められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》46・今はまだ

その部屋はお嬢様らしく、同時にとてもの子らしかった。全的に白とピンクの裝、天蓋付きベッドには、クマやイルカなどのぬいぐるみがいくつか置かれているが、散らかっているわけではない。

クローゼットから何か布らしきものがはみ出しているが、気付かなかったことにしようと目をそらした。

の部屋にるのはこれが初めてというわけではない。馴染である上垣茅原の部屋には何度も上がったことがあるし、高校生になった後なら、ひまりや葵の家にも上がったことがある。

だがしかし、それはったことがあるというだけで慣れているというわけではない。むしろ、今日部屋に招かれたのはさっき出會ったばかりの、それも格式高いお嬢様の寢室。謁見の間とは違う張をしても無理はない。

「好きに寛いでくださいね。今、お茶とお菓子をご用意しますから」

「お、お構いなく……」

バルコニーには一臺の機と二腳の椅子。そのうち一つに薫は座る。

城の一部屋、高い位置に存在するそこは、程よい風が薫の頬をでて、クラリスが來るまでの間、暇を潰すのに十分な景が薫の前に広がる。

の部屋のバルコニーからは雲上街の一部と帝都西區が一できる。真晝間、太が注がれる町はとても賑やかだろう。だが、その聲は薫までは屆かず、人が米粒のように見える。

楽し気に鼻歌を歌うクラリスは、手馴れた手つきで食にクッキーを盛り、良質な茶葉を使った芳醇な紅茶の香りが、部屋から流れて薫の張を解していく。

花の模様が施された純白の陶に、四角に型取られた茶いクッキーが陳列され、ティーカップには濃い赤褐の紅茶が湯気を出して波打つ。

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クラリスが席に著くと、薫は禮を言ってからカップを傾けて、張で乾いた口らせる。溫かくらかな舌りの茶が味蕾を刺激し、濃厚な味を脳へと送る。

味しいです……隨分と手馴れていましたね。こういうのは使用人の方に任せているものと思っていましたけど、姫様はそうではないようですね」

「立場上わたくしは、城から出ることを許してはもらえません。ずっと城にいるわたくしの唯一の娯楽はここで茶を嗜みながら城下で元気に過ごす人々を眺めることですので……」

儚げな笑みを浮かべて彼の瞳が映すは帝都の城下。日銭を稼ぐために汗をかいて働く男達、そんな彼らを支える為家事を頑張る達、この世界が平和と認識させるように元気に走り回り純粋に笑う子供達……いろいろな人々が今日も逞しく生きている。

薫が見ているのはそんな町の姿だ。だが、クラリスと薫、同じ景を見ていても違う捉え方をしているようにじられて。

「ですから菓子の作り方や紅茶の淹れ方をメリィに教わったんです。人にお出しするのは初めてでしたけれど、カオル様のお口に合うようでわたくし、喜ばしい限りです」

両手を合わせてにこりと笑うクラリス。その笑顔は、誰をも虜にしてしまう力がありそうだ。

の笑顔に當てられて、薫は照れ臭そうに目を逸らし、心を読み取らせないようクッキーを口に運ぶ。

そんな薫の姿にクラリスは微笑んで楽しみ、落ち著いた頃にカップを傾けを潤す。

両目を閉じて、風じながら、飲み慣れた高級茶の味が舌に染みる。

「姫様はどう思っているのですか?」

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唐突に薫は尋ねた。

それは、謁見の間では消化しきれなかった疑問。

薫はこの狀況が不思議でたまらない。

グレゴワールが薫を選んだ理由は理解できた。だが、彼の大事な一人娘に、素質があるというだけで実績も何もない薫を護衛につけるというのは不思議でしかない。

それこそ、信頼と実績で言えば、宮廷眷屬を護衛につけるのが妥當だろう。いくら今後の事を考えたとしても、一週間後の建國祭までは、薫ではない方が安全だ。

それに、クラリスは薫が護衛に當たる件について、一切の不安や不満を見せない。何処の誰かも分からない人が、いきなり護衛につくというのに。

薫の質問にクラリスは、もう一度カップを傾けて、話す態勢を整える。彼がカップを置いた時、彼の表は微笑みではなく、覚悟を決めたような表が浮かぶ。

真っ直ぐな視線が、薫の瞳を撃ち抜か、一度呼吸を整えて、

「カオル様を選んだのは……このわたくしです」

「……ぇ?」

何故姫様が?と薫は首を傾げた。

當然の反応ですねと微笑むクラリスは、再び儚げな表で城下を見下ろす。

「宮廷の……帝國に仕える人ではダメなのです。わたくしを信頼し、わたくしについてきてくれる人ではないと」

「……事を話してくれませんか?」

「そう、ですね……ですがその前に、今からカオル様にお話しすることは一切他言無用でお願いします。約束していただがますか?」

「――はい」

クラリスの真剣な表に息を凝らす薫。覚悟を決めて返事を返すと、彼は一言お禮を言ってから、

「カオル様は、帝都以外の町を訪れた事はございますか?」

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唐突の質問に薫はし驚きながらも、再び向き合う態勢を整える。

「いえ、帝都と『始まりの町』以外は……」

薫の返答は早かった。事実、アルカトラに來てからは練度上げに専念していた為、他の七都市や町には行っていない。

薫が答えると、彼は城下を見下ろしたまま、

「城下はとても賑やかです……汗を流して働き、笑顔で遊ぶ。毎日が幸せに満ちている。けれど、その幸せは犠牲の上でり立っているもの」

「犠牲……ですか?」

「ええ。こうして笑っている人々以上に、明日へ命を繋ぐのも必死な方々が多いのです。この國ではそれが當たり前となっています」

薫が噂程度に知っていた帝國の闇。グレゴワールの印象からでは噂としか認知していなかったが、彼の言葉で事実であることを理解する。

「先程も申しましたが、わたくしは城から出る事を許してはもらえません。けれど、一度だけ、の頃に城を抜け出したことがありました」

瞳を閉じて記憶を巡るクラリスの話を、薫は見守るような眼差しを向けながら聞いていた。

外の世界はどの様なものでしょうか。そんな期待を抱いて、の、當時6歳のクラリスは、最低限の資金と足を用意し、帝都を抜け出した。

それは未知の世界に行くもので、好奇心旺盛であったクラリスの瞳は、夢と希で寶石の様に輝いていた。

「けれど……その先に待っていたのは、飢や環境などによって生気を一切じられなかった……まさに地獄の様な世界でした」

そこは死地という名稱で通っていた。魔境魔界の影響をけて、人間が住む環境ではなくなった場所。

死んだ大地によって作は実らず、燦々と降り注ぐ太に反して、川などの水源は枯れ果てて、そこに住む人々は毎日の様に、の渇きや空腹、灼熱や極寒と化した環境と戦っていた。

當然、環境が悪いなら住み場所を移すれば良い。だが、そう簡単な話ではない。

八大都市は愚か、その他の町でさえ、彼らをれようとはしなかった。

何故なら、彼らがどんな病原菌を持っているか分からなかったからだ。

謎の病が伝染するかもしれない、魔境魔界に近い場所で暮らしていた彼らは、もしかしたら魔族へと変貌するかもしれない。

ありもしない虛言と、恐怖による空想などがれ、死地で暮らしていた人々は、差別の対象となっていた。

もちろん死地に住んでいたからといって、未知の病原菌を持っていたり、魔族へと変貌したりする事実はない。

もし人々の恐る可能が事実なら、何日も魔界に滯在する事のある眷屬は、羨ではなく反の目で見られていただろう。

そして一度、とある研究者がを張って、その空想の可能が、完全にゼロである事を10年かけて証明した。それが今から30年程前の話だ。

「……では、今はもう差別はないんですね」

薫がホッとした表で問いかけると、クラリスは思い詰めた表で首を左右に振る。

「その研究者が10年かけて証明した研究結果は……殘念ながら、公表される事はありませんでした」

俯いた彼の聲はとても暗く、澄んでいた空の瞳は、絶に染まっていた。

対して薫も、無意識に重心を前に傾けながら、詰まる言葉をなんとか吐き出す。

「どう、して……」

「その研究者は真面目で正義が強く、優しい方だったと聞いています」

その男は、研究者としては優秀で、帝都でも一目置かれていた。帝國が彼に支給する資金は多額だが、倹約家の彼は低コストで仕事を進めていた。

だが、支給された資金を帝國に返還する事はなかった。そして帝國側も彼の働きに免じて、その辺りは何も言わなかった。

なら、余った資金はどこにいったのか。

その男の家はこぢんまりとした、一住民と変わらない家屋で、貯金をしているわけでもなかった。

彼は余った資金で、死地に食料と水を屆けていたのだ。彼がこの援助活を始めてから5年、今では彼以外にも50人近く活に參加する人が集まっている。

だが、彼だけの力では限界がある。死地は大陸中にいくつもあり、彼が援助出來る範囲は限られていた。

だから男は考えた。どうすれば全員を助ける事が出來るのか。

そして導き出した答え。それは差別の原因となっている固定概念を崩す事。人々が恐れているものがなくなれば、死地で暮らす人々はれてもらえると考えた。

男はすぐさま行した。援助活と仕事を並行して行い、空いている時間は死地の環境下における人の影響について研究した。

死地の地質、気溫の変化、人々の検査などなど、彼の人脈全てを使って、醫學、地學、環境學などあらゆる分野、角度から調査、分析、観察して。

10年後に彼の努力は報われた。

その男は仲間と共に喚起し、これでアルカトラから闇が消えるとそう信じていた。

翌日――その男と仲間達は処刑された。

「どうしてですか!? その人の研究は帝國にとって――」

「マイナスだったからです。帝國ではなく、お父様にとって」

前のめりになりながら驚く薫の言葉を遮り、クラリスは薫の言葉の続きを言い換えて伝える。

しかし、薫が驚いたままなのは変わらない。なぜなら、皇帝は、グレゴワールは帝國にとって有益となる果を上げた人材を処刑したのだから。それも、クラリスの言い方ではまるで私的で行ったように思えて。

「差別によって高まった負の。それが力をつければ帝國は崩壊するとお父様は考えたんでしょう」

死地の住民の人數は、八都市と他の町々に住む人數と大差はない。彼らが他の人々同様の生活を送り、神的以外にも力をつければ、帝國に反を持って、今の権力が危ういかもしれなくなるからだ。半端に力を持った人ほど理解不能な行を起こす。

加えて、死地は魔境魔界に近いがために存在する場所。つまりは魔族と最前線で対峙する存在。彼らがいるだけで、牽制程度にはなっている。彼らが安全な場所に移するということは、人類の領地が簡単に後退することになる。

「けど、それだと――」

死地で暮らす人々を囮にしており、それを人類の王は許容しているようで。

この時、薫の中にあったグレゴワールの存在が崩れ去った。最初に出會った時の皇帝が、今では噓のように思える。

「驚いたな……まるで別人みたいだ」

先程までのい言葉は消え、本來の言葉遣いで本音が零れた。

クラリスの話に出ているグレゴワールと、自分が対面したグレゴワールを重ねることが出來ず混する。

そんな薫にクラリスは哀し気な表を浮かべて、

「簡単な話です……お父様は二人いるのですよ」

「二人? つまり今の陛下は偽ということですか……」

「いいえ、カオル様がお會いしたお父様も正真正銘のお父様です。けれど、お父様の溫かい瞳は帝國が危うくなった時、途端に冷酷な瞳に変わります。その瞳で見られたものに明日はありません。それがたとえ、自分の娘でも……」

の言う娘はクラリス本人だと薫は思う。だが、クラリスの瞳は過去の誰かを想像しているように思えて、クラリスも薫の認識を読み取り、

「わたくしにはアリスという二つ離れた妹がおりました。彼はわたくしと違い、城から出ることはおろか、政府の人以外、存在を公表されませんでした」

そのはクラリス以上に箱りだった。赤の髪をしたとて優さしい

何故、彼は存在そのものが公表されなかったか。それは彼が生まれながらに特別な力を持っていたからだ。

「アリスの持つ力こそ“覇王の素質”」

「素質!? でもそれは――」

「カオル様が驚くのも無理はありません。素質はマナの質。恩恵者になるまでは現れません。つまり、アリスは宿していたんです。生まれながらに魄籠を」

「そんなことがあり得るんですか? 魄籠は神が常人を超えた時に出現すると――」

薫はそう聞いていた。だが、それはあくまで説明だけだ。現に、薫達はその資格はなくともエンスベルに強制的に魄籠を植え付けられている。もしかしたらアリスも同じように出現したのではなく、外から植え付けられたのではないかと考え、

「では、その覇王の素質とは一……」

「アリスと目を合わせた人のマナをるんです。全に巡るマナをるということはその人のるということ。アリスの前では恩恵者は人形となるのです」

アリスの力が明確になったのは、アリスがまだ二歳の頃。當然グレゴワールは彼を恐れた。彼自もまた恩恵者な上、帝國に戦力としている人は全員恩恵者だからだ。だからグレゴワールはアリスを殺した。その脅威が自分へ向けられる前に、存在が公にならないうちに。

その時のグレゴワールは、冷たい目をしていた。當時のクラリスは目を合わせていないにも関わらず、くことすらできないほどに委してしまった。

だが、恐ろしいのはそれだけではなかった。グレゴワールもまた、素質を持っていたからだ。

「お父様の素質は“帝王の素質”手にかけた相手の素質を奪う素質」

「ってことはつまり……」

「お父様は覇王の素質も所持しているということ。お父様の前では恩恵者は逆らえないということ」

それは鬼が金棒を持った瞬間だった。この時點で彼が獨裁國家を気付くのに必要なものは揃っていた。

グレゴワールの正を知り、そして疑問は再び戻る。仕切りなおすように薫は一口渇きを思い出したを潤す。

「……それで、姫様が私を護衛に選んだ理由とは?」

クラリスは立ち上がり、バルコニーの柵に手を置き、覚悟を決めた瞳で城下を見てから數秒の沈黙。風の音が目立ち、日のが揺れる桃髪に輝きを與える。

そして、一呼吸置いてから、彼は城下から薫に視點を変えて、

「わたくしはこの國を変えます。そのために、カオル様のお力が必要なのです。優しさに溢れ、力の扱い方を知り、真面目で誠実なカオル様の協力が必要なのです。なのでこの場で正式に言います。わたくしの騎士となってくれませんか?」

クラリスは手を差し出す。その手を取れば、薫は正式にクラリスの騎士として生きることになるだろう。

クラリスの騎士になる。それは言葉にすれば簡単だが、やるとなれば相當の覚悟が必要だ。その場の勢いだけで了承できるものではない。薫にはクラリスの覚悟をけ止めるだけの力も、知識も足りない。

薫は立ち上がり、片膝をついて俯く。クラリスの足元を視界にれながら、

「建國祭での護衛は全力で務めさせていただきます。ですが、今・は・ま・だ・その手を取ることは出來ません」

「そう、ですか……」

その時クラリスはどういった表をしていたか俯いていた薫には分からない。だが、薫の意志は伝わったようで。

――そして、クラリスとの茶會はお互いの意志を汲み取ることで幕を閉じた。

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