められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》47・壁

「おや、姫様の茶會はもういいのかい?」

茶會から帰ってきた薫をり口で出迎えたのは、談笑していた海斗とウィリアム。

來た時同様に、二人の騎士が門番として立っている場所に、用意されてある一臺の箱馬車。木目がしい車両に金の裝飾がある、いかにも豪華な馬車。

「話が済んだのなら帰ろう。ウィリアムが帰りの馬車を用意してくれた」

速やかに馬車に乗り込む海斗。薫も場所の方へ足を進め、ウィリアムの前で足を止める。

「こんなものしか用意できなくてすまない。竜車の方が速いんだけど、雲上街で竜車は嫌いされているからね」

「いいえ、むしろ用意してくれただけありがたいです」

「それじゃあまたねカオル」

「はい。それではまた一週間後に。ウィリアムさん」

「そこはウィリアムと呼び捨てにしてくれないと。急に距離を詰めた俺が恥ずかしいじゃないか」

「すいま……ごめん、ウィリアム。じゃあまた」

笑みを浮かべながら握手をわして、薫もまた馬車へと乗り込む。

やはり豪華なのか、裝もしく、座席のシートは思わず眠ってしまいそうなくらい心地が良い。扉が閉じられ、窓越しにウィリアムが見送っている。

騎士の服を著た者が手綱をると、ゆっくりと二頭の馬が走り出す。同時に薫は窓越しで見送るウィリアムに一禮する。

そして、もうウィリアムの姿が見えなくなってから數分経つほどに馬車進んだ頃、

「薫、ウィリアムからこれを預かっている」

「ウィリアムから?」

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薫がけ取ったのは一通の手紙。

中を開けようと手紙に指をかけた時、

「それは紹介狀らしいから開けるなよ」

「いやもっと早く言おうよ。封し外しちゃったよ」

封が僅かに外れた手紙をどうしようとりなおす薫を目に、海斗は車窓から見える雲上街のけしきを眺めながら、

「姫様から騎士申請、お前はどう答えたんだ?」

唐突に、それも意外な質問に薫の手はピタリと止まり、とっさに海斗の方を見る。

クラリスとの會話はにする約束だが、海斗は何か知っているようで、返答の言葉を組み立てる脳の報処理を終える前に海斗が、

「安心しろ。この馬車はウィリアムが用意してくれた防音機能付きの馬車だ。それに、アリス第二皇の話もウィリアムから聞いているし、クラリスの考えもウィリアムと俺は知っている。建前上は皇帝陛下がお前を選んだことになっているがな」

薫が謁見の間から退室した後、ウィリアムからアリスの話もクラリスがしようとしていることも聞いていた海斗。勿論公共の場で話せる容ではないが、防音の馬車に乗っている今なら、気にせず話ができる

「答えはまだ……」

「だろうな。だからこその紹介狀だ」

言葉に流されるように薫はウィリアムから預かった手紙を見る。

「東區に“紅の貓ロートキャッツ”というギルドがある。ウィリアムもお世話になった人がマスターをしているようだ。そこに足を運んでみるといいらしい」

「でもなんでギルドに?」

「薫が騎士になることを覚えているのは姫様と違って覚悟が固まっていないからだろう。戦闘力に関しては、勇者の素質を持つお前には些細な問題だ。だが、自分に人を守ることが出來るのかと疑問に思っている」

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薫自もよく理解していなかった疑問を、海斗が言葉にして納得させる。

今の薫に、自分以外の人間の人生をずっと守る自信はない。だからこそ、クラリスの騎士、つまりはパートナーとして立っている決意が出來ない。

「ここに行けば、答えが見つかるってこと?」

「それは薫自だな。俺もそこに何があるのか詳しくは知らないからな。ただ、行って損はないことは確からしい」

あくまで海斗がウィリアムから聞いているのはギルドの場所だけ。そこからどう進展するかはだれでもない薫自の問題だ。

薫は再び手紙へと視點を戻す。その先に何があるのかと不安をじながら、二人の乗る馬車は靜かに揺れながら、拠點としている西區へと帰っていった。

そして、その日時は目立つ馬車は、帝都住民の視線を浴びながら、目的地へと向かい、停止する。

周囲の反応が騒がしくなり、一番近くの建から出てきたは、扉を開けた瞬間に見慣れた景から忽然と現れたそれを視界にれると、

「…………なにこれ?」

黒茶のセミロングのは、拠點としている宿の前に止まる馬車を見て佇んでいた。見るからに高級車だということを理解し、それがなぜこんなところで停車しているのだろうかと考える。

それも、者は騎士というなんとも豪華な馬車だった。

「あれ、なんでり口で立ってんのちーちゃん?」

「薫こそなんでこんな豪華な馬車に乗ってんのよ!?」

驚く茅原に、薫は首を傾げて馬車から降りようとする制で止まって見ていると、後ろにいた海斗が、薫の止まっている隙間から顔を出し、

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「薫はさっきまでとある令嬢に私の傍にいてほしいと言われてその父親に挨拶しに行っていた為疲れている。早めに休ませてやれ」

「いや誤解を招く言い方な上に時系列間違ってるんですけど!?」

「ちょっと薫それどういうこと!?」

「いやだから誤解だから落ち著こうかちーちゃん!」

「何がどう誤解してるっていうのよ!?」

「いやそれは言えないけど……」

「言えないんじゃない!!」

「お願いだからちーちゃん揺らさないでぇ」

ぐらをつかみながら雑に薫のを揺らす茅原はかなり興しているようで、その狀況を引き起こした本人は他人事のように馬車から降りて、

「じゃあな薫、またいつか會おう」

「その前に誤解を解いて――」

「薫はちょっとこっち來て!」

っこを摑んで宿の中へ連れていかれる薫の姿を見送ってから、海斗は人々の喧騒の中に消えていった。

********************

「昨日はひどい目に合った。ちーちゃんはなんで怒ってるのか分かんないし、海斗はいつの間にか消えてるし……」

薄明るい空の下、まだ風が冷たい早朝。朝が早い町の人もまだ眠りから目覚めたばかりの時間帯で、薫はいつも通りの服裝に著替えて宿を出る。

昨日のことを思い出し、清々しい朝から深いため息をこぼす薫は、人のいない西區を歩いていた。

薫がこんな早朝に行するのには理由がある。それは茅原達がついてこないようにするためだ。

薫が今向かっているのは東區にあるギルド“紅の貓ロートキャッツ”だ。東區は戦闘系ギルドが多く、殺伐とした雰囲気があり、いつトラブルに巻き込まれてもおかしくない場所。そんなところに茅原達を連れて行きたくない。

それに、薫が出ていくと知り、場所を知れば薫と同じように彼らもそんな場所に薫一人で行かせるわけにはいかないとついてくる可能が高い。

加えて、紅の貓に向かう理由はまだ茅原達には話していない。この件にはあまり関わらせたくない為、説明して出ていくではなく、説明せずに置いて行くのが一番だろうと考えて、

「でもやっぱり眠ぃ……」

大きな欠をしながら、生じた涙を手で拭い、目を覚ませようと自分の頬を両手で叩いて、早朝の新鮮な空気を吸い込む。

魔道列車の始発まであと三十分。普通に歩いても十分間に合う。折角なので新鮮な空気を味わ負いながら、薫は軽やかな足取りで駅へと向かって行った。

そして、その後ろに見える二人の影。

その影が放つ視線は、紛れもなく薫のは背中を抜いていた。

「ふぁ~……ねぇもう良くない? あたし眠たいんだけど」

「葵ちゃんは気にならないの? 昨日は結局聞き出せなかったけど、薫は絶対何か隠し事してる!」

「そりゃ茅原が気になるのも分かるけど、なんであたしも一緒に行かないといけないの?」

「だってこんなこと付き合ってくれるの葵ちゃんとひまりちゃんだけだし、ひまりちゃんは起こしても絶対に起きないし。それに尾行と言えば獣使の葵ちゃんが必要でしょ」

探偵の如ききで薫を尾行する上垣茅原と、好奇心半分面倒臭さ半分の重いきで行する椎名葵。

昨日海斗が言ったことが気になり全然眠れなかった茅原は、薫がこそこそと何かしているのを目撃、急いで支度を整えて、まだ眠っていた葵を叩き起こして現在に至る。

茅原としては田村ひまりもついてきてほしいが、彼はチーム一朝が弱く、たとえ布団を奪い顔に水をぶっかけようと、數秒後には夢の世界へわれている。

結果、茅原と葵のツーマンセルとなっている。

「でも昨日のあれは藤枝の冗談だったんだろ? 薫が何か隠してるって拠は?」

「確かに薫はそう言ってたけど、じゃあ昨日の高級車は何って話なのだよワトソン君。プロポーズの事実があるかどうかはともかく、何か隠しているのは間違いない、これ馴染の勘!」

「名推理で服いたしますホームズさん」

十七年間一緒にいた馴染の勘が、薫が噓をついていると反応している。

そんなことを気にもせず足を進める薫を、建を利用して、距離がある程度離れると、違うに移する。

ただ、尾行に関してはド素人の二人。流石に限界をじた茅原は一度視點を薫から葵に移して、

「ねぇ葵ちゃんの恵で鳥とか使えないの?」

「出來ないことはないけど……多分バレるよ。あたしはまだ専用の魔獣を持ってないからるとなれば調教から必要になるし、マナを使えばさすがの薫もじ取るよ。ただでさえこの尾行もバレてないのが不思議なくらいだし」

今の薫に視線を確実にじ取れるだけの覚はもっていない。だが、マナを使えばまだ未な薫のセンサーでも反応する。

それに、るには調教が必要で、わざわざこんなことの為に労力を使う必要があるのか疑問に思う。

「まぁ地道にやっていくしかないってこと。ここテストに出るからねー」

「はいせんせー」

まだ靜かな町では小聲で話していても割と鮮明に聞こえてくる。

長に距離を保ちながら尾行を続けると、薫の足がピタリと止まった。

「駅? 他區にでも行くのかな?」

「あの口だと東行きだから、多分北區か東區だね。茅原はどっちだと思う?」

「どっちかと言うと北區が良いかなー。今北區の有名ケーキ屋さんで期間限定のタルトが出てるんだって。めちゃくちゃ味しいって藤枝君が言ってた」

「あいつタルト食べるんだ……」

「かなりの甘黨らしいよ……」

噂話程度に聞くタルトの味を想像しながら、薫と同じように切符を買って、列車を待つ薫同様離れたところに座っている。始発を利用する人はなく、立っているだけで目立ってしまう。

薫から死角になるところで、二人は列車を待っていた。

魔道列車は帝都四區を移する手段の一つだ。魔石と輝石を多く使い、風竜種よりも何倍も速い速度で移する帝國最大の魔道

時計回りで走る東行きと、反時計回りに走る西行きの二臺が、一時間に帝都を一周する。

「次に列車が止まるのは五分後か」

「ねぇ、もし東區だったらどうする? あたし達あんな危険地域で暴れるほど優希も練度もないよ」

「別に暴れる必要ないじゃん。いくら東區が戦闘ギルド集地域だからってそんな殺伐とした場所じゃないでしょ」

「いやぁほら、茅原は可いから、どこの馬の骨が寄ってくるか分からないじゃん? あたしの茅原ちゃんが取られたら嫌だなぁって」

「いや葵ちゃんの者になった覚えはないんだけど……」

「振られちゃった。そーだよねー茅原は薫の者だもんねー」

「そ、そんなんじゃ……」

の想像が膨らみ赤面する茅原。そんな彼に列車到著を知らせる葵の手。

妄想の世界から戻ってきた茅原は、列車に乗りこむ薫を凝視し、薫が乗った車両とは一両違う車両に乗り込む。

茅原達が乗り込むとすぐに列車はき出した。やはり、元の世界のような睡魔を呼び寄せる穏やかな揺れではなく、ただただ激しい揺れが乗客を襲うため、乗り心地が良いとは言えない。

車窓から見える景は、家屋が並ぶ住宅街から、飲食店や繁華街などの施設が並ぶ風景に変わっていく。

そして、風を切る勢いで移していた列車の速度が落ち始め、次の駅にもうすぐ到著することをで理解する。

西區から東行きで走る列車は北區の駅に止まる。茅原達としてはここで薫に降りてほしいのだが、薫は車窓から外を眺めるのみで、一向に降りる気配はない。

そして、乗客の一部がれ替わった魔道列車は、汽笛を鳴らして走り出す。

「どうやら薫の目的は東區みたい。殘念だけどタルトはお預けね」

「あぅ、食べたっかったなぁ。まぁ私の目的はあくまで薫だから」

「その言い方は誤解を招くからあたしの前以外では言わないように」

葵の指摘に茅原は首を傾げ、なんでもないと溜息をつく葵。

徐々に速度を上げ、再び揺れが激しくなる車両。

薫に視點を合わせながらも、會話で時間を潰す茅原達とは違い、薫はただただ無言で外を眺めていた。

「…………」

そんな姿に、茅原の心は落ち著かない。薫が何か隠していることは分かる。それが、薫が抱えている悩みであることも、今の彼の表を見れば明らかだ。だからこそ、自分に相談してくれないことに、彼が一人で抱えていることに、薫との間に壁をじてしまう。

「あ、降りるよ」

気が付くと東區に到著し、二人の存在に気付かない薫は速やかに車両を降りる。

二人も急いで車両を降りて、薫の後に続く。

駅を出るとそこは東區。戦闘系ギルドが集するそこは、他の區よりも殺伐とした場所。実際、東區に過ごす人は、酒場の店員など以外はほぼほぼ眷屬が占めている。

道を歩く人は全員何かしらの武や防を裝備し、薫達よりも殺気溢れる人で一杯だ。

「あぁやっぱ東區は怖いわー。そもそも薫君はなんで東區に來たのかよね。ギルドにでもるのかな?」

「そうだったら私達にも相談するでしょ。私達……私にすら相談してくれないってことはもっと重大な何かだと思う」

茅原が言った時、葵はふと浮いた疑問を飲み込んだ。

薫が何かを相談するのなら、小さいころから共に過ごし、薫のことを一番理解している茅原だろう。だが、高校から一年半ほど共に過ごしてきたが、薫が茅原に相談していたところなど見たことがなかった。

茅原は何か悩みがある時、基本的には薫に相談している。なぜなら、薫なら正しい判斷をしてくれると信じているから。

薫が言うのなら大丈夫だ、薫が言っているのなら正しいという考えが、茅原の脳裏にこびりついている。

だからこそじる二人の間の壁。時々じるその壁は、友達として取り払いたいとおも思うが、あまり踏み込んではいけないような気もする。

今の葵には見守ることしかできない。だから葵はここにいる。出來る限りはしようと、心に決めて、

「ま、薫君の事だから、そんな心配することないって。なんかあればすぐ相談してくれるよ」

葵の手が茅原の頭をでる。こんなことで茅原の気を落ち著かせることは出來ないが、今の彼にはそれしかできなかった。

二人は複雑な心境の中、道にできた人だかりで足を止める薫を見ていた。

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