《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》58・オクトフォスル
そいつは水蓮石の中だろうが、大気の中だろうが泳ぐように優雅に振舞う。
黒い腕には異様にる青い文様。水蓮石と同じを放っているそれが、見た目のしさと同時に、が凍るような圧力をじる。
オクトフォスルは自分を囲む眷屬たちを敵と認識し、目前の鬼一を睥睨する。
優希達は四方に散らばったおかげで全員が前衛の立場となっている。
「陣形を整える。一夏行くぞ!」
「おう」
鬼一の聲を引き金にオクトフォスルの腕が、挾み込むように迫る鬼一と一夏に襲い掛かる。
両手に木刀を握り走る一夏をオクトフォスルの腕が薙ぎ払うように襲い掛かるが、一夏はを捻って二刀の木刀を腕に叩き込む。
その格差を無視して、弾かれた腕は水蓮石の壁に叩きつけられる。その衝撃が振となって優希達の足に伝わる。
対する鬼一には三本の腕で突き刺すように攻撃する。
鬼一の軽いのこなしはその攻撃を容易に躱し、腕の一本を梯子にしてオクトフォスルとの距離をめていく。
二人がオクトフォスルの注意を引き付けている間に、ばらけた優希達は集まり陣形を整える。
優希とメアリーを後方にして、その前を皐月、花江、布谷の順で陣形を整える。
弓兵である花江がオクトフォスルと直接対峙する二人を援護して、魔導士の皐月が治癒と防、花江が支援系恵でサポートする。
オクトフォスルは花江と布谷の遠距離攻撃を二本の腕で弾いて応戦しながら、自分のに近づく鬼一と一夏を殘りの足で振り払う。
一本の腕を梯子にしていた鬼一は、オクトフォスルの眼に近づくと、オクトフォスルの腕から水滴が浮かび上がり、
「――――ッく!」
優希達を襲った水弾が腕から打ち出される。
咄嗟の事に鬼一は振り落とされて距離を取らざるを得なくなった。一夏も同様にオクトフォスルと距離を取る。
だが、一度退けようともやはり自分が押されていることを理解したのか、一度流れを切り替えようとオクトフォスルは水蓮石の地面を潛る。
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「くそっ、こん中じゃ俺達が手出しできないことを理解してやがんな」
木刀で地面を叩いて舌打ちをする一夏。彼の木刀は特別製でそこらの刀より何倍もの度を誇る木刀だ。それでもまだ中心部とはかけ離れているこの場所の水蓮石には傷一つつかない。それはつまり水蓮石の中は完全に奴のテリトリーだ。
まだありがたいのは過率の高い水蓮石は移するオクトフォスルを視認出來ることだ。
「陣形を崩さないよう気を付けろ」
水蓮石の中を泳ぐオクトフォスルはしいが、その巨軀と威圧からの迫力は、とても鑑賞していられるものではない。
地面を、壁を、頭上を優雅に泳ぐ。そして、オクトフォスルは優希達の頭上で移を止める。
天を仰ぐ鬼一達を水蓮石の中から睥睨するオクトフォスル。その巨軀が天を覆うとその迫力はを凍らせる。
そして、オクトフォスルは意を決したように頭上から鬼一達との距離を詰める。
「來るぞ!」
全員顔を上げて深く構える。頭上の水蓮石からその姿を現したオクトフォスルの巨軀と大気がぶつかり轟音を生み出す。
隕石でも落下しているかのような視覚と聴覚を占領する迫力に、全員のに張が走る。
オクトフォスルの大きく長い腕が鬼一達ではなく、側面の壁にびで突き刺さる。
獅子迅の勢いを自ら殺すオクトフォスルの行に全員の構えがし淺くなる。
あの頑丈な水蓮石を削りながら丁度広間の中央部で勢いが完全に死んだオクトフォスル。
八方向にびた腕がその巨軀を支える。元々空中を泳いでいたオクトフォスルが、今度は壁を支えに浮いている狀態だ。
真下にいる優希達から見れば傘をさされている気分だ。
その異様な景に全員が警戒しながらも狀況を把握しようと脳を回転させる。
そして、オクトフォスルの行をいち早く理解したのは鬼一だ。
「瑠奈! 【魄楯】だ早く!」
ぶ鬼一の聲に驚いて言われるがままにがく布谷は、杖で空に弧を描くとマナの壁がドーム狀に広がり彼を中心に優希達を覆う。
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そして、鬼一と一夏もその壁にった。瞬間、
「なっ、重っ」
最初に優希達を襲った水弾が今度は頭上から雨のように降り注ぐ。
頭上でを広げるオクトフォスルが雨雲の役目を果たし、貫通力のある水弾を地面に撃ち放つ。
いつも退屈そうな布谷が珍しく表を強張らせ、亀裂がるマナの障壁をどうにか保とうと踏ん張りを利かす。
同じ魔導士である皐月も【魄楯】でった亀裂を修復する。
今度はただの水弾ではない。マナが含まれた貫通力の高い水弾だ。
今回は鬼一でも斬ることは難しい。だからこそ、布谷と皐月に踏ん張ってもらうしかない。
「哀、ここから奴に矢で攻撃できないのか?」
障壁と水弾のぶつかる音が轟音を生み出す中、鬼一が現狀を打開しようと花江に提案するが、彼は首を橫に振る。
「無理。【魄楯】がこっちからのマナも防ぐからここから攻撃できるのは普通の矢だけ。でもそれじゃマナを含んだあの雨にやられてアイツに屆く前に矢は々になる」
早くこの狀況をどうにかしないと二人の限界も迫る一方だ。
はぁ、仕方がないな。
その呟きを聞いたのは傍にいた優希だけだ。
銀髪のが天に手を添える。
「おい、何を……」
鬼一が突如いたに聲をかける。だが、は鬼一の言葉を無視して、
「私は雨が……嫌いだ」
彼の手から発せられる暴風。それは降り注ぐマナの雨を弾き飛ばしてオクトフォスルのを下から抉る。
斷末魔を窟に響かせるオクトフォスルは再び頭上の水蓮石にを潛める。
「逃げられたか……」
「おい、なんだ今の……」
「そんなことは後だ。次來るぞ」
糾弾する鬼一にメアリーはオクトフォスルに注意を向けるように仕向ける。
心のしこりを殘しながらも鬼一は目前の敵に集中する。
「水蓮石の中ではアイツもこっちに攻撃を仕掛けられないみたいだな」
「なら今のうちに先に進むか? この場所じゃなきゃ奴も思う存分行できないだろうし。細い道ならアイツに攻撃も屆く」
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一夏の提案を思案するがそれは良い方法とは思えない。なぜなら先に進んだ場合、他のオクトフォスルだけでなく他の魔族とも同時に戦闘しないといけなくなる可能がある。
オクトフォスルだけでこのありさまなのに他の魔族など相手にしていられない。
「ここで仕留めるしかないか……なぁ、瑠奈と西願寺の【鎖縛】でどれくらい奴のきを封じれそうだ?」
「……もって十秒だね。あたしとさっちんのマナを全部使っても完全にきを止めれるのは十秒。そこからだんだん力が弱まるから、アイツが完全ん位自由になるまでの時間は三十秒ってとこ」
こんな狀況でもルーティーンの要領で飴を口に含んで鬼一の問いに答えた。
魔道士の恵【鎖縛】を使用できる皐月と布谷が二人がかりでオクトフォスルを抑えたとしてもきを遅らせていられるのは三十秒。この短い時間に鬼一は勝利を確信する。
「三十秒? 五秒で十分だ」
正直これはまだ使いたくなかったと小聲でぼやく鬼一。
ただそんなことも言ってられないと、今にも頭上から水蓮石を抜け出して、先と同じ攻撃を仕掛けようとしている。
「タイミングは任せるねー。さっちん準備オーケー?」
「えっあ、うん。何するか分からないけど、取り合えず鬼一君の合図で【鎖縛】を仕掛ければいいんだよね?」
皐月の確認に布谷は軽く肯く。
事のり行きを優希は後方で見屆けタイミングを窺う。
「……來たぞ!」
掛け聲は全員の構えを促して、頭上で同じように足を広げるオクトフォスルを注視する。
八本の足を水蓮石に突き刺して、再び傘を差されたかのような圧迫が全員を襲う。
そして、これもまた同じように巨大な軀からしたたり落ちる水滴。
この攻撃が始まれば再び攻撃の隙は窺えない。
だが、攻撃を放つこの瞬間は無防備。【鎖縛】を仕掛けるには十分すぎる。
「「【鎖縛】ッ!!」」
二人の掛け聲とともに、マナで繋ぎ合わされた鎖がオクトフォスルを縛り上げる。
空気を揺らす斷末魔が頭上の怪から吐き出され、思わず耳を塞いでしまいそうになる。
全を縛り上げてきと攻撃を防ぐ。だが、その軀から想像される、否、想像より遙かに強い力に、二人の鎖はぎちぎちと音をたてて、今にも千切れてしまいそうだ。
「翠人、早く!!」
普段のおっとりとした口調の布谷から珍しく激しめの聲で名前を呼ばれ、鬼一の全からマナが溢れていく。
周囲の空気を揺らして、鬼一の力が跳ね上がっていくのをでじる。
剣士の練度が五千を超えると使用可能な専用恵【覚醒】。
三十秒間練度を十倍に引き上げる恵で最強の強化恵。鬼一の練度は5600。つまり、【覚醒】を使用した今の鬼一は――練度56000。
鬼一は天を仰ぎ敵をその眼に定める。
そして、優希の視界から彼が消えた時、僅かだが足元の水蓮石にひびがり、衝撃が優希の全に打ち付けられる。
咄嗟に優希の視界も上に持ち上げる。そこにはすでにオクトフォスルとの距離をめている鬼一。
柄を握り抜刀の構えでオクトフォスルの真下の大気をそので割きながら、
「【騒速の太刀】!」
鬼一の抜きはり輝く。視界を遮るそれが消えて、全員の視覚が機能した時、恐怖と威圧を放っていたオクトフォスルの巨大なは、二つに切り裂かれ、筋と臓が外の世界に姿を現し、の雨が全員のを濡らした。
********************
「おい翠人、斬り捨てる以外に倒す方法はなかったのかよ」
「あ? 別に倒せればなんでもいいだろ」
「そりゃアンタは上にいたからいいけどね、あたしたちは下にいたから魔のでべとべとなんだけど」
一夏と花江に不満をぶつけられる鬼一は何故か一番の功労者でありながら居たたまれない表。
一応魔石によって糊を落としはしたものの、それでも一度味わったは不快極まりないものだった。
「それはそうと凄いね今の。鬼一君の天恵?」
「いや、あれは普通の恵。そんなことより気になるのはお前なんだけど」
皐月の質問を軽く返す鬼一は、銀髪のに目をやる。その瞳は不思議なものを見るような警戒心剝き出しのもので。
「さっきの技、ありゃ一なんだ? 恵じゃないのは確かだよな。マナの気配はじなかったし、どの恩恵にもあんな恵はないはずだ」
「…………」
鬼一の質問にメアリーは銀に輝く髪をいじりながら黙する。
優希は狀況を窺い庇う様子は見けられない。勿論、彼がオクトフォスルを吹き飛ばした力は恵ではないことを知っている。
権能の説明をけた時、彼は〖純白の園ヴァイスガルテン〗以外にももう一つの力があると話していた。
彼が使ったのはそのもう一つの力だろうと認識している。権能の正を明かさないのは、これも言の束縛されているのだと、今は追及するつもりはない。
だがそれは、事を知る優希だから何も聞かないが鬼一達は別だ。
あれほど規格外な力を前に追及しないことなどあり得ない。彼は決して馬鹿ではない。むしろ優希よりは後先を考える力があると認識している。
彼が力を使ったということは、それなりの言い分を用意しているはず。
だから優希は一切口出すことなく、彼の反応を待っていた。
全員が彼に視線を集める中、彼は懐から何かを取り出した。
それはメアリーが徹夜で作り上げ、見事に売れ殘った悍ましい風貌の人形ティムル君。
「……なんだ? この不気味なにんぎょっふ!?」
ティムル君を覗き込んで述べる一夏の想はメアリーの腹パンによって遮られる。
腹を抑え蹲る一夏を全員が無視して、彼の言葉を待っていた。
「皐月には私が作ったと言っていたが、実はこの人形……神だ」
「これが神……俺には信じられねぇな。まぁ見たことないから何とも言えねぇけど」
ティムル君を持ち上げいろいろな方向か珍しそうに観察する鬼一。
そんな彼の言葉に彼は加えて説明する。
「これは神“守護の呪人”持ち主のに危険が迫った時、その狀況を打開する反撃を相手に加えるものだ。ま、一度使うとただの可い人形になってしまうんだが」
全員から可いのか? という心の聲がじ取れたのは、誤魔化すことが出來た証拠とけ取っていいだろう。
よくもまぁそんなウソが噛まずに言えるものだと、実際一生懸命い上げていたことを知っている優希はただただ心してしまう。
「さてと、そんじゃ先進みますか」
腹パンから回復した一夏がそう言って先を歩き出す。
全員もそんな彼の背中に続いて行こうとしたその時、優希の右手に握られた石が出したのに気づく者はいない。
「――――ッ!」
広場の大半を占めるオクトフォスルの死。二つに分かれた死の斷面から筋線維が突如全員に襲い掛かる。勿論それは優希も例外ではなかったが、優希と傍にいたメアリーは皐月の【魄楯】に守られ、花江と布谷は鬼一の刀の見えない謎の恵で、繊維が分かたれる。
だが一人、先頭を歩きオクトフォスルの死から一番離れ、尚且つ完全に油斷していた一夏は反応が僅かに遅れる。
「――――っな!」
足首を繊維が絡めて、うねうねと生のきをする筋線維は一夏を投げ飛ばそうとき始める。
必死に抵抗を見せる一夏。筋線維をその木刀で叩き、切り裂こうとしても衝撃を吸収しているのか切れる様子はない。
そしてついに一夏の足が地面を離れた時、もう一夏はやられるがままに振り回されていた。
「一夏ッ!!」
【覚醒】は強力だ。そんな恵を鬼一が使いたくなかった理由はとても単純だ。
恵発後の反が大きすぎるからだ。たった五秒使用しただけでも自覚できるほどのはっきりとした倦怠に襲われ、今の鬼一には布谷と花江、そして自分自を守るのに必死だった。
花江が弓を引いて一夏を助けようと試みるも、放たれて正確に抜かれた筋線維は切れるどころか、その矢をはじき返してしまう。
このままではまずいと全員が判斷した時、事態はさらに悪化した。
「っうそ……」
その景を見た時、皐月から信じられないというが込められた一言がれてしまう。
死から生み出されるように小さなオクトフォスルが姿を現した。
一夏は完全に混してその様子に絶をじる暇などない。
自由を奪われ、助けを求められない一夏がこの狀況を打破できる方法は一つ。
一夏が縛られているのは左足首のみ。つまり、左足を切り落とせば解放される。
だがそれは、言葉で表せるような決して単純なことではない。片足を失うという事実はこの急事態でも不安でしかない。
一夏がその葛藤を繰り広げている中、他の全員は突如現れたミニオクトフォスルに苦戦を強いられていた。襲い掛かる筋線維は切り刻み、機能を無くしている。
一一の力はオクトフォスル本に比べれば可いものだ。だが、近接系恩恵者の鬼一は【覚醒】の反で全力を暫くは発揮できない。
対して花江、布谷、皐月の恩恵では現狀自分のを守ることで手一杯。
それでも全員、一夏を助けようと何度も視界をずらす。
だから、その景は全員の心を揺で揺らした。
歯を食いしばり、涙を浮かべながら一夏の左足の膝から先は完全になくなっていた。
が空気をらせ、び聲が全員の鼓を揺れかした。
一夏はようやく相當な代償を支払ってきの自由を確保したのだが、彼の焦りがその行を後悔させた。
「ぁああああッッッ!!」
足を切斷したはいいものの、空中で振り回された勢いが消えるわけはなく、運悪く一夏のは魔が蠢く斷崖の方へと放り出されていた。
「一夏!」
鬼一がくとそこへ立ちふさがるミニオクトフォスル。焦りが鬼一の形相を険しい者へと変えて、
「邪魔だ!!」
【覚醒】使用後のを気力だけでかして、立ちふさがるミニオクトフォスルを次々と切り捨てる。
だが、鬼一を必要以上にミニオクトフォスルが囲い、勢いを幾多の犠牲で殺していくミニオクトフォスル。
もう一夏の姿は見えない。崖の下へと落ちていいたのだ。だが、まだ諦めるわけではない。
他の全員が必死に応戦して注意を引いてくれたおかげで、一人の年がミニオクトフォスルの注意から逃れていた。
白い髪を靡かせて崖の方へと走る年。
切り立った斷崖の下は二段構えになっており、僅かに足場があった。そこに落ちているならまだ一夏は助かる。
一夏の落下一からして、その足場に落ちている可能は十分に考えられた。
鬼一は優希をサポートするように、派手な恵でミニオクトフォスルを自分へと集め、メアリーを除く他の三人も優希にミニオクトフォスルが向かわないように抑えていた。
優希は迷うことなく崖を飛び降り、僅か、と言ってもテニスの半コートくらいの広さがある足場に著地する。
そこに一夏の姿は――ない。
「…………すけ……れ」
僅かに聲が優希の鼓を掠めた。
上が派手な戦闘で騒がしい中、その聲はかなり近くでじ取れる。
「……すけ……くれ……助けてくれ」
聲の方向へ振り向いてもそこに一夏の姿はない。だが、そこから下は崖である広場の境界に指先が四本、引っかかるようにそこにある。
優希はそこに足を進めると、右腕をばして左足の激痛を耐えながら、崖に摑まっていた一夏の姿。
「ジークか、助かったぁ。早く引き上げてくれ。失で今にも気を失いそうで、全然力がらねぇ」
優希の姿を見て安心したのか、し笑みを浮かべて余裕そうに振舞う。だが、彼の狀態は決して余裕を見せつけれるものではなくて、その笑みもかなり無理をして作り上げている。
早く引き上げて止しないとそれこそ失死で陀仏だ。それに力がらないと言っているが、水蓮石の斷崖絶壁の下は足場など一切なく、大量の魔が蠢く地獄。落ちたら失ではなく喰われて死ぬだろう。
「ジーク、早く、してくれ。かなりきつい」
「……」
「おい、何してんだよ、早く引き上げてくれ」
「…………」
「なに黙ってんだよ。ちょっと今は冗談に付き合ってやれる狀態じゃ……」
そこまで言って優希はようやくく。無言を貫いたまま、屈んで一夏を見下すように座る。
そこでようやく、違和に一夏は気付き始めて、恐怖を駆り立てる。
フックのように引っ掛けている一夏の指。それに優希は手をばし、四本の指の、小指を外した。
「お、おい! 馬鹿何やってんだ! 冗談が過ぎるぞ」
「…………」
薬指を外し、
「やめ、やめろ! ふざけんなよマジで!!」
「………………」
中指を外して、
「ぁっ、ぁぁあ!!」
死にたくないという必死さが、人差し指の一本に力を注ぐ。
左手を引っ掛ける気力など殘っていないが、それでも必死に食らいつく執念。
だが、それも限界だ。徐々に指先がびていき、しずつ一夏のは魔の巣窟へと引き寄せられていく。
その様子を歪んだ笑みを刻み、無言で眺める黒・髪・の年。
「な、おまっ…………」
その顔を見た時、一夏の指は離れて、困と脳裏を縛る死の恐怖に表を固めたまま、そのは魔の巣窟へと落ちていった。
【電子書籍化決定】わたしの婚約者の瞳に映るのはわたしではないということ
わたしの婚約者を、わたしのものだと思ってはいけない。 だって彼が本當に愛しているのは、彼の血の繋がらない姉だから。 彼は生涯、心の中で彼女を愛し続けると誓ったらしい。 それを知った時、わたしは彼についての全てを諦めた。 どうせ格下の我が家からの婚約解消は出來ないのだ。 だからわたしは、わたし以外の人を見つめ続ける彼から目を逸らす為に、お仕事と推し事に勵むことにした。 だいたい10話前後(曖昧☆)の、ど短編です。 いつも通りのご都合主義、ノーリアリティのお話です。 モヤモヤは免れないお話です。 苦手な方はご注意を。 作者は基本、モトサヤ(?)ハピエン至上主義者でございます。 そこのところもご理解頂けた上で、お楽しみ頂けたら幸いです。 アルファポリスさんでも同時投稿致します。
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