《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》60・小悪魔の
奧へ進む。
水平とは言えども多の傾斜はあり、優希達の立っている場所は標高的に地上からかなり下へ位置するだろう。
オクトフォスルと対峙する前のような適度な雑談、団欒は皆無で、重い空気と必死の警戒で進んでいた。
一夏の死。數時間前の出來事になるが、彼の斷崖へ落ちていく景が、たった今の出來事のように脳裏に焼き付いて、全員の意識を警戒心へと注いでいる。
中心部に近づくにつれて、魔族よりも目にするものがあった。
最初は皐月もそれを見て怯えた表を浮かべていたが、慣れてしまったのか、不快を殘したまま冷靜さを殘している。
「奧は骨ばっかだな。気味悪ぃったらないぜ」
水蓮石の輝きに照らされた人骨は、バラバラにばらけてどの骨がどの頭蓋のか分からなくなっている。
頭蓋の數からざっと三十人分くらいだろうか。それにしても気味が悪いの想しか出てこない。
筋や臓等の組織はバクテリアか魔族かによって分解されて一片のかけらも殘っておらず、まるで人模型でもばらまかれているようだ。
今にもき出しそうなそれは、かつてここに挑んだ猛者共のれの果てであり、死者が殘す正者への警告でもあった。
――そうじているのは皐月だけだが。
一人は死んだ友人を思い出し、一人は危懼のを込めた視線を優希に向けて、殘りの三人は今この狀況の不可解な點を警戒せずにはいられなかった。
綺麗すぎる白骨死。ここにあるということは元は武や防などを纏っていたはず。だが、周囲に散らばる累々の白骨死には防どころか服すらに著けておらず、本の骨には間違いないのだが、戦場に出向いている割には骨自に傷や怪我の痕跡があまりない。
武や防はここを通った何者かが回収した可能もあるが、服までしっかり盜む可能は低いだろう。
それに死を魔族が喰らいついたとしても、これほどまでに綺麗に喰いきれるものだろうか。
骨に歯形のような傷はない。カラスなどの鳥類はまずこの窟では見られないし、そもそもこの景を目にするようになってから魔族自見られない。
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なら何故彼らはここで朽ち果てているのか。
奧へ進むと毒ガスのようなものにやられてここまで移してきたのだろうか。
それとも、本來ここにいるはずの魔族が、何らかの理由でいない、襲ってこないのだろうか。
それとも、この死累々自が罠の可能も考えられる。
思い浮かぶ可能を狀況証拠で潰していこうと、優希と鬼一は注意を払い観察し、分析し、考察する。
先へ進む足を止めないまま進んでいく一行。ただならぬ空気をでじて、足首には締め付けられるような圧迫をじて――――
「――――ッ!?」
優希の視線がその不気味な覚へ向けられた時、左足を潰さんとばかりに強く摑む骨太な指を視界に、優希のが無意識に仰け反った。
左足に摑まれたままの手は肘までしかなく、優希の足を離さないことに力を使っているのか、橈骨と尺骨が無気力にぶら下がる。
そして、優希のが無意識にいた理由――〖行命令アクションプログラム〗のよる自回避が発した原因、ボールのように頭蓋が投げられて、優希が避けたために水蓮石の壁にぶつかって陶が割れたような音を響かせる。
「やっぱ罠か……敵はどこだ」
鬼一が柄に手をかけて、魂が吹き込まれたようにきだす人骨を睨みながら、明確な敵を探す。
この骨たちがスケルトンのような魔族なのか、そのような魔族を誰かがっているのか、ただの骨をっているのか。
き出した人骨は集まり、それぞれの骨の本來の位置は完全に無視しているが、それでも歪な人型を形し、囲うように優希達を襲い掛かる。
「俺が道を作るから、広いところまで全員走れッ!!」
鬼一達がいる場所は割と狹い道だ。
花江のような遠距離攻撃型は不利な上、皐月や布谷のような魔導士も近接戦に回らなくなる。この地形で唯一まともにけるのが鬼一だが、彼もまた距離が取れない間合いは厄介だった。
それも、異様な人を構築するスケルトン擬きの數は二十人ほど。畳みかけられた場合、それに対抗するのは至難で、周囲を攻撃する恵は他のメンバーにも危害が及ぶ。
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「【斬波】ッ!」
抜刀し空気を縦に切り裂いた一本の剣は、マナの波を作り出して前方のスケルトン擬きを散り散りに刻み、砕き、破壊していく。
それでも尚、切斷されたトカゲの尾のようにき回る骸骨達を無視して、スケルトンの包囲網にできた逃げ道を使って移する。
背後から再び形を作って追いかけてくるスケルトン擬き。何度恵を行使して追跡を阻もうとしても、徐々に人間からかけ離れた形を形して追跡を再開する。
「しつけぇなクソッ! 異世界版〇ォーキングデッドかよ!」
やけくそ気味にびながら、再び【斬波】で追跡を阻む。
徐々に々になっていく骸骨だが、どういう訳か何度も追いかけてくる。
そして逃げる。破壊する、逃げる。その繰り返し。
落ち著く暇など與えてくれない。だからこそ、気付くのにし遅れた。
鬼一が最後尾で恵を行使して、再び逃走を試みようと奧へ続く道に視線を向けると、
――誰一人、そこにはいなかった…………。
********************
突如として現れたスケルトン擬き。その奇襲に混狀態に陥って、オクトフォスル同様の騒がしさをじていたはずなのだが、それが幻想のように思えてしまう靜寂が優希を包む。
ここはどこだ。何が起こった。誰もいないのか。誰がいるのか……。
無を繕う表の裏に湧き出る疑問を消化することに意識を向ける。
「…………」
オクトフォスルと対峙した場所よりは狹いが、それでも戦闘には上等の広さがある空間。
水蓮石に囲まれていることから、ここがまだコルンケイブの中であることは確かだ。
敵の気配をじ取る。優希の超覚で音などは判別できても、気配だけを正確に読み取る技など持ち合わせていない。
【索】で敵のマナをじ取る。優希の【索】が屆く範囲は々手をばした程度の範囲だ。警戒の為に一応展開するが、それでも敵を特定はできない。
「道は一本……敵も味方もコンタクトが無い……行くしかないか」
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本來行き止まりの場所なのだろうが、ここまで堂々と一本の道を見せつけられては、罠の可能をじながらも進もうと足がく。
そういえばと思い出した、今も尚左足を摑む骨の手を銀剣で斬り刻む。
その剎那は、優希の意識を斬り刻むことに――――。
「――――ッが!」
突然の衝撃。腹にじたそれは痛みこそじないものの、優希のはダメージとして判斷し、から練り上げられるが口から吐き出され、吹き飛ぶがい水蓮石に激突して衝撃を無理やりに相殺する。
全の骨が砕け、肺から空気が外に出されて、雪のような白髪が黒に染まり、優希のは死という狀態に陥ったことを告げる。
「まず一人、ノルマ達まで後二人なのです」
優希が立っていた場所。小柄なに片翼の無い小悪魔の服。その矮軀と同サイズの骨の棒。
優希のものと思われるが生々しく朱に染める白骨棒をそのでは想像がつかないように軽々と持ち上げて肩に乗せる。
れた金髪を整えて、悪がきを彷彿させる八重歯を見せつけるようににやりと笑う。
「でも商人を數にれてもいいのです? いやいや恩恵者ならギリオッケーなのです!」
勝手に浮き出た疑問を勝手に一人で解決する、傍から見れば頭のおかしな。
輝かしい水蓮石をで汚した白・髪・の死は項垂れたままかない。
――――――ッッ!?
と、勝手に判斷していたは、まさかの事態に驚きの表を隠せない。
「そのノルマにはイカれたクソガキも含まれてんのか? いやいや恩恵者ならギリオッケーか」
「驚いたのです。クーの一撃をまともに食らって生きているのはあなたが初めてなのです!」
突如いた死は、に鋭い蹴りを食らわす。
自分の図と同じ大きさの棒でその一撃を塞ぎ、全に力を籠めるも、その小さなでは威力のすべてをけ止めきれずにし後ろに吹き飛んだ。
し宙に浮く覚を味わっての足は地に著き、率直なを言葉にする。
目前で何もなかったかのように立つ白髪の青年は、背筋を凍らせるような視線をにぶつけ、はそんなこと気にもせずに、何故彼が生きているのかに思考を巡らす。
「何故生きているのです? いやいや生きているのは良いのです。でもなんで立っていられるのです? 手応えは確かにあったのです!」
「あぁ、お様で服がで汚れた。クリーニング代はテメェの命で払ってもらおうか」
優希の赤眼が敵を前にる。
言葉では軽口を叩いているが、纏う雰囲気は決して軽いものではなく、死の恐怖を刻みつけるようだ。
それでもは無垢な表。余程鈍なのか、優希が漂わせる殺気など気にするほどではないと認識しているのか。
どちらにせよには恐怖や警戒のなど抱いてはいなかった。そこにあるのは、何故優希が生きているのかという疑問のみ。
「不思議なのです。恩恵者だとしても無防備な狀態でクーの一撃をけているのに無傷なのは不思議なのです! クーはとっても気になるのです!」
「そんなの簡単な話だろ。お前の攻撃なんざ蚊に刺される程度のもんだったってこった」
背後の水蓮石の壁にはべったりとが付著しているのだが、それでも優希は一切効いていないと宣言する。
〖再起リブート〗したは、攻撃などなかったかのように無傷を見せつけて、周囲に見られる出とが証明するダメージの差が、を混させる。
「考えられるのは二つなのです。クーとあなたに圧倒的な練度差があるか、あなたの天恵が作用しているかなのです!」
優希を指さし、ほくそ笑んで推測を口にする。
攻撃が當たることを覚悟した【堅護】で防した訳ではない以上、警戒程度の量なマナで使用される【堅護】でも充分に攻撃を防げる程の練度差があるか、天恵によって超回復もしくはダメージ無効化したのかの二つが考えられる。
殘念だがの推測は両方とも外れているのだが、わざわざそれを教えてやるほど優希に慈悲の心はない。
……【神の諜報眼インテリジェンスエーガ】。
瞳に熱い覚を味わって、脳に電撃をけたと錯覚する刺激をじ、報の羅列が刻まれる。
名前――クーリアス・アーガイル。
恩恵――武闘家。
練度――6800。
天恵――【質量無視ポンドネグレクト】……れたものの質量を無視する。
神――“星返の棒”……あらゆるものを打ち放つことが出來る棒。超重量武な為扱うことは極めて困難。
次々と脳に送り込まれ、忘れないように焼き付けられるの報。
鬼一達には隠していた優希の天恵【神の諜報眼インテリジェンスエーガ】。視界にれた相手の報を知ることが出來る天恵。そして同時に【鑑定】の効果も含まれるため、敵の武も同時に調べることが可能だ。
ただ、全が視界にっていないと効果が得られないが、敵の天恵すらも知ることが出來るこの天恵は非常に便利で、戦闘では報面で優位に立つことが出來る力。
「“星返の棒”……遙か昔、巨大な隕石を打ち返すことが出來たという逸話がある超重量武。その軀で扱える代じゃないはずだが?」
報の牽制。敢えて天恵にはれず、敵の持つ武の報を告げる。
優希の天恵【神の諜報眼インテリジェンスエーガ】は、敵の報を引き出すと言っても完全では無い。
あくまで天恵の効果だけであり、その効果がどこまでの解釈が出來て、どこまで応用が効くのかまでは、知ることが出來ない。
本來、自分の知り得た報を教えることは良い手とは言えない。
自分が無知を裝えば、相手は自分の能力を隠そうと小細工を試みる。つまり思い切った行が取りづらくなる。
だが、今回は更に詳しく報を引き出す為に、自分の知る報を公開した。
これはあくまで優希がじた彼の第一印象だが、クーリアス・アーガイルは素直そうだ。
質問形式で話しかければ何も考えず答えてくれそうな雰囲気が彼にはあった。
仮にそうじゃなかったとしても、彼の天恵の能力自はとてもシンプルで、答えてくれないならそれでいいと切り捨てる事もできる。
だが、彼は優希が抱いた印象通りのな様で、
「それはクーの天恵によるものなのです! クーの天恵によって持ったものは、重さがゼロになるのです!」
“星返の棒”をぶんぶんと振り回しながら、自慢げに語るゴスロリ。
彼の言葉で、【質量無視ポンドネグレクト】の解釈が明確になる。
彼の天恵には二つの解釈が出來た。
一つは彼が質量を無視しても、そのもの自の質量は存在していること。
もう一つは、質量そのものを完全に消していること。
前者なら、超重量武の特徴である振り下ろしの破壊力を自由に扱えることになる。
後者なら、質量が完全に消えているので、超重量武がただの棒に過ぎない。
そして、自慢げに言った臺詞から彼が“星返の棒”を手にしていると間は、それ自に質量が存在していないということが察せられる。
つまり“星返の棒”から繰り出す攻撃力に重さは含まれない。
と、分かったものの……
「ノルマもありますのでとっとと殺っちゃうのです!」
子供ながらの無垢な笑顔を振りまいて、小さい歩幅でも軽やかなきで勇気との距離を詰め、優希の顔面めがけて“星返の棒”を橫に振り抜く。
屈んでわした優希の髪は、棒が生み出す強烈な風によってれる。
屈んだ優希は、隙のある彼腹部めがけて、拳を叩き込む。
咄嗟に片腕で防したクーリアスは、宙でヒラリと舞いながら、攻撃の威力を緩和して距離を取る。
優希の視線は冷たく、正面の敵を殺すことに意識を向けている様だが、その裏ではクーリアスの攻略法を模索していた。
彼の天恵で、超重量武特有の破壊力すら消えているのだが、それでも最初の一撃をけた限り、どちらにせよと言ったじだ。無防備な所に當たればタダでは済まない事に変わりはない。
そして、初撃をけたということは、彼の攻撃は優希の超覚センサーに引っかからない程に無駄がなく、〖行命令アクションプログラム〗による自回避が期待できない。
更に彼には優希の切り札とも言える攻撃を一度防いでいる。
敵が死んで油斷しているところに〖再起リブート〗からすかさず不意の一撃を與えるという必殺の攻撃が彼には通用しなかった。
練度差の前に実力差が一撃目と反撃で知らしめられる。
彼の攻撃が當たれば重傷、こちらの攻撃は當たらない。絶対的な攻撃手段を持たない優希にとってはこれ以上やりにくい敵はいない。
今まで練度差のある敵と対峙した事は普通にあったが、〖再起リブート〗による不意打ちや油斷につけ込んだ一撃で対処してきた。
だが今回は違う。〖再起リブート〗の不意打ちを防がれた事で、今後容易に〖再起リブート〗を使う事が出來なくなった。
何故なら、仮に今優希が死んだとしても、生きているかもしれないという可能が出て、更に攻撃を食らう可能があるからだ。
〖再起リブート〗発後は十秒間一切の権能が使えない。その十秒間のに殺されれば終わりだ。
クーリアスの不規則かつ豪快な攻撃を紙一重でわしながら、この狀況を打開しようと作戦を練り上げる。
優希の基礎能力は権能によって底上げされているが、今の狀況を見る限り、基本的な戦闘能力に関しては五分。
神に関しても優希の“銀龍の白籠手ヴィート・オ・シルヴェル”は斬れ味こそ良いものの、一撃の破壊力に関しては“星返の棒”の方が遙かに上だ。
殘りの手持ちは、治癒魔石一つと、烈魔石二つのみ。相手の強さでこの裝備は心許ないと言わざるを得ない。
場所も場所で、い水蓮石に囲まれた障害の一切ない完全デスマッチスタジアム。
地の利を活かした戦法を使うことが出來ないこの場所では、基礎能力と手持ちのカードがモノを言う。
「どうしたのです? 避けてばかりでは勝てないのですよ?」
「攻撃しないのは防戦一方だからとでも? 避けてばっかなのは一つ気になることがあって中々攻撃に踏み出せなかっただけだ。殺したら何も訊けねぇからな」
クーリアスの撃をわして呟くと、彼の攻撃がピタリと止まる。
距離をとった優希の赤眼が彼を睨みつけ、
「お前の目的は? 俺達を分散させたということは偶然出會ったってわけでもないんだろ?」
彼の正。優希はメアリーから聞いていた第三勢力の一人と睨んでいる。
メアリーの話では、世界の真実を知っていれば敵対対象にはならないとのことだが、肝心な事はエンスベルの束縛によって知ることは出來なかった。
なら、本人から聞くしかないだろう。この場面で目的を訪ねるのは不思議ではない。自然な流れで、メアリーが束縛されている報を引き出すことが出來れば上等だろう。
それにこの質疑応答は時間稼ぎでもある。
彼の話を聞きながらタイミングを計る。彼から隙をつくり、確実に殺せる一撃を與える為に。
クーリアスは優希の質問に対して、
「クー達の目的はズバリ神なのです! ただカルが邪魔者は排除しろって煩いのですよ。で、クーの相手があなたに選ばれたのです!!」
「…………それだけか?」
「それだけなのです!」
を張って答えるクーリアス。報を得るどころか、時間稼ぎすらできなかった。
神が目的なのは知っている。優希が聞きたいのは世界のというものだ。だが、彼は何も知らないようで、
「はぁ……じゃぁそのカルって奴に聞くしかないな」
深々と落膽の溜息を吐くと、クーリアスの棒が頭上から振り下ろされる。
咄嗟にサイドステップでかわした優希は、クーリアスの腹部に手をばす。だが、クーリアスも優希の手を余裕を持って躱して距離を取った。
優希の権能の能力〖機能削除アンインストール〗なら、天恵どころか、恩恵ごと消し去ることが出來る。そのためには、魄籠のある場所に近い心窩部に五秒間れていないといけない。
たった五秒だが、彼程の実力者を相手にその五秒は永遠にじられるほどに長い。
「危ないところだったです」
冷や汗を拭う素振りを見せるクーリアス。余裕で躱しといて何言ってんだと心呟きながら、右手に裂石二つを握りしめて、
――〖機能向上アップデート〗
優希の雰囲気ががらりと変わるのをクーリアスはでじた。
マナの量が変わったわけでも、練度が上がったわけでもない。それでも、何故か優希からじる気配が細胞の一つ一つを刺激する。
「あなたから嫌なじがするです。クーはあなたの事嫌いになりそうです」
「ほぅ好かれていたとは意外だな。逆に俺は今のお前の方がいいな。イイじの表だ」
嫌悪を抱いて表を歪ませるクーリアスと、その反応にい表を崩す優希。
神的には形勢逆転といったところか。ただ純粋で単純だが実力をじ取る経験値を持つクーリアスだからこそ、この狀況を作り出せたわけだが、
「とっとと終わらせるのです!」
目前の敵を、今ここで排除しなければ。
そうじ取ったクーリアスは急ぐように優希との距離を詰めて、再び棒の撃を繰り出した。
それを躱す優希。先ほどと違うのは優希のかわすタイミングと間合いに余裕が出てきたことだ。
それと同時に、ちらちら視界にる――――不敵な笑み。
「――――ッぇ!?」
気付いた時にはもう遅い。
目の前、視界を埋めるほどに近づけられた右手かられる赤い。
そのが何なのか、理解したクーリアスは右手を肩から削ぎ取ろうと棒を振り上げるが、その前に、
「遅い……」
最初に掌が弾けて消え、空気を焼き、マナの鎧を分解して皮を焦がす。
一本の道しかないこの空間に、多大な熱量が埋め盡くすが広さが足りず、一本の道に押し出されるように熱が逃げる。
を焼かれる覚。痛みをじない優希は暑すぎる風呂にっているようだが、それでもは焼けて、中の水分が沸騰する。
肺が押しつぶされて、取り込む空気は害悪でしかない。
裂石――魔石の中に込められた発火のマナが、魔石の割れ目からる空気と反応して超発を起こす希石。魔石自は脆くすぐにひび割れる為、用途は主に自用。
しかし、優希にとっては関係ない。死ぬほどのダメージを負ってもすぐに全回復するのだから。
…………。
………………。
そして訪れる靜寂。
焼けた空気がまた戻り、焦げ臭い香りと黒煙が漂う空間には不完全に焼けたが二つ。
焦げただが、恩恵者の丈夫さが辛うじて命を繋ぎ、肺の中の一酸化炭素をどうにか吐き出そうと試みて上手くいかず、焼かれたは悲痛のびすら許さない。
しかし、數秒後にはその二つののうち片方がき出した。
素を守る服は焼き切れて、所々が出しているものの、その素には怪我や火傷の跡など一切なく、服だけ焼かれたように思える。
「この短時間で二回も〖再起リブート〗することになるとはな。俺とあいつの神は無事か。結構な発だったんだが……」
優希の“銀龍ヴィートのオ白籠手シルヴェル”と“星返の棒”には傷一つついていない。勿論周囲を囲む水蓮石も同様だ。
立ち上がり、の変化を確かめる。
優希としては記憶はそのままに、は最後に報を更新した三日程前の狀態。あまり変化はないがそれでもし違和がある。
「……ぇぁ……っが……ぅ……」
「さてさて、荷は……」
全が圧迫されて臓が潰れ、皮は焼き爛れて、苦しみの聲を上げるを無視してあたりを見渡す。
ここに來た時、優希のリュックは無かった。しかし、服やポケットに忍ばせておいた魔石はそのままだ。まぁ、荷がどこかに転がっていたとしても、今の発で消し飛んでいるだろうが。
魔導士の【移空】や【標転】ではに著けている荷も一緒に移する。
そもそも【移空】は空間ごと移する為、他の人も一緒に來ているはず。そして【標転】に関してはマーキングしなければ発することが出來ない。
マーキングされたとするのならば、足を骨の手で摑まれた時だが、そのようなものはなかった。
まあ、足を視界にれてすぐにクーリアスにやられたためしっかりとは確認できていないのだが。
「とりあえず合流するか……っおも」
“星返の棒”を持ち去ろうとするが、重すぎる為に微だにしない。
目前に転がる神、ここで見捨てるのは勿ない気がしてならない優希は、今も焼かれたでくの腹部を摑む。
「あまりしい能力じゃないんだが……仕方ないか」
優希は〖機能追加インストール〗を使う。
クーリアスのマナが注ぎ込まれるのをじて五秒間。
「これでいいのか?」
初めて使った能力〖機能追加インストール〗は、相手の恩恵を天恵も含めて自分も使用できるようにする力だ。頭部に五秒間れないといけないが、他人の恩恵が使えるということは、破壊力が無い弱點を克服することが出來る。
しかし、この能力はあまり使用することが出來ない。
メアリーによると、この能力は容量《メモリ》をかなり使うらしい。この容量《メモリ》が一杯になるとそれ以上権能による強化は出來ない。そして、〖機能向上アップデート〗然り〖機能追加インストール〗然り、能力を底上げ、追加する権能に削除というものはない。
つまり、一度使えば容量《メモリ》を空ける方法はない。容量《メモリ》の上限を上げることは出來るが、それはメアリーと更に契約することになる。
クーリアスの天恵【質量無視《ポンドネグレクト》】を使う。
微だにしなかった“星返の棒”が持っているのか疑問に思うほどに軽々と持ち上がる。
そしてそのを確かめようと振りぬくと、空気を割く音ではなく、壁を破壊するような破裂音。
そして、數秒後に水蓮石に何かぶつかり轟音が響く。
「……空気を打ち出して弾丸にすることも出來んのか……なんでこいつは使わなかったんだ?」
そんな疑問をぶつけてみるも、から返ってくるのはき聲のみ。
その疑問が解消されることは無いが、重要なことでもないので置いておき、他の皆と合流しようと歩き出す。
そんなとき、
「桜木優希……」
突如の聲に揺のを隠せない。
他人から自分の名前を聞くのは久しぶりだ。そして、今の優希はジークという商人。その名前を知っている人は限られて、
「…………」
首だけで振り返る優希の眼には、警戒と揺のを滲ませて鋭くった。
【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
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8 160