められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》61・カルト・オーグナー

「ふぁ~……ぁ」

気の抜けた欠窟に反響する。

水蓮石の輝きが、の銀髪を艶やかに煌めかせて、

「暇だ……おい、誰かいないのかー」

危機じない聲を出し、【索】でマナを広げて、周囲に人がいないのか確認する。

返答はなく反応もない。広い足場、頭上には巨大な氷柱が一本鋭い先をメアリーに向けて、それを避けるように水蓮石の橋が幾つかの道を繋いでいる。

これほどの広さなら、おそらく元の場所より中心部なのだろうと推測する。

「合流するのは難しいな……」

の足場には道という道はない。出するには頭上の橋を渡らなければならないが、一番近い所でも五十メートルは上だ。跳躍で屆く距離ではない。

「……ま、ここにいても何も出來ないし……寢るか」

焦る素振りなど見せず、水蓮石のい床に寢転がるメアリー。

腰あたりまでびた銀髪を背中で踏みつけるように寢転がる彼の視界には、水蓮石の氷柱が先端を見せつける。落ちてきた場合、腹に風ではすまなそうだ。

「さ~て、誰が最初に合流できるのかなぁ」

両手を頭の下で組んで枕代わりにして瞳を閉じる。

落ち著いた雰囲気を漂わせる中、

「やっとか……」

ぼそりと呟く。

制は変わらず、瞳は閉じたまま。今にも寢りそうな彼の【索】に人の反応。しかし、し違和じる。気配を一切隠す気などない足運び。奇襲という訳ではなさそうだが、味方の誰かだろうか。

「……銀髪の

Advertisement

「誰かと思えば何時ぞやの……」

一番手前の水蓮石で出來た橋の上、一人の男が立って仰向けに寢転ぶメアリーを見下ろす。

フードのついたひらひらとした黒いマントでを覆い、フードの下には白仮面で一部しか見えなかった顔が、今回はハッキリと曬されている。絶したような濁った瞳と、黒い紋様が頬から目の周りを包むようにびている。

、名前は?」

「人に名前を尋ねるときは自分から言うもんだ。それと、私は見下ろされるのは嫌いだ」

大聲を出さずとも響く空間。

メアリーの言葉を理解した男は、橋から飛び降りる。マントが上向きに靡いて、服越しからでも分かるしっかりしたが重力に従って降りていく。

かなりの高さだが、男の著地はとても靜かで、位置エネルギーの有無を疑ってしまう。

「俺はカルト・オーグナーだ」

「私はお前達の目的も正も知っている……本名を名乗れ」

「…………桐生きりゅう、総悟そうごだ」

四、五十代くらいの男、カルト・オーグナーこと桐生総悟。絶後のような掠れた聲で名乗る彼は、目前で無防備に寢転がっているを睨む。

その視線をじたメアリーはそのを上半だけ起こして、

「私の名はメアリーだ。立ち話は疲れる、座って話をしよう」

片膝を立てて座るメアリーは、桐生に座するよう導する。否、言葉や仕草は促しているようだが、瞳を見るにこれは命令だということを桐生は察した。

実力差など緋月が昇ったあの夜で理解している。恵が一切使えないとはいえ、四人がかりで挑むも一瞬で三人が再起不能になった記憶。

Advertisement

そんな夜を回顧して桐生は胡坐をかく。

座高的に桐生の方が目線が高いが、漂う雰囲気はメアリーが桐生を圧迫しているようだ。

「怪我の合はどうだ?」

「あれぐらい何ともない」

「そうかそうか。割と強く吹き飛ばしたんだがな……それで、偶然というには出來すぎていると思うんだが、これは貴様が仕組んだことなのか?」

「ああ。他の連中は我々にとっては邪魔でしかないが、アンタにはし話があってな。話が出來るよう計らわせてもらった」

「で、他の連中は?」

「今頃、俺の仲間が始末している」

「……そうか」

「落ち著いているな」

魔界、つまり戦場のど真ん中で座り込んで話す二人は、異様な景であるが、二人の落ち著いた口調では、ここが町の酒場の如き平和をじさせる。しかし、二人の瞳だけはそんな生易しいものではなくて。

「誰がどこで死のうが、私には大方関係ないからな」

「やはりアンタは……アンタらは人・間・を・道・・と・し・か・思・っ・て・い・な・い・ん・だ・な・」

その聲には落ち著きがあるものの怒りのが含まれていた。

桐生の言葉にメアリーは眼を細めて不敵に笑う。

「どこで気が付いたんだ?」

「あの夜アンタは特殊な力を使った。マナが使えないあの夜で特別な力を使うということはお前は権能を扱えることになる」

はあくまで強力過ぎる魔道、つまりは大気中のマナを僅かに必要とする。緋月の夜は神、恵共に使用できない。

「それで、私が契・約・者・で・は・な・い・証拠は?」

Advertisement

権能を扱えるのは契約者か神。そして桐生はメアリーを人間外の存在のように扱っている。

つまりは、メアリーが神であることを知っている。

「今更惚けて何になる。アンタは俺が気付くよう言葉を並べていただろ? 我々の目的を知りつつ、魔人と呼ぶ者のなど限られているだろう」

「それもそうだな」

は笑う。自分の正が暴かれているというのに、それでもこの狀況を楽しむように笑っている。

その余裕な表に桐生は僅かな苛立ちをじる。

溢れ出る激を鎮靜化させようと瞳を閉じると、瞼の裏で再生される過去の記憶。

「口車に乗せられた契約者は……あの白髪の年か。彼も可哀想に」

「人聞きの悪いことを。私とアイツはウィンウィンな取引をしたつもりだが?」

「フッ、戯けたことを。契約者の末路はアンタも知っているだろう。むしろ、アンタは見たんじゃないのか? 怨念の瞳を向けられて騙したなとぶ契約者達を」

彼は自分もその一人であるように話す。

頬を染める黒い紋様を指でなぞって、牽制するように言葉を投げかける。

「こちらの無知をいいことに、都合の悪いことは伝えず、あたかも対等な立場を裝う。この世界の神は、人間の弱みに付け込むことが得意だからな」

「おいおい、私をそこらの偽神共と一緒にされては困る。言っただろう? 私はお前達の目的を知り、邪魔どころか利害は一致している。つまり、そちらが邪魔をしなければ私達は同志だ」

「フン、誰が神の手下共の手など借りるか。何故世界に干渉することをまない神がこうして下界に姿を見せているのかは知らないが、あの年も、我々も……人間を甘く見るなよ」

強く言う。

立ち上がり、今度はしっかり見下すように睥睨する。

は座ったまま、桐生の鋭い視線を正面からけ止めて、

「人間を甘く見るな……か。アルカトラの住民を利用している奴らに言われるとはな」

「確かに我々のやっている事は決して褒められるものではない悪だ。だが、悪を屠るのに正義でいなければならない道理はないだろう。言わばこれはアルカトラとア・ー・シ・ズ・の戦爭だ。我々は勝つためにアルカトラの者を利用する。奴らは我々と同じように見えて全く違う生だからな心は痛まない」

「臺詞だけ聞けばすっかり悪の組織だな魔人共。いや、そういうことなら魔人共とくくるのは厳しいな。なら私もお前達が自稱する組織名で呼ばせてもらおう」

立ち上がり、れた髪を、頭を軽く振って整える。

腕を組み、余裕を見せつける愉悅の表を浮かべて、

「お前達がどこまでやれるか見させてもらおう。無論、私は私の目的で行する。邪魔をするなら容赦はしない。言うならばこれはアルカトラとお前達、そして私達を含めた三つの戦爭だ。私と私の契約者であるあの男と事を構えるなら決死の覚悟を抱いてこい――幻・魔・教・」

「――――ッ!」

それは微笑の裏に隠れた悍ましい殺気。

風が吹いているわけでもないのに、彼の銀髪は揺れき、彼から零れるようにじる雰囲気は細胞の一つ一つに恐怖を刻み付ける。

それでも桐生の心は思いのほか冷靜だ。本能が警笛を鳴らすことを忘れ、この場でまだ立っていることに違和じない。

とは敵となる可能が高い。それ理解した途端、桐生は死の恐怖をれた。

「我々の世界は壊させない。たとえそれが、我々自を滅ぼすことになっても」

桐生の周りを黒い風が包み込む。

徐々に失われていく桐生の気配。

「私をここで始末しておかなくていいのか?」

「今はまだその時ではない。俺はお前の立場を把握しておきたかっただけだ」

反響する聲。それは目の前の男が放っているというより、この窟が囁いている様にじられる。

メアリーの銀髪が桐生を包む風に遊ばれて、落ち著きを取り戻した時には、桐生の姿は何処にもなかった。

先ほどの対話が噓のような靜けさを取り戻す。

「さて、誰か來るまで休むとするか」

は再び橫になる。寢息をたてるまでにそれほど時間は要しなかった。

 ********************

「はぁはぁ……あ~しつこい、だるい、めんどくさい! 何アイツキモイ!」

「瑠奈ちゃん前だけ見ないと追いつかれちゃう!」

二人のが息を切らしてコルンケイブを疾走する。

鮮やかな茶髪のポニーテールを揺らすと、短い黒髪が汗で艶やかにりつつある

それと、四つん這いになりながらゴキブリのように二人を追う男。

「テケケケケケケケケケケ!」

口角を引きつらせ、唾を空気中にばらまきながら、奇聲を響かせる。

緑の髪は男の長よりも長く、四足歩行というに、その髪が地面に著くことはない。

「テケケケ待てぇぇケケケケ!!」

男は長い舌で口周りを舐める。

溢れ出る唾が舌を伝って男の髪を濡らす。

その様子は二人の顔を青ざめさせて、全が逆立つ。

「うわキモイキモイ! 何アイツなんかもう言すべてがキモイ!」

「流石に私も……ちょっと……」

基本的に人を嫌悪する格ではない皐月でさえ、震いするレベルで不愉快極まりない男。

何故二人がこの男に追われているかと言うと、二人でさへ理解できていない。

気が付くと彼と二人だけで立っており、目の前には男が獲を見つけた食獣の如き表で立っていた。

「どうする? このままだと――」

皐月が瑠奈にどうするかと投げかけると、男の髪が背後からびて咄嗟に橫に避けて足を止める。

緑の髪がうねうねといて、再び奇妙な笑い聲をあげる。

「テケケ覚悟は決まったようですねケケ」

二人は男に聞こえない程度の聲で、

「あの人の恩恵は想像つかないね。なくとも髪をっているのは天恵だと思うけど……」

「何も持ってない點だけだったら、武闘家か支援系恩恵のどれかだと思うけど、アイツの能力だったらわざと何も持っていないのかも」

男は何の裝備もしていない。上半で細くも逞しいがあらわになっており、下半はぴちぴちのタイツ。靴は履いていなくて黒い爪と白な足。

恩恵は剣士なら剣、弓兵なら弓というように、それぞれの恩恵がそれぞれの武を最大限に活かす。

つまりなりだけで言えば想像できる恩恵は武闘家。だが、クラッドやカルメンのようになりから想像できる恩恵を偽裝するという手もある。

クラッドの場合は剣を用い、剣士であるように見せかけて武闘家の恵で敵を圧倒した。勿論偽裝が分かれば対処され、恩恵によっては恩恵を生かせる武を持っていない場合もあるが、武闘家の場合は別だ。

を用いない武闘家は恩恵の偽裝に最も適している。

剣士の恩恵者が槍を使っていた場合、偽裝が分かれば槍を捨て素手で戦うか、そのまま槍で戦うかの二択。どちらにせよ剣士の恩恵を活かすことは出來ない。

だが、素手が最大の武である武闘家は、偽裝が発覚したとしても武を捨て、本來の恩恵に見合った戦いが出來る。

目前の男は剣も槍も指も、恩恵を想像させる武やアクセサリーの類は無い。

なりだけで想像するなら武闘家。あとは、男が武闘家の恵を使用すれば確定。

「髪をる天恵。髪の長さから攻撃範囲はアイツを中心に三メートル程度」

二人の恩恵は魔導士。予想できる恩恵と判明している天恵からしても近接戦は不利。

魔道士が最も活きるのは集団戦。剣士や槍兵が前衛を固めている間に魔導士がサポートに回るのが魔導士の基本。そのほかにも敵を待ち伏せする陣を形してけの戦いが魔導士の恵を最大に活かす。

両名魔導士である今、距離を取りながら戦いやすい用の恵で環境を整えるか、どちらかが前衛に回り、片方がサポートに徹するか。

どちらも作戦というよりも、この狀況で出來るない手と言った方が正しい。

前者は環境を整えるまで敵の攻撃を躱すしかない、つまりはその間完全に防に回るしかない。後者は前衛に回る片方がかなり危険な役回りになる。魔導士が近接戦に回るということは、どちらにせよその片方は防、回避に徹するしかない。

「私がいく」

一歩前に出てその役を自ら買って出たのは皐月だ。

杖を前に構えて、走った目で二人を見る男――エレントを睨む。威嚇ではない覚悟を決めた目で見據えており、漂う雰囲気は元の世界にいた時よりも逞しくじられる。

「分かった。サポートは任せてって言いたいけど期待しないでね。勝つために注意を逸らすかも」

その言葉に皐月は軽く笑みを浮かべて無言で頷く。

ここでようやく作戦が立てられた。唯一の手から勝利への一手に。

皐月は今まで守られる立場だった。だが、今はその立場ではいられない。柑奈達はいなくなり、今行を共にしているのは商人と

自分がしっかりしなくては。この戦いはそうある為に必要な戦いだ。敵との距離に生じる恐怖をれていかなければならない。

「――行きます!」

皐月のからマナが溢れる。

マナが空気と共鳴して髪を揺らす。

そんな彼にエレントは――

「テケケェ――――ッ!」

を吐き散らして長髪で皐月を貫こうとする。

目の前に迫る攻撃という恐怖。守ってくれる人はいない。攻撃の隙は自ら作り、攻撃は自分で対処しなくてはいけない。

だが、その恐怖を乗り越えられなくて、人を守ることは出來ない。友を生き返らせることは出來ない。

――見てて、みんな。

皐月は攻撃に対して、更に一歩距離を詰めた――――。

    人が読んでいる<虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください