も同じ勢。

「我はシルヴェール帝國七代目皇帝グレゴワール・シルヴェール……此度は我の呼びかけに応じてくれたことを謝する……」

重い聲が薫の耳に響いた時、薫の心音が高鳴るのをじて、

「お、お初にお目にかかります。私の名は相沢薫と申します。この度は陛下護衛の任を頂き參上仕った次第であります。このようななりで陛下の前に出向いたことをお詫び申し上げます」

口上はこれで正しいのかと話しながら疑問に思う薫の聲はとても震えており、腹から聲を出しているのに、聲に張りがない。

そんな薫に不敵な笑いする皇帝は、

「ま、堅苦しい挨拶はこの辺にしておこっか。勇者殿も張しているようだし」

「……え?」

さっきまでの重く堅い空気は、皇帝の言葉によって崩れ去る。

キョトンと力の抜ける薫に、ウィリアムは膝をついた制のまま、

「言ったでしょ。陛下は寛大なお方だって」

「これは寛大というより……か、軽い?」

言葉遣いが若いというべきか、薫にも意味が理解できる言葉で話すグレゴワール。話す上ではこの場の誰よりも親し気だ。

そしてグレゴワールは、王座に淺く座り直し、背もたれにを預けて溜息を吐きながら自分の肩をむ。

「いや~やはりこういうのは苦手だわい。威厳ある皇帝になる為に言葉遣いや前口上、佇まいなんかも覚えさせられたが、自然が一番じゃの。あ、勇者殿もいつまでも頭下げてないで楽にせぃ」

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「は、はぁ……」

狀況についていけないまま薫は立ち上がり、ウィリアムに視線で詳細を求めた。

「陛下の普段はあんなじだよ。流石に國民の前では威厳ある皇帝を演じているけど、この場にいる僚や俺の前では皇帝というよりちょっと貫祿がすごいおじさんなんだよ」

皇帝陛下相手におじさん呼ばわりのウィリアム。張り詰めた空気は一気に緩み、いつの間にか薫の張も解けているが、今度は揺によって困している。

薫が何気なく海斗に視線を向けると、珍しく困の表を浮かべていた。

「どう思う?」

「さすがにこれは俺も予想外だったな。まぁ薫の張も解れているようだし、気にしないでおこう。要は慣れだ。見た目の貫祿とのギャップも慣れればなんとも思わない……はず」

これほど揺している海斗を初めて見た薫は、珍しいものが見れたとし幸福に浸りながら、肘置きに肘をついて、頭の重さを手で支えるグレゴワールを見る。本當に喋らなければ皇帝の稱號に見合った風貌だ。

グレゴワールはの調子を整えるように咳ばらいを一回した後、薫の全を瞳に映す。

「ウィリアムから話は聞いているな。一週間後に行われるシルヴェール帝國建國祭で勇者殿には護衛をしてもらうのだが、特に我が娘の護衛をお願いしたい」

「ご期待に沿えるよう全力を盡くさせていただきます。しかし陛下、私で問題ないのでしょうか?」

王城に來た時から抱いていた疑問。何故薫はこの重要な任務に選ばれたのか。

アルカトラに來てから戦闘に関しては確かに上達した。だが、護衛に関する知識などなく、薫よりも強い眷屬など現時點では山ほどいる。それこそ近なところで宮廷眷屬だけで十分なように思える。

いくらウィリアムの知り合いである海斗の推薦があったとしても、そんな得のしれない人を護衛にすることに、グレゴワールが許可するとも思えない。

薫の心配にグレゴワールは高らかに笑い、

「心配するでない。勇者殿の事は調べさせてもらった。メリィ」

「お呼びでありますか陛下?」

「あります?……のわぁ!?」

グレゴワールが突然誰かの名前を呼ぶと、彼は薫の橫に姿を現した。というよりは、最初からそこにいたかのように薫の隣で立っていた。

の短髪とし釣っている目に宿る空の瞳、黒い生地に白のストライプがあるメイド服と純白のエプロン、スカートからびる白いガーターベルト。長は薫よりし小さい、丁度茅原と同じくらいだろうか。

品のある立ち姿に、澄ました表はとても凜々しい。

「今後勇者殿もお世話になるだろうから紹介しておこう。宮廷家政婦長つまりはメイド長のメリィだ」

「メリィ自は初対面ではないのですが、一応初めましてであります勇者様」

メイドであることは服裝を見ればすぐに分かったが、メイド長であることには驚嘆のを隠せない薫。帝國の王族に仕えるというだけで、狹き門をくぐるようなものだが、それの頂點に君臨する彼の外見は、その立場を任せてもらえるような年齢には見えない。年齢は薫と変わらないように見える。

「メリィはもうすぐ二十歳であります」

薫の心を読んだのか、そのメイドは唐突に自分の年齢を吐。面食らう薫に彼はしてやったりといたずらっ子のように純粋な笑みを浮かべる。彼の瞳には薫のすべてを見かす力があるようにじる。

「勇者様、こちらをどうぞ」

メリィはどこから取り出したのか、紙束を薫に渡す。ぎっしりと図や文字が羅列するその書類に薫は目を通し、海斗も薫に近寄って書類を覗き込む。

「いや、これは……」

薫か海斗か、そんなセリフが無意識に零れた。

長、重、趣味、癖、友人関係……相沢薫のありとあらゆる報が、しっかりと記録されていた。そして、アルカトラでの生活パターンや薫も覚えていないようなことまでぎっしりと。

薫が毎日日記を書いたとしても、ここまで事細かく書かないだろう。もはやこれは狂気すらじる観察日記だ。

苦笑いしか出ない薫に、海斗は無言で薫の肩に手を置いて、

「まぁ、なんだ……がんばれ」

これほど同の念を込められた頑張れを薫は初めて言われた気がする。

何せ、浴中にも監視していたようで、個人報やプライバシーなど完全に無視した調査だ。

「因みにメリィは初めて殿方のを見たであります」

ほんのり頬を赤く染めて訊いてもいない報を言うメリィ。

二十四時間完全著されていた薫に、グレゴワールは人の気も考えず軽い口調で、

「ま、そんなわけで勇者様を選んだわけじゃい。流石の我もここまで過激な調査をするとは思っておらんかったがのぉ」

「お褒めに與り栄であります」

「え、今の褒めてたの? 引いたんじゃないの?」

どんな言葉も前向きにとらえるメリィ。彼の反応を見ていると、この過剰すぎる調査も合法のように錯覚してしまいそうだ。

だが、他の僚達は居たたまれない表でいる。

「今回の依頼はこれから過激になるであろう反軍への対策でもある。つまりは即戦力よりも今後の長を重視したのだ」

グレゴワールが薫を選んだ理由は反軍への対策でもある。グレゴワールの政治は反が強く、そう言った組織が出ても不思議ではない。最近はそれが過激になっていっているようで、帝國側もしでも戦力が必要らしい。

現時點で薫より強い眷屬も、將來的な長が見込めなければ、今回の護衛には不要だ。なぜなら、今回の護衛は採用試験の一環でもある。

「姫様を守る専屬の騎士。その採用試験に選ばれたのが君だからね。一週間後の建國祭に間に合う長力と、今後も護衛として信頼できる人材。君ほど適応する人はいないんだよ」

金獅子の納得のいく説明に、薫の今浮かんでいる疑問はすべて解消された。薫の素質と格は今回の條件には打って付けだ。

「よし、勇者殿の覚悟も決まったことだし、さっそく紹介するとしようかな。ってよいぞ」

グレゴワールの呼びかけと同時、薫の背後にある謁見の間と廊下を繋ぐ扉が開かれる音がした。重厚のある扉の音は、薫の視線を無意識に導する。両開きの扉から、廊下のと人影が姿を現した。

「――――」

そして、その扉が完全に開かれた時、薫は呼吸を忘れる覚に陥っていた。

「初めましてカオル様、わたくし、シルヴェール帝國第一皇、クラリス・シルヴェールと申します」

ドレスアップされたそのは、スカートを軽く摘まみ、膝をし曲げを沈めて軽くお辭儀をする。煌びやかな桃の長髪は日ので更に輝き、長い睫と整った顔立ち、きめ細やかな白いと抜群のスタイル、澄み切った青い瞳はすべてを包みそうな視線を放つ。

薫の瞳は彼を映したままこうとはしない。彼しさは、薫の脳裏に強い衝撃を與えていた。

口を開けたまま立ち盡くす薫に、海斗は軽く肘でつつく。その作が薫を現実に引き戻し、我に返った薫は詰まった聲を吐き出すのに數秒を要して、ようやく言葉を吐き出すことに功する。

「は、初めまして! ぼ、私は相沢薫と、も、申します。この度は姫様の護衛の任を頂き栄に思う次第で――」

「フフフッ――そんなに畏まらなくてもよろしいですよ。年齢も同じですし、ご友人と同じような口調で構いませんよ」

吃音じりの薫のセリフを天使の微笑で遮り、慣れていない堅苦しい口調よりも、ラフな口調をクラリスは許可した。當然、薫としてもその方が気楽なのだが、さすがに僚と皇帝の手前、そう簡単に変えられるわけもなく、

「め、滅相もございません。私ごときが姫様と対等に話すなど、恐れ多くてとても……」

両手を左右に激しく振り、立場の違いを再認識する。彼の友好的な瞳は、うっかり友達口調になってしまいそうで、再び気を引き締める。

薫の対応に、クラリスはし不満そうな表を浮かべるが、この狀況では仕方がないとれ、ならばと、

「お父様、しカオル様とお話ししてきても構いませんか? 勿論二人きりで」

クラリスが父親であるグレゴワールにそう言うと、皇帝は何故か不機嫌になり、妥協するような溜息を吐いた後、

「……構わん。しかし、勇者殿も暇ではない。あまり時間を使ってはならんぞ」

「分かりましたわ。ではカオル様、行きましょうか」

「え、あ、はい……」

らかい笑みを薫に見せて、クラリスは踵を返す。狀況についていけない薫は、気の抜けた返事をして、周りの空気に合わせるように、クラリスについていった。

謁見の間を出ると、薫達が通ってきた正面の道と、左右の道が続き、クラリスは扉を抜けて右に足を進める。彼の歩く作に合わせてドレスと髪が揺れ、品のある歩き姿に、薫は後ろから目に焼き付いていく。お嬢様の品格を漂わせる彼に、薫は張や言葉遣いなど難しいことは考えず、ただ前を歩く姫について行った。

薫とクラリスが抜けた謁見の間では、張り詰めていた空気が完全に崩壊していた。というのも、格式高いこの場所で、とある一人が何やら落ち著きを忘れていたからだ。

「はぁ~大丈夫かのぉ。大丈夫かのぉ……」

「心配しすぎですよ陛下は。カオル君も姫も、不祥事を起こすような人ではないでしょう」

薫がいた時は、王座にどっしりと構えていたグレゴワールは、今では立ち上がって歩き回り、何かとクラリスたちの様子を見に行きたがる。

この場でグレゴワールの挙を不思議に思う人はいない。ただ一人を除いては。

「陛下は何を心配しているんだ? まぁ確かに薫以外の護衛をつけずに行させるのは危ないかもしれないが、ここは王城、警備は萬全だろう」

腕を組んで落ち著きがなく周囲を歩き回るグレゴワールに、海斗は怪訝な表で返答相手を特定しない疑問をぶつける。海斗の疑問に答えるは王宮のメイド長。

「姫様は陛下のこの世で最も大事な大事な、だ、い、じ、な、一人娘であります。そんな彼が、辺調査をしたとはいえ、ぽっと出のガキと行させるのは親として心配するのは當然であります」

し口調が荒くなるメリィ。どうやら彼も面白くないようで、裏の顔の片鱗を垣間見た海斗は、不機嫌なメリィと會話することを拒否し、今度はウィリアムに質問をする。

「陛下が大事な娘を心配していることは理解した。だが、一人娘とはどういうことだ? 俺の記憶が正しければ、第二皇、つまりは姫様には妹がいたはずだが……」

海斗の言う通り、クラリスには妹がいる。だがそれは忘卻された記録。海斗がそのことを知らずに口にしてしまったことで、し空気が悪くなった。だたしそれはウィリアムだけだ。幸運にもメリィを含め他には聞こえていない。

ウィリアムは険しい顔で海斗に近づき、囁やくように言った。

「どこでその報を手にれたかは知らないけど、その件は後で話そう。だからその話は……」

最後まで言わずとも、海斗はこの件がタブーであることを理解し、黙って了海の意味を込めて首を縦に振る。すると、ウィリアムの表は一気に緩和し、

「では陛下、私もこれで失禮します。メリィ、後は任せたよ」

「はい、ウィリアム様」

メリィの姿勢の良い品位あるお辭儀で見送られ、ウィリアムと海斗は一禮して部屋を出る。海斗達とは違って二人は左の道を歩いて行った。

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