燦々と輝く太と、瑞々しいそよ風が優希達を出迎える。

街道には決まって整備された河川が隣接する。き通った川の上にはゴンドラが行き來気して、複雑に橋という橋が差して、川上の道を繋げている。

水の都『アクアリウム』――帝國八都市の一つであるこの都市は、アルカトラに唯一存在する太湖の上にある為、水上都市とも呼ばれている。

「凄いよメアリー！　川底がすごくくっきり見える」

日のを反する川を覗いて、笑顔で率直な想を述べる皐月。彼の言う通り、アクアリウムの水はとても綺麗で、すべて飲み水といっても不思議ではない。

だが、やはり使用目的はどこも同じだ。むしろ水源がかなこの土地の川は、利用頻度、目的の多さはガンジス川に匹敵する。

ならなぜ、アクアリウムの水はこれほどまでにきれいなのか。

「ほらそこ、所々ってる奴があるだろう。あれは浄化石といって、水や空気を綺麗な狀態に変化させる希石だ。この都市の河川には大量に埋め込まれている」

「だからこんなに綺麗なんだね。私この都市気にったかも」

「私は気にったぞ。特にこの水饅頭は絶品だ。ひんやりと、それでいてプルプルな舌りの葛の中には甘い甘い餡が一杯に詰まっている。なるほど、店主が寶箱と言っていたのも理解出來る」

川底を覗く皐月の言葉無き疑問に解説を加えるのは、幸せそうに店で買った水饅頭を堪能するメアリーだ。

り輝く艶ややかな銀髪と、真珠のような黒瞳が至高の極みに緩み切る。

彼の解説に納得の表を浮かべる皐月。綺麗な黒い髪は短くなっている。帝都を出る際、新しく踏み出そうと思い切って短めに切ったのだ。腰あたりまでびていた髪は、今は肩くらいの高さに切りそろえられている。

「そろそろ行くぞー」

話している二人の所にジークの姿をした優希が、ジャラジャラと金の詰まった袋を持って戻ってきた。

アクアリウムには竜車が通れるほど道幅がある道はない。だから、ここで商売をしている商人は誰も彼も建屋や店を持っている。

そんなものを持ち合わせていない優希は、最小の商品を持ち込んで即座に売り払う。

「で、どうだった？　ま、その袋を見るに結果は分かるがな」

「あぁ、中々の売れ行きだった。どれもこれも言い値で買い取ってくれた。まぁ、一つだけ売れなかったが……」

そう言って懐から取り出すのは一つの人形だ。それは年がしがるような可いものではなく、そこらに落ちていれば呪の道か何かと勘違いされそうな不気味な風貌の人形だ。

全のフォルムは人の形をしているが、半開きの口と、白目が一切ない目が、歪な配置で顔を形しており、紫紺のが不気味さを際立てている。

それを見せつけられて一番落ち込んでいるのは、優希ではなく、水饅頭を食べ終えた銀髪の元神だ。

「ば、かな……」

「いや、これはどう考えても売れんだろ。どんなセンスしてんだお前」

「ふん、ティムル君の良さが理解出來んとは、お前も渉相手も審眼が欠如しているらしいな」

メアリーが三日かけてい上げた人形ティムル君を、不機嫌そうに優希から取り上げて我が子のようにでる元神。

優希は売る前から反対したのだが、意見を求め先が皐月の方へ行き、微妙な反応だったが、何とか點を絞り出して、とりあえず売る努力はしてあげた優希。これを出した時の、「こいつのセンス大丈夫か？」と言いたげな商人の表が今も脳裏に焼き付いている。

「それで、これからどうするんだ？　持ち込んだ商品はティムル君以外ないだろう？」

「まだそれ売る気でいんのかよ…………これからなんだが、二人は好きにしていい。こっちはちょっとやることがあるから」

「やること、ですか？　それなら私も手伝いますよ」

「いや大丈夫。帝國建國祭でここも賑やかになるだろうから十分楽しんでくれ」

この數日で、皐月との距離を考えた優希は話し方も次第にラフなじにしていき、今では優希もぎこちない演技を緩和出來て楽になった。

二日後は帝都で建國祭が行われる。ここアクアリウムでも建國祭で賑わう準備が進められている。

優希はここで別行をしようと背中越しに手を振って歩き出す。皐月とメアリーに見送られながら、優希は目的の場所へ向かって行った。

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「ここか……」

優希が來たのはアクアリウムの中心部に位置する大規模なギルド。空の瓦が特徴的なそのギルドは、アクアリウム唯一にして最大のギルドだ。構員は三千人程で、いろいろな依頼を請け負っている。

優希はここに依頼に來たのだが、當然それが目的ではない。

……いた。報通りだな。

ギルドの中にある灑落たカフェテリアでコーヒーカップを片手に見據えるのは、四人の年。

リクエストボードを眺めて依頼を選考する彼らを視界にれて、その中でも視點を合わせるのは一人の年。

先がツンツンした刺々しいショートヘアーが若い活力のイメージを付加し、荒々しくじさせる釣り目は、眷屬にとって強者の風格を匂わせている。

鬼一翠人きいちあきと――優希の次なる標的ターゲットだ。

全的な配が白と水の和洋折衷な裝束と、左腰に攜えている日本刀が、風景の中に存在を放っている。

そして予想通り、彼を取り巻く人も元の世界と変わらない。

鬼一の隣で共に依頼を探す男。紺の甲冑に背中で差するように木刀を二本に著けている。

右耳にクナイの形をしたピアスがぶら下がり、黒髪に青いメッシュがかかった頭部が、古風な裝備と若い風貌のギャップが際立つ男、日向一夏ひゅうが　いちか。

優希の知る限りでは、鬼一と一夏は中學から知り合いで、高校でも仲が良かった。當然、鬼一がいるなら彼も共にいるだろうとは思っていた。

次に、彼らの後ろで依頼を選び終える二人を待つ二人。鮮やかな茶髪のポニーテールのは、飴を舐め、気怠そうに待っている。高校の制服に近い見る限り防力皆無の軽な軽裝備、三十センチ程の杖を、専用のレッグホルスターで著けている。

もう一人は、肩に掛からない程度のショートカット。澄ました顔に健康な艶は十分にと言える。こちらもきやすく、腰の括れがはっきりした裝で、矢筒が背中に、折りたたまれたショートボウが腰にベルトで固定されている。

茶髪のが布谷瑠奈ぬのたに　るな。ショートカットのが花江哀はなえ　あい。

鬼一との詳しい関係は知らないが、高校ではこの四人が一グループだ。

標的ターゲットを確認した優希は、席を立ち、付に足を進める。

目的は勿論依頼をする為だ。優希のいる場所から付に行くには、鬼一達の橫を通って行かなければならない。だが、それは問題ではない。

今の優希の姿は、この世界でジークと言う名の商人の姿だ。

當然、鬼一達の隣を通り過ぎようと、向こうは気にも留めない。

だからこそ、自然に、堂々と歩く事が出來る。不自然なきを作らず、相手に悟られず、相手が気にも留めないように、自分も相手を気にせずに歩く。

互いが互いに通行人の一人に過ぎない今、足音を消す、気配を殺すなどご法度だ。

人の多いギルドの中、自然に、風景に、周りに溶け込む事が求められる。

呼吸のリズム、全の挙、歩幅、歩速……自分の事は自分が一番理解していると言う臺詞があるが、実際は自分のは自分の思い通りになっていない事は多い。

狀況、、環境、その他諸々の原因が、気付かないうちに、日常との変化が現れる。

そして、その不自然さは理解してしまった瞬間、修正しようとが働き、更に不自然なきに変わる。

普通なら気にも留めない変化だとしても、覚が研ぎ澄まされ、マナという明確な波長を読み取れる恩恵者に対しては、大聲で近付いているようなものだ。

本來、いつ如何なる狀況でも、日常との區別なく、自分が自分でいられるようになるには、充分な訓練が必要だ。

だが、優希の権能を使えばそんな訓練など必要ない。に覚えさせるという覚的なものではなく、脳に全に刻み込み、どんな狀況下でも、普段と変わらず行できるように、〖命令プログラム〗してやれば良い。

〖行命令アクションプログラム〗。この能力は、自分の意思に関係なくを働かせる事が出來る。

この能力の主な用途は、敵の攻撃に対して、自的に回避、反撃制をとる反だが、今のように、意識とを切り離してかしたい場合にも有効だ。

能力の能は、鬼一達の反応を見れば明らかだ。

一人の通行人として、彼らの意識下に置かれ、警戒どころか、視野にれようともしない。

存在には気付いているだろうが、マナの波長、殺気のない視線。本來なら相手に悟られないようにをかし、逆に警戒を煽る事になるが、権能の力で自由自在に心作が可能な優希は、容易に鬼一達の意識に溶け込んだ。

そして、付に辿り著いた優希は、

「指定で依頼をしたいのですが……」

青寫真を描く優希。彼の第二の復讐開始の合図が、誰に聞こえるでもなく靜かに鳴り響いた。