《められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》73・聖剣
男の昂ったは、目前の獅子を相手に落ち著きを取り戻す。
金の鬣たてがみの下に宿る鋭利な雙眸。
獲を捕らえた獅子の瞳に対して、男の異様な落ち著きは本人でさえもし驚いている。
吐息、鼓、脈――神経を研ぎらせている男には、全てが騒音のように鮮明に聞こえてくる。
恐怖は無い。しかし、自分から仕掛けることが出來ない。
「來ないのか? つい先程までの威勢はどうしたんだ? これでは拍子抜けだぞ」
「……隨分と雰囲気が違うな。喋り方も荒っぽくなってやがらぁ」
「あぁ、これが本來の俺だからな。流石にこれでは騎士団の名が汚れてしまうだろう?」
「ハッ、そいつぁ違ぇねぇな」
「無駄話が過ぎたな。そろそろ始るぞ……いや、終わらせるぞ」
「上等だッ――ッッ!?」
それは男の理解が追い付くものではなかった。
獅子を乗ら見つけていた眼は、いつの間にか天を仰ぎ、下顎骨に刻まれた激しい痛みを認識する時には、口から溢れるの味も覚え、視界に凄まじい存在を醸し出す獅子の睥睨。
顔面を膝蹴りされた男は、それを理解した時、が次の攻撃に対応しようと脊髄レベルの本能的防衛反応でき出す。
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振り上げた踵、純白の騎士服に包まれた腳は、男の視界には巨大な鉄槌のようにじられて。
――――ッッッ!!
「ッなあぁアアろうぅッ!」
獅子の腳槌を両腕で防ぐも、鉄塊に打ち付けられたような骨を砕く痛みが、男の口から悲痛の聲を上げさせる。
その痛みは一瞬だけ男の注意を奪い、薙ぎ払われる豪腳をそのでけて、吐き出される鮮を自ら浴びながら倉庫の壁に叩きつけられた。
「ぐはぁっ……テメェ、人間のきじゃねぇだろこりゃよ」
「貴様もそうは変わらんだろう。しかし妙だな。あれほどまでの力を持っていた貴様が、々本気で蹴りをれただけで骨にまで衝撃が行き渡るとはな。さては、貴様の力は制できるものではないな?」
「あぁ? なんのことだ。これは間違いなくオレのちかっぐあぁはッ!?」
吐き出され地面を染める鮮。それはウィリアムのダメージによるものではない。
口からだけではない。耳から、鼻から、最後には眼からもが零れ落ちていて、その全て覚による認識が男にはできなかった。
力が抜ける、視界が霞む、呼吸が上手く出來ない。
「ぐぁがああっがはっ……」
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「様子が……」
「おれっの……ぐが、から、だぁはいぃた、い……」
ウィリアムにはそれが異様な景に思えた。
男の全から吹き出す。中が歪な灣曲を見せ始め、そのまま人間の形を無くして命を落とした。
「あのの仕業か……」
病弱そうなの姿が脳裏にちらつく。
「この剣を使うまでもなかったな」
ウィリアムが獅子の紋章が刻まれた剣を鞘に納めると、荒々しい鬣が落ち著きを取り戻す。
深呼吸し、倉庫の埃臭さをじて、
「姫様……」
そこにクラリスの姿が無いことにようやく気付いた。
********************
外は外で騒がしくなっていた。
むしろ、マナが使える外の方が戦闘による騒音は激しい。
恩恵者達の戦いに、薫は中々馴染めていない。
「邪魔邪魔邪魔!!」
「なんだこのがぁあ!?」
數は明らかにあちらが上だ。
しかし、こちらは一人一人の戦力が違う。
中でも一際目立つのは、紅の髪を靡かせるだ。
「どうしたのカオル? なぁんかソワソワしてるよ」
「いや……実戦で人と戦うことになれてないから。ここはマリンに任せるよ」
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「任されました! おりゃぁぁぁふんぎゃ!?」
勢いよく敵を薙ぎ払い先を行くマリンの額に巨大な巖。
見ている薫もマリンの痛みを共有して思わず両目を閉じた。
「ま、マリン大丈夫!?」
「いっったぁあああい!?」
額を抑えて地面を転げまわるマリン。周辺にはマリンの額によって々に砕された巖の破片が散らばっていた。
――いや、どんだけ石頭なの?
そんな想が脳裏に浮かぶ薫は、巖が飛んできた方を見る。
家屋の屋の上。太のを遮る巨大な影。
「快進撃もここまでだぁ!!」
その聲は大気を揺らすほどに大きかった。
衝撃など全て吸収してしまいそうな太い首の偉軀を持つ男。
それはウルドよりも二回り以上大きく、見た目の印象も、聲の大きさもスケールのでかい男だった。
「ゲルムうっせぇよ」
そのから現れたのは細の男。否、ゲルムと呼ばれている巨漢の隣に立っているからこそ細に見えるも、彼もまた逞しいをしていた。鋭い眼つきは人を平気で殺してそうな冷徹さを持っていた。
腰に據える剣は異様な空気を醸し出して、ウィリアムの剣と同じ覚を味わった。
「あぁんだって! 兄貴聲ちっちぇよ!!」
「耳元でぶな殺すぞマジで」
そんな會話を繰り広げる二人。
それを見上げていると、マリンが額を抑えながら立ち上がり、涙目になりながら、
「ちょっと痛いじゃん! こんな巖投げるなんて馬鹿なの! 怪我したらどうすんの!!」
「いや戦場で怪我も何も……それにこのサイズは怪我じゃなくて死ぬと思うんだけど……」
思わず本音がれるも、怒りで冷靜じゃないマリンには屆かない。
それに薫自もそんなことをいちいち言っていられる狀況ではない。
見る限り相手は強い。一人は大巖を持ち上げて投げるほどの怪力男。もう一人はおそらく神使い。
マリンはともかく、薫はまだ戦場の空気になれていない。
助けを求めたいが、カーリーは別の方向から護衛を潰している。
フックと皐月はまだ集団【標転】のマナ切れがに影響している。
「やるしかないか。マリン、悪いけど僕は加勢出來るかわからない。片方一人で相手できるか?」
「勿の論だよ。あの達磨はぎゃふんと言わせなきゃ気が済まないから!」
薫が鞘に納めたまま剣を構えると、マリンは腰の棒を手に取る。
三十センチ程度の棒は、マリンが持った瞬間の丈に合ったサイズに変わった。
「かかってこいやー。マリン様の如意棒でアンタの頭を勝ち割ってやる!」
「あぁんだってぇぇ! 兄貴含めて聲ちっちぇぇよ!!」
「うっせェつってんだろボケ!!」
「のぁあああああ――ッ!!」
細の男がゲルムを蹴り飛ばして、屋上から落とす。
男は見た目通りの質量があるようで、高さに比例していない激しい音を立てて落下した。
「おいお前……」
「……僕?」
「あぁお前だ。今から一つ質問する。“はい”か“いいえ”で答えろ。因みに拒否権はねぇ。噓を吐くことも許さねぇ。俺はすぐ答えられねぇ、もしくは噓を吐くような奴は生きる価値が無いと考えている」
「……へぇ、見た目に反した価値観をお持ちなんだね。生きる価値が無いは言いすぎだと思うけど」
「では質問する“お前の恩恵は剣士か?”」
そんなもの答えるはずがない。
それなのに、この質問をするということは、この質問が彼にとって重要だからだ。
それは相手の恩恵を知るという重要ではない。能力的な意味で重要と言うこと。つまり天恵。
「答えは“はい”だ」
彼の言っていたことが本當なら、質問はこの一つ。この質問容なら正直に答えても大丈夫だろう。
答えないという選択肢もあったが、それは相手の天恵に掛かってしまう可能が、正直に答えるより高い。
「ほう、お前は正直者か」
「ならば、殺す価値はあるな」
「――――ッな!?」
その聲は背後から聞こえた。
はっきりとわかるわけではないが、屋上の男の聲によく似ている。いや、むしろ同じだ。
瞬時に背後に回られたという訳でもない。男はまだ薫の視界に映っている。
警戒はしていた。それなのに敵は薫のすぐ背後にいたのだ。
薫は背後の敵を視認するより先に、剣を一閃した。
剣は空を切裂き、そこでようやく背後の敵を黙視する。
男を逆で見ていた為確証は無いが、今薫の背後にいた男は、先程まで見ていた男に瓜二つだった。
細だが筋質なと鋭い眼つき、そして腰に據えた神。
「雙子……ってわけじゃないよね。あそこの男のマナが半減したと思えばあなたが現れた。分する恵。僅かだけどがある雰囲気が出ているということは、魔導士の【虛像】でもない」
もう一度、男がいたところを確認すると、やはりしっかりと屋上で立っている。
これが天恵なら質問に答えたことが天恵の能力か、答えの容によって発する天恵か。
「素晴らしい剣筋だな。だが、何故剣を抜かない? 鞘に納めたまま剣を振り回すのは意味が分からないな」
薫は何人も敵をなぎ倒しているが、鞘に納めたままの剣では當然斬ることは出來ない。
だが、それでいい。
「鞘から抜いてしまうと刃が危ないからね」
薫の答えに男は一瞬きょとんとした後、吹き出すように笑った。
「フハハハハ、何を言い出すかと思えば。それは人を斬る為の道だ。こんな風にな!」
男は薫に斬りかかる。
薫は鞘に包まれた剣でけ止める。しかし、それを避けて薫は服をし斬り裂かれながらも、一線を回避した。
「ほう、勘が良いな。もし今け止めていたらその剣ごとお前は真っ二つだったぞ」
「厄介な神だね」
「名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。聖剣“デュランダル”。この世に斬れない者は無いと言われている剣だ。この神は選ばれた者しか使えない代わりに、使用者はその力を最大限引き出せる!」
男は聖剣を縦に振る。
斬撃が衝撃に変わり、大地を抉りながら薫に屆く。
薫はマナを剣に集約してその衝撃をけ止める。
「――――くッ!!」
激しい衝撃に薫の表は強張る。
神経を尖らせて、薫は衝撃を天に逃がした。
「……はぁはぁ、なるほど。マナでコーティングすれば対応は出來るようだね」
「ご名答。しかし、たった一撃でその疲労。果たして何度打ち合えばお前のマナは盡きるのかな」
二人は距離を詰める。
聖剣をけ止める度、マナが削ぎ落とされる覚を味わって、その分も悲鳴を上げる。
それと同時に薫は焦っていた。敵は一人ではないから。
今対峙しているのは敵の分である可能が高い。もしも今、屋上にいる本も相手になるとすればかなり厳しい狀況になる。
そして、今対峙している敵が聖剣を扱っているならば、聖剣を含めた分という可能も考えておいた方がいい。
なら早めに今戦っている敵を倒し、新たな分を作られる前に本を倒すしかない。
だがそれは可能なのだろうか。天恵を扱えるということは、差は分からないが練度は相手が上。裝備に関しても相手の方が格段に上だ。
「【斬波】!」
「ふん!」
薫の恵は、敵の一振りで相殺される。
対して薫は相手の一撃を防ぎきることは出來ない。必ず何処かに逃がす必要がある。
薫は間合いを取りながら敵にマナをぶつける。
「はぁぁ……俺は學習しない奴も嫌いだ。わざわざ一対一で相手してやっているのに、何故策を凝らさない。馬鹿みたいに恵を闇雲にぶつけるだけとは」
「なんとでも言えばいいさ。僕にはこれしか出來ないからね」
薫の作戦はただ一つ。直接的な接を避け、マナの斬撃で攻撃する。
當然この方法では聖剣を持つ相手には敵わない。だが、この行は倒す為ではなく、倒す為の下準備に過ぎない。
「興覚めだな。もう終わらせる」
ここが踏ん張りどころだと薫は構える。
敵は二・人・。先程まで対峙していた敵と、先程まで傍観を決めていた敵。
「人は危機的な狀況程策を凝らす」
「なら、一一より二対一の方がいいだろう」
絶的な狀況。
だが、ここで苦しい表は見せていられない。全てを守ると誓った薫がする表は一つだけ――
「いいよ。二対一で相手になろう」
自信に満ち溢れた笑顔だけだ。
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