《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》55・白仮面の集団
水の都アクアリウムから北へ數十キロの場所には、東から西に向かって地形に長々と脈を描くココルル山脈が存在する。
その山脈に沿うように奧深く続く窟、超級魔界『コルンケイブ』。途轍もなく奧深い水平である『コルンケイブ』は、海の輝きを放ちとても高価な石としても知られる水蓮石が多く採掘できる。といっても、量しかない事には変わらないのだが。
勿論、超級魔界なだけあり瘴気は濃く、窟の中の泉はあまりの瘴気濃度に飲めば胃が爛れるほどだ。そんな場所に生息する魔族も十分に脅威な為、そこまでの危険を冒してまで水蓮石を集めようと思う人はいない。
「そこまでして水蓮石が必要か? 確かに儲かるだろうが、アンタもついてくるってなれば護衛もあるし、相當報酬額になるが?」
場所は『威風堂々』の中にあるカフェ。そこで二人の青年が話し合っていた。
きやすいよう藍のズボンから白の布地に水の波紋が描かれた著を著流して、袖に腕を通して依頼の容を確認する鬼一きいち翠人あきと。
彼の言う通り、いくら水蓮石が高値で売れるとはいえ、採掘先は超級魔界。それも本人同行となれば護衛も含まれて來るので、かなりの報酬を支払うことになる。水蓮石の採掘量にもよるが、赤字になる可能もある。
そんな鬼一の念押しに、依頼人である白髪の年はにこやかに笑う。
「ええ、問題ありませんよ。報酬はしっかり払わせてもらいます。それに、今回の依頼書にも記載した通り、“蒼月”の眠る場所にも案しますよ」
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『コルンケイブ』の水蓮石の中には【鑑定】で見分けることが出來る特殊な水蓮石が存在する。眷屬の中で水蓮結晶と呼ばれているそれを辿ると、一つの場所に行き著く。
それが伝説の寶刀“蒼月”。帝國に四十種類程しかない神の一つで、れ波紋の刀が芒を放ち、天才魔道技師アルミナは“蒼月”で滝を橫一線に切り裂いたという伝説を殘している。
今回の依頼には“蒼月”の在処まで案することも含まれている。
當然、“蒼月”がそこにある保証はない。他の恩恵者が持ち去っている可能もある。
だが、“蒼月”の場所に辿り著くには鑑定士を同行させなくてはならないし、超級魔界な上、そのレベルに見合った魔族が生息する場所に護衛が付くからと言って同行する鑑定士はない。
ただでさえ、鑑定士のような支援系恩恵者はないのに、そんな危険地帯で耐えられるほどの高練度且つ度のある鑑定士など數ない。
だが、今回に限ってはその鑑定士が名乗り出ているのだ。これほどのチャンスはそうそう訪れないだろう。
「それに水蓮石は今『ストーンエッジ』だけでは無く、『メタリカ』でも高額で取引されるんですよ。あまり世間に出回らない希石ですから、加工材料や研究材料として必要とされるみたいです」
水蓮石の相場事を説明し、依頼人である優希の行の違和を打ち消した。
だが、鬼一が不思議に思っていたことは、水蓮石を集める必要だけではなかった。
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「依頼の目的については納得した。まぁ依頼を引きける以上それについては正直どうでもいいんだが、今回はなんで俺達に依頼したんだ? その容なら食いつく眷屬は沢山いんだろ?」
鬼一は重々しさを気取ることなく、純粋に気になったこととして尋ねた。
高額報酬に神獲得支援。わざわざ指定案件にしなくとも、十分目を引き寄せられる依頼容だ。それに、ジークとして過ごしている今、鬼一と優希は初対面ということになる。鬼一自まだ名の知れた眷屬でない以上、無関係の人間から指定で依頼が來るなどあり得ない。
その質問に対し、優希は表をし哀し気に変える。
ジークとしての優希は鬼一とのパイプを確保していた。その部分にれるには多なりとも哀し気な表を裝って話をしなくてはならない。
「実はですね……」
 ********************
「護衛の眷屬って鬼一君達だったの!?」
「お、さっちんじゃーん。おひさ~」
アクアリウムの噴水広場で皐月達と合流した優希。優希の後ろに続くメンツに、西願寺は驚きの表で対面し、そんな彼に布谷瑠奈ぬのたに るなは友好的だが、気怠そうに手を振って応えた。
西願寺皐月という存在は、クラスメイト達との接を簡単にした。柑奈達の時は條件を提示して自ら依頼をけさせるようにする必要があったが、皐月というパイプを手にれたことで、こちらから直接依頼することも可能になったわけだ。
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皐月と鬼一達に紹介は必要ないが、メアリーは初対面というで進める為、一人ずつ紹介。優希の記憶を覗いているメアリーは、全員の名前を認知しているが、これが紹介ではなく、行開始の合図とけ取って、
「メアリーだ。短期間だがよろしくな」
「うわぁ~なにこの人、すっごい人じゃん」
「やべぇよ。今後更新されることがないだろうと思っていた俺の人生ランキングが更新されちゃったよ。中學の後輩の伊織ちゃんより普通に可いよ。可いっていうかしいよ」
飴を舐めながら、メールなら(笑)でも付きそうなじで話す布谷と、獨り言がれ続けている日向一夏ひゅうが いちか。二人の想にメアリーはどこか満足そうな表を浮かべている。
そんな中、鬼一と花江哀はなえ あいは皐月の方へ歩いて、
「その……なんだ、いろいろあったみたいだけど頑張れよ」
「……あぁ、ジークさんから聞いたんだ。心配ないよ。みんなは私が生き返らせるから」
「生き返らせる? まぁなんでもありなこの世界じゃ可能がないわけじゃないだろうけど……何か手がかりでもあるの?」
ただの心配か、それとも報収集か、花江が尋ねると、皐月はメアリーから聞いた可能を話した。
その可能に花江は腕を組んで顎に手を當てて考え込む。
メアリーが皐月に教えた可能。魔王を倒せばエンスベルがどんな願いも葉えてくれるということ。確かに、それだけ聞けば人を生き返らせることも可能としては十分にある。
だが、一つ気になることがあった。聖書の一節で明言しているのなら、それは匿事項ではない。
なら何故、エンスベルはそれを最初に言わなかったのか。だが、皐月にはその疑問をぶつけない。
彼はそれを信じているから。願いを葉えるという事実がない可能も十分ある。だが、皐月はその可能は考えない。いや、無意識に考えることを止めている。
なら、わざわざ冷たく告げることはない。ここで疑問をぶつけたとしても事が解決するわけではないからだ。あくまで一つの報として心にめる。
「さて。では皆さん。これからしばらく共に過ごすわけですから、親睦も兼ねて明後日の帝都建國祭、みんなで回りませんか? 一番賑やかな帝都に向かうことは出來ませんけど、ここも十分賑やかになりますよ」
「お、良いじゃん! メアリーさん俺と一緒に回りましょう」
「全部お前の奢りなら私は別に構わんぞ。あと、“さん”は付けなくていい。その方が私も楽だ」
「よっしゃぁ! 俺の祭りは勝ち組確定だぜ」
デートのいに功した日向は、ガッツポーズで自らの勝利を確信し、同時に優希はすべて奢りという條件に、日向の金銭的敗北を確信したのだった。
一度鬼一達と別れた優希は、アクアリウムの假宿で一日の疲労を眠って回復していた。
だが、その眠りは三回のノックによって妨げられる。寢起きの素っ気無い返事を返すと、優希の部屋にメアリーがってきた。
を起こし、ベッドに座る狀態で気怠そうにメアリーを見た。そんな姿にメアリーは不敵な笑みを刻みながら、
「隨分と疲れているな。今日はそれほどいていないだろう?」
「そろそろ能力の持続限界なんだ。丁度いい。今から〖簡易能力解除スリープ〗狀態になるから、誰もらないよう見張っておいてくれ」
優希は顔を手で覆い権能を解除する。雪のような白髪は黒く染まり、緋の瞳も元の黒い瞳に戻っていく。そして、本來の姿に戻った優希は再び全の力を削ぎ落とされたように橫になる。
週一回の能力解除。〖簡易能力解除スリープ〗狀態で五時間休憩を取らないと、〖強制能力解除シャットダウン〗に陥ってしまう。
五時間で済み、急事態には目が覚める〖簡易能力解除スリープ〗と違って、〖強制能力解除シャットダウン〗は、七時間も意識が途切れ、その間絶対に目が覚めることはない。
ノマルドでは、魔族の數も強さもそれほど問題なかったため、計畫通り進められたが、これから向かうコルンケイブでは何が起こるか分からない。
魔界にってしまえば常に皐月達と行を共にすることになる。そんな中で〖強制能力解除シャットダウン〗になってしまうわけにはいかない。
それを分かっているメアリーも今回ばかりはすんなり見張り役をけれた。
部屋にり、椅子を引いて腰を休める。そして、今にも眠ってしまいそうな優希に視線を送る。
靜かな空間。聞こえるのは眠りにろうと優希が一定の間隔で吐息を刻む音。今も尚、包み込むような溫かみのある橙を放つ輝石。それに布をかぶせて部屋を暗くせずとも優希の意識は夢の世界に溶け込まれていく。
そして、優希が完全に眠りに落ちた時、
「はぁ…………めんどくさいな」
溜息を吐いて、メアリーの【索】が優希の疲労で鈍ったセンサーに引っかからないように展開された。
瞳を閉じ、自ら広げたマナの揺らぎをじ取る。
「一、二……四人か」
呟いて、メアリーは施錠された扉をマナで覆う。彼の大量のマナに包まれた扉は頑丈な金庫のように微だにしない。これで、鍵を開けてもメアリーのマナの壁を何とかしない限り扉を開けることはしない。
そして、窓を開けると夜の涼しい風がメアリーの綺麗な銀髪を揺らす。
窓の淵に足を乗せ、軽いのこなしでそこから屋に上る。
――――――。
吹き抜ける風が頬を掠める。
月明かりに照らされて、【索】で確認した四人を今度は眼で捉える。
フードを被り、を覆うほどの袖付きマントをに著けて、顔は四人とも無表を模った男の白仮面で見ることは出來ない。だが、顔は見えずとも、あちらにやる気があるのは容易に想像がついた。
再び気怠そうに溜息をつくと、天を仰ぎその姿を前面に表す月が、普段の蒼と対象の赤い輝きを放っていた。
「今宵は緋月が昇っているな。これが何を意味するか、理解出來るか?」
漆黒の夜空に浮かぶ塗られた満月。
元の世界では大気の影響によって浮かぶ赤い月だが、ここアルカトラでは月に一回、普段の蒼い月とは違う、深紅に染まる月が上がる。緋月と呼ばれる深紅の月から注がれる月は、マナの流れを完全に阻害する。
つまり、緋月が昇る夜は屋外で一切の恵が使えない。対して権能はマナを必要としない。
生の人間と、権能を扱える神。人數のハンデ等無い等しい。
今頃、完全に眠りにふける復讐者の瞳を思い出しながら、彼は今にも襲い掛かりそうな仮面を被る四人と向き直る。
「機はしたと言ったところか魔人共。貴様らの目的は把握している。むしろ、私としては利害の一致で協力してやりたいところなんだがな。ただ一つ、言っておきたいことがある…………」
メアリーの言葉を聞かず、魔人と呼ばれる不気味な四人は袖から飛び出すように出てきた短剣を両手にとる。深紫の刀が緋月の輝きを反して、
「「「「――――――――ッッ!!」」」」
同時に、囲うように移して、四方から襲い掛かる。
そんな狀況下でも、メアリーは直立のまま一向に構える素振りを見せない。
八本の刃がメアリーに迫りくる。一人は前から刺すように、もう一人は橫から刻むように、もう反対では一人が下から振り上げて、後ろからは頭部を突き刺すように刃先を振り下ろす。八本の刃が、それぞれメアリーのにれようとしたその瞬間――――
「あまり……調子に乗るなよ」
「「「「――――――――ッッ!?」」」」
それは唐突に、メアリーを中心に発生した。その場にある空気が彼を中心に外へと弾かれ、それは高度な衝撃波へと変化した。
あまりの衝撃に四つのは、嵐の中に投げ込まれた紙切れのように吹き飛ばされた。
メアリーは一歩もかず、今も尚腕を組んで立っているだけだ。
怪しいきなどは一切していない。それでも、魔人達は彼にれることが出來なかった。
「手加減はしておいた。と言っても、骨は何本かやってるだろうがな」
緋月の影響でマナを一切使えない四人は【堅護】すら使えない為、全を強く打ち付けて、意識を保つのに必死の狀態だった。
そんな四人の、まだ軽傷だったのか、立ち上がろうとする一人に近づいた。
仮面は割れて、片目だけが表をにする。黒い紋様を顔に浮かび上がらせて、見えている瞳は濁り切っていた男の表。
男は近づくメアリーを見上げる形で捉えた。見守るようにメアリーの背後で輝く緋月が、メアリーの不敵な笑みに恐怖を含ませる。
「貴様の頭に伝えとけ。私達は敵ではない。が、私達の邪魔をするようなら容赦しないとな」
伝言をしっかりと脳に刻み込み、白仮面の四人の姿は、けるように消えていった。
一人のが緋の月に照らされる。
「はてさて今回はどうなることやら…………フフッ」
それはまるで気苦労が絶えない表で、それでいて、狀況を楽しんでいる奇妙な笑みだった。
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