められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》64・狂気に満ちた姿

拳を模した緑が頬を掠めた。

頬に切り傷が殘り、痛みかられたというよりは刃で切られたような覚が走り、皐月は目前の敵を睨む。

ここまで自ら敵と近づいたのは初めてで、足が竦んでいしまう自分を気力だけで持たせている。

そして実するのだ。自分は今まで守られていたのだということを。

「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い――――――――ッ!!!!」

「くっ――【水刃】!」

瞳孔を開かせて、唾を吐き散らしながら奇聲を上げる男――エレント。

エレントに杖を橫に一閃。水の刃が切りかかるも、エレントは自分の髪を縦に刃を弾く。

【水刃】の切れ味は樹木なら簡単に切り倒せるほどだが、何故か男の髪にあたった途端に鋼でも斬ったような質な音が響いた。

「あなたの髪……質も変えられるようですね。ただ、さっきの質が刃に対して、今のは盾。似ているようで違う質。もしかして二つ以上の質は同時に発できないのでは?」

「テケケケ……お見事です!!」

皐月に賞賛のセリフを吐きながら、緑の髪が赤く染まっていく。それはが変わるというより、燃えているようで、周囲の溫度が上がっていくのをじた。

エレントは炎を纏った髪が皐月に襲い掛かる。空気を焼いて迫るそれを躱すも、揺れた髪にれそうになって、先が焦げてしまう。

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「は、速い!」

「【強】!!」

布谷から皐月へマナが送られて、全の細胞を刺激されて、中の重力に鈍になって、浮くような験をした。

【強】によって能力を上げられた皐月は、エレントの攻撃を余裕をもって躱す。

「【移空】――【鎖縛】!」

灼熱の髪が皐月を捉えようとしたとき、虛空を貫いた先の覚に力の抜けた表

それが険しいものになったのは、一秒にも見たいない僅かな時間だ。

を締め付けられて、その圧力に骨が軋み、臓を押しつぶされる。

「ケケッケケケ、テ、ケケ……ケケテケ――ッケケ……」

皐月は背後からマナで練り上げた鎖でエレントを拘束する。

まるで電でもしたかのように、口からだらしなく唾が零れて、瞳は上を向いてほぼ白目。

エレントの必死の抵抗は、オクトフォスルほどではないものの、そこには人間とは思えないほどの怪力が、マナの鎖を伝って全の筋に警笛を上げさせた。

「なっ、なにこの、人! 本當に人間!?」

「さっちんもうちょっと踏ん張って!」

布谷の周囲に漂うマナが震え始めた。

三十センチほどの杖を顔の前に立てて、目を閉じて集中する。

皐月を援護しながらだと、集中力がかけてしまう為時間がかかるが、エレントが拘束された今、全ての集中を一點に注ぐことが出來る。

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「テケケ――ッケケ!!」

気を失いかけているというのに、エレントの髪は防衛本能に従って皐月にびる。

咄嗟に【魄壁】で防ぐも、その恵が気を逸らすきっかけとなり僅かに鎖が緩む。

しまったと聲を上げる前に、マナの鎖は々に砕かれて、

「テケケ――――ッッ!!」

それは理ではなく本能。

意識を自分のにする前に、だけが危機をじて反応する。

皐月ではなく、布谷の方に飛び掛かる。周囲を震わすマナの大気が、細胞に針でも刺されたような覚が、選択するよりも先に、行へ移させた。

十メートル、九メートル、八、七……徐々にまる布谷とエレントの距離。

それでも布谷は未だに瞳を閉じて、外部の覚を己の中に閉じ込めている。

エレントの髪が布谷にびる。風を切る音が鋭利な槍を彷彿とさせて、

「さっちん避けて!!」

眼を開けて外の景を瞳から脳へと送り理解する。

杖先をエレントに向けて、己のだけでなく、空気中に溶け込むマナの粒子も刺激して、マナを弾丸に、杖を銃に見立てて、

「【魄龍砲】!!」

「テケーーーーッ!? ッッ…………」

の杖先が白銀に輝いて、エレントの視界が白銀ので埋め盡くされる。

視界が焼かれるような弾が、まだ僅かに散らばるマナも巻き込んでれるもの全てを分解していく。

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エレントを挾んで立っていた皐月は、弾が屆く前に【移転】で安全な場所に。

エレントのは、弾に溶け込み、分解され、空気中のマナと化して。

「――――んぁ、はぁ~……ヒヤヒヤたぁ~。さっちん、お疲れ~」

「はぁはぁ、お疲れ様」

張から解き放たれた布谷は思わず座り込み、皐月も布谷の背後から息を切らして立っている。

完全に、姿だけでなく存在していた気配までもが消えたエレント。

【魄龍砲】――自分を含めた周囲のマナをかき集めて全てを分解する弾に変換し撃ち放つ魔導士の最大にして最強の攻撃系恵。あまり加減や融通が利かない故に、使用後はマナが全て奪われて激しいに見舞われる。その代わり、たとえ【魄壁】で防したとしても、それに使われるマナさえも力に還元する高威力だ。

「にしても、アイツ一何なの? 何が目的……」

「分からない。けど、明らかに私達を狙ってるよね。分散させられたし」

皐月はポケットにれていた方位磁針と、記録して作った筆寫士の作する地図とは比べられないほど簡素な地図を照らし合わせる。

「現在地分かりそう?」

「ううん、駄目みたい。【移空】か【標転】、どっちをけたのか分からないけど、その時にマナの磁気が影響して針が定まらないみたい」

「まあ、道は一本だからとりあえず奧に進もっか」

そうだねと呼吸を整えた皐月と、激しいに重くじるを持ち上げた布谷は、奧へと続く道にゆっくりだが確かに進んでいった。

********************

「んぁ、ふぁ~あ……十五分。やっと一人か……」

水蓮石の床に寢転ぶ銀髪のは、これ以上にないほど口を開いて間抜けな聲をらして、人の気配を僅かにじ、ようやくかとを起こす。

「ん、おぉ、なんだアンタ一人か。他は?」

「お前が最初だ。それにしても隨分と落ち著いているな。お前からすれば私達は忽然と消えたわけだが?」

メアリーは見上げて言う。

頭上から鋭利な先端を突き出している水蓮石の巨大な氷柱。それを囲うように水蓮石の橋が、壁に空いた々を繋いでおり、その一つの端から見下ろすのは鬼一翠人だ。

聲のテンション、息遣い、表。どれをとっても焦り、揺などはじない。

普通なら仲間がいきなり消えた場合、なからず焦りを覚え、狀況を把握しようとするものだが、彼の息遣いから、こちらには歩いて、それも力の消耗を考えたペースで來たと見える。

それに彼がメアリーと出會った反応は、まるで待ち合わせ場所にでも來たかのような反応だ。

「ここに來るまでに男に遭った。あの綺麗な骸骨共をってた奴だ。そいつから洗いざらい聞かせてもらった。戦力を聞くにみんななら大丈夫だろうと思ったし、転移された場所に関しても問題なさそうだしな。時期にみんなここに集まるだろう。俺達が進んできた場所も、みんなが転移された場所も運がいい」

そこまで見下ろされる形で鬼一は言い切って、メアリーは床の水蓮石をでる。

「なるほど。中心部近くとは思っていたが、ここがそうだったとはな」

「全員集まったら水蓮石を回収、ついでに“蒼月”も確保して帰還。後は一夏の弔いだ。それで、上に上る手段はあるのか?」

「ない。道もなければ窪みもない。とはいえ、このさだとがあれば登れそうだ。ジークが來るのを待つしかないな」

壁をでて問題ないとの返答。

鬼一は足をぶらつかせるようにして、自分のいる水蓮石の橋に座り込む。

數分、特に會話もなく待っているとようやく、

「ああ! 良かった。みんな無事だったんだね!」

「哀とジークはまだ來ていないみたいだけど」

鬼一が出てきたのとは違うから皐月と布谷が姿を見せた。

場所は鬼一より更に一つ高い水蓮石の橋。橋の方向が違う為、鬼一の姿もしっかりと見えて、一番底にいるメアリーも多小さく映るが、目立つ銀髪が彼を認識させる。

「よう。刺客は大丈夫だったか?」

「何とかねー。もうへとへとだけど」

布谷が自分の肩をんで疲れたアピール。

鬼一が狀況を簡単に説明し、これ以上敵はいないと一安心。

余裕そうにしている布谷とは違い、皐月は何かを懸念しているようで、どこか落ち著きがない。

何を心配しているかは、鬼一は理解できたようで、

「そんなに心配しなくてもジークなら大丈夫だと思うぞ。どうやら花江も一緒みたいだしな」

「ぇ、ああ、う、うん。そうだね。ジークさんも戦えるし」

心を見かされたことに驚きを隠せず、赤面して吃ってしまう。

そして、彼の心配が杞憂であることは、數秒後には証明されて。

「皆さん無事でしたか」

皐月達がいる橋上。皐月が出てきたと橋で繋がれたもう一つのから白髪の年とショートカットのが姿を見せる。

予備の服に著替えた優希は戦闘後の片鱗を見せず、誰も優希が戦闘したとは思えない。

優希の姿を見てすぐに駆け寄った皐月は、唐突に優希のに怪我がないか確認する。

「良かった。怪我はないようですね」

「心配しすぎだよ。花江さんも一緒だったし、敵もそんなに強くなかったから」

「心配するに越したことは無いです。ここではジークさんが一番危険なんですから。無理して倒れられたら困ります」

心配にしては過保護な対応。それは優しさなのか、それとも心の依り代を守る為か。

そんな會話をしている中、布谷も花江の傍に駆け寄り、

「依頼人の護衛お疲れさん。そっちの敵はどんなんだった? こっちは気持ち悪い奴でさー」

「…………」

「変な奇聲あげるし、唾吐き散らすし、キモイしウザし」

「…………」

「ま、私の【魄龍砲】で一撃だったけどね! って、どうしたの哀。さっきから上の空ってじだけど……」

無言で無表の花江は、上の空というよりは、魂が全て抜き取られたようなじだ。

そんな彼に、布谷はどうしたのと肩に手を置いて首を傾げた。

不審に思った皐月は二人に視線を送る。何気なく視界にれた景に言葉を失った皐月は、狀況が理解できず、時間にを任せるように思考を閉じた。

その狀態に陥ったのは皐月だけではない。布谷も同じだ。

こみ上げる熱い何か。

それはから口に広がり、生溫かい鉄錆の味をじる。そして、

「ぇ……ごふッ――」

吐き出した。

の流が自分にびた腕を汚す。

じわじわとじる鈍い痛みに比例して、自覚できるほど下がる溫。

から抜け落ちる力。それは徐々にを支えることも難しくなって。

狀況を理解しようとするも、脳に必要なものは自分で吐き出してしまっている為に思考が止まる。

視界に映るのは生々しい朱に染まる腕。だが、見えている腕は肘から先が自分ので見えなくなっている。

視線で見えないのではない。自分のに抉り込んでいるのだ。

「ぁ……んで……」

疑問の言葉は溢れ出るが邪魔して上手く発音できず、目前の相手に寄りかかり、り落ちて地面にを打ち付ける。

空気と共に吐き出すは、い水蓮石の床を伝って鬼一がいる橋にも落ちる。

「おい大丈夫か! 何があった!?」

「な、何がって……」

皐月が未だに混の渦から抜けられない。

異変をじて下からぶ鬼一に、狀況の説明をしようとするも、自分すら理解が追い付いていない為、言葉を発する前に元で瓦解する。

と恐怖。皐月の脳裏には柑奈達の悲劇を思い出す。視界にった景が理解出來ずに、に染まるクラスメイトを目に焼き付けることしか出來ずに無力さを思い知らされた悲劇を。

新たに目に焼き付けられた景は、彼に再び心的外傷を植え付ける。

疑念の表を固めたまま、で汚れた地面に倒れ込む布谷。そして、返りを浴び、腕からべっとりとがしたたり落ち、友人が足元で倒れているというのに、一切の表の変化を見せない――

「………………」

――――狂気に満ちた、花江はなえ 哀あいの姿がそこにあった。

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